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変わり始める日常

興味を持ってくださり、誠にありがとうございます!


見切り発車ですので、終着駅が不明となっております!



 とある一軒の小さな小さな探偵事務所。




 そこでは、人情深く、涙もろい青年が、毎日なんとか依頼をこなして、そこそこ満足感のある日常を送っていた。




 しかし、最近青年を悩ませている問題がある。




 それは、この店が口コミで広まってくれている有り難さと比例して、急に増えている厄介な依頼についてだ。




 青年は探偵事務所を自分の手で開くと決めたとき、何でも屋のようなものだとある程度覚悟を決めていた。




 だからこそ、迷子の猫を探してほしいとか、嫁さんの機嫌を治す方法を考えてほしいなんて依頼も、全て親身になって解決してきた。




 そんな青年でも…………。




 いや、そんな青年だからこそ、思うことがある依頼が増えてしまっているのだ。




「ふっつーに考えて、殺人事件とかは警察に頼むべきじゃね?怪盗も泥棒だし、うん。ふっつーの普通に窃盗の容疑で警察に対応してもらうべきじゃね?」


 探偵事務所のデスクで悩んでいる彼は、セタという名だ。


 今年19になる若い彼だが、この探偵事務所の唯一の探偵であり、この探偵事務所を立ち上げた行動力と、そこそこ評判になるほどの人柄がある。


 白銀の髪は男らしく短めに整えてあり、ガタイがいいのを隠さないラフな格好は漫画やアニメなどのスマートな探偵とは違い、いかにもパワー系だ。


 セタは、そんな自分を探偵らしくないとは思っていなかった。


 むしろ、一人で依頼をこなすには体力なんていくらあったっていい。


 

 だが、どうやら漫画やアニメのスマートな探偵を、本来の探偵だと思い込んでいる人が一定数いるらしい。


 セタの探偵事務所が評判を上げるにつれ、探偵らしくないとか、何でも屋と間違えてると指摘してくる人が増え始めていた。


 それはいい。個人の感想だから。


 でも、事務所にくる依頼の内容が激的な変化していることに、困惑と戸惑いが日々大きくなっていく。個人の感想から、個人と個人のやり取りになると、どうしても両者の認識やお互いの常識を擦り合わせていかなければならない。


 話しあい、わかり合えばいいだけの簡単なことが、漫画や小説と違い上手くいかないし労力がものすごい。



 セタは漫画もアニメも好きな方なので、もちろん有名な探偵モノの小説や漫画は知っていたし、フィクションとしてとても面白いと思っていた。映画がやるなら前売り券を買って、友人と観に行くほどには好感をもっている。



 でも、現実にあんな探偵はまずいないし、それこそ、警察の調査に口出しなんてすぐ捕まる。




 現実では、事件現場は鑑識さんが占拠して頑張ってくれているから、本当の刑事さん達すらドラマのように事件現場に堂々入れないほどなのに、証拠を見つけたり、手で持ったり、食べたりなんてしたら………本当に叱られるでは済まない。




 しかし、セタの手元には一枚の手紙と何枚かの怪しげな写真、そして前払いのお金が入った封筒がデスクを占領していて、その依頼内容は“”殺人事件の真相を解き明かしてくれ“”というものだ。




 声を大にして言いたい。




 日本の警察と鑑識を舐めてはいけない。




 もちろん、ニュースなどでたまに不正や圧力によりもみ消された事件を取り上げられたりもするが、ほとんどの日常に起きている事件は警察関係者のおかげで解決している。




 素人と言っていい街の探偵なんかが、プロに日夜捜索され、科学的にも、実践的にも調べられた事件を覆すことなんか、不可能に近い。




 セタの能力等は、関係ないと言っていいだろう。




 むしろ、漫画などのファンタジーの力か、作者のさじ加減のひらめきが無ければ無理な話だ。




 ならなぜ、セタは依頼を断らずお金まで受け取ってしまっているのか………。




 答えは、“”断る事を断られてしまった“”という災難極まりないものだった。


 一昨日、急に事務所に訪れたその依頼主は、本当に変わった人だった。


 見た目は、失礼だが痩せすぎている老人で、目玉がぎょろっとでていて恐ろしい。


 髪も整えられていない白髪で、なのに服と靴はとびきり上等なスーツと革靴という、忘れようにも忘れられないインパクトがある。


 しかも、北海道に構えているこの事務所に、岐阜からはるばるきたというのも驚いた。


 老人は、見た目にとてもマッチしたしゃがれ声で簡単な自己紹介と依頼内容を話し、こちらが断るとぐしゃぐしゃの札束と一緒に封筒を無理矢理握らせてきた。


 受け取れないとさんざん説明したが、明日も来るから一日考えてくれと縋りつき…………次の日姿を現すことはなかった。


 老人がいつ来てもいいように事務所で泊まり込んだセタの体は、老人を思い出して少しだけ痛みを主張してきた。


 握らされた万札とは別に、渡された封筒にも札束が入っていて、しかもそれはなぜか綺麗な新札であることも、なんとも言えない不気味さを出す。


 依頼内容も何度も確認したが、岐阜でおきた殺人事件の真相を解き明かしてくれという逆に現実ではありえやいようなもの。


 チャラい若者が来てくれていたら、金が後払いであったら、冷やかしだろうとひと蹴りできるものなのに、デスクに広がる大量の諭吉さんのせいでそれもできない。


 依頼主から事前に聞いていた岐阜の住所に連絡したが、依頼主は電話先と関係のない人だと言われ、本当にあの爺さんは何だったんだとモヤモヤしたまま、どうにか依頼を断れないか悩むだけの時間が過ぎていく。


 はぁと大きなため息を吐くセタのデスクに、コトリと小気味いい音を立てて湯呑みが置かれた。


 湯呑みの中なのに、入っているのはコーヒーだ。


 セタはそういうところが気になってしまう性格だが、入れてくれた幼馴染はそういう事を気にしないことも、自分がコーヒーを好きだから淹れてくれている気遣いであることもわかっていたから、何も言わずサンキュと短く言って、モヤモヤと一緒にコーヒーを流し込んだ。


 コーヒーを淹れてくれた幼馴染ティフォンは、「どういたしましてぇ。」といつも通りゆる~い返事をして、自分の分も飲み物を用意し始める。


 ちゃんと緑茶を用意するティフォンの髪は、茶色でサラサラとした絹のような美しさだ。光沢もあり、天使の輪と言われるほどきれいな反射をしている。

 肌は白く、汚れ等見当たらない陶器のようで、目は形がシャープだから一見きつく見られるが、表情と声がコロコロと変わり、非常に愛嬌がある。



 この幼馴染が女の子なら、漫画で言うところのヒロインポジションだが、立派な男だ。


 しかも、この幼馴染は昔から人とズレているというか、変わった感性の持ち主で、人付き合いが上手な方ではなく、体も丈夫ではなかった。


 そのくせお人好しで、セタが探偵なんて怪しい危うい仕事を始めると言った時も「いいね、俺もいつでも手伝うよ。」と当然のことのように笑い、本当にいつもこの探偵事務所の事務仕事をしてくれている。


 セタは、この幼馴染の性格を知りすぎているが故、他の仕事について身を削りすぎ、心身ともにボロボロになるまで頑張った挙げ句、ころっと死んでしまうのが怖かった。


 彼が自分のもとで羽根を伸ばしながら自由に事務仕事をしてくれているこの現状に、セタはホッとしているところが大きい。


 不満があるとすれば、飲みかけのペットボトルとかを捨てずにためて、すぐ部屋を散らかすことだ。


 先日から好みの湯呑みを見つけた言ってと嬉々として使っているので、今後ペットボトルは減るなと嬉しく思ったが、違う何かを貯める未来もなんとなく予想できてしまうほど、変な意味はなく純粋に、友情として、深い付き合いだった。




「その依頼、受けたくないなら俺がしっかり断っとこうか?」


 人のいいティフォンが、自分のことを心配していると十分理解していたセタは首を横に振る。


 本来、ティフォンの方が人見知りであることを知っていたからだ。


 初対面だと臆することなく喋れるタイプの人見知りなので気が付かれることが少ないが、この幼馴染が心を開く人物は実は限られている。


 限られた中に自分がいるし、そういった人には引くほど自己犠牲的に尽くす傾向にあるこの幼馴染を、セタは甘やかしたいわけではないが、負担をかけたいわけでもなかった。




「俺に来た依頼だし、俺が断るわ。写真だけで何か掴めるとかねぇし。」


 そうだよねぇと安心したように湯呑みをすすっているティフォンは、昔から変に仕草が可愛い。


 今も、湯呑みが熱いのか袖を引き伸ばして両手で持っているので、萌え袖というやつだ。


 でも、それをからかうと割と根に持たれることをわかっているので口には出さず、依頼の写真と手紙を片付け、お金と一緒に金庫へ入れたところで、来客を知らせるドアのベルがカランコロンと鳴り響いた。




「おっはぁ〜。最近調子どぉ?」




 入ってきた高身長のオシャレな青年は、ティフォンが助けたのをきっかけに、度々訪れるようになった変わった奴だった。


 助けたと言っても、ティフォンにとっては当たり前とか日常に近いくらいの出来事で、いつもなら一期一会で終わることが多い。ティフォンは、助けた相手に名乗らず離れることのほうが多いくらいだ。


 しかし後日、“”鶴の恩返し“”ではないが、助けた彼がたくさんのお菓子とお礼の言葉とともに、この事務所を調べ上げのり込んできた。


 そんな変わったこの高身長のオシャレな奴が、この事務所に用もなく訪れるほどにまでなるとは、ティフォンはおろかセタすら想像もしていなかった。


 この変わった奴はルプスと名乗り、顔もイケメンの部類だ。


 服装は黒を基調としたおしゃれで独創的な物が多く、髪色は濃い紫が下に向かうにつれ薄くなっていく美しいグラデーションという珍しいものだ。その美しい長髪を、いつも美しい飾りでひとつ結びにまとめていることが多い。


 仕事柄、人を観察する癖のついているセタは、彼が細身だがかなり運動が得意であるということや、手先が器用であること、何か楽器や指を使う趣味をしていることに気がついていた。


 声色も、低いが聞きやすく優しい性格を映し出しているような落ち着いているものだし、少し話すだけでも聡明で博識だということがわかる。


 総じて、かなりモテると思う。友人になったら、彼女に会わせて自慢したいほどだし、会わせたくないとも思ってしまうタイプだ。


 今のところ、セタに彼女の影も形もないけれども。


 彼女云々はひとまずおいておいても、どことなくソッチの人っぽい艶というか、体の動きがうねってる感じがして、セタはティフォンが狙われているのではと警戒を解くことができない。


 ティフォンはメジャーな部類に疎いことが多いが、自分の好きな分野にはとことん詳しいし、説明することも苦と思わないから、話が合う人となら本当に合う。元々好奇心が強かったのだろうルプスは、ティフォンが話す分野に興味が刺激されるんだろう。2人で話が盛り上がることが多いし、ティフォンも人を否定しないで優しく話を聞いてくれる彼に心を許している。


 セタも、ルプスのことを知るたびにいい奴だろうなとは思っているが、どこか危険な匂い的なものも勘的なふわっとしたもので感じてしまっていたので、幼馴染は体が丈夫じゃないし、女性との付き合いすらないのだから、アブノーマルなことはやめて上げてほしいと心から思っていた。




「そういえば、2人は聞いた?最近世間を騒がせる怪盗の話。なんでも令和の貴公子なんて呼ばれてるちょーーーイケメンの凄腕怪盗らしいんだけど。」


 セタはルプスの誇張したような喋り方にではなく、別の依頼を思い出してため息をついた。


「知ってる。ちょうど先週、ウチに依頼が来たわ。美術品を守ってくれって。」


「嘘でしょ⁉ここに!?こんな小さい2人だけの探偵事務所に!?」


「小さいは余計だわ。」


 セタ達のやり取りを心の底から面白そうに笑うティフォンは、笑いすぎてむせ始めてしまう。


 すぐに二人が、背中を叩いたり飲み物を飲ませたりと世話を焼き、ティフォンは心底申し訳無さそうにごめんと謝って、「俺もその怪盗の噂知ってるよ。」と自ら話題を戻した。


 セタは、メジャーなことに疎いティフォンがこの手の話題を知っているのは珍しいことなので驚いたが、ルプスはだよねとなぜか喜んでテンションを上げる。


「盗むのが全部美術品で、値段とか価値でターゲットを決めてないんでしょ?」


「そうそうそう!!なんでだと思う!?やっぱりセンスが良くって、本当に良いものってのを肌で感じ取っちゃうタイプだと思わない?」


「それもあるかもね。」


「それ“も”?」


 ルプスではなく、セタがティフォンの言葉を聞き返した理由は、ティフォンとの付き合いが長いからこそ、彼が別の意見を持っているとわかったからだ。


 ティフォンは普段ぽやんとしているし、的はずれなことも多いが、的を当てるときはど真ん中に当てる。




 その当て方は、常人の努力で得られないものだとセタが一番良く知っていた。




 そんな気のない幼馴染は、ルプスの持ってきたお菓子の袋を遠慮なくガサガサ漁り始め、大したことじゃないけどと顔も上げず話し出すから、セタはそっちを気にしてしまった。


 わかるけど、絶対にそれはまた俺たちに買ってきてくれてる差し入れだけど、今はそれやるタイミングじゃねぇじゃん。


 いつもならそう言って叱ってしまうけど、今回は自分が聞き返したことだとぐっと我慢する。


 そんなセタの奮闘に気が付かないティフォンは、気が付かないからこそ、のびのびといつも通りの透明感のある声で話し続けた。


「盗まれてる美術品さ、関連がないわけじゃないんだよね。」


「「えっ。」」


 驚く2人を見もしないで、ティフォンは一番体に悪そうなポテトチップスを選び、袋を開けた。


 嬉々として食べようとしたところで、セタに食べながら喋ると怒られることを思い出し、ティフォンは早く話を終わらせようと早口になる。


「一通り調べたんだけど、どの作品も一回同じ人が過去に持ってた作品なんだよね。持っていた持ち主が亡くなっちゃったから、バラバラにオークションへ出されて、今は世界中散らばってたみたいだけど。」




 その情報は、ニュース等では出ていない情報だった。




 セタが隣を見ると、話を振ったルプスは豆鉄砲を食らったような顔になっている。やはり、情報に敏感そうなルプスも驚くような情報だったんだろう。


 その情報が正しければだが。


 でも、かなり確信のある話であるとセタは感じていた。


 ティフォンは、本当に自信がない話をするとき、しっかりと態度にも言葉にも補足としてその事を盛り込むと知っていたからだ。ストレートに、違った気がするけどなんて前置きを付け加えることも珍しくない。


 でも、今回は全くそんな言葉を出さなかった。


 彼にとって、かなり核心的に正しい情報だと思えている証拠だ。




 またカランコロンとドアベルなり、ガラの悪い高身長の奴が一人増えたことにより、ポテトチップスを食べていたティフォンが笑顔になる。




「いらっしゃい。今日はどうしたの?」


「何?いいもん食ってんじゃん。」


 そう言って、ティフォンからポテトチップスを一つもらおうとしているガラの悪い奴は、なんと全く見えないが警察だ。


 しかも、若いのにエリート中のエリートらしい。


「ポテトチップスより、こっちに美味しそうなのいっぱいあるよ。」


 ティフォンが袋を指さし、警察はなんの断りもなく袋にガサ入れを開始しする。


 ティフォンはわざわざ食べている手を止め、袋の中に何があるか説明してガサ入れをアシストし始めた。


 ティフォンは兄がいたので、末っ子気質というか、周りから可愛がられ甘やかされる性質がある。だが、本人は世話を焼くのが好きなので、世話を焼かせてくれるこのヤンキーもとい警察を気に入ってしまっているのだ。


 今日はまだ世話を焼くに入らない程度だが、いつもは、完全にヒモヤンキーと世話を焼いて尽くしても本命にはなれない女の子みたいで、セタはこれほど幼馴染が男で良かったと思ったことはなかった。


 現実では、ヤンキーどころか警察だし、エリートで高給取りでヒモなんかではないし、顔もかなり小顔で身長が180以上のモデルの様な体型だ。足なんかセタの腕より細い。


 金髪はキラキラと輝き、長すぎないのに少しパーマの様な自然なウェーブで、肉食系の濃いブルーの目と、女性に好まれる顔と声は、本で見る勇者や王の様だ。服装はオシャレなTシャツといい生地だとわかる長いジーンズで、シンプルだが、金がかかっているだろうとわかる。


 このクロとい名乗る警察も、ティフォンが拾って…………ティフォンがお腹を空かせて倒れていたからと、事務所に運んできてからの縁だ。ティフォンは身長が20センチは高いであろうクロを担げるほど、実はパワー系だし、行動力もある方だった。


 優しいし、力もあるし、穏やかで尽くすタイプのティフォンだが、本当に女の子にモテた試しがない。何故かむしろ邪険にされたり、毛嫌いされることまである。


 セタはそれに比べてとは言いたくないが、外でばったり会った時クロに、女子たちが群がってきて引くほどモテることを身を持って知っていた。


 ガラの悪いやつののほうが女性にモテる原因はわからないが、セタ自身も少し憧れのようなものを持っていて、悔しいような気がしてしまう男がクロだった。




「てゆーか、こいつ誰?」




 クロが目線すら袋から離さないのに、初めて会うルプスのことは気になったようだな思った。気がついているなら、もう少し態度を気にしろよと思うだけ思って、口には出さずに質問にだけ答える。


「今まさに、お前が食おうとしてる菓子を差し入れに来てくれた人だよ。」


「へぇ、暇人っていんだな。」


 お礼も言わずに、クロは探し当てたジャーキーをかじり始める。


 3枚しか入っていないジャーキの1枚をティフォンの口に押し込んでいたずらっ子みたいに笑うクロは、ある意味ルプスよりずっと危ないやつだ。本当にやめてあげてほしい。そういうとこだぞ。責任を取れないならそういう事しちゃいけないと思う。え?イケメンだから無罪?はいはいバロスバロス。


 そんな憤りを感じるセタと違い、自分のお菓子を漁ってお礼も挨拶も無いクロに対し、特に怒ることも注意することもないルプスに、自分がしっかりと、この傍若無人ヤンキーと天然幼馴染の分も、お礼をしようと席を外し、戸棚にあった少し良いお茶を淹れ始めた。


「最近、殺人事件を嗅ぎ回る探偵がいるって聞いたけど、お前?」


 背中でクロぶっきらぼうなセリフを聞きながらも、セタはお茶の用意をやめなかった。

 自分達には本当にやましいことがなかったからなのも大きいが、クロも常連だから気心がしれていた。もちろん依頼されたことはないので、ルプスと同じ客かは怪しい位置にいる。


「ちげぇわ。ふつーに断ってんだよ。」


「なんで断ってんの?仕事しろよ。」


「いや逆だろ。止めろよ警察なら。普通にしっかり駄目って止めろ。」


 セタとクロのやり取りも面白そうに笑って見ているティフォンに、何を思ったのかクロの方が「お前もそう思うよなぁ?サボってるよなこいつ。」と肩を組んで味方にしようとしていて、セタはため息をついた。


「どうせ、本当に事件現場に俺がいたら問答無用で逮捕だべ?。」


「そりゃそうだろ。」


「そりゃそうなのかよ!!なら止めろよ!!サボってることを褒めろ!」


 どんどん笑いが大きくなっていくティフォンは、指の油分がクロに付くのを危惧し、何も言わず走って手を洗いに行く。走っている間も笑いっぱなしなので、かなりシュールな光景だった。


 セタはお茶と水を二人の前に出してやり、本当は自分のおやつにする予定だったティフォンの手作りロールケーキを切り分け、2人の前に置く。水はクロへの頭冷やせよのメッセージを込めていたが、全くもって無意味であると目に見えていた。


 自分もしっかりとロールケーキを食べながら、セタはつい2人に愚痴を感覚で、殺人事件の再調査の依頼が本当に来ていた事を漏らしてしまった。


 詳しく話してないからセーフと、自分自身に言い聞かせる。




「そっか、大変だったね。危ないし、もちろん断るんでしょ?」


「そりゃな。逮捕されたらもともこもねぇし。」


 優しく話を聞いてくれたルプスと違い、クロの方は聞いていたのか怪しいほどの態度だった。


 かなりロールケーキを気に入ったようで、いち早く食べたかと思うと、半分残っていたセタの分までことわりもなく平らげ、どこに売ってるか吐けと尋問さながらに詰め寄てくる。


 ここで、ティフォンが作ったと言ったら、余計にティフォンが報われない女の子みたいになると変な心配をしたセタは、貰い物だと言葉を濁した。


 ロールケーキの事しか頭になかったのかと思われたクロだが、どうやら殺人事件の話は聞いていたようで、しっかりとごちそうさまと手を合わせたあとにポケットからぐしゃぐしゃになった紙を出し始める。




「俺も今、殺人事件調査してんだけどさ。」


「いや、お前は漏らすなよ。俺もダメだったけど、流石に警察は喋んな。」


「めんどくせぇ感じがマージで面倒なんだよマジでさぁ〜。」


「人の話聞いてる?ねぇ、警察関係者じゃないやつに喋っていいレベルでぼかせよ?」


「まだニュースにしてねぇやつで、写真これなんだわ。」


「話聞いてた!?」




 セタは本気で焦ったが、ティフォンはいつも通り笑いながら近づいてくるだけで、セタの肩の力も抜けてしまい、悪くないはずのティフォンに少し腹が立った。




「テンポいいなぁ~。マジで面白い。才能だと思うよ。」




 そう言って笑う幼馴染は、本当にいつまでも変わらない。




 変わっていくのは、時代の流れと、依頼の内容…




 そして、この高身長組二人が拾ってくるトラブルのせいで、日常すら姿を変えていく。






「なぁ、この殺人事件エグくね?死体のキャンタマ4つあるんだけど。」


「やめろよ!!普通に気になっちゃうだろ!!!!!!」












 現実とは小説より奇なり。




 次の日、ゴールデンな玉4つ事件に少しだけ関わることになってしまったセタ達は、犯人が被害者の愛人(男)で、形見として玉じゃない方を自宅に持ち帰っていたこと暴いてしまいう。


 事件解決後、事件内容に大きなショックを受けていたセタは、現実逃避のため長期で休暇をとることに決め、岐阜へ依頼を断りに行くついでに温泉旅行に行くことにした。


 事務所のパソコンでいい感じの旅館を見つけ、すぐ2人分の予約を入れてから、温泉関連のネットショッピングを見る。


 少しでも心が癒えるように思考を切り替えようするセタに、いつの間にか新しく買い足された湯呑み(何故かチンアナゴが描いてある)が置かれ、コーヒーの匂いに少し心が癒された。


 いつもの様に短く礼を言ったセタに対し、幼馴染はうんとしか言わない。少し離れた依頼主用のソファーに座ったティフォンを、ちらりと視線だけで追う。


 ティフォンは緑茶の入っている湯呑みを両手で持ちながら、いつもと違い憂いを帯びた美少年の様な顔をして座っている。


 セタがなにか言う前に、言葉を発したのはティフォンの方だったが、その視線は湯呑みの中だった。


「ねぇ…。温泉旅行じゃなくて、友達と出かけてきて良いんだよ?最近来てくれる人達なら、きっと誘えば快くオッケーくれると思う。」


 幼馴染の親切からくる拒絶を、セタはわからないふりをして無視した。


 男二人で温泉旅行なんか、ある一定の層からすれば何か言われそうだが、セタにとっては家族旅行くらいでしかないし、ティフォンが温泉旅行に行きたいと何度か呟いていたことを覚えていたからだ。




「温泉行きてぇ気分なんだよ。あひるの隊長買って、貸切風呂に入るのもいいだろ。」




 本当はアクティブなことが好きなのに、体の弱い自分のために温泉旅行を選んでいることに気がついているティフォンは、笑っていたが目線をセタへ向けることはない。




「本当、昔からいい奴なのに…いつまでも彼女できないよね。」


「うるせぇ。お互い様だし、本当にうるせぇマジで。」


 セタはわざと拗ねたように声を大きくして言ったあと、あひるの隊長を購入すべく、キーボードをターーーン!!と勢いをつけて叩いた。


「岐阜とかそんな行く機会ねぇし、やりてぇこと全部やるくらいで行くぞ。」


 まだ完全に吹っ切れてはいないが、それでもセタの優しさを無下にしないように努めたティフォンは、いつもの様に「んふふ。」と穏やかに笑う。


「そうだね、俺は食品サンプル作ってみたいな。」


「………………それ、下呂にあったか?」




 この時の二人は、この岐阜の旅が例の怪盗との初対面なるとは思いもしなかった。











セタ(主人公) 性別 男 おとめ座 妹のいる長男 18歳 A型


 パワー系に見られがちだし、実際パワー系の五教科より体育が好き派の青年だが、意外と脳筋というわけではない。


 男の子らしく、スポーツや格闘技を観戦するのが好きだし、ゲームも大乱闘的なものを好むが、実は純粋な泣ける恋愛もの漫画等が大好き。ヒロインよりも、ヒロインの友人で皆を明るくサポートする元気っ子がタイプだし、そういう子が主人公と同じ人を好きになってしまい、自分は何も言わないで身を引くと、セタの方が号泣するほど感情移入する。

いつか好きな子と遊園地にデートに行き、観覧車のてっぺんで告白したいと思っているような夢見がちな一面がある。本人は隠しているが、9歳の妹にはバレているし、私より乙女だよねとか思われている。

女の子は顔やプロポーションよりも性格やフィーリングが合うかが重要派だが、美人にこしたことはない。


怖いものは幽霊や怪奇現象。あまりにも怖いと喋り方がオネェの様になる。

礼儀正しくない人や、非常識な人も嫌う傾向にあり、自分もできるだけ人に敬意を持つようにしている。

「アンタお兄ちゃんなんだから!!」と言われて育てられてきたので、どちらかと言うとリーダーシップをとる事が得意だし、我慢強い。ただ、心のなかで不満はたまる性格なので、それを発散するために漫画で泣いたり、スポーツ観戦して熱くなっているところがある。

急に冷静になってしまう時があり、自分自身が困惑する時がある。

探偵という職業柄色んな人に会うが、病まないのは幼馴染の奇行である程度耐性をつけられているから。

幼馴染のことは、もはや困ったちゃんの弟だと思っているふしがあるが、頼りになる相棒でもあり、本音を語り合える大切な友だとも思っている。

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