6、傍観者
※ ※ ※
今日リファは、団長と議会に出席するために出かけている。
議会の参加メンバー⋯⋯所謂国のお偉いさん方がリファに会いたがっているらしい。
普段の議会には戦士団からは団長だけが出席している。
テオと俺も経験のためにと一度連れて行かれたことがあるが、前時代的な形式へのこだわり、互いの腹の探り合いに牽制合戦⋯⋯決して居心地の良い場所ではなかった。
戦士団内の会議では俺たちをある程度放任してくれている団長だが、公の場では静かに座っているだけで貫禄がある。
団長は、あのような議会の場でも発言権を持ち、国から戦士団の運営資金などの協力を勝ち取っている。
あの人と一緒ならリファが槍玉に挙げられることはないだろう。
それに、団長は今でこそ一線を退いているが、俺もガキの頃はずっと、あの人の槍さばきに憧れていたもんだ。
あの人のお陰で今の自分があると言っても過言ではない。
だから、身体の護衛という点でも何も問題はない。
ただ、あの威圧的で堅苦しい場の雰囲気にリファが窮屈な思いをしていないといいが。
そして俺はと言うと、明日は休暇だからとニトロの部屋でいつもの顔ぶれで集まっていた。
ニトロが希少な酒が手に入ったというので、普段は飲まない俺も酒を楽しんでいた。
「相変わらず汚ねぇ部屋だな。カルバ、お前よくこんな男の部屋でくつろげるな」
ニトロの脱いだ服はあちこちに積み重ねられ、本棚の本は横に向いたり縦に向いたりしている。
机の上も書類でぐしゃぐしゃだ。
これが自分の部屋だったら気が狂うだろうな。
「もう慣れた。感覚が鈍ってきたわ。まぁあんたみたいにテーブルの上の本の向きまで気にしてるやつの部屋では、きっと誰もくつろげないわね〜」
昔からカルバとニトロが想い合っていることに周りも薄々勘づいていただろうが、俺は気付かないふりをしていた。
なかなか進展しない二人を気遣うのにうんざりしていたところ、リファがお節介を焼いたようで、それから二人の恋仲は公認となった。
「鳥のオスはメスのために時間と手間をかけて巣を美しく飾るらしい」
テオがぼそっとつぶやく。
リファに教わった知識のようだ。
「脱ぎ散らかした服で飾り付けるのか」
「ジクロ、あんたの部屋なんかに誰が来るんだろうね〜」
「誰がカラスだ」
「カラスって何ー?」
集まったって、話すのはこんなしょうもないことだ。
こいつらは10代の頃からの付き合いだからなんだかんだ言いつつも一緒に居ると楽だ。
「で?テオとジクロはどうなのよ。あんたたち街ではキャーキャー言われてるかもしれないけど、実際は無愛想で取っつきにくいんだから」
カルバが絡んでくる。
「大事なのは見た目でも地位でもなく中身なんだから。それをわかった上で一緒に居てくれる人は貴重なんだから」
カルバは酒が入るとさらに説教くさい。
「で、リファのことはぶっちゃけどうなのよ」
もちろん何の好意もないと言えば嘘になる。
リファの優しいところ、勉強熱心なところ、愛らしいところ、神々しいところ⋯⋯
どれも俺には魅力的に見えた。
だが当然こいつらにそれを言う必要はない。
「言わない」
先に答えたのはテオだった。
俺にだってテオとリファがお似合いに見える。
リファは初めて戦場に出た後、テオがかっこいいから見てたとか言っていた。
それに、テオには支えてくれる存在が必要なんだ。
「あ? 俺は関係ねぇよ」
俺が言うとまたもカルバが突っかかる。
「あんた、高みの見物の傍観者気取り? 後で泣いても後悔しても遅いんだからね。あんたはもう少し自分が主役になりなさいよ」
なぜか、俺がリファに気があることが前提で話が進む。
そして、カルバはいつにない勢いで俺を責めてくる。
俺は苦し紛れに話題を変える。
「そういえば、ニトロはお前に求愛するとき、酔った勢いで泣きわめいてたらしいな。鼻水も垂れてたんだっけか?」
「カルバ助けてー。いじめられてるよー」
ニトロは泣き真似をする。
「でもさ」
ニトロが急に真顔になる。
「我を忘れるくらい人を好きになれるって幸せなことだ。本来、恋愛ってそういうものだろ?」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
部屋が静まり返る。
テオは聞こえないふりを決め込むつもりか、酒の入ったグラスを口に当てている。
酒なんか飲めないくせに。
カルバを見ると顔をテーブルに伏せている。
横から見える耳は赤い。
「⋯⋯おい。この空気をどうするつもりだ」
俺が言うと、ニトロは自分の発言が恥ずかしくなったのか、何か叫んだあと、走りながら部屋の奥に消えていった——
思わぬ形でお開きになったので、俺は部屋に戻るため廊下を歩く。
するとリファが部屋に入って行くのが見えた。
リファ、帰ってきたんだな。
嫌な思いはしなかったか?
気にはなったが、きっとあいつも疲れただろう。
俺は自分の部屋に戻ろうとした。
だが、ふと思い出すのはさっきのあいつらの言葉だ⋯⋯
俺はリファの後を追いかけた。