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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
72/151

43話 メリーさんとメアリーとメリーとマリー

「ふぅ、今日も忙しい…」


 少し疲れたような表情を見せる、この女性はブラッディメアリー。地域によってはマリーやメリーとも呼ばれている。


(………てメリーさん、…………さいメリーさん、……んな…いメリーさん)


「また、呼ばれてる」


 彼女の周りには無数の窓のような物がある。


「あっちかな」


 彼女は1つの窓の方へ。その移動は宇宙にいるかのように重力を感じさせない。


 窓に向き合うと向こう側に1人の少女が見える。少女はケータイを耳に当て、すごく怯えてる様子。


「よし!」と気合いとやる気を入れるブラッディメアリー。


「あああぁぁぁぁぁあ」


 (かす)れた声で少女に向けアピール。少女はブラッディメアリーに気づき耳に当ててたケータイを落とし気を失った。少女が倒れると後ろにはフランス人形がいた。


 ~ブラッディメアリーが少女を脅かす少し前~


 1人の少女が下校中。


「どうしよう、こっちの道の方が近いけど……」


 少女は近道を通るか迷っていた。その近道とは川沿いにある運動公園だ。明るい時間帯は子供から年輩者まで思い思いに楽しみ良い場所なのだが……


「ここ外灯がほとんど無いんだよね」


 少女が迷ってる原因はこれだった。外灯がほとんど無いせいで暗くなると人も居なくなるり、かなり怖い。そして、近くには霊園もあるのだ。と言っても霊園は公園より高い位置にあるので公園を歩く程度では墓が見えたりはしない。それでも恐怖への十分なスパイスにはなる。


「仕方ない。早歩きで行こう!」


 少女はこの近道を通る事にした。


「うわぁ、こわぁ。あっちのパチンコ屋さんこっち側に建てて欲しかったなぁ」


 川の向こう岸を見てぼやく。その向こう岸にはパチンコ屋が明るく光を放つ。あの規模の建物だと恐らくチェーン店だろう。周りが住宅街という事もあり目立つ。


「ふぅ、ここで半分くらいか……」


 少女は立ち止まった。そこは公衆トイレがあり、そして、ほとんど無いとは言ったが決して無い訳ではない外灯がある場所だ。暗闇の中で心を落ち着かせる事が出来るセーフティーポイントだ。


「あれって人形?」


 少女はセーフティーポイント近くのベンチにフランス人形が座るように置いてある事に気づく。


「……っ!」


 少女は何かを感じたのかセーフティーポイントでゆっくりする事なく再び歩き出した。


(なに、あの人形!背もたれも無いのになんで座れてるの!?)


 フランス人形が置いてあったベンチは前後どちらからでも座れるようになっていて背もたれは無い。それなのにフランス人形が座れてる事に恐怖を感じたのだろう。だが、よく考えたら単体でも座れる人形はいくらでもある。そこに考え至らなかったのは時間帯、周りの雰囲気がそうさせたのかもしれない。


 だが、少女の判断は正しい。なぜなら……


 プルルルルルルル


「ひっ!で、電話か。メリーさん?そんな友達いたっけ?」


 不審に思いながらも電話に出てみる。


「もしもし?」


『わたし、メリーさん。いま公園のベンチにいるの』


 プープープー


 電話は切れてしまった。


「はっ、はっ、はっ、嘘でしょ!嘘でしょ!嘘でしょ!」


 少女は早歩きから駆け足に変わっていた。先程の電話の内容を信じるなら公園のベンチに居る誰かからの電話なのだろう。ただのイタズラならいいが、ちょうど電話が掛かってくる少し前にベンチに座っているフランス人形に恐怖を感じたばかり。こんな偶然はあるのだろうか。


 偶然とは思えないタイミングであのような電話……少女は駆け足から全力ダッシュになっていた。背後は決して見ない。周りが暗いからというのもあるが、背後にあのベンチに座っていたフランス人形が居るかもしれないという恐怖がそうさせているのかもしれない。


「はぁはぁはぁ、あと少し」


 公園はまだ先に続く道があるが、途中で脇道があり、その先には傾斜角度が大きい階段がある。少女はその階段を全力で駆け上がる。


「はぁはぁ……はあぁ、助かった」


 階段を上り切った先には公園とは違い外灯があり明るく、巨大な団地が目の前に広がっていた。


「もう二度とこの時間帯にこの道通らないでおこう」


 恐怖から学んだ教訓を胸に少女は歩き出す。


(こんな団地の真っ只中な所に保育園って儲かってそうだなぁ)


 恐怖が過ぎ去り少し下世話な事を考える余裕が出てきたようだが恐怖はまだ続いている。


 保育園を通り過ぎ、しばらくすると……


 プルルルルルル


「え!ウソ……でしょ」


 携帯が鳴り少女の顔は強張る。携帯の画面には[メリーさん]と着信相手の名前が表示されていた。


「……もし、もし?」


『わたし、メリーさん。いま保育園の前にいるの』


 プープープー


 恐る恐る電話に出ると前回と同じように名を名乗り現在地を告げ電話が切れた。


「……そんな」


 恐怖が続いている事を知り表情が曇る。しかも公園のベンチから移動しているようだ。


「逃げなきゃ!」


 保育園を通り過ぎて、ある程度距離はあるものの恐怖から逃れる為に走り出す。


 プルルルルルル


 コンビニを通り過ぎたタイミングで電話が鳴った。


「はぁはぁ、もし……もし」


 走りながら息も切らし電話に出る。


『わたし、メリーさん。いまコンビニの前にいるの』


 プープープー


 今までと同じように電話が切れた。


「んんんんん!」


 泣き出しそうな声を上げ走る速度が上がる。今の電話はコンビニを通り過ぎたタイミングで鳴り、電話の相手はそのコンビニの前に居ると言う。それは目視できる距離まで恐怖が迫っている事を意味する。


「はぁはぁはぁ、着いた!カギ!カギ………あった!」


 少女は一軒の家の敷地に入り玄関前でカギを探す。どうやら、ここが少女の自宅らしい。


 ガチャ


 玄関のドアを開け勢いよく飛び込み、すぐさま施錠した。


「はぁはぁはぁはぁ……怖い、怖いよぅ」


 最初の電話は始まり、二度目の電話は移動している事がわかり、三度目は確実についてきている……四度目はどうなるのか。得体の知れない恐怖に怯える中……


 プルルルルルル


 四度目の電話が鳴った。


「………もしもし?」


 着信相手を確認する余裕もなく電話に出る。


『もしもし、ママだけど今日ね、隣町のスーパーが特売日だから少し遅くなるわ』


「なんだ、ママかぁ」


 母親の声を聞き安心し玄関のドアに背中を預け座る。


『何か食べたいのとかある?』


「え?うーん、なんでもいいよ」


『それ昨日も食べたじゃない』


「え……なに言ってるの?ママ」


 トンチンカンな返事に思わず聞き返す。


『えー、あれ美味しかったんだもん。おねがーい』


『もう、仕方ないわね』


「え?え!?なに?私の……声?」


 携帯の向こうでは母親と自分と同じ声の人物が会話している。


『ママ、デザートもお願いね♪』


『調子に乗らないの!』


『えへへ♪』


「ママ!その子、私じゃない!気づいて!」


 少女の訴えは届かず携帯の中では親子らしい会話が続けられる。


『それじゃあ今度、肩叩きしてもらおうかなぁ……』


 この母親の言葉で会話が途切れたかのように沈黙が続く。その突然の沈黙のせいで少女は自分がいま一人である事を認識する。静まり返った自宅、ジワジワと恐怖が増していく。


「ママ?なにか喋ってよ」


 その恐怖のせいで自分ではない誰かと喋っていた母親に喋りかける。


『…………………………………………わたし、メリーさん。いま、あなたのお家の前にいるの』


「っ!!」


 悲鳴を上げそうになったが必死で堪える。自分が凭れているドアの向こうに電話の相手が居るかも知れないからだ。


「ふっ、ふっ、ふっ」


 浅い呼吸を細かく連続で繰り返す。呼吸音ですら気を使わなくてはならない状況なのだろう。そして、少女はドアの覗き穴から向こう側を見る。


「ひぃぃぃっ!」


 あまりの恐怖に手に持っていた携帯を落とし腰が抜け尻餅を突く。少女が見たのはあの公園のベンチに置いてあったフランス人形の顔だった。まるで覗き穴から家の中を覗き込むようだった。


「いや!いや、いやあぁぁぁあ!!」


 少女は携帯を拾う事なく足がもつれながらもその場から逃げ出す。今まではただのイタズラの可能性もあった。だが、見てしまったのだ。あの人形がドア一枚越しにまで自分を追い掛けて来たのを。


「はぁはぁはぁ、イヤだ!イヤだ!イヤだよ!」


 少女が逃げ込んだのは風呂場の脱衣所。玄関のドアよりはかなりセキュリティレベルが落ちるが、しっかりカギも閉めた。


「携帯は………ううん、もう要らない」


 毎回、恐怖を告げる携帯は諦める。


「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ」


 呼吸を必死で整え脱衣所のドアに耳を当て電話の相手……メリーさんと名乗る相手の動向を音で探る………相手も手詰まりなのか何も起きない。その代わりに……


「………風?まさか!」


 微かな風を感じ風呂場へ。


「開いてる……閉めなきゃ!」


 風呂場の窓が開いていたのだ。窓には格子がされていて、あのフランス人形が入って来れるような場所ではないが急いで施錠した。そして、風呂場から脱衣所に戻ってくると……


 ガチャ


 施錠したカギが開く音がした。それは幸いと言っていいのか脱衣所のドアからではなかった。しかし、最悪な事にその音は玄関がある方から聞こえた。


「ひぃぃっ!」


 脱衣所のドアから離れ侵入者に備える。


「ガチガチガチ」


 だが、無力な少女は怯える事しか出来ない。恐怖で震え歯が音を立てる。そして、あの音が鳴ってしまう……。


 プルルルルルル


「え!な、なに!?」


 何度も恐怖を告げた音が脱衣所内に響く。


「なんで……ここに?」


 なぜか玄関で落としたはずの二つ折り携帯が開かれた状態で洗面台の鏡の前に立て掛けられていた。画面には[メリーさん]と表示されている。


「イヤだ……イヤだよぅぅ」


 プルルルルルル


 携帯に触れる事すら拒絶する少女。だが、携帯は鳴り続ける。そして……


 プルルル プルプル ルルルル プル……プルル………プープー プルプルル


 着信音に変化が起きた。音量が上がったり下がったり途切れたり。それはまるで電話の相手の感情のようにも思える。それは怒ってるのか嘲笑ってるのか悲しんでいるのかわからないが、異常な状況なのは確かだ。


「ううぅ……ぐすん」


 異常な状況に耐え兼ねた少女は携帯を手に取り電話に出る。


 前回の電話はドア一枚越しにまで迫っていた。恐らく次の電話……つまり今の電話はこの現象の最後……限りなく“終わり”に近い何かが起こるだろう。その“終わり”は少女にとって何を意味するのか。


「ゆるしてメリーさん、ごめんなさいメリーさん、ごめんなさいメリーさん」


 電話に出るなり許しを請い謝った少女は何を思っているのだろう。公園のベンチで見掛けた時に話し掛けたり優しくしてあげればなどと思っているのかも知れない。無力な少女には謝り許しを請う事しか出来ない。だが、無情にもトドメに等しい言葉が……


「わたし、メリーさん。いまあなたのうしろにいるの」


 その声は携帯から聞こえた声ではなく少女の背後から聞こえた。


「……………」


 あまりの極限状態に言葉は出ず、呼吸すら忘れる。


「あああぁぁぁぁぁあ」


 後ろを振り向く事が出来ない少女に追い打ちを掛けるように目の前の鏡に血塗れの女性が映し出されていた。


 バタンッ


 極限状態のその先に達した少女はその場で気を失い倒れた。


 〜そして、冒頭へ繋がる〜


(あのフランス人形はなにかしら?浮いてる……わよね?)


「あんた、どういうつもり?わたしの獲物だったんだけど?」


 ブラッディメアリーが不思議がってると向こうからは喋った。


「え?私は呼ばれたから来ただけで……」


 浮いてる時点でそのフランス人形は自分と同類もしくはそれに近い存在と判断したのか言葉を発した人形に普通に受け答えする。


「呼ばれたからぁ?あんた、呼ばれればどこでも行くわけ?とんだ尻軽ね」


「初対面で失礼なんじゃないですか?まぁ、私が獲物を横取りしたんじゃなくて私の方が怖かったってことでしょ?」


「言ったわね……いまわたし怒ってるの」


 人形という事もあり表情が読み取れないが怒っているらしい。


「あなたなんか怖くないわ!鏡の中にいる私には何もできないでしょ?」


 するとフランス人形は勢いよく鏡にぶつかりガンッと音が鳴る。


「ひっ!ほ、ほら!あなたには何も出来ない!」


 ブラッディメアリーは驚きはしたもののメリーさんが鏡の中に入れないと知り挑発を続ける。


「たしかにこれじゃムリそうね」


 フランス人形は鏡から離れると人形の体から何かが抜け出る。


「これならいけるかもね」


 なんとフランス人形から出てきたのは人形と似た容姿の少女だった。こちらが本体なのだろう。


「ム、ムダよ」


 強がるブラッディメアリーだが、人形から出てきた少女は鏡へ手を伸ばし、そのまま鏡の中にいるブラッディメアリーの胸ぐらを掴む。


「ムダじゃなかったみたいね」


「そんな!」


 ブラッディメアリーの胸ぐらを掴んだ少女は自分の方へ引っ張る。


「へべ」


 ブラッディメアリーは鏡に張りついたような状態になり、それと同時になにかに引っ掛かった感触。


「あんた、もしかして鏡から出られないの?」


「ふん!ふん!」


 頷くブラッディメアリー。


「花子と似たようなタイプか……それならわたしから」


 少女は鏡にダイブ。


「へぇ、鏡の中の世界ってこんな感じなのね」


 暗い空間の中に無数の窓があり、その1つ1つが現実の鏡に繋がってるようだ。


「それはそうと、どうしましょうか?あなたを」


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


 ブラッディメアリーは頭を下げ必死に謝る。


「あっさり降参なわけ?」


「だって、争い事は苦手ですし」


「あっそ、あーあ、せっかく模範解答以上の大正解のリアクショの子に出会えたのに台無しよ。こんなの久々だったのに」


「なんか、ごめんなさい」


「もういいわよ、新しい獲物探すわ」


 少女が立ち去ろうとすると


「まって!たぶん同業者ですよね?」


「たぶん、そうよ。なに?」


 こんな特殊な事を日常的にやっているのに[同業者]、この一言だけで肯定できるのは正しく同業者だからだろう。


「せっかくだから話を聞かせてください!お互い苦労してるみたいですし」


 それから、互いに苦労話を話し自己紹介。フランス人形……改めメリーさんは相手が電話に出なくなり最後まで出来ないこと、ブラッディメアリーはいろんな呼び名や忙しさなどを愚痴る。


「あんたもわたしとは正反対だけど苦労してるのね」


「うん…私、ちょっと思ったんだけど…メリーさん!!」


 ブラッディメアリーは急にメリーさん(霊体)の手を両手で握る。


「私の代わりにブラッディメリーをやってみない?」


「はぁ?なんで?」


 突然の提案に聞き返す。


「だって、あまり仕事うまくいってないんでしょ?ブラッディメリーはそんなに出番多くないし、ちょうど名前がメリーだし、それに少しでも仕事量が軽減できたら私も助かるし」


「………悪くないかも」


「ホント!じゃあ、よろしくね!メリーちゃん♪」


「馴れ馴れしいわね…まぁいいわ、よろしくねメアリー」


 これが2人のメリーの出会い……いや2人のメリーとメアリーとマリーの出会いだった。



 ≪次回予告≫


 おっす!わし飛頭蛮 次回はわしとあの美少女の出会いの話なのじゃ あの美少女がどうして今は穏やかに過ごせているのか それはわしが…… いや、ここでは語るまい それじゃあ、次回もぜってぇ見てくれなのじゃ!

 どうでしたか?メリーさんとブラッディメアリーの出会いは?実はこの話ですが【ぼくと花子さんとメリーさん】に書く予定だったんです。ていうか実際、当初は書いてあったんです。それをボツにして単体の話にしたのは回想として入れると強引な流れになりそうだったからです!単体の話にした判断が正しかったかは皆さんに委ねます(*´艸`*)  それと今回すごく拘ったのが少女が通った公園です。実はですね……実際に存在する場所なんですよ!更に言うとベンチに座る人形も私が経験した実話なんです!さすがにメリーさんに追いかけ回されはしなかったですよ。興味がある方は探してみてください。ヒントになりそうなのは[川沿いの公園]、[向こう岸にある大きいパチンコ屋]、[公園の隣に霊園]。霊園に関しては不確かです。他には[公園脱出時の急勾配の階段]、[団地に保育園]です。探し当てる人は居るかな? それでは

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