技巧派テシオン?
意外と技術があるテシオンです。
「じゃああたしはアキラのところに行きますね」
幹部会議を終え、テシオンはサタンたちに向けてそう言うと、魔界を後にした。テシオンを見送った後、サタンが粛清の現場で見たことを報告する。
「テシオンがすごい能力を持っていることは知っていましたが、ちょっと想像を超えていました」
サタンがどこかうれしそうな様子でそう口にする。マモン、アスモデ、ベルゼブブ、パズズはどういうことかとサタンに質問する。テシオンの潜在能力については彼らも知っているだけに、「いまさら驚くことがあるのか?」と疑問だったのだ。それに対してサタンが答える。
「みなさんもテシオンの能力については把握しているでしょう。すさまじい魔力を内包しています。いわばとてつもないパワーを持っている。しかし驚いたのはその精密なコントロール能力です。あれほどとはね……」
サタンによると、テシオンが最初の2人に対して行った首の切断は、決して肉体的な首の切断ではなかったとのこと。意識体としての首を切断し、あたかも肉体が傷つけられたように本人のみならず周りの8人にもその幻覚を見せたのだ。もちろん彼女の能力であれば、実際に首を切り落とすことなど造作もない。しかし今回は殺すのではなく、相手が「殺してほしい」と懇願するような苦しみを与えて、強制解魂をすることが目的であった。だから意識体にダメージを与えたわけだが、仲間の首が飛ぶことで深い絶望を与える。そのためそのような幻覚を見せたのだった。
「加減を少しでも間違うと、あっさり死んでしまいますからね。それをギリギリ生きている状態に持っていける彼女のコントロール。見事でしたよ」
感嘆しながら話すサタンを見て「自分たちも現場に居合わせたかった」と後悔するマモンたち。「もしかしたらそれだけコントロールできるのであれば、魔界にダメージなく暴れることもできるのではないか? 結界は必要ないのでは?」とベルゼブブは考える。そのことを話そうとしたときに、サタンがその考えを打ち消す発言をする。
「コントロールに気をつけて、なおあれだけの魔力を操るのです。もしコントロールを度外視して魔力を放ち暴れたら……本当に魔界は終わるかもしれませんね」
その言葉に青い顔になるベルゼブブ。「やっぱりあの子はすごかね〜」とパズズは呑気に言っている。その様子は斥候クモを通じてノヒローとタヤン、ツバラが見ていた。
「じつはあの下級悪魔、すごいのか?」
ノヒローの疑問をタヤンが否定する。
「たまたまうまくいっただけじゃないですか? 前にも言いましたが明らかに自分より弱い人間が相手だったからうまくことが運んだだけで、悪魔や天使を相手に同じことができるとは思えませんよ」
「そうだな。対等以上の相手には通用しないだろう」
そう話す2体の悪魔とは対照的にツバラは警戒を強める。「壊れやすい人間を死なせないよう注意しながら魔力をコントロールする。それがどれだけ難しいことか」。そう考えるとテシオンの能力はやはり驚嘆すべきものであると考えている。しかしこの悪魔たちは、そこにまったく疑問を持たず楽観視している。「組む相手を間違えたかもしれんな」。そう思うが、幹部の中で不満分子はノヒローしかいなかったのだから仕方がない。「こいつらはアテにならない。私とあの方でどうにかしないといけないな」。そう思案していると、ノヒローがツバラに話しかけてきた。
「そろそろマモンを殺すぞ。じゅうぶん信頼は勝ち取っている。もう心配ないだろう」
「ということは石井ヒデキの出番か」
「ああ。聖属性魔法で可能なかぎり弱体化させてくれよ。ヒデキも修行してずいぶん強くはなっているが、そのままのマモンが相手では一瞬で消されるからな」
テシオンという不確定要素はあるものの、マモン、アスモデ、ベルゼブブ、パズズを消せば戦況は圧倒的に有利になる。ツバラは先ほどまで頭を悩ませていたことから思考を切り離した。
「大丈夫だ。魔法だけではなく罠も完璧に仕掛けている。それで実行するのはいつだ?」
ツバラの問いに「明日だ」と答えるノヒロー。「いよいよ計画が本格的に動きますね」といやらしく笑うタヤン。
3人はこの後、マモンの恐ろしさを知ることとなるのであった。
マモン、魔界の次期頭首だけあって一筋縄ではいきません。
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