無能なんかじゃない?
テシオンとサタンの会議。深刻な状況です。
テシオンと2人きりになると、サタンは魔界で現状起こっていることを簡潔に報告した。ことの意外さにテシオンは驚きつつも気になることを尋ねた。
「契約書が改ざんされたということは、あたしが結んだ契約は無効ということですかね? だとすると666人目も失敗ということで消滅させられるんじゃ……」
テシオンの危惧することをサタンは否定する。
「いえ。それはありません。今回はあなたに落ち度があって契約が無効になったのではなく、こちらの落ち度。いわば経営陣の落ち度で無効になっているのですから。もし罰を受けるとしたら、私や幹部連ということになります」
消滅することはないと知らされてテシオンは安堵する。しかし魔界になにか良からぬことが起こるとなると安心してはいられない。
「でも契約書を改ざんする目的がわかんないですね。それによってなんのメリットがあるのか」
さらに疑問を投げかけるテシオンにサタンは自分の予想を伝える。
「あくまでも予想にすぎませんが、契約を無効にするため魔人になることを契約者に持ちかけた者がいるのではないでしょうか。魔人になれば人間としての魂がなくなり契約に束縛されることがなくなりますからね」
「ということは石井ヒデキが魔人になっていると?」
「その可能性はあります。契約を無効にしてやる代わりに自分たちへの協力を取りつける。味方が多いに越したことはありませんからね。おそらく計画がうまくいけば、秘密を知る者として処分する。計画が頓挫したら罪を魔人に被せる。そういう算段ではないかと」
「はあ〜、ずいぶん汚い連中ですね」
サタンの予想を聞いてテシオンは呆れ果てていた。正々堂々戦うならばまだしも姑息な手段で自分たちの意志を通すなんて、悪魔といえども汚すぎると憤りを感じたのだ。厳しい表情のテシオンにサタンは話しかける。
「こちらの手落ちで契約が無効になったのに、お願いするのは心苦しいのですが……。テシオン、あなたには私たちの味方になってほしいのです。こちらとしても信頼できる戦力を多く確保しないといけないので。あなたが味方してくれるのであれば心強い」
「え! あたしですか? 役立たずとして有名なあたしに味方になってほしいと? そりゃあサタン様やアスモデ部長のことは好きだから、敵に回ることはありませんが」
テシオンは以前、アスモデから「戦場で怖いのは無能な味方だ」ということを言われていたので、サタンからの提案に驚きを隠せない。
「あなたが無能? 私はそう思いませんよ。あなたはやればできる悪魔です。これまではやり方が適切ではなかっただけで、本来は優秀な悪魔だと私もアスモデ部長も評価しているのですよ」
初めて同じ悪魔から、しかもトップであるサタンから評価されて嬉しく思うテシオン。表情をほころばせて力強く言う。
「あたしなんかでよければ味方になりますよ! 正直、自分の契約書を改ざんされてムカついているというのもあります。敵がわかったらボコボコにしてやりたい気分です」
「そんな暴力的な解決になるかはわかりませんけどね」
現状、魔界でも最高戦力の一人に数えられるテシオンが味方になって嬉しいのと安心したので、サタンは柔らかい表情を浮かべた。
「あなたへすぐに被害が及ぶことはないでしょう。それに魔界のほうも急に動きがあるとは思えません。しかしなにか良くない計画が進行していることは確かです。身の回りにじゅうぶん注意を払っておいてください。あなた自身のことはそれほど心配ではありません。なにがあっても対処できるでしょうから。しかし敵は姑息な連中です。アキラくんや他の人間を標的にしてくることも考えられます。そうならないようこちらでも警戒はしておきますが、あなたも気をつけてくださいね」
自分ではなくアキラがターゲットになるかもしれない可能性を耳にしてテシオンは怒りに染まる。
「サタン様。もしアキラたちに手を出してくるようなことがあれば、あたしは本当にブチ切れますよ。自分でもどうなるかわかりません。そのときは殺っちゃっていいですよね?」
テシオンの底知れない憤怒にサタンは戦慄する。「この子が本気で暴れたら人間界が崩壊してしまう」。落ち着かせるように優しく冷静に言葉を紡ぐ。
「もしアキラくんになにかあれば、あなたが怒るのはわかります。しかしこういうことは事前に防がないといけないのです。私だって彼になにかあってご飯を食べられなくなるのはイヤですからね。これまでより警戒レベルを上げてください」
「わかりました。絶対にアキラたちには手出しさせませんよ」
こうしてテシオンとサタンの話は幕を閉じた。その様子をクモを通じて見ていたタヤンとノヒロー。
「ノヒロー様。サタンはなにを考えているのですかね? 味方を増やしたいのはわかります。どうやらテシオンのことを高く評価しているというのもわかりました。しかしあいつはそれほど大した悪魔なんですかね?」
「お前に恥をかかせた飲み会のことは聞いたが、不意打ちに近い形だったのだろう? あいつにそれほどの力があるとは思えないが、ああいう下級悪魔の手も借りたいくらい混乱しているということかもしれないな」
「まぁあの飲み会での恨みは忘れていませんが。奴がそれほど力を持っているわけではないことは、私が身をもって知っています。サタン側はそれだけ追い詰められているということでしょうね」
まったく見当外れな見立てをしているノヒローとタヤンだったが、ここでタヤンが嫌らしい笑みを浮かべて提案する。
「藁にもすがるということなのでしょうが、その藁を私が断ち切ってみせますよ。上條アキラ、まずはこいつを始末しましょう」
タヤンの提案にノヒローは少し躊躇する。
「しかし上條アキラのことは石井ヒデキが自ら手を下したいのではないか? あいつの機嫌を損ねて協力しないと言い出したら面倒だぞ」
「大丈夫でしょう。できれば自分でという気持ちはあるでしょうが、邪魔な人間を消してやるのです。それにそこでゴチャゴチャ言うのであれば、石井ヒデキも消して別の魔人を用意すればいいだけです」
「わかった。ではこの件はお前に任せるとしよう」
まだこのとき2人は知らなかった。これから自分たちがやろうとしていることが、虎の尾を踏む行為であることを。
タヤンはアキラにどのようなことを仕掛けるのか。
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