第2話
『姫騎士セシリアの受難〜気高き姫は変態貴族の奴隷ペットに堕とされる〜』
王女の一人であるセシリアは妾の子ということで蔑まれ、王城に居場所がなかった。
セシリアが唯一認められたのは、剣の才能。城を抜け出し騎士団に入った彼女は、その美しさも相まって、やがて姫騎士と呼ばれるようになった。
しかし、彼女は有名になりすぎた。
大国の貴族に目をつけられると、凄腕の人攫いたちがセシリアを襲った。計画は周到にして卑劣。国を人質に取られたセシリアは成す術なく捕まってしまう。
助けなどあるはずもなく、奴隷に堕ちたセシリアの受難の日々が幕を開けた——。
と言うのが、このエロゲの簡単なあらすじだ。
ああ、非常に胸糞悪い……!
純愛大好きエロゲーマーの俺にとっては最悪のエロゲである!!
だったらなぜ、わざわざこのエロゲを手に取ってしまったのかって?
イラストに釣られたのである。
パッケージのセシリアを見た瞬間、こう、ビビッと熱くなるモノを感じたのである。
エロゲーマーとは元来、己の股間に従ってエロゲを選ぶモノだ。それは間違いなく正しい。
しかし、性癖が合っているかくらいは確認すべきだった。
特に俺みたいな、純愛イチャラブ以外NGの人間は……!!
まぁタイトルで察しろよという話なのだが、俺にはセシリアしか見えてなかった。
発売日に届いたエロゲを見て絶望しながらも、俺はエロゲーマーとしての意地を発揮して血反吐を吐きながら一晩でこのエロゲをクリアした。で、寝て起きたら今に至る。
泣き崩れたセシリアを寝室に残して、リビングでボーッとすること数十分。
「あ、あの……」
ヨロヨロと覚束ない足取りで彼女は部屋からでできた。
多少気持ちは落ち着いたようだが、その瞳は未だにひどく悲しく虚しい色を残している。それでも彼女はぺこりと頭を下げた。
「ありがとう……ございました。枷を外してくれて」
「……べつに。やろうと思えば自分で壊せただろ」
「それは……」
セシリアは俯いてしまう。
「私には、もう、そういう発想そのものが……なくて……」
ごめんなさい、とチカラなく、意味もなく俺に謝った。
踏み躙られた心は、そう簡単に元には戻らないのだろう。
強く気高い姫騎士はもういない。もしかしたら、一生……。
「久住蓮太郎だ」
「あ……く、くずみ、れんたろー? お、お名前、ですか……? 不思議な名前……くずみれんたろー」
「久住が苗字で、蓮太郎が名前」
「……れ、れんたろー、さん」
日本名に戸惑いつつ、セシリアはコクコクと頷いた。
「わ、わたし、私は、セシリアです。セシリア・ローズ……いえ、何でもないです……。ただのセシリア、です…………」
名乗ってもらえたことで、今更だが彼女が本当にあのエロゲのキャラクターであるということが確定する。
コスプレであればどんなに良かったか。いや、それはそれでめちゃくちゃに怖いが。
セシリアが嘘を言っているとは、俺に到底思えない。
「あー、えっと、じゃあ、セシリア……さん」
「……セシリアで、いいです」
「お、おう。…………で、これからのことなんだが————」
そう言って俺が話を切り出すと、
“ぎゅるるるるるるるるるるるる”
大変端ない音がリビングに響いた。
「は、あ、……あぅ……ぅ……」
セシリアは真っ赤になった頬を両手で覆う。
「……まず、飯にするか」
そりゃあそうだよな。まともな食事なんて、ずっと口にしていないのだろうから……。