マジで話さないの?
アキラの学園生活、日常はこんな感じです。
朝、カオルを送り出してからアキラは自分の準備に追われていた。
「テシオン、そこの棚にお菓子入っているから。冷蔵庫にはお昼ご飯を作って入れてる。温めてから食べてね。飲み物も冷蔵庫から適当に取って」
準備をしながらも留守番するテシオンにあれこれと気配りするアキラ。
「あいよ。ありがとう、アキラ。助かるよ」
「じゃあ僕は学校に行くから。いってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
アキラがバタバタと出て行くと、テシオンはひと呼吸置いて魔力を使った。「さてこれでアキラの学校生活を見てみるか」。魔力で召喚した使い魔の蜂を手の平から放つ。この蜂は敵情視察など斥候として悪魔が使うもので、非常に微かな魔力しか持っていない。そのためよほど魔力に精通したものでなければ気づくことはない。人間が相手であれば、絶対に気づかれないと言ってもいい。その蜂がそれとなくアキラの後ろをついていきながら飛んでいく。「これでよしと」。テシオンはソファに寝転がり、昨日とは違う「かぼちゃの里」というお菓子を食べながらアキラの様子を見ることにした。
「おはよう」
「アキラくん、おはよう」
いつもどおりの挨拶。この後は誰とも話すことはない。それがアキラの日常。「お! ふつうに挨拶してんじゃん。ぼっちと自分で言っていたけど、そうでもないんじゃないか」。そうテシオンは思った。そして授業が始まる。
「はい、ではこの問題を……上條、解いてみて」
「はい!」
「正解! さすがだな」
何事もなかったように正解して着席するアキラ。クラスメートも「アキラくんは勉強ができるから」と特に驚いた様子もない。「アキラって上條という苗字だったのか。しかしさすがに勉強はよくできるな」。いまさらながら苗字を知ったテシオン。
「よし、じゃあ本日の授業はここまで。次回は教科書の36ページからだな。みんな予習してくるように」
「はーい」
平和な学校生活のありふれた風景だが、「人間界の学校ってこんな感じか」とテシオンは興味津々で見ていた。
休み時間になると仲が良い者同士で思い思いに話をしている。
「昨日のドラマ観た?」
「彼氏とご飯に行ったんだけど」
「昨日田中とカラオケに行ったらさ」
さまざまな話題がクラスを飛び交っている。その中でアキラは……淡々とお気に入りの小説を読んでいる。「え! 誰とも話さないのか?」。テシオンは驚いてその様子を見ていた。
さらに驚いたのは昼食の時間である。「どうして1人で屋上に行ってるの? 誰ともいっしょに食べないの?」。テシオンは理解できなかった。さらに不思議なのはアキラから悲壮感などが一切感じられないこと。「これがアキラの日常なのか……。あれだけ優しい子だから、人が周りに寄ってきそうなものだけどな」。
その後もアキラは特に誰かと会話することなく放課後を迎えた。必要最低限の会話は交わしているが、いわゆる友達同士の会話というものがないのだ。朝の挨拶以外でテシオンが耳にしたのは……
「アキラくん、ゴミ捨て行ってくれたんだ。ありがとう」
「ゴミ箱いっぱいだったからね」
これだけである。
「マジか、アキラ……」。話好きのテシオンからすると、アキラの日常は信じがたいものであった。いじめられているわけではない。嫌われているわけでもない。だとしたらなぜ友人がいないのか。「ちょっと予想していなかったな」。数は少なくても友人がいると想定していたのだが……。
ほどなくして蜂が戻ってきた。
「お疲れさま。ありがとうね。はい、これご褒美の蜂蜜」
蜂は嬉しそうにテシオンの手についた蜜を吸い込んでいる。「いや今日はあれだ。仲良しの友達が学校を休んでいたんだな。そうだ、そうに違いない!」。まったく見当外れなことを考えながら、アキラの帰宅を待つテシオンなのであった。
さてテシオンはアキラにこの話題をどう切り出すのか?
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