自己肯定感が上がりますよね?
テシオンの凄さは人間力(悪魔だけど)!
「もう聞いとる?」
長時間押し黙った状況から最初に口を開いたのはパズズだった。魔界の大幹部である。
「あぁ」
相槌を打つとまた沈黙したのが、これまた大幹部のベルゼブブ。
「ここまで成績ば残せんとは信じられんよね。あんだけの魔力があるっちゃけん、そいば使えばどがんことでもできるやろうに」
グラスに入ったブランデーを飲み干しながらパズズが言う。
2体の話題となっているのはテシオンのことだ。新悪魔歓迎会でテシオンに酷い目に遭わされた幹部たちには彼らも含まれていた。それだけに「あれほどの力がありながら……」という思いが強いのだ。
「これまでの罰で消えなかっただけでも信じがたいことなのだがな」
そう静かに言うと、ベルゼブブはまた口を閉ざした。
10人目、20人目と区切りごとに執行される処罰。これは悪魔の潜在的な技量を図るためのものでもあった。10人目の罰で消滅してしまうようならばそれまで。しかしそれを生き残るほど強いのであれば、次は期待できる。つまりこれらの処罰は使えない悪魔を間引く目的で行われていたのだ。
「さすがにアクマーランドのときは終わったと思うたけど、まさか3日経ってケロッとした顔で戻ってくるとは思わんやったよね」
そう言うとパズズは苦笑した。
「うむ。あの処罰に関しては、私がやられたとしても無傷というわけにはいかない。3日で戻ってくることもできないだろうな」
ベルゼブブもテシオンの凄さを認めている。
「ばってんか、今回の処罰はサタン自らが行うっちゃろう? しかも直球で消滅させるって話やけん、生き残るというのはあり得んやろうね」
パズズがそう言うと、もったいないとベルゼブブが呟いた。
「テシオンの凄さは魔力じゃなかと俺は思うったい」
「うむ。私もそう思う」
「あいつと話すと、何というかこう。気分がようなるったいね」
「自己肯定感が上がるというやつだな」
大悪魔2体が認めるテシオンの凄さは、その深すぎるくらい深い懐であった。大悪魔といえども失敗をしないわけではない。神父に祓われたときなど「幹部のくせに神父に負けて、どのツラ下げて帰ってきているんだ」という非難の視線を向けられることもある。なかには幹部に取って代わろうと虎視眈々と狙っている連中もいるのだから、それも当然のことだ。そんなときいつもテシオンに救われてきたのだ。
「ちょっとベルちゃん、聞いたよ! 神父すげえ奴だったんでしょう? マジついてなかったねぇ」
最初はバカにするために来たのかと腹が立ったし、鬱陶しいとも感じた。それでもテシオンは明るく話しかける。
「いや〜、ベルちゃんがここまでやられるなんて。他の悪魔だったら消されてるよね。あたしなら3秒で消されちゃうよ。それを3日3晩闘えるんだから、やっぱりベルちゃんは凄いね。さすが大幹部だよ」
四六時中この調子なのだ。最初の思いとは裏腹に、だんだん「アホなりに気を使ってくれているのだな」と嬉しく思うようになった。
パズズも神父に祓われたときに同じような経験をしている。
「パズゥ、凄いじゃん。祓われた話を元にした映画が大ヒットしてるよ! よっ! 映画スター。ハリウッドからの出演料はいかほど? あたし金だこ食べたいんだけど。スター様ならば当然奢ってくれるよね?」
こういうアホ発言を連発されて呆れる反面、気が楽になったのだ。
「消えてほしくないな」
自然とそういう言葉がベルゼブブから発せられる。
「悪魔としては失格かもしれんけど、あがん悪魔が1体くらい魔界におってもよかろうもん」
パズズもそれに同意する。
しかし悪魔にとっての不文律に逆らうわけにもいかない。テシオンが成功しないかぎり救う手立ては皆無である。
およそ悪魔らしくない悪魔が消えずに、これからもアホ発言を聞かせてくれることを大幹部2体は願いながら、静かに酒を飲み続けるのであった。
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