その後の緑ダム取材と寮の休日
寮たちの緑ダムの調査で、大きな霊現象は、ほぼ静まっていた。そんな中、取材を続けていた寮と前田だった。
寮は息を潜めて、緑ダムの岸辺に立っていた。湖面に漂う薄い霧が、まるで生き物のように蠢いている。オカルト編集部の調査も今日が最終日。これまでの取材で、確かに奇妙な現象は目撃されたものの、決定的な証拠は得られていなかった。
「寮さん、こっちです」
前田の声に振り返ると、岩肌に刻まれた不可解な文様が目に入った。寮は慎重に近づき、古代魔法の書を取り出した。呪文を唱えると、文様が淡く光り、霧が渦を巻き始めた。
突然、霧の中から悲痛な叫び声が響き渡る。寮と前田は驚愕し、後ずさった。霧の中から、おぼろげな人影が浮かび上がる。
「助けて...」影が訴えかけてきた。「私たちは封印されていたの...」
寮は動揺しながらも、冷静さを取り戻す。「あなたたちは何者で、なぜここに?」
影は震える声で語り始めた。「私たちは昔、この土地に住んでいた人々...贄として生贄にされ、怨念となって封印された...」
寮は古代魔法の書を開き、慎重に呪文を唱え始めた。霧が渦を巻き、光が放たれる。影たちの姿が徐々に消えていく。
「ありがとう...これで安らかに...」
最後の言葉と共に、霧は晴れ、湖面は静寂を取り戻した。
寮と前田は互いに顔を見合わせた。「これで...終わったのかな」前田がつぶやく。
寮は深いため息をついた。「うん、きっと。でも、この経験は忘れられないだろうな」
***その後の緑ダム***
寮たちは緑ダムから戻り、オカルト編集部に今回の調査結果を報告した。その後もいくつか噂のある場所の取材と調査を行ったが、特別大きな心霊現象も無く、手掛かりも無く過ぎて行った。
編集長の涼子は緑ダムの取材に満足していたが、ある日寮と前田を呼び出した。「寮くん、前田君、お疲れ様。今回の取材の話も注目されそうね。ただし、今回で取材も終了よ。これ以上、取材が長引くのもね」涼子の言葉に、二人は少し残念そうな表情を浮かべたが、納得した様子でうなずいた。
寮は一之瀬先輩にも連絡を取り、現地での状況や経緯を詳しく伝えた。一之瀬が警告していたほどの強力な悪霊の存在は確認されず、封印から解放された悪霊の手がかりも、ついに掴むことはできなかった。寮が古代魔法の書を用いて、緑ダム一帯の悪霊や霊道、ポータルは完全に浄化されていた。
電話口で、一之瀬先輩は深い溜息をついた。「岩肌の封印が解かれた後、何かの存在が解き放たれたのは間違いない。緑ダム周辺は心霊現象が多発していたが、強力な霊的な存在は既にどこか別の場所に移動してしまった可能性が高いな」
寮は、これまでの経緯を話した。「確かに緑ダム周辺は悪霊が多く存在しているエリアでしたが、全体的にポータルや霊道の力が低下して弱まっていました」
一之瀬先輩もしばらく考えた後、「楽観的に考えると、以前の緑大学の調査で、いくらか霊的な力を弱められたことで予想より弱まった可能性もある」と述べた。
寮も「今回で編集部の取材も終了しました。また、何か新しい手掛かりが見つかれば再開の可能性もあります」と答えた。
その後、緑ダムは心霊現象の話題性が消え、穏やかな観光地として再び脚光を浴びるようになった。地元の人々や観光客が訪れるスポットとして賑わいを見せ、かつての陰気な雰囲気は一変した。
寮は、これまでの調査結果を妻のひかりに報告した。ひかりは、いくつか疑問が残るものの、今回の浄化が成功し、事態が一旦解決したことに安堵した。また、瑞希や他のオカルト研究部の卒業生たちも、今回の活動に満足し、次の機会があればまた協力すると約束した。さらに、卒業生たちの交流の場として、SNSグループを立ち上げることが決まり、定期的に情報交換や再会の機会を設けることになった。
それから一か月が過ぎ、寮は妻のひかり、そして娘のあかりと平穏な日々を過ごしていた。大きな事件はなく、家族との時間を大切にしながら、穏やかな日常が戻ってきた。
*** 家族旅行の計画 ***
オカルト編集者として多忙だった寮も、最近は仕事が少し落ち着き、平穏な日々を送っていた。日常の中で、寮は妻のひかりと娘のあかりとの時間を大切にしようと考えていた。そんなある夜、家族で夕食を囲んでいる時、寮はふと思い立って「今度の週末、みんなで旅行にでも行こうか」と提案した。
ひかりは驚いた表情を浮かべながらも、すぐに微笑んだ。「いいわね、家族でのんびりできる場所に行きたいわ」と賛成の意を示した。
一方、あかりは目を輝かせて「わたし、動物が見たい!それに遊園地にも行きたいな!」と楽しそうに話した。その無邪気な反応に、寮とひかりは思わず顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、近くに動物園と遊園地がある観光スポットがあっただろ?そこに行ってみようか」と寮が提案すると、あかりは「やったー!早く行きたい!」と喜びの声をあげた。その瞬間、あかりの目は星のように輝いていた。
こうして、家族旅行の計画が決まり、寮たちは週末に動物園と遊園地があるスポットへ向かうことになった。その晩、あかりは興奮のあまりなかなか寝付けず、寮とひかりは娘の無邪気な姿に、改めて家族の時間の大切さを感じていた。
*** 動物園でのひととき ***
旅行当日、寮は早朝から起き出し、家族の荷物を車に積み込んだ。ひかりとあかりを乗せて出発する時、空は澄み切った青さで、絶好の旅行日和だった。車の中では、あかりが楽しみで仕方がない様子で、動物園や遊園地で何をしようかと次々に話していた。その姿を見て、寮とひかりは微笑ましく感じていた。
「パパ、動物園でゾウさん見たいな!あと、キリンも!」とあかりが楽しそうに言うと、ひかりも「私も久しぶりの動物園だから楽しみだわ」と笑顔で答えた。
1時間ほど車を走らせ、目的地の動物園に到着。駐車場に車を停め、寮たちは早速園内へと足を踏み入れた。動物園の入り口でチケットを購入し、マップを手にしながらどのエリアを回るかを相談した。
「まずはゾウを見に行こうか?」と寮が言うと、あかりは「うん!早く行こう!」と先に走り出し、家族全員が笑顔でその後を追った。
園内では、ゾウやキリン、ライオン、そしてかわいいペンギンなど、さまざまな動物たちが迎えてくれた。あかりは一つ一つの動物に目を輝かせて、「わぁ、あのキリン、首がすごく長い!」「パパ、あのライオン怖そうだよ!」と次々に感想を述べていた。その度に、寮とひかりは娘の新鮮な反応に心を温められた。
ひかりも動物たちを見ながら、「こんなに近くで動物を見るのは久しぶりね。あかりも楽しそうで良かったわ」と、嬉しそうに寮に話しかけた。寮もそんな家族の姿に心が温まり、「家族でこうして一緒に過ごす時間は、本当に大事だな」と改めて感じていた。
途中、休憩がてらカフェで軽食を取り、ひかりとあかりはアイスクリームを楽しんだ。寮もコーヒーを飲みながら、次の遊園地で何をするかを話し合っていた。
「あかり、次は遊園地に行くけど、何に乗りたい?」と寮が聞くと、あかりは「ジェットコースター!それと観覧車も乗りたい!」と元気よく答えた。その無邪気な笑顔に、寮とひかりは心から幸せを感じていた。
*** 遊園地での冒険 ***
動物園を満喫した後、寮たちは次に遊園地へと向かった。遊園地の入り口では、色とりどりのアトラクションが並び、あかりは目をキラキラさせて「パパ、まずはあっちのジェットコースターに行こうよ!」と興奮気味に走り出した。
ひかりは少し心配そうに「あかり、ジェットコースターは怖くないの?」と聞いたが、あかりは「大丈夫!すごく楽しそうだもん!」と自信満々だった。その姿を見て、寮は娘の勇気に感心しつつも、内心では少し心配していた。
ジェットコースターに乗り込むと、あかりは興奮しながらも少し緊張した様子で、寮の手をぎゅっと握りしめていた。ひかりも後ろの席で、二人の様子を見守りながら笑顔で楽しんでいた。いざ、コースターが急な坂を登り、頂上で一瞬の静けさが訪れた後、一気に下降すると、あかりは「キャー!」と大声をあげて喜んでいた。寮も思わず声を上げ、家族で一緒に楽しむ瞬間を味わっていた。
「パパ、すっごく楽しかった!」とコースターを降りた後も、あかりは興奮冷めやらぬ様子で次のアトラクションへと目を向けていた。その姿を見て、寮とひかりは娘の成長を感じ、誇らしく思った。
その後も、家族で観覧車に乗り、ゆっくりと流れる時間を楽しんだ。観覧車のてっぺんに差し掛かった時、あかりが窓の外を指差して「見て!動物園があそこに見えるよ!」と嬉しそうに叫んだ。寮とひかりも、遠くに広がる動物園や緑豊かな景色を見ながら、穏やかな時間を過ごした。高所から見る景色に、寮は日常を離れた特別な瞬間を感じていた。
*** 旅行の締めくくり ***
一日を存分に楽しんだ寮たちは、夕方になり、そろそろ帰る準備を始めた。あかりは少し疲れた様子だったが、「今日はすごく楽しかった!また来たいな」と言いながら笑顔を浮かべていた。その言葉に、寮とひかりは心から嬉しく思った。
ひかりも「本当に素敵な一日だったわね。家族でこうして過ごす時間、大切にしていきたいわ」と寮に語りかけた。その言葉に、寮は深く同意し、家族との時間の大切さを改めて実感した。
「そうだな、また家族でこうして旅行に行こう」と寮も頷き、家族の絆がさらに深まった一日となった。
車に乗り込み、帰り道ではあかりが眠ってしまった。ひかりはそんなあかりの姿を見ながら、「子供がこうして喜ぶ姿を見ると、本当に幸せね」と静かに呟いた。
寮は「そうだな。こうして家族と過ごす時間が、何よりも大切なんだ」と再確認しながら、穏やかな表情でハンドルを握っていた。しかし、その心の奥底には、オカルト編集者としての経験から来る微かな不安が残っていた。
*** 帰り道での出来事 ***
寮たちは、家族旅行を存分に楽しんだ帰り道、車の中でゆったりと過ごしていた。あかりは後部座席で静かに眠っていたが、突然目を覚まし、「パパ、トイレ行きたい」と訴えた。
「そろそろ休憩するか」と寮は、カーナビで近くのトイレを探し始めた。幸い、近くに公園があることが分かり、すぐにその方向へ車を向けた。
公園に到着すると、周囲は静まり返り、人気も感じられなかった。少し薄暗くなっていたこともあり、寮は違和感を覚えたが、特に気に留めることなく、ひかりがあかりを連れてトイレに向かっていった。
寮も車を降り、しばらく公園内を歩きながら待っていたが、その時、ふと視線を感じて振り返ると、少し離れた場所に一人の女性が立っていることに気づいた。彼女は古い着物姿で、じっと寮を見つめていた。
一瞬驚いたものの、その女性の霊には特別な悪意は感じられなかった。寮が近づこうとすると、彼女は静かに口を開き、警告のような言葉を発した。
「この先のトンネルは危ない。近寄らないで…」
その言葉を残すと、彼女の姿は次第にかき消えるように消えてしまった。
寮は呆然としながら、その場に立ち尽くした。「今のは…?」と頭の中で考えを巡らせていると、ひかりとあかりがトイレから出てきた。「どうしたの、寮?」ひかりが不思議そうに声をかけてきた。
「いや、なんでもないよ。ただ、ちょっと歩いていただけだ」と寮は笑顔で答えたが、心の中には先ほどの霊の警告が残っていた。
「あかり、少し公園で休んでいこうか?」ひかりが言うと、あかりは「うん、もうちょっとここにいたい」と嬉しそうに答えた。寮たちはしばらくベンチに腰掛けて、穏やかな時間を過ごしたが、寮の心は落ち着かなかった。
*** 再び車に乗り込んで ***
しばらく公園でくつろいだ後、寮たちは再び車に乗り込み、帰路に戻ることにした。寮はふとカーナビの画面に目をやると、「この先にトンネルがあります」と表示されていることに気づいた。心の中で、先ほどの女性の霊が警告していたトンネルのことが頭をよぎった。
「…このトンネル、避けた方がいいかもしれないな」と寮は小声で呟いた。
「何か言った?」助手席に座るひかりが気づいて問いかけてきた。
「いや、なんでもないよ。ただ、道が混んでるみたいだから、迂回しようかと思って」と寮は慎重に答えた。
「そうね、安全な道を選んでちょうだい」とひかりは安心したように頷いた。寮はカーナビに迂回ルートを設定し別の道を選んで進むことにした。
車の中であかりは再び眠りに落ち、ひかりも疲れた様子で目を閉じていた。寮は慎重に運転しながら、先ほどの霊の言葉を思い返していた。
カーナビには「この先にトンネルがあります」という表示が浮かんでいた。寮は思わず霊が言っていた警告を思い出し、迂回ルートを選んだものの、車を進めるごとにトンネルの存在感が強まっていくのを感じていた。「おかしいな、カーナビの誤作動か?」
「道が少し狭くなってきたわね」とひかりが不安そうに言った。寮は無言でハンドルを握りしめる。周囲は急に薄暗くなり、あたりを覆う霧がいつの間にか濃くなっていた。遠くにトンネルの入り口がぼんやりと浮かび上がって見える。
「あれは…トンネル?」寮の声がかすかに震えた。迂回ルートのはずなのに、トンネルが目の前に現れたのだ。まるで、逃れられないかのように。心臓が跳ね上がるのを感じながらも、家族には平静を装おうとした。
しかし、車がトンネルに近づくにつれ、異様な現象が次々と起こり始めた。車内のラジオが突然、ノイズ混じりに途切れ途切れの声を放つ。「…逃げて…だめ…入るな…」かすかに聞こえる声に、寮の背筋が凍る。窓の外を見ると、道沿いの木々が強風に揺れるでもなく、一斉に揺れ始めた。
「あれ、風が吹いてないのに…」ひかりも異変に気づいたが、あかりは後部座席で再び眠り込んでいる。「こんな状況で寝られるなんて…」寮は少し不思議に感じながらも、気を引き締めた。
車がさらに進むと、トンネルの入り口に近づいた瞬間、ヘッドライトが一瞬だけ、まるで何かに吸い込まれるように消えた。真っ暗闇の中で、一瞬だけ静寂が訪れる。
「おかしいな…」寮がヘッドライトのスイッチを確認しようとしたその時、フロントガラスに無数の手形がにじみ出るように現れた。まるで外から中へ、何かが入ってこようとしているかのように、手形は次第に濃くなり、そして一斉に消えた。
「寮くん…!今の、見た?」ひかりの声がかすかに震える。
寮は声を出せなかった。ハンドルを強く握り直し、目の前に見えるトンネルの中へと吸い込まれそうになる感覚を必死に抑えながら、何とか冷静さを取り戻そうとしていた。トンネルの中から、かすかな声が聞こえてくる。今度ははっきりと耳に届いた。
「来てはいけない…戻れ…」
「これは…まずいな」寮は低く呟き、すぐにカーナビを確認した。「別の道があるはずだ」と、迂回ルートを再び確認し、意を決してUターンをした。
車がトンネルを避け、元の道へ戻り始めると、次第に霧が晴れていき、ヘッドライトも元通りに照らし始めた。ラジオもまた静かな音楽を流し始め、あたりの空気が少しずつ和らいでいく。ひかりはほっとした表情を見せたが、寮の頭の中には先ほどの現象が残っていた。
「本当に…このまま帰って良かったのか?」心の奥底に、謎を解明できなかった悔しさが燻る。しかし、今は家族の安全が第一だと自分に言い聞かせ、静かにハンドルを握り直した。
しかし、迂回ルートを進んでいくうちに、寮の心に後悔の念が湧き始めた。「あの霊の警告を無視して、このまま進んでも良かったんじゃないか」と思い始めた。オカルト編集者としての好奇心が、彼の中で静かに燃え始めていた。
突然、あかりが後部座席で目を覚まし、不安そうな声で言った。「パパ、なんか怖い夢を見たの…」
ひかりも目を開け、あかりを心配そうに見つめた。「どんな夢だったの?」
あかりは震える声で答えた。「大きなトンネルの中にいて、何か怖いものが追いかけてくる夢…」
寮とひかりは顔を見合わせた。寮の頭の中で、公園で見た霊の警告と、あかりの夢が重なり合った。彼は ハンドルを強く握りしめ、家族の安全を第一に考えながら、慎重に車を進めた。
帰宅までの道のりで、寮の中で後悔と安堵が交錯していた。霊の警告を聞き入れたことで危険を回避できたかもしれない。しかし同時に、オカルト編集者としての使命感から、真相を追求できなかった後悔も感じていた。
家に着くと、あかりはすっかり元気を取り戻していた。ひかりが「今日は本当に楽しい一日だったわね」と言うと、あかりも「うん!すっごく楽しかった!」と笑顔で答えた。
寮は家族の笑顔を見て、心の中で決意を固めた。家族の安全と幸せを守ることが最も大切だと。しかし、オカルト編集者としての好奇心は完全には消えず、いつか、あのトンネルの謎を解明したいという思いも残っていた。
その夜、寮は家族の寝顔を見守りながら、日常の平穏と超常現象の狭間で揺れ動く自分の心と向き合っていた。明日からまた、平凡な日々が始まる。しかし、今日の出来事は、彼の中に新たな冒険への種を植え付けたのだった。
ご購読、ありがとうございました。今回は、寮のプライベートの話を書いてみました。




