師範が吹っ飛ぶ?
空手道場に到着です!
久々に道場に来たアキラ。「懐かしいなぁ」。思わずそう漏らす。カオルも「久々だよなぁ。竹原と軽く手合わせするか」と嬉しそうだ。
「オス、失礼します!」
2人で元気よく挨拶をして道場の敷居をまたぐ。テシオンたちも真似して「オス、失礼します」と言ってそれに続く。
「アキラ! 上條! よく来たな」
均整がとれた体格の男性が道場の奥から声をかける。
「元気そうだな。安心したよ」
「師範もお変わりなく元気そうでよかったです」
道場を預かる竹原とアキラが再会を喜ぶ。続けてカオルにも声をかける竹原。
「上條、ずいぶん久しぶりだな。マサトも会いたがっていたぞ」
「すまない。ずっと忙しくてさ」
「今日は軽くやっていくんだろう?」
「あぁ。アキラも僕もだいぶ鈍っているだろうから。サビを落とさないとね」
選手時代は竹原と全国大会で鎬を削ったカオルだが、久々ということもあり軽く体を動かすつもりのようだ。
「そうだ、竹原。今日はアキラの友人とアオイの親戚が見学に来ているんだ。ちょっと大人数で悪いけどよろしく」
「全然問題ない。気にしなくていいよ」
「ありがとう」。そう言い残して2人は更衣室へと姿を消した。そうして着替えていると、パーンという高い音が響き、続いて「うぅ……」という竹原のうめき声が聞こえてきた。アキラとカオルは急いで更衣室を飛びだす。
そこにはキックミットを持ったままうずくまる竹原の姿があった。側で「やりすぎたかな」という顔をしたテシオンが気まずそうに立っている。
「竹原どうした?」
「上條……アオイさんの親戚……とんでもないぞ」
事の発端はテシオンが「サンドバッグ蹴ってみてもいい?」と聞いたこと。快諾した竹原の目前で軽くサンドバッグを蹴り始めた。アキラに忠告されていたので、テシオンとしては本当に軽く、本来の力の100分の1以下に抑えて蹴っていたのだが、5人組の「師匠、本気じゃないですよね? 俺らを吹っ飛ばした蹴りと全然違うじゃないですか」という言葉に竹原が反応したのだ。
「アイさんでしたよね? 僕がミットを持つので少し力を入れて蹴ってみませんか?」
「え……でも」
「大丈夫。キックミットって思い切り蹴っても痛くないですよ」
竹原は壮絶な勘違いをしていた。テシオンが「思い切り蹴ると痛いんじゃないかな」と心配していると思ったのだ。
「さぁ遠慮なく蹴ってください」
「そこまで言うなら……」
テシオンとしては、それでも50分の1以下には抑えたつもりだった。しかし結果はミットごと竹原を吹っ飛ばしてしまったのだ。
アキラが「だから言ったのに」と小さくつぶやく。「あたしのせいじゃないもん」とテシオンは軽く拗ねている。
「上條、全国大会で僕が負けた相手・山城武さんの蹴りもすごかったけど、アイさんはそれ以上だ。ちょっと考えられない」
息も絶え絶えに言う竹原。カオルもテシオンがそこまで強かったことに驚いている。「5人組のことをアキラとあたしでボコボコにしたというのは、大げさな表現ではなく本当にボコボコにしたんだな」と理解した。
「よし! アイちゃん。僕とスパーリングしよう」
この言葉にアキラが驚いて止めに入る。
「ちょっと、父さん。いくら強いと言ってもアイちゃんは素人だよ」
「大丈夫。アイちゃんが怪我しないように注意するよ」
テシオンが実際に蹴った姿を見ていないからか、カオルも勘違いをしているようだ。思わず奇跡も止めに入る。
「いやおじさん。アイ姐のはもう強いとか強くないとか、そういう話ではないっすよ」
その言葉を聞いてカオルはなおさら興味を持ったようだ。「アイちゃん、やろうよ」とニコニコしている。アキラも2人が手合わせするのは避けられないと踏んで、テシオンに話をする。
「アイちゃん。空手で組手というと全力でやるものだけど、スパーリングは7割くらいの力でふだん使わない技を試したり、コンビネーションを試したりするものなんだ。だから全力はダメだよ。それよりも技のスピードや綺麗さを心がけて」
「アキラ、これ本当にやるのか?」
「父さん、ああなると聞きわけがないから。でも本当に全力はダメだからね!」
2人の会話を聞いて「大丈夫。父さん、絶対に全力ではやらないから。スパーリングだから」とカオルは勘違いしたまま声をかけている。竹原は「確かに上條は強い選手だったけど、さすがにあの蹴りはなぁ……」と心配そうな顔をしているが、空手家としてテシオンがどのような闘いをするか興味の方が優っているようだ。そんな竹原にアキラは念押しする。
「師範、危なくなったらすぐに止めてください。本当にすぐに止めてくださいね!」
アキラの鬼気迫る訴えに「わかった」と答えるのが精一杯。かくしてテシオンVSカオルのスパーリングが幕をあけるのであった。
テシオンとカオルはどのような闘いを見せるのか?
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