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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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48話 花子さんとひきこさん④

「きゃーひー!」


 ひきこは一人の少女と手を繋ぎ花子さんのトイレに帰ってきた。


「おかえり。ゆきおんなを見つけられたよう……ね」


「ひーちゃん、おかえ……り」


 初めてのお使いをやり遂げ誉められると思いきや、トイレで待っていた二人の様子がおかしい。なにやら困惑しているように見える。


「花ちゃん、ゆきおんなさんってすっぽんぽんの妖怪さんなの?」


「知らないわよ。私だって実物は初めて見るんだから………でも、私の知る限りでは着物を着てるイメージね」


 花子さんのイメージは間違いではない。実際、ひきこが見つけ連れて来た少女は“遭遇した時は”白い着物をちゃんと着ていた。だが、今、ひきこの隣に居るのは生まれたままの姿をした少女。


「念の為に聞くけど、あんたはゆきおんななのよね?」


「うん」


 あまり感情を感じ取れないこの口調、エアリーボブに色白、着物は着てないもののひきこが見つけたゆきおんなに間違いないだろう。途中で間違えて別の誰かを連れて来たという可能性は低い。


「あんた服はどうしたのよ?」


「脱げた」


 花子さんの質問に淡白に返す。


「はぁ?なんで脱げんのよ!」


「服は脱げるものでしょ?」


 何がおかしいのかわからないと言った表情で………うーん、そういった……それに近いような表情で問い返す。


「違うわよ!服は着たり脱いだりはするけど、脱げるものじゃないわよ!」


「違うよ、花ちゃん。服はオシャレするものだよ!」


「うっさい!」


 スパーンッ


「いった~い」


 話を脱線させまいと花子さんの平手打ちが炸裂。もちろん尻に直撃。


「ひきこ。あんた、このゆきおんなとずっと手繋いでた?」


「きゃひ!」


 花子さんの問いに大きく頷いた。ひきこは下山の時も町中を歩く時も信号を渡る時も蟻の行列に大興奮した時も繋いだ手を放したりはしていない。それは現在進行形で継続している。


「あなた、ひきこって名前なの?」


「きゃーひー」


 ゆきおんなの問いにも大きく頷いた。


「私は口裂け女だよ~♪」


「うっさい!」


 スパーンッ


「いた~い、自己紹介しただけなのに~」


 脱線予防でまた尻を叩く。そして、花子さんは少し考え事をし始めた。


「手をずっと繋いでた………それなのに……ブツブツ」


「このブツブツ考え事してるのは花子さんの花ちゃんだよ~」


「口裂け女、花子」


 顔と名前を覚えるように二人の顔を見ながら名前を呼ぶ。


「百歩譲って服は脱げるものだとするわよ?でも、手を繋いだ状態で服はどこに行ったのよ?」


「たぶん道に落ちてる」


 ゆきおんなは質問に返答するが花子さんはおかしな事に気づく。


「自然に脱げるだけでも謎なのにどうやって服が道に落ちるのよ?手は放してないんでしょ?」


「うん」

「きゃひ」


 今も手を繋いでいる二人は頷く。


「なら、袖が引っ掛かって道に落ちるなんてありえないじゃないの!」


 そう、手を繋いでいる限り着物の袖は繋いだ手に阻まれ道に落ちるなんて不可能だ。


「そうなの?」


「そうよ!」


 常識を突き付けたがその常識がピンと来てない様子のゆきおんなに花子さんはキッパリと断言した。


「とりあえず、ひきこ。どっかに落ちてる服を取りに行ってちょうだい」


「きゃひー」


 ひきこは繋いでいた手を放し服を探しに行った。


「まったく、なんなのよ!あんたホントにゆきおんななんでしょうね?脱ぎ女とか新種の妖怪じゃないわよね?」


「うん。私、ゆきおんな」


 最低限の返答。彼女はそういう性格なのだろう。


「証拠とかないわけ?正直、信じられる要素が無いのよね」


「わかった。見てて」


 そう言い片手を挙げると(てのひら)から細かい氷の粒が放出される。そして、その場で踊るようにクルクル回りだすと氷の粒もそれに合わせて彼女の周りを周回する。光の反射で氷の粒が輝き幻想的な光景だ。


「花ちゃん、凄く綺麗だね~♪」


「ええ。全裸だけどね」


 感動する二人だが、花子さんはどうしても服を着てないのが気になるようだ。


「きゃひー!」


 ひきこが戻って来た。手には着物らしき物を持っている。


「おかえり、ひきこ。ゆきおんな!さっさと服を着なさい!」


「うん」


 脱げたにも関わらず帯も結ばれたまま、今でも誰かが着ているかのように一切乱れのない着物を下から頭を通し一瞬にして着替えた。


「着物ってそういう着替え方だったかしら……」


 疑問から困惑になりつつある花子さん。


「わ~♪着物かわいい♪」


「そう?」


 口裂け女の感想にも感情が動く様子は無く一言だけ返す。


「………口裂け女。あんた、ゆきおんなにこの旧校舎を案内してきなさい」


「いいよ~。でも、なんで?」


「どうしても服が勝手に脱げるなんて信じらんないのよ。だから、あんたに確かめて欲しいのよ」


 決して、ひきこを信じてない訳ではないだろうが口裂け女に確かめさせるようだ。


「おっけ~♪」


「ちゃんと手を繋ぎなさいよ!あ、そうだ。ひきこ、あんたも行きなさい。二人でゆきおんなの手を繋げば絶対に脱げないはずよ」


「きゃひ」


 指示された二人はゆきおんなと手を繋ぐ。これで両手が塞がり服が脱げたとしても左右どちらかに引っ掛かるはずだ。


「私が完璧に案内してあげるね~♪行こ~!」


「きゃひー!」


 案内人の口裂け女主導で旧校舎探検スタートする。


「まずは隣の男子トイレだよ~」


 すぐ隣の男子の紹介から始まった。


「ここはね~、あまり使う人がいないから、花ちゃんのトイレみたいな設備は無いんだ~。でも、ダーちゃんに頼んで掃除とかはしてるんだよ~」


「ダーちゃん?」


 男子トイレの説明より突然出た名前が気になった模様。


「えっとね~、首なしライダーのダーちゃんだよ」


「首が無いの?」

 

 名前から新しい疑問が生まれ尋ねる。


「うん、そだよ~。でも、見た目は怖いけど、全然怖くないよ~。ひーちゃんも一緒で怖くないよ~」


「きゃひー、きゃっきゃひひ♪」


 その笑い方で喜んでるのがわかる。


「よし!次はあっちだね~」


 そう言うと階段の前を通過し向こう側の廊下へ。


「あっちはいいの?」


 花子さんの居る女子トイレの隣……と言っても男子トイレではなく、もう片方の教室を気にするゆきおんな。


「う、う~ん……あっちは大丈夫かな」


 何が大丈夫なのかはわからないが困り顔で答える。その教室にはあまり会いたくない人物画……人物が居るからだ。


「はい!ここはね~、理科室か家庭科室だよ」


「どっちなの?」


「たぶん両方……かな?ごめ~ん、私もわかんない」


「そ」


 追求しても無駄だと思ったのか、それ以上は何も言わなかった。


「次は下の階だよ~」


 三人は引き返し階段を下り二階へ。


「廊下は走るなよ」


 二階へ着くとちょうど掃除をしていた用務員さんが挨拶してきた。


「は~い」

「うん」

「きゃひ」


 三人はその挨拶に返答し二階を探検。


「二階はね~、三年生から六年生の教室なんだって~」


「ふーん」


 口裂け女の解説に興味が無いように見えるが、それはゆきおんなの性格的なものだと思う。


「それとね、あのおじさんの前では走ったらダメだよ。すっごく怒られるんだって~」


「口裂け女は怒られた?」


「私は走らないように気をつけてるから怒られた事はないよ~」


「そ」


 二階の探検も終わり三人は一階へ。


「ここは~、あっちが一年生と二年生の教室だよ」


 一階へ下りた三人。口裂け女は早々に左側の廊下を指差し説明する。


「あっちは?」


 右側の廊下に視線を向けるゆきおんな。


「あっちは職員室と校長室があるよ~。一年生と二年生の教室は二階と同じだから、あっちを見に行こ~!」


 三人は職員室と校長室がある方の廊下へ進む。


「失礼しま~す」


 中に入った三人の目の前には職員が使ってたであろう机や椅子の数々。


「奥にあるのなに?」


「なんだろう?行ってみよ~!」


 ゆきおんなが気になったのは職員室の片隅に置いてある物だった。問われた口裂け女もわからないらしく近くで見てみるようだ。


「ぼろぼろ」


「だね~」


「きゃひぃ」


 率直なゆきおんなの感想に二人は頷く。


「あ!これ、たぶんベッドだよ!」


 口裂け女の予想は恐らく正解だろう。『ぼろぼろ』と言われた部分はマットだと思われる。


「ここでみんな寝てたの?」


 ぼろぼろの正体がわかった所で素朴な疑問が浮かんだゆきおんな。


「え?う~ん………そうだ!きっと、ここは保健室としても使われてたんだよ!考えてみればどこにも無かったもん。うん、そうだよ!」


 自分の推理に納得したように頷く。だが、他にも可能性がある。職員の寝泊まり用か警備員の仮眠用だ。もしかしたら、口裂け女の推理も含め全てかもしれない。


「よ~し、最後は校長室へレッツゴ~♪」


 そして、三人は校長室の前まで来たものの何故かその先へ踏み込まない。


「入らないの?」


「う~ん、校長室ってやっぱ緊張する~」


 理由は案内人の口裂け女が躊躇していたからだった。


「きゃひっひ?」


「ひーちゃん、大胆だね~」


「なんて言ったの?」


 何故か、ひきこの言葉が理解出来た口裂け女。その事に疑問を感じず、ただただ翻訳を求めるゆきおんな。


「んとね、『ドンッて開けちゃダメ?』だって~。でも、そんな乱暴さんは……」


「ドン」


 口裂け女が喋ってる途中でゆきおんなが全く覇気を感じない一言と共にドアに蹴りをお見舞した。その一言に覇気は感じられなかったが、ちゃんと力の込もった一撃だった。その証拠に……


 ギギギギギ バタンッ


 倒れるようにドアが開いた。もちろん、これが通常の開き方ではない。


「も~!喋ってる途中なのに~!そんな乱暴さんはダメのメッだよ!」


「ごめん」


 反省の言葉を発するが、その表情は反省とは程遠い無表情だった。表情のバリエーションが少ないだけで、ちゃんと反省はしているのだろう。今後、彼女の表情のバリエーションが増える事を切に願う。


「これ、今度ダーちゃんに直してもらわなきゃ」


「入ろ」


 ある意味、入りやすくなった事でゆきおんなが先に足を踏み入れる。手を繋いでいる二人もその後に続く。


「ここは机少ない」


「ここは校長先生の部屋だからね~」


 素朴な感想に丁寧に答える口裂け女。


「そういうの“けんりょくしゃのとっけん”て言うんでしょ?」


 恐らく、うろ覚えの知識なのだろう。保護者のような立ち位置の口裂け女に尋ねる。


「う~ん、当たってるけど、他の言い方にした方がいいかな~」


「じゃあ、“ほかのやつらとはかくがちがう”とか?」


「う~ん、それは……そんな言葉遣いはダメだよ~!」


 どこで覚えたのかは不明だが、さすがに乱暴な言葉だったため注意。


「ダメのメッ?」


「そ。ダメのメッだよ!」


「じゃあ、なんで校長先生はこんな部屋使ってるの?」


 [権力者]や[格が違う]以外の別の答えを求めるゆきおんな。


「ん~……あ!“偉い”だよ」


「えらい?“えろい”と似てる。何が違うの?」


 一文字違いではあるが似てるというだけで新しい疑問が生まれた。


「え!エロい!?え~と、え~と……」


「何が違うの?」


「きゃひひぃ?」


 ゆきおんなとひきこは“エロい”に興味津々だ。


「た、例えばね…………お、お嬢さん可愛いね~。チ、チュウしちゃおっかな~………こんな感じ……恥ずかし~」


 [エロ]という概念を言葉で説明するのはなかなか難しい。だからなのか、赤面しながら実演で教える。正直、その実演も正解かと聞かれたら疑問が残る。どちらかと言うと[変態]だ。


「チュウするの?いいよ」


 例題として言った発言を真に受けてしまったゆきおんなは目を閉じ顎を少し上げる。


「え、え!?か、かわいい!どうしよう………じゃなくて!ゆきちゃん、そういうのは大切な人とするもんだよ!こんなんじゃ悪い男の人に騙されちゃうよ!」


 あまりに純真無垢なキス顔に一瞬正気を失いそうだった口裂け女だが我に戻り注意。


「ゆきちゃんってなに?」


 そして、ゆきおんなは注意された事より、突然出た[ゆきちゃん]という言葉が気になり意味を尋ねる。


「ん?ゆきおんなちゃんだから、ゆきちゃんだよ。私ね~、友達はニックネームで呼ぶんだ~♪」


「………ゆきちゃん」


 何を思ってるのかはわからないが、自分に付けられた愛称をポツリとつぶやく。


「他の呼び方がよかった?それともイヤだったりとか?」


 少し不安そうに尋ねる。


「ううん。いいよ」


「やった~♪」


 本人の了承を得られて喜ぶ口裂け女。


「見て回ろ」


 喜ぶ口裂け女を他所に校長室の探索を始めようとするゆきおんな。手を繋いでいる他の二人はそれに続く。


「この棚なに?」


「なんだろうね~」


「きゃきゃきゃーひぃ」


 ゆきおんなが気になったのは壁一面の棚だった。しかし、その棚には一定間隔で小さなプレートが何枚も置いてあるだけで他には何もない。


「たぶん、昔は何か置いてあったんだよね。これ何か書いてる………ん~と、一期生?」


 棚に置いてあるプレートには[一期生]と書かれていた。


「あ!わかっちゃった!ここに卒業生の集合写真が置いてあったんだよ~。ほら、この隣は二期生でその隣は三期生。うん、間違いないよ!」


 自信たっぷりに推理。そこで好奇心旺盛なのか、いろんな角度からの疑問を投げかける少女に新しい疑問が浮かんだ。


「花子も?」


 言葉は少ないが、恐らく花子さんが写ってる集合写真もここに置いてあったのかを尋ねてるのだろう。


「え!花ちゃん!?え~と、え~と……う~ん…………どうだろう、あはは」


 花子さんが幽霊になった理由を知ってる口裂け女は困り顔ではぐらかす。花子さんが写ってる集合写真があったとしてもそれは皆と写るのではなく間接的で違和感のある写真だろう。


「全部見終わったね。戻ろ」


 そんな困り顔から察したのか花子さんの居るトイレへ戻るよう促す。


「うん、そだね。二人共、学校探検楽しかった?」


「うん」

「きゃひ」


「よかった~♪じゃあ、戻ろっか」


 案内人の口裂け女は仕事を全うした事を確認し三人揃って3階の女子トイレに向かう。今一度、当初の目的を思い出して欲しいが………

 今回はこの話を書く際に起きた苦労話を聞いてください。校長室に入る前のシーンなんですが、当初はひきこが張り手の如く一撃をドアにお見舞するって書いていてですね………その後に幽霊は物理的接触が出来ないという設定を完全に忘れてた事に気づいたんです(/o\) そこからいろいろ考えました。いっそ、ひきこを妖怪として設定変更しようかと思いましたが、座敷わらしの時の話で幽霊として扱ってましたし、そこから変えるとなると……(´Д`) それにひきこは幽霊じゃないといけない特殊な事情もありましたし、その案は即却下しました。 そして、次は校長室をコックリさんの儀式セットのような霊力が込められた場所にする案です。悪くないけど、またそこから派生するシナリオを考えなきゃいけなくなりますし泣く泣く却下。 そして、三人の中で唯一物理的接触が可能なゆきおんなに開けてもらう案なんですが………あの子、両手が塞がってるんですよねぇ(^-^; だから、足で開けてもらう事になったんです。なかなか苦労しましたが、その苦労も楽しかったりします( *´艸`) 矛盾を生じさせないのって難しいですね。 それでは

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