55話 ぼくと花子さんと透明人間
朝、登校中のぼく。登校ルートの川沿いの道を歩いていると目を疑う光景を目にしてしまう。その光景をことわざで例えるなら、[猿も木から落ちる]だ。どんなに得意な事でも失敗する事はある。マラソン選手も足をつってリタイアしてしまう事もある。漫画喫茶の店員も悪魔が執事を勤める人気漫画を棚に戻す時、順番を間違えたりする。
とにかく、思いもよらぬ人物が川で溺れていた。その人物は……
「カッパさん!」
「あっぷ、あっぷ、助けてくれぇい」
妖怪は幽霊と同様に普通の人には見えないように出来る特殊能力がある。ぼくは霊感があるらしく見えない状態の幽霊や妖怪も見えるのだが、周りを見る限り騒ぎになってないことから、今のカッパは見えない状態なのだとわかる。
「どうしよぅ、どうしよぅ」
あたふたしてると、必死に水面に浮上しようともがくカッパの方に凄い速度で泳ぎ迫る人物が… その人物はカッパと同じ緑色の体表で背中には背ビレ、手には水掻きがあり、バタフライで泳いでいる。そしてカッパを背後から捕まえ岸へ。
ぼくは救出されたカッパのもとへ。
「カッパさん、大丈夫ですか?」
「ケホッ、ケホッ、ああ大丈夫だよぃ」
受け答え出来るから大丈夫なのだろう。
「なにがあったんですか?」
「いやぁ、よっつんと遊んでいたらよぉ、よっつんが溺れて助けに行ったら俺も溺れてしまって、よっつんと川流れしちまったぃ」
「その…よっつんさんって人はどうしたんですか?」
よっつんという人物が誰なのかは知らないが辺りに見当たらないから心配する。
「ああ、よっつんはあずきが助けたから大丈夫だよぃ、あずきには人間を優先するように言ってあるからな、優秀だよ、あいつは」
カッパの発言でよっつんという人物は人間だという事がわかった。
「カッパさん、人間が好きなんですね」
ぼくが嬉しそうに言うと
「当たり前でぃ!人間の大半は俺を捕まえたがるけどよぉ、優しくして共存できる奴らもたくさんいる!嫌いになれねぇよぃ、お前もその1人だよぃ、少年」
ぼくの頭をワシャワシャ撫でる。
「ありがとうございます」
笑顔をカッパに向ける。
「おおっと、待ってくれぃ」
カッパを救出した人物は立ち去ろうとしていたが、それに気づき呼び止める。
「ホントに助かったよぃ、名前はなんて言うんだぃ?」
「ぱぱぱ」
その人物は喋っているようだ。『ぱ』と発しているが、それは声ではなく唇を開く時に発せられるリップ音だ。
「外国語かぃ?」
「違うと思います。たぶん、それしか喋れないんだと思います」
「そうなのかぃ?」
「ぱぱ」
カッパの問いに頷く。
「こっちの言葉はわかるのか、なら今日の夕方頃にあそこに見える建物の3階の女子トイレに来てくれぃ。お礼をさせて欲しぃ」
「ぱぱ」
頷いた。カッパの言葉を理解したようだ。その人物は川に飛び込み去って行った。
「あ!遅刻しちゃう」
「おぅ、俺のためにすまねぃ。ほら、行きな」
「それじゃあ」
ぼくは後ろ手に手を振りながら駆け足で学校を目指す。
~その日の放課後~
「花子さん?」
旧校舎3階の女子トイレでヒマを持て余してたぼくは見切り発車で話しかけた。
「なに?」
「えーと…」
「なによ?」
なにも考えずに話しかけてしまったせいで話に詰まる。
「あんた、ただ呼んだだけっていうイタズラ?」
「違うんです…あ、そうだ!今日の朝なんですけどカッパさんが川で溺れてました」
「『あ、そうだ!』って、あんた、なにも考えずに話しかけたわけ?」
「すみません」
申し訳なさそうに答える。
「それで?」
「驚かないんですね、カッパさんが溺れてたんですよ」
「どうせ、よっつんと川流れしてしまったんでしょ?」
「なんで知ってるんですか?」
「あいつが溺れる時はだいたい、よっつんが絡んでるのよ」
「あの、花子さんはよっつんさんのこと知ってるんですか?」
ぼくは当たり前のように“よっつん”という名前が出てきた事でその人物が何者なのか気になる。
「ん?自称ラッパーって事以外詳しい事は知らないわ」
「そうですか」
謎の人物が謎のままでモヤモヤする。
「んで?結局、あんたはカッパを助けたの?」
「いえ、別の人…妖怪が助けました」
「名前じゃなく“妖怪”って呼ぶって事は初対面の相手?」
「はい…でも、たぶん、あの妖怪は半魚人だと思います。聞きそびれたから、わからないですけど」
確証はないが9割くらいの自信があるぼく。
「ふーん」
あまり興味がないのか素っ気ない反応。
「あの、花子さん!透明人間とか知り合いに居ませんか?」
「なによ?急に」
「えーとですね、映画業界の大きなプロジェクトで○○○ユニバースってあるじゃないですか」
映画業界のユニバース作品は大きく分けると3つ程ある。1つ目は世界一有名なネズミの映画会社の傘下に入ったアメコミヒーロー達が出る作品。時には単独、時には共闘、時には集結する、まさにエンターテイメント
2つ目は先に紹介したアメコミ作品と双璧を成すアメコミ作品である。こちらも同様に単独、共闘、集結など楽しめる要素があるが、やや大人向けの内容である。
そして、3つ目は日本が誇る怪獣の王を筆頭に怪獣達がたくさん出てくる作品だ。
「あるわね、それが何か関係あるわけ?」
「ぼくが期待してたユニバース作品があるんですけど、その作品が1作目で打ち切りっぽいんですよ」
「あら、残念ね」
「製品版はわからないですげど、レンタルDVDの表紙にはシリーズ第1弾って書かれてて見る度に悲しい気分になるんです」
「それで?何が言いたいわけ?」
「そのユニバース作品の1作目はミイラの怪物の話なんですけど、次回作以降は透明人間、ドラキュラ、フランケンシュタイン、半魚人が予定されてたんです」
「ああ、そういうこと」
花子さんはぼくが言おうとしてる事を理解したようで口元がニヤける。
「つまり、あんたは叶わなかった怪物オールスターを実現させたいわけね」
「そうなんです!居ませんか?」
「残念だけど、知り合いには居ないわね。ついでに言うと半魚人も知らないわ」
「そうですか…」
ガッカリするぼく。
「マミーなら知ってるかもね。今度、会った時に聞いてみなさい」
「はい!」
まだ希望が残ってる事に元気が戻り明るく返事。
「話は聞かせてもらったぜー、俺ちゃんに会いたがってるみたいじゃんよー」
突然、誰かが会話に入ってきた。2人は声のした廊下へ視線を向ける。そこには“何か”が居た。だが、ハッキリ見える訳ではない。ハッキリ見えないのだが、うっすら透明の“何か”が見える。その“何か”は人のような形をしていた。そしてその“何か”が放った言葉から正体は容易にわかった。その名前は……
「透明人間さんですか?」
ぼくは問いかけるように名前を呼んだ。
「せいかーい!俺ちゃんの目を見て言うなんて俺ちゃん自信無くすぜー」
「なんかイヤだわ、コイツ。チャラいオーラ出まくりよ」
「ひどいぜー、花子ちゃん。仲良くしようぜー、なっ♪少年ちゃんも」
軽いノリでトイレに進入し、花子さんの頭を撫でて、ぼくにウインクした…らしい。もちろん、警戒する花子さんにそんなノリは逆効果。
「ウザい!」
いつ以来かの石鹸の出番である。石鹸の持ち味の泡など小細工なしの真っ向から物理攻撃の体当たりだ。
「はぎゃっ!」
数少ない出番で石鹸も気合いが入っていたのだろう。その一撃で透明人間はダウン。
さて、どこに命中したのかは本人の口から答えてもらうとしよう。
「俺ちゃんの俺ちゃんにピンポイントに当てるなんて、凄腕だぜ」
わからなかった人もいるだろう。目星はついてるが確信が持てない人もいるだろう。だが、長く引っ張るような内容でもないので次の会話で最後のヒントとさせてもらう。それで判断してほしい。
「ふん、私に気安く触れるからよ」
「直で直撃のダメージを受けたのは久しぶりで俺ちゃんビックリしたぜ」
「……あんた、男…よね?」
「ああ、正真正銘、このダメージ量…男の証だ…ぜ」
「服…着てるわよね?」
「想像に…まかせる……ぜ♪」
「いやああぁぁあぁぁ」
滅多に見れない花子さんの絶叫。すると石鹸は廊下へ飛び窓を潜り抜けグラウンドへ姿を消した。
おわかり頂けただろうか?花子さんが武器として使う石鹸を自分では回収不可能な外に放り投げてしまう程、嫌な場所に直撃したのだ……いや、彼は透明人間なのだから真実はあやふやという事にしておこう…
「ふぅ、痛みというか苦しみというか、なんとも言えない状況が収まった所で少年ちゃんに朗報だ!探し人のもう1人がここに向かってるぜ。ついでにもう1人……できれば、あの時代活躍してた仲間としてはそいつの名前も出てきてほしかったけど、まぁいっか!あいつバカだし」
ジャラジャラ
何かの音と共に今朝カッパを助けた人物が現れた。手には鎖を握っている。音の正体はそれだろう。その鎖の先には黒毛のオオカミが居た。鎖はオオカミの首輪に繋がっていて人間のように二本足で立っていて下半身には破けてはいるがズボンを着ていた。
さて、よっつんが気になってしまった人も居るでしょう。前にも言ったかもですが、よっつんの川流れでピンッと来た人はクスリと笑ってると思います。
それとぼくが言っていた打ち切りになった可能性があるユニバース作品ですが、探してみてください。◯◯◯ユニバース第一弾って書いてて悲しい気持ちになります。ユニバース自体は打ち切りっぽいですけど、その後に予定されていた透明人間とドラキュラは単独作品として出ています。透明人間はオススメですよ!趣味を語りすぎましたね。 それでは