1、戦士団
※ぜひオリジナル版を先にお読みください。
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この世には異世界が無数に広がっている。
そして、人々はそれぞれの世界、それぞれの土地で救いを求めている。
神の使いや巫女たちは、もしかしたら何度も生まれ変わって、似たような人生を繰り返し、無数の世界を救って来たのかも知れない。
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巫女としてこの国に召喚された私は、レイン教の司祭ウルソに連れられて戦士団の拠点に来ていた。
これから戦士の幹部たちと顔合わせをし、一緒にこの国を救うという話だったはずだが⋯⋯
なぜか私は早速、窮地に立たされている。
「ねぇ、巫女様。何で逃げないの? 俺のことなんていつでも倒せるって油断してるの? それとも力があるのは嘘ってことなのかな?」
私は副団長のテオという男に壁際に追い詰められている。
テオは右肩にメイスを乗せながら、小首を傾げている。
「ちょっと待ってください!」
「俺たち、今まで偽物に何度も騙されて仲間を殺されてるんだよね。簡単には信用できない」
テオは冷たい声で言う。
「ねぇ。何ができるの? 見せてよ。無理だって言うなら今のうちだよ?」
「私に危害を加えるなら雷を落としてあなたの家を燃やします。」
「⋯⋯いいよ?」
「本当にやります」
「見せてよ」
テオはメイスを天井に向けている⋯⋯
⋯⋯殺される!
「待って! そんなこと言ったって、私が先にやったら全部私のせいにするじゃない! 化け物扱いするじゃない!!」
「⋯⋯」
——コツン
テオはメイスの先端を自分の足元の床に下ろす。
⋯⋯あれ?
「この巫女様は⋯⋯本物だと思います」
え⋯⋯?
「そこまで」
ロキ団長が言う。
するとテオは何の余韻も残さず、最初に立っていた場所に戻っていく。
「リファ様。御無礼をお許しください」
団長が言う。
「あの⋯⋯これはいったい?」
「偽物を追い返すための脅迫。偽物はひっきりなしに来るから⋯⋯ごめんなさい」
テオは頭を下げる。
「今ので私が本物ってどうしてわかったんですか?」
「なんとなく⋯⋯」
他の戦士たちがざわつく。
「とにかく⋯⋯快晴の日を待ち、一度リファ様には雨を降らせる力を我々にお見せいただけたらと思います」
「はぁ⋯⋯もちろん構いませんが。えっと⋯⋯」
「本日からリファ様に滞在いただく部屋にご案内いたします。レバ頼んだぞ」
私はレバ補佐官に連れられて部屋を出る。
何かよくわからないけれど助かった。
頭の中は、はてなだらけだ。
―—リファが部屋を出ると戦士達は騒ぎ始める。
「おい、お前。なんだ今のは温すぎるんじゃねえか?」
同じく副団長のジクロが言う。
「こういうのはジクロの方が得意。やっぱりジクロがやって欲しかった。俺にはあれが精一杯」
「甘ったれんな。いつも俺ばかりに汚れ役をやらせやがって。当分の間はお前がやると自分が言ったんだろうが」
「わかるよテオ。あんなにかわいい子には乱暴できないよねー」
偵察隊隊長のニトロが言う。
「結局とりあえずは本物ってことでいいの?」
救護隊隊長のカルバが尋ねる。
「今までの嘘つきはすぐに逃げ出すか、命乞いしてた。一言二言脅せば良かったから手間がかからなかった。でもあの人は違う。快晴の日が来たら実際に力を見せてもらえればはっきりすること」
テオはそう答えた。
数日後、快晴の日が来た。そこでリファが雨を降らせたことで巫女の力が本物であることが証明された。
リファはゴーレムの討伐作戦に参加し、雨を降らせた。雨によってほぼ無力化されたゴーレムを倒すのは戦士たちにとって容易かった。この討伐作戦では戦士団百年の歴史の中で、初めて死者・重傷者が出なかった。