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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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41話 口裂け女と花子さん②

「ここだよね……」


 口裂け女が辿り着いたのは2階建てのアパート。2階に上がり角部屋の前に立つ。


「入って大丈夫かな?いきなり、お祓いされたりしないかな…」


 慎重に部屋に進入。


「誰だ!」


 言葉と同時に御札が飛んできた。


「きゃ!」


 それは口裂け女の額に張り付いた。


「なんか、また増えた~」


 体に張り付く紙が1枚増えた事を嘆く。


「お主、何用だ?」


 男性が現れた。先程の声と御札はこの男性によるものだ。


「私、あなたに聞きたい事があって…あれ?」


 男性のもとに歩み寄ろうとするが体が動かない。


「勝手に進入してきたのだ。当然の対処であろう」


「私、悪い事しないよ、肩の紙を見て」


 いつの間にか肩に張り付いていた紙を見るよう促す。


「うむ」


 紙を手に取り見る。


「お主、花子の関係者か?」


「関係者?う~ん、まだちがうかな」


「まだとは?」


「だって、私、まだ友達になれてないんだもん」


「お主、花子と友達になる気か?」


 驚く男性…その声は期待が込められている。


「そのつもりだけど怒らせちゃった……私、花子さんのことなにも知らなくて…花子さんと直接話をした霊媒師ならなにかわかるかもって聞いて……あ!霊媒師さんですよね?」


「ああ」


 頷く男性…改め霊媒師は口裂け女の拘束を解く


「なにが聞きたい?」


「えっと、花子さんの友達って誰ですか?」


「花子の友達か……名前はたしかサヨ」


「サヨちゃん……今は?」


「死んでおる」


 声は出なかったが驚き口に両手を当てる。


「死んだ後もそれに気づかず同じ死を毎日繰り返していた。花子はそれを毎日見ていたかもしれぬ」


「そんな!」


「そして、成仏した……救いは短い時間ではあったが最後に生前のように2人は楽しそうに会話をし見送る事ができた事であろうな」


「私……謝らなきゃ!」


「待て!」


 部屋から出ていこうとする口裂け女を呼び止める。


「お主、花子の友になるのか?」


「わからない…でも謝らなきゃいけないの!」


「勝手な事を言うかもしれぬが花子の友になってくれぬか?私には救えなかった……だから」


「ごめんなさい……あ!花子さんと友達になりたくないわけじゃないの!救うために友達になるんだったら、また花子さんに怒鳴られる。友達に“なる”じゃなくて友達に“なってた”が一番の理想かもって思うの」


「そうか」


 自分の頼みは受け入れてもらえなかったが、どこか嬉しそうな霊媒師。


「ならば行ってくるがよい」


「ありがとうございました~」


 後ろ手に手を振り口裂け女は出ていった。


 口裂け女は無我夢中で旧校舎を目指す。そして


「花子さん!ごめんなさい!」


 旧校舎3階の女子トイレに入るなり謝る口裂け女。


「なにしに来たのよ?」


「私、霊媒師さんから話を聞いて、花子さん謝らなくっちゃって、無神経だった。ホントにごめんなさい!」


「あいつ……それで?謝ったから友達になってって言うわけね」


「ちがう!言わないよ」


「じゃあ、なんのために…」


「言ったでしょ、謝りに来たって」


 そう答える彼女の瞳は一片の曇もなく花子さんを見つめる。


「その紙、どうすんのよ?」


「え?ん~思ってたより気にならないって言うか、言われないと気づかなくなってきたし、このままでいいかな~って思っちゃったり」


 笑いながら頬を掻く。


「あんたって……」


 張り詰めた糸が緩む感覚を覚えた花子さんは咄嗟に口裂け女に背を向ける。


「用は済んだでしょ、帰りなさい」


「うん」


 口裂け女が立ち去るのを十分に待ち廊下へ振り返る。


「花子さん、どうしよう、外が暗くなってる~」


 そこにはまだ口裂け女が居た。


「それがどうしたのよ?ていうか、なんでまだ居んのよ」


「だって、夜は怖いよ~」


「あんた、幽霊…よね?」


「うん」


「幽霊が夜を怖がるんじゃないわよ。私なんて1日で慣れたわ」


「花子さんは強い子なんだね」


「褒めてもなにも出ないわよ……帰らないわけ?」


 一向に帰る様子を見せない口裂け女に尋ねる。


「泊まってっちゃダメ?」


「………勝手になさい」


「ありがとう♪」


 足を抱え床に座る口裂け女。


「私ね~、花子さん探しにあちこち探し回ったんだ~」


「あっそ」


 素っ気なく返す。


「3階の女子トイレに居るらしいって聞いたから、いろんな建物に入って調べたけど全然見つからなくて~」


「ふぅん」


「それでね、テレビ局の人が小学校に居るって教えてくれて、ようやく見つけたんだよ~」


「ちょっと待って!あんた、それまでどこを探してたの」


「おっきいビルやデパート」


「ぷっ……あははは、あんたバカじゃないの?」


 思わず吹き出し笑う花子さん。


「バカじゃないよ~」


「あんた、この私“トイレの花子さん”を探してたんでしょ?そんな場所に居るわけないじゃない」


「だって、花子さんの事知らないんだもん」


 頬を膨らませる。


「『だもん』って、あんた、いくつよ?」


「26!」


「それ、死んだ年齢じゃなくて?」


「26!」


 年齢に関してはこれ以外答えてくれそうにない。


「……私、かなり有名なのよ」


 年齢の話は不毛だと思い話題を変えた。


「私も有名だと思うよ~、マスクを外さなくてもビックリされちゃうんだから!」


「マスク外したらなにかあるわけ?」


「ん~見た方が早いかも」


 口裂け女はマスクを外した顔を花子さんに見せる。


「その口…」


「これが原因で自殺したと思うんだ~、覚えてないんだけどね~、エヘヘ」


 笑いながらマスクを着ける。


「あまり見せたくなかったでしょ……ごめん」


「気にしないで~、それより、お互い有名って言うわりにお互いの事、全然知らなかったね~」


「たしかにね」


 有名なはずの2人は今回の出来事がなければ、お互いのウワサすら知らなかった。


 それから2人はお互いの身の上話などを話し続け、気がつけば空が明るくなってきていた。


「もう朝だ~、花子さん!泊めてくれてありがと♪帰るね」


「…そう」


 口裂け女は帰った。


(そういえば、夜の時間はあの子とすら過ごした事なかったわね)


 花子さんの口角は上がり柔らかい表情になっていた。


「ん~どうしよう」


 気持ち良さそうに伸びをして今後の事を考える口裂け女。


「あ、とりあえず霊媒師さんに報告しようかな」


 霊媒師の自宅に行き昨日の出来事を話す。


「うむ、良い傾向かもしれぬな」


 口裂け女の報告を受け安心したように言う。


「それはそうと、あの紙はどうした?」


「え?あれ、あれれ?」


 体をあちこち見るが見当たらない。


「あの、背中にあります?」


 霊媒師に背を向ける。


「いや、ないな」


「………ちょっと、あっち向いててもらえますか?」


「うむ」


 次は霊媒師が口裂け女に背を向ける。口裂け女は外見からは目が届かない下着の中などを探してみる。


「見つかったか」


 霊媒師は振り返る。


「きゃああ、見ないで!」


 そこにはあられもない姿の口裂け女が


「す、すまぬ」


 霊媒師は顔を赤くして口裂け女に背を向ける。


「……もういいですよ」


 ゆっくり振り返る霊媒師。


「あったのか?」


「どこにも」


 首を横に振る口裂け女。


「そうか、お主はいつの間にか花子の友に“なってた”のだな」


 霊媒師の言葉に口裂け女は目を輝かせる。


「私、行ってくる!」


「どこに?」


「友達のところ~♪」


 口裂け女は騒がしく霊媒師の自宅を後にした。


「昨日が騒がしかったから、ずいぶん静かに感じるわ」


 花子さんがヒマを持て余していると


「花ちゃ~ん♪」


 口裂け女が飛び込んで来た。


「花ちゃん♪花ちゃ~ん♪」


 花子さんに抱きつく口裂け女。


「あんた、暑苦しい…それになんなのよ、その呼び方は?」


「花子さんだから、花ちゃん!可愛いでしょ~」


「ったく、面倒なヤツに懐かれたわね」


 新しく友達を作る事に抵抗を感じていた花子さんに新しい友達ができた。



 ≪次回予告≫


 彼女の名前は世界中の人が知っている 彼女の歴史的価値は計り知れない しかし、旧校舎に居る彼女は紛れもない偽物だ だが、そんな偽物でも愛してくれる人がいる 

 無事に口裂け女と花子さんは友達になりました!個人的に“なってた”って表現はよかったなって思ってます(о´∀`о) そして、【花子さんと霊媒師】【コックリさんと花子さん】【口裂け女と花子さん】、この三部作は実はもっと後に書くつもりだったのですが、6年生編の最初に大きく関わってくるので、この段階で書く事になりました。覚えといてください!コックリさんがバラ蒔いた御札は5000枚……その内、回収したのは口裂け女の1枚です。これ大事! まぁ6年生編はまだまだ先になりそうですが期待して待っててもらえると幸いです。 それでは

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