改ざんされている?
ヒデキに下された初指令とは?
紛糾する魔界幹部会議。議題は「天上界との関係について」である。ベルゼブブが「これまでの経緯を考えても関係が改善するとは思えない。攻められたときのことを考えて万全の準備を整えておくべきだ」と主張する。それに対してバアルが同調しつつも少し違った意見を出す。「ベルゼブブ卿の言うとおり関係改善は見込めないだろう。だがただ準備をして待つのではなく、こちらから仕掛けるべきだ。先手必勝。奴らもまさかいま攻め込んでくるとは考えていないはず」。パズズもバアルの意見に賛成している。
そうした強硬派に対してアスモデが待ったをかける。「まずは天上界がどのような考えを持っているかを探るほうがいいのでは? 先制攻撃など、奴らに戦争の大義名分を与えてしまう行為です」。その意見にアザゼルやアバドンが賛成している。
「友好的な関係を築くことは難しいでしょうか?」
レヴィアタンがそう発言したが、賛同する者は少なかった。
「奴らは我々を根絶やしにすることしか考えていない」
「そもそも天上界から落とされて、ここにいる者も少なくない。あれは水に流せるようなことじゃない」
反論が次々に起こる。それを黙ってサタンは聞いている。サタンの息子・マモン(次期魔界頭首)が口を開いた。
「この場で結論を出すことは難しいでしょう。しかし準備もせずに攻められて滅ぼされたのでは意味がありません。とりあえずベルフェゴール殿主導で軍備を整えてください。こちらもいつでも攻めに出られる。そして防御できる。そういう準備が整った後で、またこの議題については話すということでどうでしょうか?」
「このベルフェゴールにお任せくだされ。いつ天上界の連中が来たとしても問題なきよう、そして天上界に攻め込むとしたら確実に奴らを根絶やしにできるような精鋭揃いの軍隊を作りあげてみせましょう」
この言葉を聞いて、この日の会議は終了となった。会議後、マモンとアスモデがサタンの居室に呼ばれた。
「父上、どのようなご用件で?」。マモンが尋ねる。
「マモン、わざわざすまないな。アスモデとも話していたのだが、どうも良からぬことを企む輩がいるようだ」
「良からぬこととは?」
「それはまだわからぬ」
アスモデが1枚の契約書を差しだす。ヒデキとテシオンが結んだ契約が書かれた紙である。
「これは史上初のB契約を結んだという契約書ですね?」
マモンが尋ねると、アスモデが答える。
「そのとおりです。この契約書が改ざんされている可能性があります」
「え!」
悪魔の契約書を改ざんするというのは、魔界に対する反逆行為と見なされて即刻消滅という厳罰に処せられる。それだけにそうしたバカな行為に走る者などいないはずであった。少なくともこれまでにそういう事例はなかった。
「契約書の改ざんとなると、膨大な魔力が必要とされます。ですからこれは一介の下級悪魔や中級悪魔にできることではありません」
アスモデそう付け加えるとマモンは絶句した。
「ということは、幹部の中に裏切り者がいると?」
「そういうことになります」
極めて冷静に答えるアスモデ。
「マモン、お前は私の後を継いで魔界を治める身だ。しかしお前に任せる前に後顧の憂いはすべて排除したいと考えている。この改ざんがどのような企みによってなされたか現時点ではわからない。しかし最悪の場合、お前の命を狙ってくる可能性がある。これまで以上に注意を払うように」
「わかりました……」
マモンは驚愕していた。まさかこの魔界でサタンに背くような悪魔がいるとは思っていなかったのだ。幹部がいくら強力な悪魔だとしても、サタンとの力量には途轍もない隔たりがある。幹部全員でサタンと闘ったとしても、まず勝てる見込みはない。「そんな無謀な悪魔がいるのか?」。それだけに信じられない思いだったのだ。
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「契約書の改ざんはどうでしたか?」
タヤンが成果を尋ねる。
「うむ。抜かりない」
「さすがですね」
黒幕と思しき幹部とタヤンが魔界の端で話しこんでいた。
「しかしサタンやアスモデのことだ。おそらく契約書の違和感には気づくだろうな」
「だてに魔界の長と幹部ではないということですな」
そこに姿を現した男がいた。バランスの取れた筋肉質の体、額にそびえ立つ立派な角。青銅色の皮膚。魔人となった石井ヒデキであった。
「なかなか似合うじゃないか」
そう嘯くタヤンにヒデキは嫌そうな顔をする。
「自分が人間じゃなくなったというのがまだ受け入れられていなかったけど、さすがにこの姿になってしまうとね。救いは人間界にいるときは、ふつうの人間と外見が変わらないことだけど」
黒幕幹部も「なかなか凛々しい姿だと思うぞ」とヒデキを褒める。
「それで?乗っ取りはまだなんだろう。俺をこんなところに呼んだ目的はなんだ?」
ヒデキの問いに信じられない答えを言い渡す黒幕。
「お前にはサタンの息子・マモンを殺してもらいたい」
つい先日まで人間だったヒデキにはなにがなにやら理解できなかった。
上條家は相変わらずのんびりですが、魔界は急展開です。
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