39話 コックリさんと花子さん
ここはなにやら不思議な空間。地面を抉り取ったような半円状の岩が無数に点在する。ある岩には神社らしき建物が建っている。そこには金色の髪、獣のような耳や尻尾で巫女服を着た少女が居た。
彼女はコックリさん。
「ん?呼び出しね」
コックリさんは胸の前で両手をパンっと叩くと目の前に赤い鳥居が出現。それは1基だけではなく無数に連なり、まるで鳥居のトンネル。コックリさんは空を飛び鳥居のトンネルを潜っていく。
ポンッとコックリさんが出た場所は理科室のような家庭科室のような教室だった。
「あんた達が私を呼んだのね」
コックリさんの前には2人の少女。その2人は机の上に置いてある紙に人差し指を置いている。よく見ると紙の上には五円玉が置いてあり、その上に2人は指を置いていた。
「コックリさん、いらっしゃいましたら返事をください」
「はいはい、来ましたよぅ」
コックリさんも五円玉に指を置き動かす。紙には鳥居、平仮名の五十音、[はい]と[いいえ]が書いてありコックリさんは[はい]の方へ五円玉を移動させた。
「すごい…」
「…ホントに来ちゃった」
2人の少女は顔を見合わせ驚く。どうやら2人にはコックリさんが見えてないようだ。
「なに聞こうか?」
「んー」
2人は質問を考える。
「なにも決めずに私を呼んだわけ?最近、こういうの多いのよね」
呆れながら質問を待つ。
「でも、なんでこんな所でやるの?ここ旧校舎の3階だよ」
「その方が雰囲気あっていいじゃない、それに例のトイレがある反対側の教室だから大丈夫よ」
「でもぉ」
「ああ、わかった!やめやめ」
しらけてしまったのか1人の少女は五円玉から指を離す。
「よかったぁ」
安心したのかもう1人の少女も五円玉から指を離す。
「あんたら……質問もしないしルール破るしバカにするんじゃないわよー!」
怒りだすコックリさん。だが、2人にはそれがわからない。すると
「イタッ!イタタタタ」
「なに?どうしたの?きゃっ、なにか引っ張って」
コックリさんは1人の少女の手をつねり、もう1人の少女の髪を引っ張る。
「なにかいる!?」
「きゃああぁ」
1人の少女は先に逃げ出した。
「待ってー」
もう1人の少女も慌てて逃げ出す。廊下に出てすぐ左に階段があり、2人の少女はその階段を下りていった。
「二度と私を呼ぶなー!」
下りていく2人を見下ろしながらコックリさんは叫んだ。
「ホント、礼儀を知らないんだから……っ!」
コックリさんは帰ろうとしたが、階段のすぐ横にあるトイレから異様な気配を感じた。
「なに?この気配……ちょっとヤバイんじゃないの?」
放っておく事ができなかったのか気配のする方へ足を進める。
「ここよね?」
気配を感じたのは女子トイレだった。そして、そこには……
「あんた、大丈夫なの!?」
見るからに負のオーラを纏った少女の姿があった。
「あんた、私が見えるの?」
少女は顔を上げコックリさんを見ると
「あんたも普通の人じゃないってわけね」
「ええ、私はコックリさんって呼ばれてるわ」
「そ、私は“トイレの花子さん”なんて呼ばれて有名らしいわ」
お互い自己紹介をしたが花子さんの声には感情を感じ取れない。言葉を返してはいるが、なにもかも無関心のような態度。
(敵意は感じないけど……この子、些細なキッカケで堕ちかねないわね)
コックリさんは刺激しないように慎重に観察していると
「私になにか用でも?」
視線に気づいた花子さんは尋ねる。
「あんた、なにがあったの?」
「悩み相談でもしてくれるわけ?」
「正直に言うわ。あんた、いまヤバイ状態なのよ」
深刻な表情。
「安心しなさい、親友を見送ってから、この状態だけど平気よ」
「私にはそうは見えないわ」
コックリさんは懐から紙を取り出し宙に浮かべると、その紙に文字が浮かび上がってきた。紙には鳥居の絵、平仮名の五十音、[はい]と[いいえ]が書いてある。
「これ、あなたに渡すわ」
その紙は花子さんの方へ飛んで行く。
「その紙は私の霊力が込められてるから、あなたでも扱えるわ。それとこれも」
花子さんに五円玉を投げる。チャリンッと花子さんの足元に落ちた。
「その五円玉を鳥居の絵に重ねて指を乗せて『コックリさん、おいでませぇ』って言えば、いつでも私を呼び出せるわ」
「なんのために?」
「話し相手くらいにはなってやるって言ってんの!」
「………」
「話し相手が欲しくなったら呼びなさいよ!絶対よ!」
コックリさんは念を押しポンッと姿を消した。
~数週間経過~
「使い方も教えたのになんで私を呼び出さないのよ!」
コックリさんの儀式用の紙を渡したはずなのに一向に呼び出しがない事に苛立つ。プライドが高いのか自ら赴くという選択肢はないようだ。
「あのままだと、いつ堕ちてもおかしくないわ」
思案に暮れてると
「そうだ!呪いをかけましょう!」
閃いた……だが、なにやら物騒な事を言った気がするが………
「よし!ここでやりましょう」
コックリさんが居るのは旧校舎の屋上。
「ええと、内容はどうしようかしら……」
コックリさんは目の前に広げた長方形の白紙とにらめっこ。
「無視できない内容にして…普通の人間だと危ないかしら……幽霊と妖怪限定にしましょ………よし!できた!」
紙には『一度、この紙が張り付いたら“トイレの花子さん”と友達になるまで、この紙は離れません』と書いてある。
「あとは……普通の人間に見えても困るから……ふんっ!」
紙に霊力を込める。
「これで普通の人間には見えないはず!さあ、行きなさい!千枚……いえ、五千にしましょう」
紙はコックリさんの合図で分裂していく、分裂した紙に劣化はなく同じ紙が何枚も複製される。そして、紙は町全体に四方八方飛んでいった。
飛んでいった紙には幽霊や妖怪が近くを通ると反応し張り付くという仕組みになっていて、紙に書かれてる通り花子さんと友達になるまで離れないように施されている。
コックリさんが言った『呪いをかけましょう』とは花子さんに対してではなかったのだ。
この優しい呪いは後に花子さんの新しい親友になる彼女の元へ辿り着く事になる。
≪次回予告≫
それは伝説と伝説の邂逅 それは互いに望んだものではない それは一人の少女の優しさが起こした それは誰も知らない怪談、都市伝説 それはその先にも続く友情
今回も過去のお話でした。花子さんとコックリさんの出会いはどうでしたか?コックリさんは優しいんです。その優しさが次の話に繋がります! それでは