新進気鋭の幹部?
マモン、命を狙われます
マモンが重い口を開き、契約書の改ざんについて話す。前例がないだけに驚くパズズとベルゼブブ。
「マモン、本当なのかその話は? 私たちをからかおうとしているのではなく?」
「残念ながら本当だ」
マモンの答えを聞いてもまだ信じられない様子のパズズが「そがんことするとか……頭おかしか」と小さく呟く。
「ここまで大それたことをやるとなると……末端だけの仕業とは思えないな」
ベルゼブブの予想もサタンやアスモデと同じものだった。契約書の改ざんが何を意味するのか。どういうことを企んでこのようなことを行なったのか。狙いがわからない。
「父上もアスモデも同じ見解だ。誰が敵なのかわからないだけに、信頼できるお前たちにしか話していない」
マモンにとってパズズとベルゼブブは幹部の中でも特別な存在。苦楽を共にした仲間というべき悪魔たちであった。そのためこのような機密情報を話していた。
「あるとしたら魔界そのものをひっくり返すようなことやろうね。そうなるとサタン様やマモン、それにうちら幹部も邪魔になるけん、狙われるかもしれんね」
パズズの見解にベルゼブブも同意する。これもまたサタンやアスモデと同じ考えである。
「現状、契約書の改ざん以外に怪しい動きは見えていない。しかし私たちもじゅうぶんに注意を払う必要がある。今日はそれを伝えたくて来たんだ」
マモンは己のことだけでなく、盟友たちの安全も危惧していた。その心遣いがありがたいとパズズ、ベルゼブブは感謝した。
「手下のハエたちにも探らせよう」
「じゃあ俺はイナゴたちを斥候で放っておくけん。みんな注意せんといかんね」
よろしく頼むと伝えてマモンは会合の場を後にした。
自宅へ戻ろうとマモンが歩を進めていると、不意に声をかけてくる者がいた。タヤンである。
「マモン様、お耳に入れておきたいことがあります」
「タヤンか。どのようなことだ?」
「ここではちょっと……」
顔を耳に寄せて「契約書の件です」と小さな声で囁くタヤン。マモンは憤怒の表情を浮かべて大きな声を上げる。
「なぜそのことを知っている?」
「たまたまです。別件で怪しい動きがあったので調べていたところ、どうも契約書を改ざんした形跡があるということがわかりました。それに気づいたのは私ではなくノヒロー様です」
「ノヒローが……」
ノヒローは目覚ましい出世をして幹部にのしあがった新進の悪魔であった。他の幹部が堕天使出身であったり、土地神の出身であるのに対して、そうしたバックボーンが一切ないまま結果を残すことで幹部に昇格していた。出世欲が旺盛な悪魔というよりも、それ以上の何かを企んでいるような気配を感じてマモンは警戒していた。
「それでマモン様に報告がしたいと仰っています。ことがことですので、ノヒロー様やマモン様のご自宅で話すというわけにもいきますまい。会合の場を設けておりますのでご一緒していただけませんでしょうか?」
ノヒローをまったく信用していないマモンではあるが、魔界に対する反逆の情報があると言われている状況で、同じ幹部からの会合を断るのもよろしくないと判断した。
「わかった。案内を頼む」
そう告げてタヤンの後ろをついていくマモン。「かかった!」。内心、タヤンはほくそ笑んでいた。そうしてマモンを魔界の果てに位置するダンジョンへと連れていった。
「ここは見捨てられたダンジョンだな」
「はい。いまでは立ち入る者はおりません。重要な事項を話し合うのにうってつけと言えるでしょう」
そうした会話を交わしていると、奥からノヒローが姿を現す。
「マモン。お呼びだてして申し訳ない」
マモンの足労に対して謝罪するノヒローだったが、マモンが鋭い質問を投げかける。
「ノヒロー、それはかまわない。しかしこのような重大なことをなぜ幹部会議で話さなかったのだ?」
当然の質問なのでノヒローも答えを用意していた。
「これだけの大それたこと。やってのけるとしたら幹部が一枚噛んでいるに違いない。誰が裏切り者なのかがわからない状況で幹部会議にかけるというのは、さすがに無用心すぎると思ってな」
「まぁもっともな意見だ」
マモンは納得がいく回答を得られたが、それでもノヒローを信用していない。
「ではいったいどのようなことがわかったのかを教えてもらおうか」
そう言いながら着席するマモン。向かい合ってノヒローも着席する。
「タヤン。すまないがマモンと私に何か飲むものを持ってきてくれ。かなり長い話になるからな」
「かしこまりました」
そう言い残してタヤンは部屋を後にしたのであった。
マモン、ピンチを迎えるのか? 切り抜けられるのか?
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