38話 花子さんと霊媒師⑤
17時を知らせるチャイムが鳴ってから1時間以上。
「間に合ったようね」
いつもの時間にサヨは現れなかった。その安堵からか穏やかな表情でトイレ内から廊下…その先を見つめる花子さん。
「ふぅ」
廊下に背を向けトイレの奥へ移動する。すると
「花子さん」
懐かしく聞き慣れた声が廊下から聞こえた。
「はっ!」
声の方へ振り返る花子さん。そこには廊下に佇む少女…サヨの姿が
「あんた、どうしたの!?」
サヨの方へ駆け寄る。
「なにがあったのよ!?」
あの日の出来事のように同じ言葉を口にしてしまう。
「花子さん…花子さん……」
まるであの日の再現……もしそうなら、サヨはトイレに入る事なく会話は終わり立ち去るのだが
「花子さぁぁあん」
サヨはトイレ内に居る花子さんに抱きつく。あの日とは違う…そして、あの日々には感じた事のないお互いの感触。それを確かめるように抱きしめ合う2人。
「花子さんって思ってたよりモチモチしてるー」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!私、あの霊媒師にあんたを成仏させるように頼んだのよ!」
抱きつくサヨを剥がす。
「霊媒師さんに頼んでちょっとの間、現世に居られるようにしてもらったの」
「なにやってんのよ」
「だって、知らないおじさんの顔を見ながら成仏するなんて嫌だよ!最後は大好きな親友の顔を見たいでしょ」
「あんたは」
嬉しそうに呆れる。
「ごめんね、花子さん」
明るい雰囲気から少ししんみりした雰囲気になる。
「なによ?急に」
「私、生きてるのが辛くて…でも、花子さんとの時間は楽しくて…どうしていいかわからなくて……死んだら幽霊になって花子さんと楽しく過ごせるかもって思って……それなのに私はずっと花子さんを悲しませ続けて……ほんとうにごめん」
「ちがう!謝るのは私の方よ!あんたの気持ちをわかった気になって……その結果が……っ!」
花子さんは悔しそうに唇を噛む。
「お互いバカだね」
「そうよ、大バカよ!」
互いに見つめ合う。
「あはは」
「フフフ」
あの頃の楽しい時間が戻ってきたようで楽しくなり笑う2人。
「花子さん、私の“お願い”守ってくれた?」
サヨの言う“お願い”とは自分と同じような子が来たら優しくして居場所を作るというものだ。
「……ごめん」
「そっか…」
花子さんは誰が来たのかは言わなかった。
「でも、これからは出来ると思うわ!だって、あんたも居るんだもの」
「……出来ない」
「なんでよ!?」
「言ったでしょ、ちょっとの間だけ現世に居られるようにしてもらったって」
「なら、成仏をやめればいいじゃない」
「それもムリだって霊媒師さんが言ってた。私がまだここに居られるのはホント特別な事なんだよ」
「な、なら私がなんとかするわ!あの霊媒師だって私を成仏させられなかったんだから」
「花子さん……」
困り顔で笑うサヨ。
「イヤよ!こんな……ひさしぶりに話が出来たのよ」
「うん」
「あの日、夏休みの計画とかいっぱい話すつもりだったのよ」
「うん」
「あんたが卒業した後の事も……いっぱい…」
「うん」
「だから……」
「花子さん」
花子さんの言葉を遮る。
「私に“さよなら”を言わせてくれないの?」
「………」
答えたくないのか無言。
「花子さん、私達のいつもの挨拶しよ!」
「なんで急に?」
「いいから♪いいから♪」
サヨに背中を押され手前から3番目…一番奥の個室に入りドアを閉める。
「じゃあ、いくよ」
サヨは個室のドアをノックしようとしたが止める。
「コンッコンッコンッ」
その口から発した言葉をノック音の代わりとした。
「ハーナーコさん、遊びましょう」
「はぁい」
個室のドアが開き花子さんが現れた。
「花子さん、“さよなら”です」
「な!」
不意打ちに驚く。
「ズルいわよ!」
「だって、こうでもしないとちゃんと顔を見て言わせてくれなかったでしょ?」
「勝手に死んで勝手に私より先に成仏するなんて……ホントなんなのよ」
「花子さんは“さよなら”言ってくれないの?」
「私を1人置いてくくせに図々しいわね」
「大丈夫!花子さんなら新しい友達たくさんできるよ」
心なしかサヨの姿が薄くなってる。
「騒がしい奴らはごめんだわ」
「口ではそう言うけど嫌いじゃないんでしょ」
確実に姿が薄くなってるサヨ。
「フンッ!まぁね」
「…………………」
なにか言ってるが、その声は同じ幽霊の花子さんにも聞こえない。もうタイムリミットが目前らしい。
「さようなら!あんたは私の大切で大好きな親友よ!!」
サヨの声はもう花子さんには届かない。逆に花子さんの声はサヨに届いたのだろうか?その答えはサヨが消える直前の幸福に満ちた笑顔と流れた涙が答えだろう。
「余計なお節介だったか?」
タイミングを見計らったように女子トイレに入ってきた霊媒師。
「ホント余計なお節介だったわ………ありがとう」
「お主、これからどうする?」
「どうするって聞かれても私はここに居るしかないのよね」
「すまぬ、お主を成仏出来なくて」
「別にいいわよ。一番気にしてた事を解決出来たんだもの」
「参考になるかわからぬが、成仏するには個人で条件が違うらしいのだ。生前の願いなどもあるが、一番は自身が幸福だと感じた時だと私は思う。それか神なら…」
「神って…一気に胡散臭くなるわね。そっちより幸福になるように目指すわ」
「………」
「まだなにか?」
「お主……堕ちるなよ」
「………ええ」
親友を見送った花子さんは静かに答えた。
≪次回予告≫
おいでませぇ おいでませぇ おいでませぇ 彼女は呼ばれればどこへでも現れる 決して警戒心が無い訳ではない ルールさえ守れば相談相手にもなってくれる なら、女子トイレに引き籠る少女の話相手になってくれるかも いや、彼女にそんな真正面からの優しさは無理かもしれない でも、なにかお節介くらいは………
無事に花子さんはサヨちゃんと再会し成仏を見届けましたね。実はこの話を書いてる時、泣きながら書いてました(^-^; 書いていて辛かったんですが、私にしては良く書けた方だと思ってます(ノ´∀`*) それでは