49話 花子さんとひきこさん⑤
「たっだいま~♪」
「ほらね」
「きゃっきゃきゃひー♪」
三人はそれぞれ思い思いの言葉を言い3階の女子トイレに戻ってきた。だがしかし、一人だけ違和感のある言葉があった。口裂け女の『たっだいま~♪』は戻ってきた時の定番の言葉だろう。次にひきこだが、恐らく口裂け女と近い事を言っているはずだ。そして、最後にゆきおんなだが………明らかにおかしい。『ほらね』……戻ってきた時に言う言葉としては違和感がある。その言葉は何かを検証する際、その結果がわかっていた人が言うような言葉だ。
三人が旧校舎探検をした理由を思い出せば自とその言葉の意味がわかるはずだ。
「なんで裸なのよ?」
三人が戻ってきて花子さんが最初に発した言葉がそれだった。今、花子さんの目の前には口裂け女とひきこの他にその二人と手を繋ぐ露出度100%の少女が居る。
「脱げた」
質問に対してシンプルに返す。
「ええ!ゆきちゃん、いつ脱げたの~?」
「家庭科室か理科室のところ」
あっさりと脱いだ場所……脱げた場所が判明。
「きゃひ」
ひきこは脳内指示があったのか繋いでいた手を放しどこかへ行ってしまった。ゆきおんなが言った通り家庭科室……理科室の所で脱げたのだとすれば旧校舎探検の大半は露出度100%の状態で探検してた事になる。
「きゃひひー」
ものの数秒で戻ってきたその手には着物が握られていた。
「さっさと着なさい!」
「うん」
花子さんに叱られ本来の着方とは程遠い着方でスポーンッと着替え完了。
「ったく、あんたら、ちゃんと手繋いでたんでしょうね?ありえないわよ?」
「ちゃんと繋いでたよ~!ねぇ、ひーちゃん」
「きゃひ!きゃーひ!」
花子さんの叱責に反論する二人。
「もういいわ!私が確かめるから!付き合ってもらうわよ」
有無も言わせず、ゆきおんなの手を握りトイレの突き当たりへと移動する。
「いい?今からここと出入口を何度か往復するわよ!もちろん、手は繋いだ状態でよ。あんたの服が脱げて床に落ちるか、あんたが降参するまで続けるから覚悟なさい!」
どうやら、トイレの突き当たりから出入口を往復し検証するらしい。トイレから出られない花子さんにはこれが限界だろう。だが………
「いいけど、これで始めるの?」
いざ検証開始と行きたかったが、検証対象のゆきおんなが問いかける。
「うそ………でしょ」
驚きを隠せない花子さん。何故ならこの短い時間、絶対に手を放してないはずなのにゆきおんなは見事にすっぽんぽんになっていた。
「服は……どこいったのよ?」
ゆきおんなの落とし物を探す花子さん。その落とし物はトイレの出入口に近い場所に落ちていた。場所的に花子さんがゆきおんなの手を握った直後に落ちたと見られる。
「……ありえないわ」
「だから言ったでしょ~。はい、ゆきちゃん」
茫然自失の花子さんに自分達に落ち度は無かった事を主張しつつゆきおんなに着物を渡す。
「始める?」
着替えを済ませたゆきおんなは尋ねる。検証を始める前に結果が出てしまった上でのこの発言……下手したら挑発として捉えられてもおかしくない。
「こうなったら、あいつに聞いてみるか」
幸いあまりのショックでその発言には気が回らなかったみたいで何やら紙と五円玉を取り出し新しい手段を試みるようだ。
「わ~♪私もやる~♪」
その行動に最初に反応したのは口裂け女だった。
「私も」
「きゃひ」
口裂け女の嬉しそうな雰囲気に今からやる事に興味を持った二人も参加を申し出る。
「仕方ないわね。五円玉に人指し指を乗せなさい。私が合図したら[おいでませぇ]って言うのよ。わかった?」
「うん♪」
「うん」
「きゃひ」
三人は理解したようだ。後は花子さんの合図を待つだけ。
「いち、にの、さん、はい。でやるわよ。いち、……にの………」
「きゃひーひー」
「あ~!ひーちゃん、ずる~い」
合図を待たずしてフライング(?)してしまったようだ。
「あんたら短い合図すら待てないわけ?」
「だって、ひーちゃん、先に言っちゃったんだもん」
「なんでひきこの言ってることがわかるのよ?それにあいつが『きゃひーひー』で来るわけないでしょ!さすがにそんなバカじゃないわよ」
先程からやろうとしているのはコックリさんを呼ぶ儀式。彼女はプライドが高く自分の儀式には厳しい。少しでもルールを破ると怒り狂い、自分を呼び出した相手の髪を引っ張ったり、つねったりする。そんな彼女が『きゃひーひー』の一言で呼び出しに応じるとは思えない。儀式を始める以前に姿を現す事すらないだろう………
ポンッ
「何の用?」
「来ちゃったよ?花ちゃん」
「来たわね」
予想に反してコックリさん登場。
「な、なによ?呼ばれたから来てあげたんじゃない!」
「……あんたは」
「花ちゃん、花ちゃん!なんかね、ただでさえ可愛いコックリちゃんの可愛さが急上昇しちゃったよ~♪」
呆れつつ少し笑いを堪えてる花子さんの横で口裂け女は大興奮。
「せっかくだから、その可愛さに名称を付けましょうか。ポンコツ可愛いってのはどう?」
嘲笑うように提案。
「それいい!それいいよ!花ちゃん」
「決まりね」
コックリさんに[ポンコツ可愛い]の称号が付与された。
「誰がポンコツよー!バカにするなら帰るわよ!」
「まぁまぁ、落ち着きなさい。ダメな子ほど可愛いものよ」
花子さんは宥めるが、その声は笑いを堪えているためか微かに震えていた。
「バカにするなー!」
「私はどんなコックリちゃんでも平気だよ♪」
「あんたは物理的にも精神的にも私から距離を取りなさい!」
口裂け女のフォローは空振り。
「もふもふ」
「だ、誰よ?こいつ」
率直な毛並みの感想。初めて聞くその声で怒りへのベクトルが逸れ、その声の主のゆきおんなに気を向けた。
「この子は私達の新しい友達だよ~♪」
「あんたらの?ろくなヤツじゃなさそうね」
紹介した人が悪かったのかコックリさんは警戒ついでに皮肉を言う。
「あんたは初対面の相手にそんな物言いは失礼よ?」
「花ちゃんも人には言えないと思うよ~?」
「ああ?」
「何も言ってないよ~」
自分のお尻の危機を察知したのか慌てて誤魔化した。
「まぁいいわ。コックリ、こいつはゆきおんなよ。何故か服が勝手に脱げるのよ。ゆきおんなってそういう妖怪なの?」
改めてゆきおんなを紹介。そして、ゆきおんなについて尋ねる。これがコックリさんを呼び出した理由だ。
「知らないわよ。だいたいね、服が勝手に脱げるなんてありえないでしょ!」
「私も信じたくないけど事実よ。試しに手を繋いでそこら辺を歩き回ってみなさい」
「わかったわよ。あんたがホラ吹きだって証明すればいいのね。ほら、手を出しなさい」
服が脱げるのを確認するのではなく花子さんの言った事が虚言である事を証明するようだ。
「はい」
言われるがままに手を差し出したゆきおんな。そして、コックリさんがその手を握った瞬間……
「ぎゃあああぁ、冷たい!!」
悲鳴を上げ握った手を放した。
「なに手を放してるのよ?これじゃあ確かめられないじゃない」
「やっぱり、いつもの嫌がらせね!このバカ花子!」
「はぁ?」
嫌がらせと指摘されたが身に覚えがないといった様子。
「なに惚けてんのよ!こんな冷たいの触れる訳ないでしょ!」
「ごめん。ホントになに言ってるかわからないわ」
誤解が解けそうにないからか真顔で返す花子さん。
「なら、こいつに触ってみなさいよ」
「いいわよ」
花子さんはゆきおんなの手を握る、握る、握り続ける。
「冷たくないわけ?」
「ええ、全然」
「おかしいわね……」
先程の冷たさは勘違いなのかと思い恐る恐るゆきおんなに触れる。
「やっぱり冷たいー!」
結果は変わらなかった。
「ホラ吹きはあんたの方みたいね」
ホラ吹き呼ばわりされたのを根に持っていたのかチクリと一言。
「違うわよ!そうだ!わかったわ!花子、あんたホントは冷たいのにガマンしてるでしょ?」
「じゃあ、逆に聞くけど、それほど冷たいのに私が顔色一つ変えずにいられるのはどういうこと?」
「た、たしかに……」
論破され言葉がそれ以上出なかった。
「コックリちゃん、ウソ吐かなくてもいいんだよ?やりたくない時はやりたくないって言っていいの。私が守ってあげるから」
「ウソ吐いてないわよ!それとあんたに守ってもらうくらいなら、罰ゲームだとしてもやるわよ!」
「なんで~」
やはり、ウソ吐いていたとしてもコックリさんの味方の口裂け女。これまたやはり、それを受け入れないコックリさん。
「コックリはウソ吐いてないよ。花子も」
賑やかな口論にゆきおんなが入ってきた。コックリさんの身に起きた現象、その現象の中心に居る彼女なら何か知っているはずだ。
「どういう意味?私もコックリもウソ吐いてないって」
花子さんもコックリさんもウソを吐いていない……その言葉の真意を尋ねる。
「私の事を怖いとか嫌いって思うと私の体を冷たく感じる」
「そういう体質……ゆきおんなとしての特性と思えばいいのね?」
「うん」
花子さんは自分の解釈が合っているかを尋ね、ゆきおんなは首を縦に振った。
「ほら!私はウソ吐いてなかったでしょ?」
うそつき、ホラ吹きの汚名は返上できたが新たな事実が浮かび上がった。それは……
「コックリは私が怖い、それか嫌い」
平然とその事実を口にした。そんな事実を顔色一つ変えずに口にした彼女を見て感情豊かな女性が動き出す。
「ゆきちゃん、そんな悲しいこと平気で言っちゃダメだよ~!」
「私は慣れてるから平気だよ?」
本当に慣れてるとしか思えないほど表情に変化はない。
「そういうのは慣れちゃダメなの!」
「ダメのメッ?」
「そうだよ!ダメのメッ!」
叱られたゆきおんなは小さく頷いた。
「……………」
「柄にもなく罪悪感でも感じてるわけ?」
無言でその光景を見ていたコックリさんに花子さんは尋ねる。
「うるさいわね。そんなんじゃないわよ」
否定はするもののどこかセンチメンタルな雰囲気。
「ゆき!あんた、これからは遊びたくなったら、ここに来なさい!私達が相手になってあげるわ」
「ゆき?」
突然の花子さんからの提案だったが、その提案より[ゆき]と省略されたこと……愛称で呼ばれた事に反応。
「あんたの事よ」
「それニックネーム?ニックネームは友達?」
愛称で呼ばれた事の真意を知りたいのか花子さんに詰め寄る。
「べ、別に大した事じゃないでしょ!いちいち気にしなくていいの!それより、どうなの?特別に周に四回くらいまでなら来てもいいわよ」
照れつつ返答を待つ。
「うん。やめとく」
「決まりね!この私が周に四回もあんたの為に時間を使ってあげるんだもの。当然よね……………はあぁぁ!!『やめとく』ってなんでよ?あんた、あの山で毎日一人で寂しくないわけ?」
返ってきた言葉が意外だったのか驚きを隠せない。
「今は平気だけど春から秋は暑いから山を出たくない」
「な、なによそれ。ふぅ、じゃあ、あんたの好きな時に来なさい。私はいつでもここに居るから」
断った理由が自分ではなかった事がわかり少し安心した表情。
「その時は私も呼びなさい!私があんたに普通に触れる………あんたの事を嫌いじゃないって証明するんだから!」
花子さんと似て素直に言葉が言えない。優しさの表現が下手である。
「うん」
相変わらず表情が変わらないが、その返事は少し声のトーンが上がっていた……気がする。
「それじゃあ、今日はお開きにしましょうか。今の時期はあっという間に暗くなるから、口裂け女、あんたが送っていきなさい」
「おっけ~。帰ろ、ゆきちゃん」
「うん」
二人は手を繋ぎトイレから出る。
「あ、花ちゃん。脱げる脱げないは解決してないけどいいの?」
振り返りトイレ内の花子さんに尋ねる。
「別にいいわよ。これから遊びに来た時にいくらでも確かめられるでしょ」
「んふふ~♪」
何が面白かったのか嬉しそうに笑う口裂け女。
「何がおかしいのよ?」
「なんでもな~い♪ゆきちゃん、花ちゃんって優しいでしょ?」
「うん」
ゆきおんなにもその優しさが理解できたようだ。
「うっさい!さっさと帰れー!」
その二人に向かって大声で叫ぶ。間違いなく照れ隠しだろう。
「きゃあ~♪早く帰ろ、ゆきちゃん」
「うん」
茶化すようにその場から立ち去って行った。
「私も帰らせてもらうわ」
「どうぞ」
ポンッ
「ふぅ、『毎日一人で寂しくないわけ?』か……」
自分の発言を思い出し何か思いに耽る。コックリさんも帰ってしまいトイレには花子さん一人。
「きゃひ」
いや、もう一人居た。
「そういや、あんたが居たわね。ホント、謎のままよね?」
出会いは最悪だったが追い払う気はないようだ。
「そうだ。あんたがゆきを連れて来る道中の話を聞かせてちょうだい」
「きゃひ!きゃひっひ、きゃーひー。きゃっきゃひひ♪」
「そうだったわ。言葉がわからないのよね」
道中の出来事を話しているらしいが、やはり伝わらない。
「そうね………私が質問するから、あんたはそれに返事しなさい」
「きゃっひ!」
ひきこは大きく頷いた。
「あんたは外で誰かを傷つけたりしてないわよね?」
「きゃひ」
質問に首を縦に振った。
「ゆきおんな……ゆきは悪い子だと思う?」
「きゃーひー」
「そうね。私も同感よ」
首を横に振った。花子さんも同感のようだ。
「今日は楽しかった?」
「きゃっひ!きゃっひ!」
何度も首を縦に振り、それだけでも楽しかったのが伝わる。
「最後に私にあれこれ命令されて……その、平気?」
「きゃひ!」
頷きはしなかった。だが、親指を立て前に突き出し満面の笑みで答えた。
「ふふ♪なら、よかったわ。今日はありがと。それとお疲れさま」
あまりにらしくない微笑みをひきこに向け頭を撫でる。ひきこなら、この出来事を誰かに話す心配がないからだろう。
「きゃーひー♪きゃーひっ♪きゃーひっ♪きゃーひっ♪」
頭を撫でられたひきこは大喜び。今日のお使いでは叶わなかった細やかな願いが叶った瞬間だった。知らない人より、付き合いはたった1日とはいえ知り合いに撫でられた方がよっぽどいいだろう。
「なによ、そんなに嬉しいの?」
そんなひきこを暖かい目で見つめる花子さんだった。
≪次回予告≫
一枚足りない それは最初から? それとも後から? いつ数えても足りない一枚 どうすればいい? 探すしかない 探す意味あるの? 見つけても既に割れてるかもよ? それでも問題ない 手元に戻って来さえすれば でも、彼女には他にも探し物……探し人がいる そして、彼女の過去には………罪滅ぼしをしなければならないかもしれない
どうでしたか?ゆきおんなとの出会いはこれが正式な出会いです!服が脱げる理屈とか考えてもムダです!あと飛頭蛮の話は忘れて良いです。それとひきこですが、可愛く書けて満足してます!これで人気が出てくれると嬉しいなぁ(о´∀`о) それでは