夏の強化合宿 日常の向こう
今年の夏もオカルト研究部は、新人の強化合宿も兼ねた調査訓練を行う事になった。
夏の日差しが強く照りつける中、オカルト研究部の一行は山間の河川敷に到着した。表向きは自然現象の調査が目的だったが、メンバーたちの顔には期待と高揚感が溢れていた。今年も新人部員との強化合宿の始まりだった。
「よし、まずは3つのグループに分かれよう」と佐藤部長が声をかけた。
メンバーたちはテント班、車中泊班、小屋班に分かれてそれぞれの宿泊地に向かった。この長期調査で、全員が各形態の生活を体験し、比較検討することが決まっていた。
テント班の海斗は、早速テント設営に取り掛かった。
「意外と快適だ」と海斗が言うと、他の部員も頷いた。しかし夜になると、状況は一変した。
「風の音が...すごい」と新人部員の一人が少し不安そうに呟いた。薄いシート一枚で外界と隔てられているだけの脆弱さを身をもって感じていた。
一方、小屋班の寮と水野たちは比較的快適な生活を送っていた。
「ここなら機材も置けるし、雨が降っても安心だ」と寮が言った。
「だが、この小屋、ちょっと古いみたいだ。雨漏りがすると機材がダメになるかも」と水野が天井を見上げて不安を口にした。
車中泊班の葵とひかりは、車内での生活に四苦八苦していた。
「狭いですね...」と葵がため息をつく。
「それに、食事の準備も大変だわ」とひかりが付け加えた。
翌日、全員が集まって経験を共有した。
「テントは自然を感じられて良かったけど、天候の影響は無視できない」と海斗が報告した。
「小屋は快適だけど、建物の状態次第だな。それと、少し自然から遠ざかった感じがする」と水野が続いた。
「車は移動には便利ですけど、生活スペースが限られてるのがネックです」と葵が締めくくった。
佐藤部長は皆の意見を聞いて、「それぞれに長所短所があるね。これらをどう改善できるか、みんなで考えてみよう」と提案した。メンバーたちは活発に意見を交換し始めた。テントの防水性向上、小屋の修繕と自然との調和、車での効率的なスペース利用など、様々なアイデアが飛び交った。
その日の午後、佐藤部長が新たな提案をした。「みんな、食料調達の訓練として釣りをしてみないか?」
この提案に、メンバーたちの反応は様々だった。
「いいですね!」と海斗が目を輝かせる一方で、新人部員たちは少し躊躇した様子だった。「僕たち、釣りをしたことないんです...」
寮が新人部員に近づき、優しく言った。「大丈夫、一緒に学ぼう」
グループは釣り道具を準備し、河川の適所を探し始めた。水野が経験者として、基本的な釣りのテクニックを教え始めた。
「まず、餌を針にしっかりとつけるんだ」と水野が実演する。
沙織が興味深そうに見ていると、「沙織さん、やってみる?」と水野が誘った。
時間が経つにつれ、みんなが少しずつコツを掴み始めた。突然、葵の竿が大きく曲がった。
「わっ!何か掛かった!」葵が驚いた声を上げる。
「落ち着いて!ゆっくり巻いて!」寮が声をかける。
みんなが見守る中、葵は必死に魚とのやり取りを続けた。ついに、水面から大きな魚が姿を現した。
「やった!」葵の顔に大きな笑顔が広がる。
「すごいよ、葵さん!」と周りから祝福の声が上がった。
その日の夕食は、みんなで釣った魚を中心に準備された。火を囲みながら、魚を焼く香ばしい匂いが辺りに広がった。
「自分たちで釣った魚って、特別美味しいです」と新人部員が感動した様子で言う。
「うん、なんだか達成感があるよ」と他のメンバーも同意した。
食事をしながら、メンバーたちは今日の体験を振り返った。
「釣りって、忍耐力が必要なんだね」と海斗が感想を述べる。
「そうね。でも、自然の中でじっと待つ時間も、意外と大切かもしれないわ」と沙織が思索的に答えた。
佐藤部長は満足げに言った。「今日の体験は、調査活動にも通じるものがあるよ。自然を観察し、適切なタイミングを待ち、そして行動する。これらのスキルは、オカルト現象の調査にも役立つはずだ」
夜が更けていく中、メンバーたちは新たな絆と自信を感じていた。彼らは単に食料を得ただけでなく、協力することの大切さ、自然との向き合い方、そして予想外の状況に対応する柔軟性を学んだのだった。
翌日の朝もやの中、メンバーたちは早くから活動を始めた。「よし、今日の午前中は炊事訓練だ」と佐藤部長が宣言した。
グループに分かれて作業を始めるメンバーたち。海斗は火おこしに挑戦していた。
「あれ、なかなか火がつかないね」と新人部員が困惑した顔で言う。
「ここは摩擦を強くするんだ」と海斗がアドバイスし、協力して何とか火をつけることに成功した。
一方、沙織と寮はご飯を炊く担当だった。
「水加減が難しいわね」と沙織が悩んでいると、寮が「僕、家でよく炊飯するんだ。こんな感じかな」とアドバイス。
水野とひかりはバーベキューの準備を任された。
「肉の厚さを均一にするのがポイントだよ」と水野が包丁を器用に使う。
「私はスープを作ってみるわ」とひかりが鍋を準備し始めた。
新人部員たちも料理作りに挑戦していた。
昼食時、全員で作った料理を囲んだ。
「みんな、よくやった!」と佐藤部長が満足げに言う。「実地での食事準備は大切なスキルだからね」
しかし、夜になると状況は一変した。夜は緊急時を想定し携帯食を食べることになっていた。
全員が疲れ果てた表情で携帯食を口にしていた。
「夜ご飯が携帯食だけなのも寂しいです」と新人部員がぼそっと言った。
ひかりが「そうね。他にも缶詰やレトルトスープ、カロリーメイト、ゼリーやドリンクも準備した方が良いかも」と提案した。
「そうだな。次からはもっとバリエーション豊かな食事にしよう」と佐藤部長も同意した。
翌朝、メンバーたちはインスタントスープ、インスタントコーヒー、カップラーメン、クラッカーなどで朝食を済ませた。
「簡単だけど、温かい食事はありがたいね」と寮が言うと、みんなが頷いた。
沙織が「でも、栄養バランスを考えると、もう少し工夫が必要かもしれないわ」と提案。
「そうだね。次の買い出しでは野菜ジュースや乾燥フルーツも買ってみようか」と水野が付け加えた。
その日の夕方、疲れと汗で少々不快感を感じ始めたメンバーたち。沙織が話題を切り出した。
「みんな、そろそろお風呂のことも考えないといけないわね」
佐藤部長が頷きながら答えた。「そうだな。いくつかの選択肢がある。まずは近くの温泉施設を利用するか、簡易シャワーを設置するか、それとも川での水浴びか...みんなの意見を聞かせてくれ」
議論が始まった。水野が提案した。「僕は簡易シャワーがいいと思う。ポータブル電源で温水器を動かせば、最低限の快適さは確保できるはずだ」
「でも、水の確保は大丈夫なんですか?」と新人部員が心配そうに尋ねた。
寮が答える。「川の水を浄水フィルターで濾せば使えるよ。僕が準備してきたんだ」
一方、ひかりは別の意見を出した。「近くの温泉施設を利用するのも良いと思います。たまには本格的なお風呂で疲れを癒やせます」
沙織が少し恥ずかしそうに言った。「私は...川での水浴びも悪くないと思います。自然を直接感じられるし」
海斗が興奮気味に付け加えた。「そうだね!川で水浴びなんて、都会じゃできない貴重な体験だよ」
議論の末、佐藤部長が決定を下した。「よし、こうしよう。基本は簡易シャワーを設置する。でも、天気の良い日は川での水浴びも体験してみよう。そして週に一度は近くの温泉施設を利用して、しっかり体を休めることにしよう」
全員が同意し、さっそく準備に取り掛かった。翌日、簡易シャワーの設置が完了。最初のシャワーを浴びた葵が感激した様子で言った。
「わぁ、こんなところでお湯が使えるなんて!」
数日後、晴れた日に川での水浴びを体験。
「うわっ、冷たい!」と新人部員が叫ぶ。
「でも、なんだかスッキリするわ」と沙織が笑顔で答えた。
また、ひかりや他の部員全員で近くの温泉施設へ行った。「あぁ...天国ね」と葵がため息をつく。「たまにはこういう贅沢も必要よね」とひかりも満足げだった。
この経験を通じて、メンバーたちは環境に応じた生活の工夫と、自然との共生を学んでいった。同時に、快適さと自然体験のバランスを取ることの大切さも理解し始めた。
佐藤部長は部員たちの成長を見守りながら、「これも大切な訓練の一環だ。調査では様々な環境に適応する必要がある。みんな、よく頑張っているね」と評価した。
***神社での一泊***
最終訓練として、オカルト研究部員は谷川を登った所にある神社の調査を行うことにした。今回は、神社で一泊することになり、初めに先輩たちがテントで寝ることになった。夜が深けると、周りは寂しく、静けさが一層際立っていた。
「ここは、何も出てこないですよね?」と海斗が佐藤部長に尋ねると、部長は少し笑って「そういった噂はないけれど、どうかな?」と返した。
「ひとまず、これも訓練の一環として、魔よけや結界を張っておこう。また、交代で二名ずつ見張りも行おう」と提案した。
深夜、静寂を破るかのように、何かの足音が近づいてくる気配がした。葵は鋭い感覚を働かせ、「何か変な空気を感じる。水野君、気をつけて」と話した。
「私は魔除けのお香を焚くから、みんなを起こして」と、水野に伝えた。
水野は急いで他のメンバーを起こしに行き、佐藤部長たちも目を覚ました。周囲の空気が急に冷たく感じられ、皆が緊張を感じた。
「何か感じますね」と佐藤部長が静かに言った。
葵は手元の魔除けのお香を焚き始め、魔除けの呪文を唱え続けた。その声は静かな夜に響き、やがて、近づいていた気配が徐々に遠ざかっていった。
「何かが遠ざかって行く...」と葵が呟いた。
寮が「調査をしますか?」と尋ねると、佐藤部長は首を振った。「いや、今回は訓練だから、そこまでの準備ができていない。一旦、元の河川敷に戻ろう」と決断した。
***帰還と報告***
テント班には他の新人部員5名が残っており、戻ってきた一行に声をかけた。「どうでしたか?今日は、僕たちが訓練で出かけます」と話しかけてきた。
佐藤部長は落ち着いて答えた。「どうやら何かが出るみたいだ。今回の訓練はここで中止して、ここで一泊過ごした後、撤収することにする」
佐藤部長たちが去って行くのを見た新人部員の昭雄が他の新人部員に話す。
「せっかく、楽しみにしていたのに。僕達もオカルト研究部員だ。僕達で神社の調査に行こう」
全員が元の河川敷に戻り、これまでの出来事を振り返った。
「やっぱり、自然と向き合うって簡単じゃないね」と海斗が言うと、葵が頷いた。「でも、こういう経験を通じて学ぶことが多いわ」
佐藤部長がまとめに入った。「今回の訓練で、多くのことを学んだ。装備の点検、連絡手段の確保、そして何より、状況に応じた柔軟な対応が重要だということだ。みんな、よく頑張った」
寮が夕暮れの河川敷を後にしながら、最後の訓練日を過ごしていると、新人部員の1人が駆け寄って来た。「寮先輩、大変です。僕たちのテント班が勝手に神社に行ってしまいました。『先輩達には内緒』と、言った事でしたが僕は途中でお腹が痛くなったと告げて引き返す事にしました。」
車の中を調べてみると、予備のテントが車内から無くなっていた事が分かった。
「さっき、テントの調子が悪くなったから、別のテントを貸してくれって新人部員から言われて。。。」と、ひかりが事情を話す。
佐藤部長の表情が曇る。「まさか。急いで確認に行こう」
***神社への救出***
寮、葵、水野、海斗の4人は急いで神社へ向かった。山道を登りきると、神社の境内が見えて来た。
回りには民家も無く、大きな木に囲まれており、どこが不気味な感じだった。
億に進むと、新人部員たちのテントが見えた。しかし、異様な雰囲気が漂っていた。
「助けて!」悲鳴が聞こえて来る。
境内に駆け込むと、新人部員たちが黒い霧のような存在に襲われていた。
「葵、準備を!」寮が叫ぶ。
葵はすぐさま魔除けのお香を焚き始め、呪文を唱える。「天地の力よ、我に宿れ...」
寮は手のひらに集中し「霊光弾!」悪霊は放たれた霊光の光に包まれて徐々に薄れていった。
昭雄は「助かった」と、案著の声をあげた。
「みんな、大丈夫か?」水野が新人部員たちに駆け寄る。
幸い、大きな怪我はなかったようだ。
「何を考えてたんだ」と水野が怒りながらも安堵の表情を見せる。
その夜、全員で神社に留まることになった。
「テントの周りに結界を張らなかったの?」と葵が新人部員たちに尋ねる。
「浄化の儀式も何もしていません...」と昭雄が恥ずかしそうに答えた。
寮たちは手分けして結界を張り、浄化の儀式を行った。
海斗が「まだ、新人だった頃を思い出すなぁ」と、呟いた。
寮が「あの時は、僕たちも危なかったから、今回は可愛い方さ」と返した。
海斗は「あれから肝に銘じています」と、恥ずかしそうに答えた。
寮たちは、神社で一夜過ごす事になり、そのまま見張りを続けたが何も起こらず夜が明けた。
翌日の朝には全員で元のキャンプ地に戻ると、佐藤部長が昭雄たち新人部員を集めて話をした。
「冒険心は大切だ。しかし、心霊調査では一度のミスが取り返しのつかない結果を招くこともあります。実は、少し臆病な方が良いんだ。慎重さが命を守るからね」海斗、沙織、葵を見渡し「新人部員の毎度のことだからね」と、付け加えた。
新人部員、テント班の5名は海斗、沙織、葵を見つめていた。
「今回は良い経験になったな」と寮が言う。
「これからは、もっと慎重に、でも勇気を持って調査に臨もう」
全員で荷物をまとめ、この数日間の経験を胸に、オカルト研究部は帰路についた。
今年の新人部員もやらかした。話になりましたが、
前回ほど危険でも無かった話になりました。
ちょっとしたアウトドア体験をイメージしたエピソードになっています。
ご購読、ありがとうございました。




