なぜここに?
怒っているのはテシオンだけではありません。
男たちの狼狽ぶりは明らかであった。自分たちのアジトにやってきた絶世の美女。捕えて好きに弄ぶという決して叶わぬ欲望が先に立ってしまった。結果は悪魔の怒りの炎に油を注ぐだけだった。
いまではなんとか生き延びるためにこの悪魔に対峙しているが、喧嘩自慢の不良と言えどもしょせんは人間。怒り狂っている悪魔が相手ではどうしようもない。
「おい、どうした? こんなものなのか?」
そう言いながらテシオンが拳を振るう。両腕でガードする1人の男。しかし両腕が粉砕される。もう二度と使い物にならないレベルでの複雑骨折である。
「痛えー!」
そう叫んでうずくまる男にテシオンが冷たく言い放つ。
「痛いだと? アキラはもっと痛かったはずだ!」
男の弱音を聞いて、さらに怒りのボルテージが上がるテシオン。怯えながらも武器を手にかかってこようとするもう1人の男に対して、鋭い下段廻し蹴りを放つ。テシオンの蹴りが大腿部に当たった瞬間、そこの肉と骨が弾け飛ぶ。
「グワァ!」
絶叫して倒れこむ男。一瞥して別の男にテシオンが襲いかかる。
「お前らは全員、死ぬよりも辛い目に遭う。これは確定事項だ」
永久表土よりも冷たい声でそう言い放つテシオン。もはや男たちは抵抗することもままならなかった。そうして男たち8人が体の一部を欠損して、息も絶え絶えになっている状態で、テシオンはアキラを撥ねた2人のところへ足を進める。
「お前らだな。うちの可愛い息子を撥ねてくれたのは?」
そう話しかけても、ただ震えるだけで言葉も発せない男たち。不意に1人の男が「死ぬのはイヤだ!」、そう叫んで出口の方へ走りだす。「ムダなことを」、そうテシオンは思う。扉はすでにテシオンの強力な魔法によって固く閉ざされているからだ。
「おい、そっちに言っても……」。そうテシオンが言いかけたとき、走りだした男が何かにぶつかって派手に転んだ。
「自分だけ逃げようなんて許されるはずがないでしょう」
声の主は魔界の長・サタン、その悪魔である。
「サタン様、なぜここへ?」
「言ったでしょう? 私もアキラくんを傷つけられて怒っていると」
トップであるサタン自らが制裁の場に姿を現す。通常では考えられないことだ。しかし現実としてサタンはここにいる。本当にアキラのことを考えてくれていることがわかり、テシオンは「ありがたい」と素直に感謝した。
「それに、私も強制解魂ってやったことないのでね。ちょっとやってみたくなったのですよ」
そう言っていたずらっ子のような笑顔を見せるサタン。その笑顔を見てテシオンの表情が和らぐ。
「10人もいるから、1人、2人失敗しても問題ないですよね」
テシオンがそう返すとサタンは楽しそうな顔になった。
「「ではやりますか」」
そうして10人の男たちの魂は強制的に肉体から切り離された。後に残ったのは抜け殻となった肉体のみ。
「サタン様。強制解魂って死なないんですか?」
「死にませんね。肉体だけがただ生物学的に生きている状態が続きます。意思疎通はムリだし、今後意識が戻る可能性はゼロです。意識体を抜き取っているわけですからね」
ひと息置いてサタンがテシオンに話す。
「それでこいつらの魂はどうしますか?」
テシオンの考えは言うまでもなかった。
「魔界でいちばん過酷な監獄、無間牢に収容しましょう」
「あなたもそう考えていましたか。私も同じことを考えていました」
無間牢に入れられた魂は決して転生することなく、未来永劫苦しみを与えられ続ける。どれほど反省しても許されることはない。まさに地獄と呼ぶべき牢屋である。
「どうせこいつら転生してもロクでもない人間にしかならないから、世のため人のため悪魔のためにもそれがいいでしょうね」
サタンがそう言うと、テシオンも大きくうなずく。そしてテシオンは警察へ「犯人グループが山奥のスクラップ場にいる」と通報して、その場を後にした。
帰途、テシオンが違和感を覚えたことをサタンに問う。
「サタン様。奴らおかしくなかったですか?」
サタンも同様に「妙だな」と思い当たる節があったようだ。
「テシオン、ちょっとこれはおかしいですね」
そうして2人はどこに違和感があったかを話し始めた。
2人が覚えた違和感の正体は?
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