考えましたよね?
やっと主人公二人が出会いました
「お母さん? お母さんなの?」
近くでそう声をかけられて、やっとテシオンは意識が戻ってきた。「誰だ、うるさいなぁ」。そう思いながらゆっくりと目を開く。
「ん? 君は誰なんだ?」
「あれ? 全然違う」
アキラは女性の顔をしっかり見て自分の勘違いに気づく。母はどちらかというと愛嬌がある可愛いタイプの女性だったが、目の前の女性は「絶世の美女」とでも言うべきキレイな人。おそらく道を歩けば男女問わず振り向いて見るであろう。それくらいの美女であった。そして何よりも……。「角と羽根がある。なんなら尻尾もある……」。
「痛ってえ。街路樹の枝、キチンと切っておけよな。ここの自治体、たるんでるんじゃないの」
そう悪態を吐く女性……というか女性のような何かを前にしてアキラは言葉を失っていた。「いったいこの人? 何なのだろう」
「お! 君が助けれくれたのか。あたしはテシオンってんだ。よろしくね。いや街路樹にぶつかって倒れたんだよ」
「よ、よろしくお願いします」
「君、名前は?」
「アキラです」
「アキラか。良い名前だな」
母が付けてくれた名前を褒められて嬉しく思ったが、アキラは不安そうに尋ねた。
「あの、テシオンさんは……」
「さん付けはやめてくんない。あたし嫌いなんだよね。テシオンでいいよ」
思わぬ反応が返ってきて驚いたが、アキラは不思議に思っていることを直球で尋ねた。
「テシオンは人間……なのですか?」
「敬語もやめて」
「ごめんなさい」
「ほら!」
「ご、ごめん」
「あたしはね、悪魔!」
「悪魔?」
「そう、悪魔。世界の闇を司る崇高にして永遠の存在」
そう言い切るテシオンだが、アキラの理解は追いつかない。
「悪魔って街路樹にぶつかるものなの?」
「うっ!」
「崇高にして永遠の存在なのに枝は避けられないの?」
「くっ! 悪魔であるあたしに言葉でクリティカルヒットを与えてくるなんて。さてはアキラ、君は高名な神父だな?」
「ぼっちの高校生だよ」
「ぼっち高校生に負けるのか、あたしは……」
だんだんアキラは目の前にいる悪魔に対する恐怖心が薄れていくのを感じた。これほど会話をしたのは久しぶりだったので、そちらのほうが嬉しかったというのが大きかった。
「それで、テシオンは何しに人間界に来たの?」
「カツ丼を食べに」
「え?」
理解不能。「何言ってんだ、こいつ?」。アキラの率直な感想はこれだった。
「いや悪魔なんだから、何か人間界をどうこうしようとかあるんじゃないの?」
「そうだ忘れてた」
やっと自分が人間界に来たいちばんの目的がカツ丼ではなかったことをテシオンは思いだした。しかしいまはカツ丼だ。何よりもカツ丼が優先なのだ。
「アキラ、この辺りにカツ丼食べられるところない? チェーン店でいいんだけど」
「あるにはあるけど。その見た目は目立つよ。角と羽根、尻尾がある自称悪魔が入店したらパニックになると思う」
「なんだ、それくらいのこと。さすがにあたしもそこまでバカじゃないよ」
そう言うとテシオンはパチンと指を鳴らす。そうするとさっきまでハッキリ見えていた角、羽根、尻尾はキレイさっぱりなくなった。さすがにアキラも驚きを隠せない。
「これくらい朝飯前。あたしゃ悪魔だよ? 魔力たっぷりあるんだよ? で、その店はどこ?」
「昔から食べに行っている蕎麦屋さんだけど、そこを右に曲がって……」
「連れてって」
「え? 僕も行くの?」
「連・れ・て・っ・て!」
「わかったよ……」
小説や映画、ゲームで知っている悪魔とはずいぶん印象が違うので、戸惑いつつも面白いと感じているアキラ。「これじゃ悪魔コスプレが趣味の腹ペコお姉さんだよな」。そう考えた瞬間にテシオンが口を開く。
「アキラ、君いま何かとても失礼なことを考えただろう?」
「!」
「考・え・た・だ・ろ・う?」
「えっと……それも魔力で?」
「いや、あたしの勘」
「考えてないです」
「悪魔相手に嘘吐くなんて、大した度胸だね」
「あ、もうすぐ着くよ」
無理やり話題を変えながら歩いていると、ほどなくして二人は古めかしい蕎麦屋の前にたどり着いたのだった。
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