53話 ぼくと花子さんとサキュバス
「お次はなんだ?」
「なにがです?」
花子さんの唐突な質問にぼくは質問で返す。
「“お次はなんだ?”、この言葉で連想する映画はなにかって聞いてるの」
「そういうことですか、言葉が足りないですよ」
「別にいいでしょ!このセリフ単体で言ってみたかったのよ。以外に機会がないのよ。あったとしても咄嗟に言えないし…それで?わかるかしら?」
「ちょっと待っててください、考えますから」
ぼくは考える。
(候補は2作品あるんだよなぁ、1つは豪華客船を舞台にしたモンスターパニック映画、もう1つはエジプトを舞台にしたアドベンチャー映画…)
2つ候補があるもののどちらを答えとして提示するか迷う。
(元ネタはモンスターパニック映画の方だった気がするけど…あの花子さんならなにかイジワルな問題の可能性もあるし…)
熟考してると
「まさか、わからないの!?そんなんじゃ映画好きを名乗る資格ないわよ」
この花子さんの質問に答えられなかったからといって映画好きを名乗る資格がないなんて事は絶対にない。だが、その映画を見たら『お次はなんだ?』、このセリフが間違いなく脳裏に刻み込まれるはずだ。
「いえ、候補が2つあって、モンスターパニック映画かアドベンチャー映画のどっちかで迷ってるんです」
その言葉を聞いた花子さんは嬉しそうにニヤける。その表情はなにを意味するのか…
「合格よ、二重丸をあげるわ。ちなみに1つだけと言われたらどっちを言うつもりだったの?」
「モンスターパニック映画の方です」
「ハナマルよ!あんた!」
先程より嬉しそうな花子さん。あの表情は同士を見つけた喜び、もっと言うなら戦友、更に言うなら自分と並び立つ強敵を見つけた喜び……単純明解に言うと趣味の合う友達である。
「あの映画って続きそうな終わり方なのに続編が作られなかったのが一番の特徴ですよね」
「そうね、あの終わり方は想像力を掻き立てる良い終わり方だったわ。表現は間違ってるかもしれないけどチラリズムに近いわね」
「なんかわかります!ニューヨークが舞台のPOV映画でも巨大な“なにか”が暴れ回ってるけど終盤までその姿は部分的にしか映らなくってワクワクしました!」
POV映画とは登場人物の目線、主観で進行し登場人物が動画撮影してるケースが多く、そのリアルさから実話だと信じてしまう人が居たり居なかったりするという。
「なぁにぃ?えっちなはなしぃ?」
2人の会話に割って入ってきた甘く誘惑するような声。その声のする方へ2人は視線を向ける。
「だれ?」
「花子さんの知り合いじゃないんですか?」
「知らないわよ、あんな露出狂」
「露出狂って口裂け女さんじゃなかったんですか?」
「あんたねぇ、それ本人が聞いたら傷つくわよ。あれはその場のノリよ。あっちに居るのは正真正銘の露出狂よ」
「ホントに知り合いじゃないんですか?初対面の人にそこまで言うなんて信じられないですけど」
「私はね、初対面だろうが思った事はハッキリ言うわよ」
「そうですね、花子さんはそういう人でした」
「その言葉、なにか含みを感じるんだけど」
「いえ、そのままの意味ですよ」
「ちょっとぉ!初対面の人を放って話を続けないでよぉ」
初対面の来訪者は堪らず会話にカットイン。
「なによ?露出狂」
来訪者の姿は髪はピンク色のショートヘア、耳は先が尖っている。服装はやたら露出が高く、ほとんど水着だ。胸は谷間が出来るほど大きくはない。背中からはコウモリのような羽とお尻辺りからは尻尾が生えている。
花子さんは明らかに警戒してる。
「露出狂だなんてぇ、やぁん♪」
照れる来訪者。
「なんなの?こいつ。あんた、いつもみたいに名前当てなさいよ」
「いつもみたいにって…うーん……」
ぼくは来訪者の体を見て、まずは特徴を探す。
「きみぃ、お姉さんに興味津々なのかなぁ?」
来訪者は前屈みでぼくに顔を近づける。その時、控えめな胸が視界に入り目を逸らす。
「かぁわいぃ♪」
ぼくは顔を赤くしながら来訪者の背後へ移動。
「羽に尻尾…」
「本物だぞぉ☆」
来訪者は羽と尻尾を動かして見せる。
「尻尾はぁ、デリケートだからぁ触っちゃダメだぞ☆」
ぼくは来訪者の正面に戻る。
「わかったの?」
「うーん、悪魔?」
花子さんの問いに自信なく答える。
「ぶっぶー、私はサキュバスって言うんだぞ☆」
来訪者…改めサキュバスはウインクと横ピース。
「きみぃ、頑張ったからぁ、お姉さんがなにかご褒美上げちゃおうかなぁ」
サキュバスは人差し指でぼくの頬をなぞる。
「あんた離れなさいよ!」
「きゃあ、女のヒステリックこわぁい」
言葉では怖いと言ってるが本当に怖がってるようには見えない。どちらかと言うと茶化してるように見える。
「あんな怖ぁい女より、お姉さんと一緒に遊ぼうよ。きみぃ」
「あ、あの、その」
戸惑うぼくの体に腕を絡めるようにして抱きしめる。
「風紀が乱れるでしょ!やめなさいよ!」
「じゃあ、一緒に乱れちゃおっかぁ」
花子さんの言葉に耳を貸さずぼくを誘惑。すると
「はぁ、はぁ、はぁ、」
激しい息づかいが廊下の方から聞こえた。
「おなごぉ」
飛頭蛮だった。彼には胴体、両腕、両足などはなく頭だけの妖怪だ。顔は60代くらいの男性で頭皮に髪はなく耳がやたら大きい。宙を浮遊して移動するため耳が羽に見えなくもない。
「なによ、あれ!?」
飛頭蛮の存在に気づき驚きを隠せないサキュバス。
「わしも一緒に乱れるのじゃあぁぁぁ!」
一直線にサキュバス目掛けて飛んでくる。
「いやあぁぁ」
「ぐはっ」
サキュバスは向かってくる飛頭蛮に回し蹴り。直撃した飛頭蛮は壁に何度かバウンドして床を転がる。
「私にも好みがあるの!二度と近寄らないでくれる」
汚らわしい物を見る目で床に転がる飛頭蛮を睨みつける。
「ひどいのじゃあぁぁ」
来て早々、飛頭蛮はトイレから出ていった。
「帰っちゃいましたね」
「どうせなら、そこの女も連れてって欲しかったわ」
「ひっどーい、私ぃ、あなたにも興味あるのにぃ」
花子さんを後ろから抱きしめる。
「花子ちゃんって名前なんだぁ、可愛い名前ぇ」
「やっ、ちょっと…やめ」
抱きしめながら、あちこち花子さんの体を触る。同性ということもあり、その行為に遠慮がない。
「ちょ、あん…た、たすけ」
「ごめんなさい」
助けを求められたが花子さんの珍しい姿に見てはいけないものを見てる気がして目を逸らす。
「久しぶりの登場でござあぁぁぁる!」
トイレ内に声が響いた。その声は廊下からだ。
「二宮さん!」
その声の主は好青年の象徴とも言える、かつて多くの学校で重宝され、今ではあまり見かけなくなってしまった二宮金次郎の銅像だった。
「ちょうどよかった、あんたでもいいわ。助けなさい」
「す、すまぬ!拙者には無理でござる」
二宮金次郎もぼくと同じ対応。
「役立たず!」
「あら、可愛い反応♪」
サキュバスは二宮金次郎に興味が移り花子さんを解放。
「助かったわ」
解放された花子さんは服の乱れを整える。
「ねぇ、お名前教えて?」
サキュバスは二宮金次郎のアゴを指でなぞる。
「に、二宮金次郎で…ござる」
緊張してるのかサキュバスの顔は見ず答える。
「ふぅん、すごい体してるのねぇ、固ぁい♪」
サキュバスは二宮金次郎の胸に凭れ体を預ける。
「ひんやり、気持ちいい♪」
二宮金次郎はサキュバスに触れないようにしてるのか、それとも抱きしめようとしてるのか両腕を広げわなわなしてる。
「好きにして…い・い・よ」
そう言うとドアをノックするように二宮金次郎の体をコンッと叩く。
「せっ、せっ……」
「『せっ』の後はなぁに?」
「拙者は武人でござるぅぅ!」
「きゃっ」
サキュバスを突き放し二宮金次郎は逃げていった。
「あいつ、なにしに来たのよ」
「さぁ?」
苦笑い。
「ここっていろんな人が来るのねぇ、他にどんな人が来るのか、ここで待たせてもらうわぁ」
「最悪だわ」
嫌そうな花子さん。
「あ、誰か来ましたよ!」
「ホント?…わぁお♪」
サキュバスは嬉しそうに驚く。
「あなたの名前教えてぇ?」
「………」
サキュバスの問いに答えない。
「恥ずかしがってるのかなぁ?」
「あ、違いますよ。その人はたぶん喋れないんだと思います」
その人物が喋ってる所を見た事がない。恐らく花子さんですらそうだ。
「すごぉい肉々しい」
その人物の見た目の表現としては間違いではない。なぜなら、その人物は人体模型だからだ。
「内臓まる見ぇ♪その右手はナニしたのかなぁ?」
人体模型の右手を触る。その右手は人体模型の本来の右手ではなく破損した右手に首なしライダーが義手を作ってあげたのだ。明らかに素材が違うメタリックカラーの右手は本人が希望したのかは不明だ。
「これは肺、これは心臓かなぁ?」
人体模型の内臓をまじまじと眺めてると
パーン
「きゃっ」
今まで体に収まっていた内臓パーツがサキュバスに向かって飛び散った。
「もぅ、だ・い・た・ん♪」
カランカラン
人体模型は慌てて床に散らばった内臓パーツをかき集めるが見つからないパーツがあるようで周りをキョロキョロ。
「はい♪心臓♪」
サキュバスから心臓を受け取り全パーツが見つかったらしく逃げるように出ていった。
「人体模型さん、帰っちゃいましたね」
花子さんに話しかけるが
「頼んだわよ」
スマホで誰かと通話中。ちょうど通話が終わったようだ。
「どうしたんですか?」
「あいつを懲らしめるわよ」
花子さんは不敵な笑みを浮かべていた。
『お次はなんだ?』、このセリフが有名な映画を知ってる人は居るでしょうか?結構オススメの作品です。検索すればすぐに見つかると思うので是非見てください!
それはさておき、この作品にエロ担当キャラ登場です。まぁ、主人公のぼくが小学生なので、そこまで過激なエロ展開はないです。ごめんね(´ε` ) それでは