4、髪飾り
あれから数日後、ジクロにもらったブローチを見たテオが自分も何かプレゼントしたいと言ってくれた。
私たちは街に来ていた。
「本当にリファは欲しいものはないの?」
テオが聞いてくれる。
「そうだなぁ。必要なものは持ってるし⋯⋯それにやっぱり悪いよ⋯⋯」
「遠慮はいらない。俺が何かをあげたい。リファは母さんの薬を調合してくれた。作戦も成功させてくれた。そして、初対面のときのこと、まだちゃんと謝れてない⋯⋯本当にごめん」
「もう大丈夫だよ」
テオはまだあの時のことを引きずっているそうだ。
「でもテオのおかげで私も疑いが晴れたんだし。あの時は正直殺されるかもと思ったけど、冷静に振り返れば手加減してくれてたもんね?」
「それはそうだけど⋯⋯」
長身の男性がしゅんとしてるのがちょっとかわいい。
戦場でメイスを持って飛び回っていた人とは思えない。
「ねぇ。あの戦ってる時に、落下しながら回転してドーンって攻撃するやつ、どうやってやってるの?あれすごくかっこいいね!」
「回転落下はたくさん練習した。口ではうまく説明できない。他の戦士みたいに、メイスを振りかぶりながら垂直落下するのもいいんだけど、腕力と背筋を使う。俺は、一撃で倒すにはあれくらい回転したほうが良かったりする。一応みんなにやり方を説明して見るけどできる人は一握り。こういう感じに⋯⋯」
テオが歩きながらだが、メイスを振るような動きをして説明してくれる。
「なるほど」
「俺にはメイスのほうが向いている。ジクロみたいに正確に急所をつくのはかなり難しい。ゴーレムの身体に接近している時間も長くなる。場合によっては急旋回や連撃もできないといけない。最初の頃に練習したけどあれは難しい」
頭を砕く戦い方をするメイスに対して、ジクロたちトライデントの人たちは、何ヶ所かある首元の急所を砕いて、ゴーレムの首を外すようだった。
そんな話をしているうちにあるお店の前を通りがかる。
「これにしない?」
テオが指さしたのは藍色の布に銀色の刺繍を施された髪飾りだった。
まるでテオの瞳と髪の色みたいだ。
「二種類ある。どっちかどう?」
一つはバレッタ、もう一つはカチューシャだった。
「うーん。じゃあこっちにする」
私はバレッタを選んだ。
髪を軽くまとめるとテオがその上からバレッタを留めてくれた。
「うん。これでいい。似合ってるよ」
「ありがとう!」
私はテオの気持ちが嬉しかった。
私たちは他愛のない話をしながら帰り道を歩く。
「そういえば、街の中を飛ばずに歩いている人が多いんだね」
羽根があるから空を移動した方が良さそうだけど。
「交通は規制されている。空は救護や見回りとかの緊急事態が優先。みんなが一斉に飛んだら危ないから、目的地まで歩いてからそのまま目的の階まで飛ぶ」
なるほど。
そしてこの街は飛べなくなった怪我人やお年寄りにも優しい構造になっている。
だから飛べない私もさほど不自由なく過ごせている。
飛べない人の家は下の階にあるし、お店なんかも地面にある。
街を見渡せば羽根が片方しかない人も時々みかける。
もしかしたら元戦士だった人も居るのかもしれない。
「ジクロとは仲良くなったの?」
「ちょっと仲良くなれた気がする。良くしてもらってるし」
私はそう答えた。
「そう。ジクロは頼りになるから。みんなの兄貴だ。リファも頼ったらいい」
ジクロはテオにも頼りにされているようだ。
「ジクロはテオよりも年上なの?」
「うん。ジクロが一つお兄ちゃん。そして俺。一つ下にカルバとニトロ。ジクロは入団が早いから大先輩だけど気を遣わないでいいって言ってくれてる」
ジクロは言葉では偉そうに言っていることもあるけれど、やっぱり戦士のみんなは家族だから分け隔てなく接してるのかな。
そんな話をしながら歩く。
なんだかテオと二人で歩いているとすごく気分が落ち着く。
なんだろう?テオの話し方が穏やかだからかな?
一緒に出かけるのは初めてのはずなのに、しっくりと来る不思議な感覚があった。