御大将、自らですか?
大天使対策に頭を悩ませる幹部たちです
サタンから報告を受けたベルゼブブとパズズは言葉を失っていた。まさか大天使が今回の件に一枚噛んでいるとは思いもしなかったからである。
「そういうわけで予想以上に事は大きくなっていると考えておいてください」
サタンがそう告げても2人は言葉を発することができなかった。2人に代わって発言したのはアスモデであった。
「サタン様。今回の件、魔人と天上界のおそらく一部の大天使が関わっているということですが、冥界や大洋界は関わっていないのでしょうか?」
天上界、魔界、人間界、それに加えて冥界と大洋界がこの世には存在しており、冥界はハデス、大洋界はポセイドンが支配している。冥界と魔界は言うなれば兄弟のようなものであり、敵に回るとは考えづらい。また大洋界に関してはポセイドンが他の世界に対して侵攻するという考えを持つような存在ではないため、こちらもノーマークでかまわないというのがサタンの考えであった。
「ハデスにはこちらの状況を伝えてあります。なにかあれば援軍をよこすという話でした。またポセイドンには連絡が取れませんでした。従者さえ置いて修行に出かけたとか。あの神は脳筋ですからね。自分が強くなることにしか関心がないので仕方ありませんが。それに彼の性格上、もし魔界に害をなすというのであれば正面から宣戦布告してくるでしょう。今回の件には関わっていないと断言できます」
当面、敵は天上界の何者か、それに追随する不満分子の悪魔たち。他は警戒しなくてもよいことに胸をなでおろす一同であったが、全体像が見えないだけになんとも言えない不快感を覚えていた。
「どちらにしろ敵がハッキリしないことには有効な対策を立てられませんね。サタン様はどうお考えですか?」
ベルゼブブの問いにサタンは明確な答えを出す。
「そうですね。確実にこちらの味方だと言える悪魔を揃えておくことが大切でしょう。私、マモン、アスモデ、ベルゼブブ、パズズ……これだけ揃っていれば戦闘に負けるわけはありません。しかし仮に魔界で戦闘が起こった場合、無関係な悪魔たちが巻き込まれて大勢死ぬでしょう。それは避けなければなりません。被害を最小限に抑えるため、仲間を増やしておきましょう」
さすが魔界の長だけあって、弱い悪魔のこともきちんと考えている。だから下の者がついていくのである。アスモデをはじめ、全員があらためてサタンの懐の深さに感心していた。
その様子を斥候のクモを通して見ていたノヒローとタヤン、大天使は笑っていた。
「ノヒロー様、奴ら警戒はしているようですがこちらの陣容がまだわかっておりませぬようで」
「うむ。本当に敵が大天使と魔人、そして我々不満分子だけだと考えているようだな。バカな奴らよ」
勝ちを確信したかのような2人に大天使が釘を刺す。
「油断するな。喜ぶのは本当に勝ってからだ。腐っても地獄の長と大幹部たちだ」
「俺もノヒロー様もそれはわかってますよ。奴らの力は同じ悪魔である我々が身にしみて知っていますから」
そうタヤンが答えると、突如として通信が切れた。
「!」
「まさかクモに気づいたのか?」
焦るタヤンに大天使が答える。
「いや違うな。どうやらパズズがクモを踏み潰したようだ。ただ斥候に気づいて踏んだのではなく、たまたまのようだ」
部屋の中に放っているクモとは別に窓の外にも斥候のクモがおり、そこから得た映像で大天使はそう判断した。部屋の中のクモは音声を傍受することに特化しており、部屋の外のクモは映像を送ることに特化している。つまり現状、音声なしの映像のみでサタンたちの会合を探る状況になったのだ。
「うわ、なんか踏んだ。なんやこれ、気持ち悪か」
パズズが声を上げる。そこには踏み潰されたクモの死骸があった。マモンの脳裏に聖属性の斥候用クモがよぎる。しかしこのクモからは聖属性の魔力が感じられなかった。
「どうやらただのクモのようだな。パズズ、足元には気をつけろよ」
「うん。足洗ってくるけん、ちょっと待っとって」
パズズが部屋を一旦出たところで、話題はテシオンのことになった。
「サタン様、テシオンには通信で報告しようと思うのですがよろしいですか?」
アスモデがそう問いかけると、サタンは警戒を口にする。
「通信が傍受される可能性があります。彼女には対面で伝えるほうがいいでしょう」
もっともな意見だと思うアスモデがさらに質問する。
「ではその役目は誰に?」
「私です」
「え?」
伝言係にまさか魔界の長、自らが出向くというのか? アスモデは混乱した。
「いえ。この状況でサタン様が不在になるのはマズいのではないでしょうか? それにそのような役目を自ら行なわなくとも……」
困惑するアスモデ。ベルゼブブが口を開く。
「サタン様。その役目、私にお任せください。サタン様がやるようなことでもありません」
「ありがとうございます、ベルゼブブ。しかし今回は私が赴こうと思います。これがただの伝言であれば、私が行く必要はないでしょう。しかしいまは信頼できる仲間が一人でも多く欲しい。テシオンは確実にこちらの味方にしておきたいのです。彼女の潜在能力……あなたたちもご存知でしょう?」
サタンの言葉に全員が納得した。テシオンの潜在魔力が幹部にヒケを取らないどころか、サタンと同格以上のものであることは幹部であれば誰もが知っていることだからだ。
「そういうことであれば留守はお任せください。父上」
マモンの言葉でサタンが人間界に出向くことが決まった。映像でしか見ることができないので、ノヒローたちは話の内容まではわからないものの、どこかの時点でサタンの使いがテシオンのところに行くのは予想していた。
「声は聞こえませんが、おそらくテシオンへの報告をどうするかを話しているのでしょうな」
タヤンがそう言うと、ノヒローもそれに同意する。
「まぁテシオンのところにも斥候のクモは放ってありますから、心配することはございません」
「うむ。しかしあのような下級悪魔に気を使う必要はないであろうに。サタンの考えることはよくわからないな」
大天使がそう言うと、ノヒローもそれに同意する。ノヒローはテシオンが幹部たちを酷い目に遭わせた後で幹部に昇進したので、テシオンの能力についてはまったく把握していなかった。「665回失敗を繰り返したダメ悪魔」という認識しか持っていなかったのだ。
ともあれサタンがテシオンに会うため上條家に出かけることが決定したのであった。
アキラの元にサタンがやってくる?
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