訓練開始?
ヒデキ、魔人になっても苦難の連続です
サタンの息子・マモンの殺害。ヒデキは予想もしない任務を言い渡されて面食らっていた。
「ちょっと待ってくれ。サタンの息子ということはそうとう強い悪魔なんだろう? そんな悪魔に俺が勝てるわけないと思うのだが」
ヒデキの言葉を聴いてタヤンが答える。
「もちろん勝てるわけがないな。俺がやっても無理だし、こちらのお方がやっても難しいだろう」
「だったらどうするんだ? 俺はわざわざ返り討ちに遭うためにここに呼ばれているのか?」
「誰が正攻法でいくといった?」
タヤンによると、マモンを罠にはめてトドメをヒデキが刺すという計画であった。
「まずこちらの方がマモンを呼びだす。契約書改ざんの件について情報があるとでも言えば、マモンは姿を現わすはずだ。改ざんは魔界において大きな罪だからな。犯人の手がかりがあるということならば、確実にやってくる。マモンが姿を見せたら、私が飲み物を用意する。魔力を極端に弱くして、ほぼすべての魔法が使えなくなる毒入りの特製ドリンクだ」
「そんな単純な手に引っかかる相手なのか?」
ヒデキの疑問にニヤリと笑ってタヤンが言葉を紡ぐ。
「だからだよ。単純だからいいんだ。まさかこんな稚拙な手段を使ってくるとは予想していないだろうからな」
そういうものだろうか? 毒入りの飲み物なんて看破されてしまうのではないか?と考えるヒデキ。
「おそらく毒が効いた状態でも、お前とマモンの戦闘力を比べたら向こうが上だろう。だから今日この場からお前には戦闘訓練を受けてもらう」
「そんなこと急に言われてもだな。俺にも予定というものがあるんだ。だいたい訓練で不在にしている間、人間界での俺はどうなる? たとえば訓練が一日がかりとなると、その間俺は不在なわけだろう。さすがに周りが怪しむと思うぞ」
「その辺は抜かりないから安心しろ」
どうやらヒデキ不在への対策をタヤンは持っているようだ。それでも腑に落ちないことがもうひとつある。
「毒入りの飲み物でマモンを弱らせるというのはわかった。しかしなぜ俺なんだ? トドメを刺すのであれば、お前やそこの悪魔でもいいだろう」
この男、意外に頭が回るなとタヤンは考えながら言葉を選ぶ。
「それは絶対に証拠を残したくないからだ。俺やこのお方がマモンを殺した場合、同じ魔界にいることもあってどこでどう足が付くかわかったものじゃない。目ざとい奴らがいるからな。しかし石井ヒデキ、お前ならば殺した後で人間界に戻ってしまえば、そうそう気づかれることはない。万が一気づかれるとしても、それには時間がかかる。その間に我々が魔界を制圧してしまえば、お前の罪などなかったことになる」
どうにも計画に穴があるような気がしてならないヒデキだったが、魔人になると決めてから疑問だったもうひとつのことを質問する。
「お前らが魔界を制圧したとして、その後僕はどうなるんだ? 魔人になった時点でテシオンとの契約は無効。デメリットとして天国には行けず地獄行きは確定していると言っていたが、地獄……魔界での扱いはどうなる?」
「我々が制圧してどのような状況になるかわからないから、絶対にこうだということは言えん。しかしまぁサタンの圧政から悪魔たちを救った英雄に近い扱いになるだろうな」
「英雄ねぇ」
ヒデキは「こいつらも油断ならないからな。本当にそうなるのか?」と訝しんでいる。実際のところ、タヤンと黒幕は魔界を制圧したらすべての罪をヒデキに被せるつもりであった。「マモン様を殺害し、サタン様をも狙った大罪人」ということで。マモン殺害に失敗しても罪はヒデキに被せられる。自分たちは安全圏から高みの見物を決めこんでいればいい。それがタヤンと黒幕の考えなのだ。
「いいか。では訓練を始めるぞ。いまのお前ではマモンにダメージを与えることはできないからな。大人と赤子くらいの差があるのが現状だ。ここから一ヶ月でマモンと闘えるまでに戦闘力を高めてもらう」
「それって適正な計画なのか?」
「無謀だな。しかしその無謀をやり通さないかぎり、魔界転覆など夢のまた夢。お前の頑張り次第で苦しむ悪魔たちが救われるのだ。頼んだぞ」
どちらにしろ断ることはできないのは理解しているヒデキは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら訓練を始めるのであった。
マモンの殺害はうまくいくのか?
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