家庭訪問?
地獄の長が人間界にやって来ました
「ピンポーン」
来客を知らせる音が鳴ったのでアキラはインターホンを見てみた。カメラには信じられないくらい美形の男性が映っている。パリッとしたスーツを着こなしており、いかにも仕事ができそうな様子だ。ハリウッド俳優と言われても信じてしまいそうなその男性にアキラは問いかける。
「どちら様ですか?」
「こちらにうちの社員が住ませてもらっていると思うのですが在宅でしょうか?」
「社員? 父さんのことかな」と一瞬アキラは思ったが、男性はどう見ても30代くらい。20代後半と言われても不思議ではない見た目だ。「なんだか偉い人のようだけど、父さんの会社にこんな若い偉い人がいるのかな」。そう思っていると、インターホンを覗き込んだテシオンが驚きの声を上げる。
「サーちゃん! なんでここに?」
「おや、その声はテシオンですね。やはりいましたか」
2人のやり取りを聞いてアキラは「テシオンを知っている? うちの社員って言ってたよね。テシオンの上司? てことはあの男の人も悪魔なんだ」と驚く。
「アキラ、すまん。いきなり上司が訪ねてきた。上がってもらってもいいか?」
「かまわないけど。テシオンより偉い悪魔ということだよね?」
「うん。言うなれば社長。魔界のトップ、サタン」
「はぁ? サタンってあのサタン? 堕天使の? 地獄でいちばん偉い悪魔だよね?」
「そうだよ」
そうテシオンは言い残すと、絶句しているアキラを残して玄関に出迎えに行った。
「テシオンはあんなだけど、他の悪魔はお気楽じゃないよね。まさか人間を滅ぼしに来たとか?」。不安に思うアキラをよそに、テシオンがサタンをリビングに通す。
「あなたがアキラくんですね。うちの部下がいつもお世話になっております。突然お邪魔して申し訳ございません。テシオンがご迷惑をかけているのではありませんか?」
地獄の長とは思えない物腰柔らかなサタンにアキラは面食らう。
「いえ。そんな迷惑だなんて。夕食のメニューがほぼほぼ揚げ物にさせられている以外は、それほど迷惑はかかっていません」
アキラの返答を聞いて、「え? あれ迷惑だったの」とテシオンが呆然としている。サタンはその姿を呆れて見ているのだが、視線に気づいたテシオンは申し開きをした。
「いや。サーちゃ……サタン様。違うんですってば。アキラの揚げ物がマジで美味いんです。そう。アキラが悪いんです。料理が上手すぎるアキラがすべて悪いんです」
言い訳するテシオンをさらに呆れた目で見るサタン。
「あ、テシオンそういうこと言うんだ。じゃあもう僕、揚げ物作らないからね」
言い訳のためとはいえ自分を悪者にされたアキラが口を尖らす。
「わー! 嘘、嘘! アキラは悪くない。悪いのはあたし。だから揚げ物を作らないなんてこと言わないで。後生だから……」
慌てるテシオンを見て、サタンとアキラが同時に吹きだす。
「まぁこういうわけで楽しくやっています。迷惑なんてかかってないですよ」
アキラがそうフォローすると、サタンも優しい笑顔になる。
「本当にきみは報告どおりの優しい人なんですね」
そう言いながら、一転して険しい顔になるサタン。テシオンに向き直ると、言葉をかけた。
「それで? テシオン。アキラくんの料理というのはそんなに美味しいのですか?」
「そりゃもう! マジで地獄を一瞬で制圧できるくらいの美味さですよ」
「例えがよくわかりませんが、すごく美味しいというのはなんとなくわかりました」
テシオンは「よかった怒られなかった」と安堵しているが、ここはさらにダメ押しが必要だと考える。
「ということでアキラくん。あたしの上司が来たのだから、おもてなしとしてなにか料理を作ってはくれないかね」
おもてなしの部分だけ、東京オリンピック誘致の女性みたいに片手を振るテシオン。
「ハァ〜、もう仕方ないなぁ。なにを作ればいいの」
「そんなもん唐揚げとメンチカツ。あとは銀河系を包むオムライスでしょうが!」
こうなったときのテシオンが頑固なのを承知しているアキラはサタンに向かって言う。
「すみません。少しだけお時間を頂戴してもよろしいですか? いまから食材を仕込むので」
アキラの問いにサタンは嬉しそうに同意する。
「すみませんね。出来の悪い部下の面倒を見てもらっているだけでなく、私の食事まで用意してもらうなんて」
そう返すサタンの耳元でアキラは「もしテシオンを叱るつもりだとしたら、お手柔らかにお願いします。ああ見えてけっこう頑張っているようですから」と囁く。サタンは「本当に良い子だな」と感心しながら、アキラの料理が出てくるのを待つことにするのであった。
アキラの料理にサタンもメロメロになるのか?
ご意見、ご感想など頂戴できたら励みになります。よろしくお願いいたします。




