魔界以外が絡んでいる?
魔界転覆計画の全容はまだ解明されません。
「それで今回の動きについて情報があるということだが」
マモンは単刀直入に質問する。その問いにノヒローは眉をひそめながら答える。
「うむ。元は聖属性のクモを捉えたところから始まるのだ」
ノヒローが言うには、あるとき自宅近くで聖属性のクモを発見したそうだ。魔界にいるはずがないクモ。不審に思って調べると、どうやらクモは斥候として放たれた生物であるということが判明した。
「魔界に斥候を放つとしたら天上界しかないだろうと思ってな。調査していくとこのクモが魔界の広範囲にいることがわかったのだ。そうして辿るうちに、契約書の改ざんが行なわれていることを突き止めたのだ」
これがそのクモだと言いながら、ノヒローがマモンに白いクモを見せる。クモからは非常に微量ではあるが、聖属性の魔力が感じられる。
「なるほどな。確かに怪しい」
マモンがそう答える。
「そもそもおかしいのだよ。考えてもみてほしい。魔界で絶対的な力を持つサタン様。それに次ぐ力を持つ次期頭首のそなた。それ以外の幹部も絶大な力を持っている。たとえ魔界の不満分子をかき集めて、良からぬことを企んだとしても太刀打ちできるわけがない」
確かにそれはそうだとマモンは考える。下級悪魔、中級悪魔が集まり、それを先導する幹部が数名いたところで、残った幹部連で鎮圧するのは容易なことだ。幹部の大半が裏切ったとしても、絶対的な王・サタンと自分がいるかぎり(アスモデも裏切ることはないだろうから、アスモデとの3人ということになるが)負けることはない。例えるならば巡洋艦に竹槍1本で立ち向かうようなもの。それくらい絶望的な戦力差があるのだ。不満があったところで、そのような無謀なことを仕掛ける悪魔がいるとは思えない。思案するマモンにノヒローが言葉を続ける。
「しかしだ。そこに魔人や天上界が絡むと話は変わってくる」
「天上界だけでなく、魔人もか!」
「あぁ。どうも魔人たちにも不穏な動きがあるのだ。もしすべての魔人、そして天上界が不満分子の後ろ盾になったとしたらどうだろうか? そなたやサタン様、幹部連を敵に回しても互角……いやそれ以上の戦いになるとは思わぬか?」
確かに魔人や天上界がバックアップしているとなれば話は変わってくる。しかし魔人は基本的に自分勝手な存在。自分さえ良ければ他がどうであろうと気にしないものだ。確かに力があるとはいえ、まとまって行動するということは考えづらい。
そして天上界。魔界との関係性は最悪だが、いちおう不可侵条約を結んでいる。ゼウスとサタンで結んだ契約であり、その内容は当事者の2人以外は知らないので詳細は不明だが、なんの布告もなしに攻めてくるというのは考えづらい。「備えあれば憂いなし」で軍備の拡充は進めているものの、いますぐどうこうという差し迫った状況でもない。
「ということは、天上界の中に魔界の内部崩壊を狙っている人物がいる可能性があると?」
「これまで集めた証拠から判断するとそうなる。もちろん確定とまでは言えない。向こうさんも慎重に動いているようだからな。決定的な証拠はないのだ」
マモンは腕組みして考えこむ。魔界にサタンと自分がいる以上、そして幹部連が揃っている以上、天上界と争ってもそうそう負けることはない(逆に完全勝利も難しいのだが)。内部崩壊を狙うとして、ゼウスがそのような奸計に走るとも思えない。そうだとするならば一部の天使が暴走しているのだろう。しかし一介の天使に魔界を崩壊させるだけの力があるとも思えない。
「まさかこの件に大天使が絡んでいる可能性があるのか?」
マモンの問いにノヒローがうなずく。
「おそらくな。ミカエル、ラファエル、ガブリエル……さすがに最上位クラスの奴らが絡んでいるとは思えないが、それ以外の大天使が絡んでいる可能性はじゅうぶんにある」
ノヒローの答えを聞いてマモンは顔色が変わる。大天使が絡んでいるとなると、問題がとても大きくなるからだ。中級以下の悪魔や天使が小競り合いで死ぬことはままある。多少の問題にはなるものの、それくらいであれば抗争に発展するようなことはない。しかし大悪魔や大天使が犠牲になったとするならば、大きな戦いになる可能性がある。魔界崩壊を狙った大天使を捕らえたとして、または殺したとして「その大天使が魔界を崩壊させようとした明確な証拠」がないかぎり、天上界との戦いは待ったなしになるのだ。そしてこのようなことを企む大天使が、そういったあからさまな証拠を残しているとは考えづらい。
「これは……じつに頭が痛いな」。思わずそう漏らすマモン。実際問題、とても厄介な事態になっている。
「うむ。敵の尻尾がつかめそうでつかめない。あと一歩というところでスルリと手から逃れていく感じなのだ。大天使が絡んでいるのではないか?という疑惑は予想にすぎないが、どう検証してもその可能性がいちばん大きいのだ」
沈痛な面持ちのノヒローの言葉を聞いて、マモンが席を立つ。
「ノヒロー、情報ありがたい。また新たな情報が入ったら教えてくれないか?」
「もちろんだ」
「私はこれから父上にこのことを報告に行く。急を要することなのでな」
そうマモンは言うと、タヤンが運んできたドリンクを飲み干す。
「もちろん新しい情報が入ったら、逐一報告しよう」
「すまぬな。助かる」
そう言い残してマモンはダンジョンを後にした。
一連の会話を陰で聞いていたヒデキは「あれ? 俺の出番は?」とキョトンとしていた。タヤンに「おい! マモンを殺すんじゃなかったのか?」と質問すると、タヤンが完全に呆れた顔をした。
「お前、本当にバカだな」
その言葉に憤りを感じたものの、状況が飲みこめないヒデキは困惑するのであった。
なぜマモンを殺さなかったのか? ヒデキの訓練はなんだったのか?
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