勝ち目はあるのか?
ヒデキ、魔法が使えるようになりました
頭に炎をイメージして指先に意識を集中する。そして「ファイア」と呪文を詠唱すると球になった炎が前方に発射された。
「そうだ。なかなかうまいじゃないか」
タヤンの褒め言葉にヒデキはニコリともしない。
「同じように氷や風、土をイメージしたらそれぞれの属性に合った魔法弾が出るからな。それに憎しみの感情を頭に描けば闇属性の魔法になる。慈しみの感情であれば聖属性の魔法になるが、これは我々悪魔やお前のような魔人には使えないから覚えておかなくてもいいぞ」
最初に指先から魔法が出たときには面食らったが、どうにもヒデキには納得がいかないことがあった。確かに先ほど発射したファイアの魔法によって、前方にある大岩には黒く焦げ付いた跡が残っている。これが人間に向けて放ったのであれば相手は黒焦げになっておしまいだろう。しかしサタンの息子であるマモン、魔界屈指の大悪魔にこれが通じるとは思えなかったのだ。
「なぁ計画ではマモンの魔法を封じたうえで闘うということだったよな。確かにそれは有利になることは間違いないだろうが、この程度の魔法が通じる相手なのか?」
頭に浮かんだ疑問を口にするヒデキ。それに対してタヤンの答えはこうだ。
「いや通用しないだろうな。ただお前には魔法というものがどのようなものであるかを理解してもらわないといけない。マモンの魔法は封じる。しかし完全に封じることができなかった場合、当然魔法による攻撃を受けることとなる。その魔法を防ぐためには、まず魔法の原理を学ばないといけない。これは攻撃のための訓練というよりも防御のための訓練なのだよ」
時間がないのにずいぶん悠長な訓練だなと感じつつヒデキはもうひとつの疑問をタヤンにぶつける。
「仮にマモンの魔法を完全に封じた場合、どのような闘いになると予想されるんだ?」
「肉弾戦だな。お前の魔法ではノーガードのマモンにもダメージを与えることはできない。そうなるとあとは物理的な殴り合いだ。当然マモンはそういった闘いにも長けている」
「だったら俺の勝ち目はないだろう」
不服そうにヒデキが言うと、タヤンはニヤリと笑って答える。
「大丈夫だ。あいつの戦闘力を大きく削ぐことができる秘策もある」
そう言うとヒデキの後方に視線を向ける。振り返るとそこには黒幕幹部と同じような出で立ちの青年が立っていた。
「誰だ?」
「この方は我々の協力者だ。悪魔にとって大きな弱点となる聖属性の魔法を使いこなすことができる。闘いが始まったらこの方の魔法でマモンを弱体化させる。そうすればお前にも勝ち目が出てくる」
フードを被っており顔は見えないが、その奥でいやらしい笑顔を浮かべていることがヒデキにはなんとなくわかった。「黒幕のあいつといい、ずいぶんお高く止まっているじゃないか」。心中で毒づくヒデキにタヤンは言葉を投げる。
「まぁ弱体化したとしても、それでもマモンの戦闘力は凄まじいものがある。お前は魔人になったといっても、それは魂レベルの話で肉体は男子高校生のままだ。言うなれば一般の男子高校生が空手の達人に挑むようなものだな」
“空手”と聞いてアキラのことを思い出すヒデキ。「あいつが邪魔だと思っていただけなのに、いまなぜこんな状況になっているんだろうな」とヒデキはどこか虚しい気持ちになっていた。そんなヒデキにおかまいなしにタヤンは話し続ける。
「つまりこのままでは勝ち目がない。肉弾戦の訓練もお前がマモンにすぐに倒されないようにするためのものだ」
「それってたんなる消耗戦でしかなくないか? どこに俺の勝ち目があるんだ」
当然の疑問を口にするヒデキだが、タヤンは不敵な笑みを浮かべて答える。
「なにも毒入りドリンクだけが罠ではないということだ。聖属性の魔法、そのほかにも何重にも罠を張り巡らせているのだ。心配するな。危なくなれば我々も加勢するしな。トドメを刺すのが魔人ということが何よりも重要なのだから」
「だったらお前らがマモンを弱らせて、動けなくなったときに俺がトドメを刺せばいいだけだろう?」
新たな疑問を口にするヒデキ。タヤンは呆れたように答える。
「だから何度も言っているだろう。この訓練はお前がすぐに死なないようにするためのものだと。魔力を封じられたマモンが真っ先にお前を標的にしたらどうなる? 一発殴られて死にましたということになったら、この計画は台無しなのだよ。自分の身を守れるくらいに強くなってもらわないと話にならんのだよ」
自分が最初に殺される可能性に気づいたヒデキの顔色が青くなる。そんなヒデキを奮い立たせるようにタヤンが言葉を放つ。
「それにこうやって訓練したら、憎っくき上條アキラを潰すだけの力も得られるというものだ。あのガキ、なかなかの空手使いらしいじゃないか。あいつを殺すつもりで訓練することだな。人間界で魔人が起こした殺人など解明されないのだから。マモンを殺した後にあのガキを殺してしまえよ」
ヒデキはその言葉を聞いて「確かにアキラに勝てるくらいにはならないといけない」と心を新たにする。「まぁその前にマモンに殺されないようにしないといけないんだがな」と来るべき闘いが予想以上に厳しいものであることを思い知らされて、ヒデキは気が重くなるのであった。
聖属性の魔法が使えるということは悪魔ではないのか? 魔界転覆計画はその規模が判然としません。
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