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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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47話 花子さんとひきこさん③

「花ちゃ~ん、遊びに来たよ~♪」


 ご機嫌に花子さんのトイレに駆け込んで来たのは口裂け女。


「あんた、昨日はよくもひきこと二人っきりにしてくれたわね」


 昨日は解決できるかも怪しい、ひきこ関連の問題を解決しないまま帰ってしまった口裂け女に対しチクリと一言。


「ごめ~ん。それで、ひーちゃんとは仲良くなれた?」


「ええ、そりゃあもう。下手したらあんたより親密にね」


 たった一日でそこまで言えるとは何があったのか………この後、口裂け女は身をもって知る事になる。


「え~!ずる~い!何があったの~?」


「ふん♪教えてあげるわ。ひきこ!」


「きゃひひ」


 呼び掛けに応じるようにひきこが登場。これだけでも昨日までとは二人の関係性に変化があった事が(うかが)える。


「あ、ひーちゃん。やっほ~♪」


「きゃっひー」


 以外にもノリ良く挨拶を返す。


「ホントに仲良くなったの~?」


「見てなさいよ。ひきこ、右手を挙げて」


「きゃひ」


 指示通り右手を挙げる。


「そのまま左手を挙げて、その場でジャンプよ」


「きゃひ。きゃひきゃひきゃひ」


 先程の指示は継続された状態で追加の指示に従いバンザイしながら飛び跳ねる。


「ひきこ、もういいわ」


「きゃひ」


 ひきこはピタッと行動を止めた。


「どうかしら?」


「ん~~~」


 自慢気な花子さんを他所に考える口裂け女。


「ひーちゃん、右手を挙げて」


「きゃひ」


 口裂け女の指示に躊躇う事なく右手を挙げる。


「そして~、えい、えい、おー!」


「きゃひ、きゃひ、きゃーひ!」


 口裂け女の指示……というより、動きを真似した。


「花ちゃん、私も出来たよ?」


「そうじゃないのよ!ええと、なんて言えばいいかしら………そうだ!私が頭の中で指示したら、それに従うのよ!」


 花子さんは少し考え込むとそう言い放った。


「え~、信じられない」


「じゃあ、見てなさい……」


 そう言うと花子さんは黙り込んだ。すると、ひきこが動き出す。


「ひーちゃん、どこ行くの~?」


 ひきこは口裂け女の背後に回り込む。


「黙って見てなさい。今にわかるから」


「は~い」


 警戒心がまったく無い口裂け女。何が起こるか知っていれば確実に逃げ出しているだろう。だが、もう遅かった。


 スパーンッ


「ひゃあ~ん!」


「どう?これで理解できたかしら?」


 尻を押さえながら床に倒れる口裂け女に尋ねる。


「う~、理解した~」


「ふふふ、これで野外でも間接的に活動できるわ。ひきこ!」


「きゃひー」


 花子さんの指示があったのか、ひきこはどこかへ走り去っていった。


「花ちゃん、ひーちゃんはどこに行ったの?」


 起き上がりながら、事情を知ってるであろう花子さんに尋ねる。


「ん?ああ、ゆきおんなよ。あんな山で引き籠ってるなら、ここまで引っ張り出してやるわ」


「花ちゃん、ひーちゃんはパシリさんじゃないんだよ。あんな遠くまで………迷子になったらどうするの?」


「馬鹿正直に道を歩かなければ迷わないでしょ。壁とか障害物をすり抜けて一直線にあの山を目指せばいいんだし」


 そう、幽霊にとって壁は無いような物。目的地の方向さえ分かっていれば迷路のような複雑な道でも問題にはならない。


「そうだけど………それにホントにあの山にゆきおんなさんが居るかはわからないんだよ?」


「別にいいわよ。居ないって事がわかる訳だし。まぁ、ひきこには暗くならない内に帰って来るよう指示してるし、居ても居なくても夕方には帰って来るはずよ」


 かくして、ひきこのちょっとした冒険が始まった。


「きゃひひひひひひひひー」


 花子さんの指示を受け迷う事なく道をひた走る。


「きゃひひー?」


 順調に思えたが横断歩道の手前で立ち止まった。周りをキョロキョロ見回している。


「きゃひぃ」


 雰囲気から察するに目的地を見失ったようだ。丘の上にある旧校舎3階からはハッキリと見えたが今は麓に下り建物が行く先を遮り目的地の山が見えなくなっていた。


「きゃひー?」


「ママ。知ってる?赤信号は[止まれ]なんだよ」


「よく知ってるわねぇ。偉い偉い」


 悩んでるひきこの隣で女の子と母親の会話が聞こえてきた。ちょうど歩行者信号が赤だった。そして、信号は赤から青に変わる。


「青になったよ。青は何かわかるかなぁ?」


「青は[進め]だよ。今なら信号を渡ってもいいの!」


「きゃひぃ」


 親子の会話を聞き歩行者信号が青になったのを確認する。


「それじゃあ、渡る時はどうするかわかるかな?」


「んーとね、右見て左見て車が来ないか確認して、もう一回、右見て左見て車が来なかったら手を挙げて渡るの!」


「じゃあ、やってみようか!」


「うん♪」


 女の子は先程、自分が言った事を完璧に実践し母親と一緒に横断歩道を渡る。


「きゃひ、きゃひ、きゃっひ!」


 ひきこも女の子を見習って同じ行動をし親子と一緒に手を挙げ渡る。


「ママ!私、上手に出来た?」


「うんうん、上手上手♪」


 渡りきった親子とひきこ。母親は愛おしそうに女の子の頭を撫でる。ひきこはそれを見つめていた。


「きゃひぃ♪」


 すると母親の方へ頭を差し出す。


「スーパーはまだ先なの?」


「あと少しだよ。行こっか♪」


 そのひきこの行動には気づかず親子は立ち去ってしまった。


「きゃひぃ」


 肩を落とすひきこ。自分も頭を撫でて欲しかったのだろう。


「きゃひー。きゃひ!きゃひ!」


 突然、首を振り頬をパンッパンッと叩き気合いを入れ直した。


「きゃひーー!」


 宛もなく走り出した。


「きゃひひぃッ!」


 少し走ると急ブレーキ。建物と建物の間から目的地の山が見えたのだ。


「きゃひっひ!」


 目の前の建物は親切に山までの道を空けるはずもなく、ひきこは直感で進む。幽霊としての特性を利用すれば良いのだが、素直に歩道を歩き、そのせいでまた見失ったり、いつの間にか反対方向に進んでいたり、蟻の行列に大興奮したりして、ようやく目的地の山の麓まで辿り着いた。


「きゃひぃ」


 緊張してるのか、ゴクリと息を呑み。今は2月、降った雪は町中ではほとんど溶けて見掛けなかったが、山には手付かずのまま残っている。


「きゃひ、きゃひ」


 そして、道無き道を歩き出し、雪山登山スタートだ。


「きゃひー」


 開けた場所に着いた。どうやら、頂上らしい。勘違いしないで欲しいのだが、頂上までの道のりは決して楽な道ではない。それなりに時間も掛かった。その道のりがダイジェストにすらならなかったのはただただ何も起きなかったからだ。


「きゃひ?」


 ほとんど雪しかない場所に昔話に出てきそうな木造の家があった。


「きゃーひ」


「あなた、誰?」


 ひきこは家を珍しそうに観察していると誰かが声を掛けてきた。その人物はエアリー感ある水色のボブヘアーで肌は色白で白の着物を着ている少女だった。


「きゃひ、きゃひきゃひ」


「なに言ってるかわからない」


「きゃひぃ」


 伝えたい事を伝えるのは時に難しい。特にひきこの場合は言語に縛りがある。


「よくわからないけど、私の家に入る?」


 少女はあまり警戒する素振りはなく家に招待する。どうやら、ひきこが観察していた家は少女の家だったようだ。


「きゃひー。きゃひきゃひ………きゃひっ!」


 御言葉に甘え少女の家に足を踏み入れようとした矢先。玄関横に【ゆきおんな】と表札が書いてあるではないか。


「きゃひきゃひ、きゃーひっきゃひ?」


 言葉が通じないが必死でその表札を指差したりして少女に尋ねる。


「ん?これ、私の名前」


 必死のジェスチャーが功を奏し少女から言質(げんち)が取れた。


「きゃっひー♪きゃひきゃひ、きゃっきゃひひ!」


「なに?」


 ひきこはゆきおんなの手を掴み歩き出す。


「きゃっひー♪きゃひきゃひ、きゃっひひひ♪」


「楽しそうだね。なにがそんなに楽しいの?」


「きゃっひ、きゃっひ、きゃっひひひ♪」


「やっぱり、なに言ってるかわからない」


 理由も言わず………いや、恐らく言ってはいるのだろうが………ともかく、そんなひきこに興味があるのか、文句の一つも言わずついて行くゆきおんな。普通なら初対面の相手にこんな事されたら確実に警戒する。そうならないのはひきこの無邪気な笑顔のおかげだろう。


「どこ行くの?」


「きゃっひー!」


 下山途中、質問されたひきこは向こうに見える丘の上にある旧校舎を指差す。


「あなた、あそこから来たの?」


「きゃひ!」


 大きく頷いた。そして、特に何もなく山を下りる事が出来た。


「私、山を下りたの初めて」


「きゃーっひ!」


 初めて山を下り不安そうな……不安なのだと思う、ゆきおんなに自分に任せろと言わんばかりに自分の胸を叩く。


「きゃひ、きゃひ、きゃひ」


「人、いっぱい」


 二人は町中を歩く。ゆきおんなは人の数に驚ている……のかもしれないが、正直、それほど多くはない。


「きゃひ!」


「どうしたの?」


 ひきこが急に立ち止まり、手を繋いでいるゆきおんなも立ち止まる。


「きゃひ!」


「なに?」


 止まった場所は横断歩道手前。歩行者信号が赤だった。


「きゃひー。きゃひきゃひ」


 空いてる方の手で歩行者信号を指差し渋い表情で首を横に振る。


「ダメってこと?」


「きゃひきゃひ」


 ひきこは頷く。なんとかジェスチャーで意思疏通は出来ている。そして、信号は青に変わる。


「きゃひ!」


「あっちに何かあるの?」


 急に右を見たひきこに尋ねる。


「きゃひ!」


「あっちに何かあるの?」


 次に左を見たひきこに尋ねる。それをもうワンセット行った。ゆきおんなの質問も込みでワンセットだ。


「きゃひー!」


「手を挙げるの?」


 空いてる方の手を挙げたひきこを見てゆきおんなも手を挙げる。そして、二人一緒に横断歩道を渡った。


「きゃひー。きゃーひ、きゃーひ♪」


「なんで撫でるの?」


 やはり、言葉がわからないから真意は不明だが、保護者のような感覚でゆきおんなに接しているのだろう。


 再び二人は順調に歩き出す………と思いきや、しばらくすると二人は道端でしゃがみ込んでいた。視線の先には蟻の行列。


「きゃひー、きゃっきゃきゃきゃ、きゃひー♪」


「この黒い小さな生き物はなに?」


「きゃひぃ」


「うん。全然わからない」


 蟻の行列に大興奮のひきこに対しあまり感情を感じ取れないゆきおんな。だいぶ温度差を感じるが恐らく今の状況は嫌ではない………のだと思う。


「きゃーひ、きゃーひ、きゃーひ」


「あなたが来た所に行かなくていいの?」


 今の状況が飽きた訳ではないのだと思う。ただ当初の目的から遠ざかりつつあると思い質問したのだろう。


「きゃっひーーー!」


 目的を思い出し慌てて立ち上がり、握りっぱなしのゆきおんなの手を引き歩き出す。


「きゃひー!」


「なんか、周りの人が私のこと見てるから姿消すね」


 夢中で歩き続ける二人だが、周りの視線に気づいたゆきおんなは姿を消し見えない状態になる。普通の人には見えなくなっただけでひきこにはちゃんと見えてるから問題はない。


 そして、いろいろあったが無事に旧校舎に辿り着いた。

 こんなにひきこが活躍したの初めてですね!それに『きゃひ』のバリエーションをいろいろ披露できました( *´艸`) 書いてる内にひきこがカワイイと思いながら書いてました( ̄∇ ̄*)ゞ それでは

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