静寂の中の気づき
オカルト研究部の活動は、地道に続けられていた、そんなある日、寮と葵は部長から今日は早く帰宅しても良いと言われた事から、緑駅周辺を散策する事になった。
**日常の向こう**
昼過ぎ午後の大学キャンパス。青空が、古びた校舎の窓に映り込んでいた。
最近のオカルト部の活動は、調査した内容の整理やYouTube配信など、事務的な作業が中心だった。
「まったく、いつになったら終わるんだよ」と海斗が不満げにぼやいた。彼の前には、まだ整理されていない資料の山が積まれていた。
葵も溜息をつきながら、「私も、どちらかというと直感的なことは得意ですが事務的な作業は苦手です」と言った。彼女の手元には、複雑な図表が並んだ資料が広げられていた。
一方、沙織は興味深そうに資料を眺めながら、「文献など色々読んで分析するのは楽しいわ」と言った。彼女の目は、古びた本の行間を丁寧に追っていた。
水野も聞きながら、「こうやっていろいろ解析しているの、オカルト研究部の醍醐味だな」と付け加えた。
佐藤部長は皆の様子を見渡しながら、「それぞれ得意分野もあるからね。心霊スポットの調査では寮君や葵さんたちの方が向いているから分担も大切です」と言った。彼の声には、部員たちへの理解と信頼が滲んでいた。
そして、寮と葵に向かって、「寮君と葵さん、今日の活動はもういいよ。お疲れ様」と声をかけた。
寮は安堵の表情を浮かべ、葵も小さく頷いていた。二人は静かに資料を片付け、部室を後にした。
外に出ると、午後の空気が二人を包み込んだ。寮は葵に向かって、「今日は早く終わったから、ちょっと緑町駅周辺を散策してみない?」と提案した。
葵は少し驚いた様子で、「私、ほとんど大学と自宅にいるだけだったので楽しみです」と答えた。彼女の表情に、ほんの少し期待の色が浮かんだ。
二人は並んで歩き始めた。午後の街並みは日中とは違う神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「葵さんは、どうしてオカルト部に入ったんだい?」寮は自然な流れで質問した。
「私、子供の頃から霊が見えたり、金縛りに遭うことがあって。それがきっかけで心霊現象に興味を持ち、自分で色々調べるようになったんです。そして、霊能力者にも相談しました」
寮は興味深そうに聞いていた。
「最初は怖くて仕方なかったんです。夜中に突然目が覚めて、部屋の隅に人影が立っているのを見たり。でも、不思議なことに、ただ怖いだけじゃなくて、何か大切なことを伝えようとしているような気がしました」
「僕も似たような経験があるよ。最初は怖かったけど、だんだんと共存できるようになったんだ」
葵は少し安心した様子で続けた。「でも、周りの人には理解してもらえなくて。だから霊能者を探したんです」
「どんな霊能者に会ったの?」寮が尋ねた。
「色々でした。ほとんどは『祈りをしましょう』『神様を信じましょう』『あなたの運命を受け入れましょう』って感じで。パワーストーンやお守り、お札など色々購入しましたが、ほとんど効果はありませんでした」
「確かに、見えたり感じたりできなければ、その言葉を信じるのも難しいよね」
「そうなんです」葵は真剣な表情で続けた。
しばらく歩いて、寮は提案した。「この公園、以前は怖いスポットの噂もあったけど、僕と由香、陽菜で浄化を行ってからは、とても良い場所になったんだ」
「浄化...どんなことをしたんですか?」
公園に着くと、寮は以前の調査の経験を葵に語り始めた。夕闇に包まれた古びたトイレ、池に浮かぶ不気味な影、そして古い祠にまつわる怨霊の話。償還の儀式を行ったグループの詳細も丁寧に説明した。
「ここのトイレには、昔殺人事件で亡くなった若い女性の霊が出るって噂があったんだ」寮は古びたトイレを指さした。「夜中に鏡を見ると、血まみれの女性が映っているって」
葵は身震いしながらも、興味深そうに聞いていた。
「でも、実際に霊調査してみると、そんなに怖くなかったんだ」寮は続けた。
「どうしたんですか?」葵が尋ねた。
「最後は、彼女の気持ちを受け入れて、ゆっくり話を聞いたんだ。彼女の思いを理解して、その後、彼女の霊は安らかに旅立っていったよ」
「心霊現象は、ただ怖いだけでなく、悲しい出来事の話も多いんですね。無意識に悪者にするのは難しいと感じます」
「そうだね。だから僕たちの活動は霊を警戒するためじゃなくて、理解するためにもあると思う」
ベンチに腰掛けて休憩していると、寮が「そういえば、この近くに面白い占いサロンがあるんだ。マリアっていうんだけど、行ってみない?」と提案した。
葵は目を輝かせて「ぜひ、連れて行ってください」と答えた。
***占いサロンマリアへ***
占いサロンマリアに向かう途中、寮は由香の話を始めた。「実は、由香も昔、似たような経験があったんだ」
「由香さんも?」葵は驚いた様子で聞いた。
「うん。由香は高校生の頃、スピリチュアルセミナーに嵌って、高額なスクールに入会しようとしたんだ。結局、詐欺だと気づいてやめたんだけどね」
葵は考え深げに答えた。「そうですね、魂や意識、本当の自分って何だろうと問われると、私も答えられないです。でも、本当に意識が精神的に幸せになることができたら素晴らしいですね」
寮は少し厳しい表情で続けた。「でも、そのために悪用されることもあるんだ。スピリチュアルジプシーって言葉、知ってる?」
「スピリチュアルジプシー…」葵は言葉を反芻した。
「そう。次から次へとスピリチュアルなことに手を出して、どれも続かない。結局、何も得られずに終わってしまうんだ」
葵は深く考えた。「私も、そんな風になるかもしれなかった」
占いサロン「マリア」に着くと、受付に由香がいた。彼女は寮に向かって、「心霊スポットの調査結果はどうだった?YouTubeも見たよ」と話しかけた。
寮は「今日は、葵さんのことについて占ってほしいんだ。彼女がどういった運命を進むのか知りたくて」と説明した。
マリアさんの占いセッションで、葵は様々なアドバイスを受けた。マリアさんは葵の手相を丁寧に見ながら話した。
「あなたは、特別霊感が高いみたいですね」マリアさんの声は静かだったが、確信に満ちていた。
葵は息を飲んで聞いていた。
「でも」マリアさんは続けた。
葵の表情が曇った。
「どこかお寺で精神修行をされてみてはいかがですか?自分自身とじっくり向き合う時間が必要だと思います」
「マリアさんの占いは、これまで会ってきた霊能者の中で一番信頼できる気がします」と葵は思った。
寮は静かに聞いていた。
「霊は霊の世界があり、私には今の私の世界と人生があると気づきました」と葵は続けた。「でも、完全に霊の存在を無視することも難しいです。それこそ、重要なことを見落としてしまうかもしれません」
寮はしばらく考えて、「そうだね」と言った。「近くに春香が住むお寺があるから、今度一緒に行ってみよう」
葵は少し安心した様子で「ありがとうございます、寮君」と答えた。
***お寺へ***
次の休日、寮と葵は春香の住むお寺を訪れた。山門をくぐると、静寂が二人を包み込んだ。境内には古い銀杏の木が立ち、その葉が風にそよいでいた。
「それは、大変な人生を送られてきましたね」住職の声には深い慈悲が感じられた。「ここでは、心を清めて精神を統一する方法を教えています。少しの間、ここで修行してみてはいかがですか?」
葵は少し緊張した様子だったが、興味深そうに聞いていた。
そこへ、陽菜と春香が現れた。「寮くんもついに仏門に入る決心をしたの?」陽菜が声をかけた。
寮は笑って「いや、決めてないよ。今日は葵さんが見学したいって」と答えた。
葵は少し照れくさそうに、でも決意を込めて言った。「ここでお寺に通って修行をしてみようと思います」
陽菜と春香は優しい目で葵を見つめた。
「それは良いことだね」陽菜が優しく言った。
葵は少し緊張しながらも、自分の経験や悩みについて話し始めた。寮は彼女の隣で静かに聞いていた。
話を聞き終わった春香が、「そっか、大変だったんだね」と同情的な表情で言った。住職が話を続ける。「最初は慣れないことも多いでしょうが、ゆっくりと自分のペースで進めていきましょう。ここでの時間が、あなたの心の整理に役立つことを願っています」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
その日から、葵は定期的にお寺に通い始めた。最初は緊張気味だったが、徐々に落ち着いた様子で座禅や写経に取り組んだ。
寮も時々彼女と一緒に訪れては、葵の様子を気にかけていた。ある日、二人で境内を歩きながら話していると、葵が突然言った。
「寮君、ありがとう」
寮は興味深そうに聞いた。
葵は少し考えてから答えた。「以前は霊の存在に振り回されていた気がします。でも今は、どう言えばいいんだろう。自分の中心がしっかりしてきた、そんな感じかな」
「それは素晴らしいことだね。葵さんが少しずつ自分の道を見つけているみたいだ」
「うん。まだ途中だけど、これからも頑張ってみようと思います」
その時、二人の近くにある古い銀杏の木が、風にそよいで葉を揺らした。その音は、まるで二人の会話に静かに応えているようだった。
来週のオカルト研究部の活動日。部室に集まったメンバーたちは、いつもと少し違う雰囲気の葵に気づいた。
「葵さん、なんだか雰囲気変わった?」と沙織が質問した。
海斗も「そういえば、最近、葵さんすごく落ち着いてるよな」と付け加えた。
「そう?最近、ちょっとした修行をしてるんです」
「修行?それは面白そうだね。どんな感じなの?」
部員たちは熱心に聞いていた。
「心の状態を整えることで、より冷静に現象を観察できるようになりました。オカルト研究にも役立つかもしれませんね」
「そうだね。葵さんの新しい視点が、私たちの研究にも良い影響を与えてくれそうだね」
寮は葵の様子を見ながら、心の中でほっとした。彼女が自分の道を見つけ始めたことを、心から嬉しく思った。
その日の活動が終わり、部員たちが帰り支度をしていると、佐藤部長が声をかけた。
「みんな、来週は新しい調査に行きます。準備はしっかりとお願いします」
部員たちが興奮した様子で笑っていた。葵も、少し不安そうな表情を見せながらも、決意を込めて「はい」と答えた。
寮は葵の横に立って、小さな声で言った。「大丈夫、僕たちがいるから」
葵は寮を見て、静かに微笑んだ。二人の目には、これから始まる新たな冒険への期待が輝いていた。
部室を出る時、葵は一瞬窓の外を見た。夕暮れの空が、オレンジ色に染まっていた。それは、彼女がオカルト研究部に入った日の夕暮れと同じ色だった。今、葵の心の中には、あの日とは違う、新しい光が灯っていた。
「じゃあ、行こうか」と寮の声に、葵は我に返った。
「うん」と彼女は少し微笑んで答えた。
二人は他の部員たちと共に、夕暮れの中を歩き始めた。彼らの前には、まだ見ぬ不思議な世界が広がっていた。そして葵は、その世界に向かって新たな勇気を感じていた。
今回は部員の1人、葵について焦点を当てた話になりました。葵の想いや気気持ちが伝わるエピソードになったと思います。ご購読、ありがとうございました。
平和なオカルト研究部と、いったのも、ほっとする感じで面白いと思います。




