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悪魔が来たりてお母さん?  作者: ももらら
お気楽悪魔テシオン
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ちょっとそれは酷くないですか?

部長との面談に臨むテシオン。成績が残せていない営業は辛いものです←実体験。

「失礼しまーす」

 テシオンは重厚なドアを開けながら元気に声を発した。気分は沈んでいるので空元気でしかないのだが……。

「おぉ、テシオン来たか。そこに座りなさい」

 必要以上に禍々しい装飾がされたソファーを指し示しながらアスモデ部長が穏やかに言う。その穏やかさが逆に怖かった。

「これは本当にヤバいかもしれん」。そうテシオンが考えるのも当然であった。これまでの処罰を考えたら、666人目を失敗すると信じられないくらい凄まじい罰が与えられることは容易に想像できる。しかも何かと口うるさい部長が、これほど優しくテシオンを迎えたことはかつてなかったのだ。「マジかよ……もしかしてあたしピンチ?」。不安が頭をもたげてくる。

「テシオン、ついに665人目も失敗しましたね。原因は自分で理解していますか?」

 柔和な表情を崩さずにアスモデが問いかける。

「えっと……あの優しい女の子の件ですよね。1つ目と2つ目の願い事は困っている友達を助けるため。そして3つ目は病気で瀕死の婆ちゃんを助けたいという願い。あれはでも仕方ないんすよ。だって婆ちゃん助けたけど女の子死んじゃったら、回復したのをいっしょに喜べないじゃないすか。それを引き裂くなんて悪魔の所業ですよ!」

「私たちは悪魔ですよ」

 ため息をつきながらアスモデが呆れたように言う。

「いいですか、テシオン。あれほど優しく高潔な魂が手に入る絶好のチャンスだったのに、あなたはそれをムダにしたのです。これはただの失敗とは比べるべくもない大失敗です。あれだけの魂ならば、神は無理としても一線級の天使たちならば対等に戦えるというのに……。次がラストだということはわかっていますね? 今度ダメだったらこれまでとは比べ物にならない罰が与えられますよ」

「いやアクマーランドもたいがいキツかったですけどね。あれよりも酷い罰なんてあるんすか?」

「消滅です」

「へ?」

 テシオンはアスモデの言う意味がわからず、思わず間が抜けた声を漏らした。

「何すか、消滅って?」

「消えてなくなることです」

「いや言葉の意味はわかりますよ。あたしが訊きたいのは何が消えるのかということです」

「あなたですよ」

「はい?」

「テシオン、あなたが消えるのです」

「いやいや。ちょっと待ってくださいよ。あたしが使えない悪魔であることは自覚してますよ。でもだからって消滅させることはないでしょう! あたしだって何かの役には立つはずですよ」

 過酷なんてものではない。存在そのものを消滅させられるとは考えてもいなかったから反論にも熱がこもる。

「ほぅ」

 テシオンの反論を聞いて、アスモデは目を細める。

「ではあなたがどのように役立つというのでしょうか? 書類仕事はできない。魔界馬車の手配も満足にできないほど雑用は失敗ばかり。掃除を任せたら掃除前よりも汚れる始末。あなた各部署でお払い箱になって、この営業部が最後の砦だったのですよ。失敗ばかりだけど、なぜか他人の懐に飛び込むのは上手いですからね。そこに望みをかけて営業への配置転換だったのです。そこで結果を残せないのであれば、もう使い道はないと思いますがねぇ」

 その言葉を聞いてテシオンは思った。「反論の言葉が1個もない!」

 とはいえさすがに消滅したくはない。

「でも、でも! 天上界との戦いになったとしたらあたしだって弾除けくらいにはなりますよ。実際人間たちは天使の足止め要員として連れてこられているわけでしょう」

「あなた、悪魔なのに魔界に連れてこられるようなダメ人間たちと同じ扱いでもかまわないというのですか……。そもそも戦場でいちばん怖いのは無能な味方です」

「グッ! 無能とか……事実をそんなにハッキリと言わなくてもいいじゃないすか」

 アスモデはもはや呆れているというよりも諦めに近い感情になっていた。

「悪魔のプライドというものがないのですか? 悪魔とは誇り高き存在であるのに」

「だって消えたくないし。消されるくらいならプライドとかどうでもいいし」

 哀れむような目でテシオンを見つめながらアスモデは最後通告を言い渡す。

「いいですか。あなたが消滅の危機にあるのは、ひとえにこれまで成果を出せていないあなた自身に非があるのです。そんなに消えたくなければ、次の契約に失敗しないこと! それしかあなたが助かる道はありません」

「酷い! 人でなし! 鬼! 悪魔!」

「人ではないし、鬼でもありませんが悪魔ですよ。無駄口を叩く暇があるならば早いところ契約者を見つけにいってはどうですか?」

「ちくしょう、悪行基準監督所に訴えてやる」

「お好きにどうぞ。どうせ消える悪魔の言うことなんて、まともに取り合ってもらえませんよ」

 これ以上何を言っても無駄だと悟ったテシオンは肩を落としながら部屋を後にした。「さてどうするかなぁ。あたし仲良くなるのは得意だけど、営業が得意かというとまた別の問題なんだよな……」。どう考えても上手くいく気はしないが、それでもやるしかない。

「まぁ考えても仕方ないか。とりあえず人間界に行ってカツ丼食べながらどうするか決めよう」

 そう思い直し、テシオンは人間界へと足を向けた。

テシオンに起死回生の一発はあるのか? まぁないでしょうねぇ。

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