兄ちゃん?
アキラが勇気を振り絞ります
「怪我している人を助けるのに、先輩も先生も関係ない! こんな酷い怪我をしている人をそのままにしておけない。池森くんは動かないでそのままにしてて」
クラスで友人はいない。休み時間誰とも話さない。いわゆる典型的なぼっちで陰キャ。そのアキラが珍しく声を荒げたことに池森はとても驚いた。
「わかったよ。上條、お前変わってるな」
そう呟くように言うと、池森は黙ってアキラが治療するのに身を任せた。
「よし、これでとりあえずはOK。もし腫れが酷くなるようだったら病院に行かないとダメだよ」
「悪い。ありがとな」
応急処置は終わったものの、アキラは池森の明日からが心配だった。
「それで、池森くん。明日からその先輩とどうするの?」
「俺から何かするというのはないけど。向こうが放っておいてはくれないだろうな」
「話し合うこともできない?」
「話を聞くような奴が仲間引き連れて襲ったりしないだろう」
「それもそうか……」
このままでは明日からも池森くんはやられるかもしれない。何も悪いことはしていないのに。
「まぁイケメンに生まれた自分を恨むしかねぇよな。じゃあな上條。マジ助かったわ」
そう言い残すと池森はアキラに頭を下げて立ち去った。「このままじゃいけない」。アキラはそう強く感じて、翌日思い切った行動に出る。
「すみません。泉さんいますか?」
「あ? 誰だお前。泉くんに何の用だよ?」
アキラは学校でいちばん喧嘩が強いと噂の3年生・泉を訪ねて行った。泉はヤンキーというわけではないが、その強さから一目置かれており彼のひと言はとても影響が大きかったのだ。「嫌がらせをする当人にはおそらく何を言ってもムダ。もっと強い人と話をつけたほうがいい」。そう考えての行動だった。
「まぁ、いいや。泉くーん、なんか2年生が話したいらしいよ」
「おう! いま行く」
実際の泉はヤンキーではないというものの、その見た目が髪型以外はヤンキーそのもの。逆になぜ髪型だけきちんとしているのか。そのアンバランスさが怖かった。おそらく何か格闘技をやっていることが予想されるバランスの良い筋肉質の体をしており、「ふつうのヤンキーでは太刀打ちできない」というのがアキラにもひと目でわかった。
「で、俺に何の用?」
「お願いがあります。池森くんへの嫌がらせを止めてほしいんです」
「どういうこと?」
アキラは昨日池森から聞いた話を泉に伝える。泉はため息をつきながら「あいつ、2年生相手に何くだらないことやってんだ」と漏らした。
「わかったよ。俺からあいつにキチンと言っておくから。それでもまだ嫌がらせをやめなかったら、そのときはまた教えてくれ」
「ありがとうございます!」
教室の奥から「泉くんの言葉に逆らえるような根性がある奴じゃないから、安心しろよ〜」とアキラに声がかかる。
「しかしお前、根性あるな」
「え?」
「友達のためとはいえ、3年の教室に来るの怖かったんじゃないか? たいした奴だよ」
「そんな友達なんかじゃ……」
アキラがいつもの「僕なんかと友達だと言われたら相手がイヤなのでは」という理論を口にしたので、泉はビックリしていた。
「お前、友達でもない奴のためにここまでしたのか? どれだけお人好しなんだよ。やっぱりたいしたもんだわ」
感心したように言う泉にアキラは礼を言って頭を下げた。その場を去ろうとしたときに泉が口を開く。
「お前、アキラ? 上條アキラか?」
「え! なぜ僕の名前を知ってるんですか?」
「俺だよ、俺。泉マサト! 昔同じ道場にいただろう?」
「マ、マサト兄ちゃん?」
アキラは小学4年生まで近所の空手道場に通っていた。5年生からは家のことをやるために辞めたのだが、そこで可愛がってくれたのが泉マサトだった。言われてみれば面影がある。泉の身長が中学入学後、急激に伸びたのとヤンキーのような格好でわからなかったが、歳下の子たちに優しかった、あのマサト兄ちゃんに間違いない。「そりゃ強いわけだよ」とアキラは納得した。
「なんだよ。最初から言ってくれよアキラ。絶対にあいつには、その池森という男子に手を出させないようにするから」
「ありがとうマサト兄ちゃん」
「また時間ができたら道場にも顔を出してくれよ。師範、いまでもアキラのことを気にかけてるからさ」
「うん、そのうちお邪魔するね。師範にもよろしく伝えておいて」
今度こそ本当にその場を去ろうとしたアキラだったが、そこに池森が飛び込んできた。
「上條! 大丈夫か?」
肩で息をしているその様子から、そうとう慌てて駆けつけたのがわかる。
「どうしたの? 池森くん」
キョトンとした顔でアキラは尋ねた。
空手、20年以上前にやっていました。楽しかったです。
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