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8、運命

 2回目の討伐作戦の後、私はこの国の地図を見ながら考え事をしていた。


 ジクロとテオが海と山に行ったことがあると言うので、色々と教えてもらった。


「無宗教者の集落か⋯⋯」


 この国の人口の大半はレイン教徒だそうだ。

 しかし、中にはレイン教に入らない人が居たらしく、山の奥に追い出されてしまったようだ。


 宗教とは本来、人間を救うためのものなはず。

 しかし、何を信じるか、何が正しいか、意見が食い違うとそこに争いが生まれてしまう。


 特にこの国の人々は火山だとかゴーレムだとか得体の知れない敵への恐怖心と戦っているのだ。

 争いが起こるのは想像に難くない。


 私はさらに宗教について調べたくなった。

 街の本屋さんまでジクロがついて来てくれるというのでお願いした。


 ジクロやテオもレイン教徒らしいが、実際のところ毎日のお祈りなどの特別な活動は何もしていないらしい。

 関係があるとしたら、結婚式、葬式、お墓くらいだそうだ。


 そんなことを思い出しながら歩いていた。


 ふと見ると花屋さんがあった。


「ねぇ、ジクロ。ちょっと見てみてもいい?」

「あぁ。別に構わねぇが」


 お店には色とりどりの花が並んでいた。

 元の世界では見たことが無い花もある。


「きれい⋯⋯」


 私はある花に目が留まる。

 薫衣草(くんいそう)⋯⋯ラベンダーだ。

 紫色の可愛らしい花の香りはリラックス効果が高い。


「これだ。ジクロ、ちょっと匂い嗅いでみて」


 私は鉢植えを手に取り、ジクロの顔の前に差し出す。


「なんだ?⋯⋯まぁいいんじゃないか?」

「じゃあこれ、ジクロにあげるよ」


 そう言って私はお会計をする。


「なんだ急に。別にいらねぇが⋯⋯」


 ジクロは困惑気味だ。


「この花の香りをかぐとよく寝れるよ?」


 テオがジクロは不眠症だと言っていたので、お節介ながら何かしてあげたくなったのだ。


「この花を枕元に置いて。ね?私がお世話するから良いでしょ?」

「まぁそういうことなら⋯⋯悪いな」


 ジクロは渋々受け取ってくれた。


それからジクロの用事もついでに済ませた後、拠点への帰り道を一緒に歩いていた。


「お前、俺があんまり寝てねぇことなんで知ってたんだ? テオ辺りが口を滑らしたか」


 ジクロに唐突に聞かれる。


「勝手に聞いてしまってごめんなさい。でもなんかほっとけなくて。余計なお世話だとは思ったんだけど」

「いや、気にかけてくれてありがとうな」


 なんだかジクロの表情がいつもより柔らかくなったように見えた。

 かなり強引だったけれど、渡してよかったのかもしれない。 


「ほら、ジクロはこの前ちょっと様子がおかしかったから。心配だったの。ほらあの⋯⋯睡眠不足はお酒に酔いやすいというか⋯⋯」


 先日、ジクロと二人でお酒を飲んでいた時のことを思い出す。あれは完全に酔っ払っていた。


「あぁ。確かにあの日はお前と飲み始めてから記憶がない。迷惑かけちまったな」


 ジクロは何も覚えていないらしかった。

 私は今でもジクロの言動を思い出すだけで顔が熱くなるのに⋯⋯


「ずるい⋯⋯」

「あ? なんだ?」


 ジクロは不思議そうに私の顔を見る。




—―「危ない!」


 突然、男性の叫び声が聞こえてきた。


 声の方を見ると、看板がこちらに向かって倒れてきている。


 あぁ⋯⋯このままぶつかる⋯⋯

 とっさに身体が動かない。

 ジクロも⋯⋯危ない。


「リファ!!」


 声が聞こえたと思ったら思い切り突き飛ばされていた。


―—ガシャン


 看板はちょうどさっきまで私たちが立っていた場所に倒れていた。


「おい! 怪我はないか?」


 ジクロが私に覆いかぶさっている。

 ジクロは私の頭や肩などを触りながら確認してくれている。


 助かったんだ⋯⋯

 しばらく私は放心状態だった。


 ふとジクロを見ると怪我をしている。


「ジクロ、血が出てる」


 割れた植木鉢の破片のせいかジクロの足から血が出ている。


「刺さったわけじゃねぇよ。ほら」


 そう言うとジクロはズボンの裾を捲った。


「だから泣くなよ。なぁ」


 気づいたら私は涙を流していた。


「ごめん、ジクロ⋯⋯ごめんなさい。ありがとう。ありがとう」


 私はジクロに抱きつきながら泣いた。

 ジクロは私の背中を撫でてくれた。


「あぁ。よかった。本当によかった」


 ジクロは何度も言ってくれた。



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