3、仲間・価値
翌日。
私はさっきまで、初の討伐作戦の振り返りと次回の作戦の会議に参加していた。
討伐作戦に参加して、初めてゴーレムを見た。
人々に災いをもたらしているゴーレムだが、私の降らせた雨のせいで無抵抗に殺され、額の宝石を奪われている姿を見るとなんだか可哀想になってしまった。
「ゴーレム殺し⋯⋯か⋯⋯」
口に出すと恐ろしい響きがした。
ありえないかもしれないけど、もし私がゴーレムに召喚されていたら?私は戦士団とは敵同士だったんだろう。
神に与えられた役目は絶対だ。
それとも、自分と比較的見た目が似ていて意思の疎通ができる戦士団の方に同情してしまったのだろうか。
私は全ての生きとし生けるものを救えるわけではない。
例えば、どこかの村に雨を降らせばどこかで干ばつが起こるかもしれないし、人間を守るためにはゴーレムを殺さないといけない。
私は誰かを救うために存在している以上、どれだけ他人のためになれたか、喜ばれたかが自分の価値を決めてしまう。
そんなフラフラしている自分のままではここでやっていけるはずもない⋯⋯
私はジクロに頼んで街に連れて行ってもらうことにした。
まずはこの国のことをもっと勉強したい。
本屋でこの国の子どもたちが読む教科書を買いに来た。ジクロが何冊か見繕ってくれて、無事に購入することができた。
その後は戦士たちのお墓参りに連れて行ってほしいと頼んだ。
花屋で花を買い込んだあと、墓地に向かう。
「俺の仲間たちの墓はこの辺りだな」
無数の墓石が並ぶ中の一画にやってきた。
墓石にはトライデントやメイスの彫刻が施されている。
ジクロの知り合いだけでもこんなにたくさんの人が亡くなって居るなんて。
亡くなった戦士たちはどれだけ無念だったことか…。
ジクロは一人ひとりの墓石を優しく見つめながら名前を呼び、子どもの頭を撫でるようにしながら話かけている。
長く戦士団に居た彼はこの人たちを一人また一人と見送って来たのだろう。
私は一人ひとりの墓に花を丁寧に飾っていく、そして祈りを捧げた。
あなた達の仲間を守ります。
この戦いを終わらせます。
皆さんもどうか私に力を貸してください。
そして、どうか安らかに。
もう迷わない。
「リファ、ありがとうな。きっとお前の祈りのお陰であいつらも楽になるんだろう?隣にいるだけでなんだか不思議な気分がした」
「楽になってもらえたらいいな。不思議な気分てどんな感じ?」
「なんだか温かい…光のような感じだ。実際にお前は俺たちの希望の光だ。生きるか死ぬかの討伐作戦で死者が出なかった。これは今までにない快挙だ。リファならこいつらの無念を晴らしてくれるかもしれない。俺は、こいつらのためにも最後まで戦う」
ジクロは墓石を見ながら語る。
「俺は物心ついた時から戦士だった。そしてこれからもずっと戦士として生きていく。それが親に捨てられた俺を育ててくれたこの組織への恩返しだからだ」
親に捨てられた…
そんな過去があったなんて。
「俺にとって仲間は家族だ。命をかけてあの戦場に出向いたやつは全員そうだ。お前もな」
「ありがとう」
私はジクロに認めてもらえたことが嬉しかった。
帰り道、とあるお店に惹かれる。
「ねぇジクロ。これ⋯⋯きれい。珍しい光り方だ」
黒い石に赤い花の絵が描かれたブローチに吸い寄せられる。
「すごい。なんだかジクロの羽根と目の色みたい!」
私はブローチを色々な方向に傾けたりして光り方を楽しむ。
「これをもらおう」
ジクロが言う。
「え?」
「今までのお礼にやるよ。受け取れ」
「え! いいの? ありがとう!」
「ほら。つけてやる」
ジクロが胸元にブローチをつけてくれる。
普段の粗暴な態度からは想像もつかないくらい繊細な指の動きだ。
お母さん⋯⋯というよりも、なんかちょっと男の人にされるのは⋯⋯恥ずかしいかもしれない。
「よく似合ってる。よかったな」
ジクロは微笑みながら言ってくれる。
「ありがとう。ずっと大事にするね」
この世界に来て、一つ宝物が出来たのだった。