サタンはズルい?
悪魔は揚げ物好きなようです。
テシオンとの会合を終えて魔界に戻ったサタンをマモンはじめ、アスモデ、ベルゼブブ、パズズが出迎える。成果についてマモンが尋ねる。
「父上、どうでしたか? テシオンはどのような返答を?」
心配するマモンと幹部たちを安心させるようにサタンは答える。
「大丈夫。私たちの味方になってくれるとのことだ」
サタンの答えを聞いてホッとする一同。しかしサタンは表情を曇らせながら言葉を続ける。
「アキラくんをはじめ、自分の周囲にいる人間に害が及ぶ可能性を耳にした際の表情は恐ろしいものだった。憤怒の悪魔という表現がピッタリな感じの……」
それを聞いて青ざめる幹部たち。パズズが懸念を口にする。
「それはマズかね。あの子が暴れたら人間界が終わるばい」
「だから私たちもそうならないようにじゅうぶん警戒しないといけません」
サタンがパズズに向けて言う。ふだんお気楽悪魔としてアホ発言ばかりしているテシオンだからこそ、本気で怒った場合どのようなことになるか。そして誰がそれを止められるのか。それを考えただけで、背筋が寒くなる思いに駆られる。
「ともあれあれだけの悪魔が敵方に回らないというだけでも良しとしないといけませんね」
ベルゼブブの言葉に全員がうなずく。
そのときであった。アスモデがひとつの事実に気がつく。
「サタン様。お口の周りが少し光っているようですが。それは油ですかな?」
「マズい!」。サタンは慌ててごまかそうとする。
「おや? どこでついたのでしょう。私としたことがみっともない姿を見せてしまいましたね」
取り繕った発言でごまかされるほどアスモデは甘くない。
「それは……もしかするとアキラくんの揚げ物を食べてきたからですかな?」
「なぜそれを!」
アスモデはテシオンの直属の上司にあたるので、ふだんから業務連絡を受けている。といってもテシオンのことだから、業務に関することはほんの一部。大体は世間話である。そのなかでアキラの料理が絶品であることも聞いていたのだ。
「まさかとは思いますが、ひとりで心おきなく食事を楽しむためにサタン様自らが出かけたのではありませんよね?」
ベルゼブブの鋭い質問にサタンが動揺する。ここでマモンがふと思いつく。
「まさか父上。アキラくんの食事を魔界に転送してもらおうだなんて考えてませんよね? 倉庫に保管されていたはずの転送装置が見当たらないのですよ。最初は敵方が盗んでいったのかと心配したのですが、倉庫番によると父上が持ち出しているのを見かけたと言ってましたのでね。なにか崇高な計画があるのかと思っていたのですが」
呆れたように話すマモンにサタンが反論する。
「そ、そ、そ、そんなことするわけないだろう! 魔界の盟主たる私が人間界のメンチカツやトンカツ、天ぷらなどを楽しみにしているわけがなかろう!」
サタンの反論にアスモデが努めて冷静に返す。
「ほう。ずいぶんと具体的な料理名が出ますね。やはりサタン様……」
困惑するサタン。「しまった。これでは長としてのメンツが丸つぶれだ。なんと申し開きをしたものか。しかし私は魔界のことを一生懸命やっているのだ。少しくらいご褒美があってもいいじゃないか」。サタンがそう考えていると、幹部たちが口を揃えて大きな声を上げた。
「「「「ズルい!」」」」
大悪魔によるカルテット・ハーモニー。「へ?」、サタンは思わず間の抜けた声を出す。
「父上だけアキラくんの料理を食べるなんてズルいです!」
「サタン様。テシオンからの報告でアキラくんの料理については私も聞いています。正直、ズルいです」
「私たちにも分けてくれますよね? でないと寝返りますよ」
「サタン様がそがん食い意地の張っとるとは思わんやった。ズルかね〜」
一斉に非難の目を向けられてサタンが観念する。
「わかった! わかりました。アキラくんにお願いしてあなたたちの分も作ってもらえないか訊いてみますから。それでいいでしょう」
その言葉を聞いて喜色満面になる幹部たち。見えざる敵との戦いに向けて緊張していた空気が一気に穏やかになる。
「まぁ気を張りっぱなしでも戦いには勝てませんから。アキラくんの料理を食べて英気を養いましょう」
サタンがそう言うと、幹部たちの結束は以前よりも強まっていくのであった。
アキラ、さらに人数が増えた分お料理を頑張らないといけません。
ご意見、ご感想など頂戴できると励みになります。よろしくお願いいたします。




