5、責任
※ ※ ※
2回目の討伐作戦の前日、俺はいつも通りベッドに横になりながら眠れない夜を過ごしていた。
もともといつも睡眠不足な俺は、討伐作戦の前は、特に眠れなくなる。
不眠症の夜は長い。
すぐに思考が悪い方へと引きずられていく。
前回の討伐作戦の感触では、リファの力があれば今までの比にならないくらい作戦の成功率は高くなるだろう。
それでも俺の心は落ち着かない。
自分の力が及ばないような何かが起こるのが戦場だ。
明日も俺たちは生きて帰って来れるだろうか。
「テオ⋯⋯⋯⋯の?」
「⋯⋯⋯⋯呼んでくるから。」
「⋯⋯誰にも言ってない。」
隣のテオの部屋から話し声が聞こえてくる。
俺はベッドから起き上がり部屋を出た。
テオの部屋のドアが半開きになっている。
リファがテオの介抱をしているようだ。
俺は、本当はテオの発作を知っていた。
夜起きているとテオの苦しそうな声が聞こえてくる時がある。
初めてテオの発作を見た時は何かの病気で死にそうなのかと思ったが、どうやら違うらしかった。
テオは、声を押し殺しながら呼吸を荒くして泣いていた。何度も自分を責めながら…。
とっさに声をかけそうになったが、自分が逆の立場だったらこんな姿を知られたくはない。
俺は声をかけられなかった。
テオが戦士団に入ってきたときは逸材だと思った。
母親が灰病だから金が必要だと言っていた。
兄貴もいるが、そちらは街での労働のほうが向いていると。
テオと一緒に数え切れないほど訓練をしてきた。
あいつはトライデントは不器用な自分には難しいと言っていたが、俺からしたらあんな速度で回転落下が出来る方が理解できなかった。
他のメイス使いよりも回転数が多く出せるからか、確実に一撃で仕留めている。
身体能力と平衡感覚があるのだろう。
テオを小隊長に推薦した人間の中に俺も入っている。
もちろん決断したのは団長や管理側のオヤジ共だが、テオは小隊長になってからみるみる笑顔がなくなった。
テオは性格があまり指揮向けじゃなかった。
自由に討伐だけに集中させてやったほうが、実力が発揮できるタイプだった。
それでもテオはセンスがあるからか、討伐数が重視されるこの組織で副団長に昇格した。
副団長⋯⋯俺たちにとってこんなに荷が重いことはない。
俺たちの一番の役目は、仲間に被害を出さないこと、そのうえで討伐数を稼ぐことだ。
そんなことは今まで誰も、一度だって成功したことはない。
それに加えて、街の人たちにとって、他の戦士たちにとって俺たちは希望であり続けなければいけない。
俺たちに憧れて入団したとか言って、目を輝かせているまだガキの戦士たちに情けない姿は見せられない。
身近に目標とする戦士がいれば組織の戦力や士気は自ずと上がる。
これは感覚だが生存率も上がると俺は考えている。
肉体のピークである今は実戦で他の戦士より結果を出せている。
だがこれから何年も経ったら…慣例通り、討伐数を抜かれた時点でそいつらに副団長を譲って俺たちも管理側に回るんだろうな。
そうすれば少しは楽になれるんだろうか。
そもそもそんな時まで生きていられるのか?
そんな先の余計なことまで考えが及んだ。
テオとリファが話しているのが聞こえる。
二人はそれぞれの抱えている苦しみを共有できたらしい。
テオには支えてくれる存在が必要だ。
そんなことを考えながら、俺は静かに自分の部屋に戻った。
だが、正直羨ましかった。
俺も本当はずっと誰かに理解されたかった。
眠れない夜、背中をさすって欲しかった。