35話 花子さんと霊媒師②
~昼~
「来てくれるかしら」
少女と約束を交わした次の日、花子さんは落ち着かない様子でトイレ中をうろうろ。
「来たわね♪」
校舎3階のトイレに少女が入って来た。
「まだ来てないのかな?」
少女は誰かと待ち合わせしてるようだ。
「とりあえず、ここで待とう」
手前から3番目…一番奥の個室トイレに入る少女。すると花子さんはすぐに隣の個室に入り幽霊パワーでドアを閉める。
「ま、待たせたわね」
それほど待ってないのは重々承知だが会話の導入としてあまりにも使いやすかったので自然とその言葉が出た。
「ううん、私もいま来たところだから」
「そ、そう?ならよかったわ」
「………」
「………」
出だしはまぁまぁだったが、ここで沈黙。
(どうしたらいいの?会話が続かない……だって、私、あの子の事なにも知らないんだもの……そうだ!)
花子さんはなにか思いついた。
「自己紹介しない?」
「自己紹介ですか?」
「そう!私達が互いに知ってる事って学年だけでしょ。だから、ちゃんと自己紹介しましょう」
「……いいですよ」
まだ距離を感じるが花子さんの提案を承諾した。
「じゃあ、あなたの名前を教えて」
「私……サヨっていいます」
「サヨね、覚えたわ!いい名前ね」
「あなた……は?」
「私は花……」
花子さんは危うく本名を名乗りそうになる。
(あぶない!せっかく落ち着いて会話できる状況にまで持って来たのに台無しになるとこだったわ)
「えと、大丈夫ですか?」
「大丈夫!大丈夫!私の名前はハナヨよ」
「ハナヨさんですか、私も覚えました」
お互い自己紹介が終わった。
(次の話題考えなきゃ、次の話題、次の話題、次の話題)
「話題に困りますね」
サヨも話題に困ってたようで、それを言葉にした。
(もてなす側として失格だわ……いえ、これも会話よね)
花子さんは前向きに今の状況を受け入れた。
「そうね、私も困ってたところよ。アハハ……」
「………」
どうしても会話が続かない。
(もー、私のバカ!)
「あの、ハナヨさんは普段はなにしてるんですか?」
「へ?えーと、私はいつも部屋に閉じ籠ってるわね」
「そうなんですか」
(あー、せっかく私に興味持ってくれた感じなのにぃ、なにか面白い話を……)
花子さんは日常で経験した面白い話を思い出す。といっても、その範囲は極端に狭いのだが
「あ!そういえば、私の部屋の隣でよく合唱してるんだけど」
「ハナヨさんもしてるんですか?」
「違う違う、私は自分の部屋で聞いてるだけ、それで隣の教室で合唱の授業の時にタケシって子がね、バカみたいに声が大きいのよ。先生にも毎回注意されても直らないのよ。でも、なぜか憎めないっていうか……」
「フフフ」
(笑ってくれた!)
サヨが笑った事で気を良くした花子さんは話を続ける。
「それでね、授業が終わって先生が直接注意するんだけど、その時も大声で『はい!』って言うのよ。先生も呆れを通り越して笑っちゃう始末で」
「フフフ、美島先生ですね」
「あの先生、美島って名前なの?」
「はい、音楽の先生ですよね?」
「ええそうよ」
「この学校には音楽の先生は1人しか居ないですし、タケシ君って人の相手は大変そうですね」
美島先生とは学校で唯一の音楽の先生だ。そして美人である。
「あの笑顔だと大変とか微塵も思ってないと思うわ」
「もしかしてタケシ君って人は美島先生の事が好きだったりして」
サヨが冗談めいた口調で言うと
「あり得るわね、あんだけ学習能力が無いなんて信じらんないわ」
同意する花子さん。
「そろそろ休み時間終わりそうだから行きますね」
「え?あ、そう……」
楽しかった時間が突然終わり物悲しい声で返事。
「また明日、昼の休み時間に来ますね」
「え?ええ!待ってるわ!」
~翌日の昼~
「もうそろそろ来てもいい頃よね」
3階の女子トイレでソワソワする花子さん。
「よし!先に入って待ってましょう」
花子さんは3つある個室の手前から2番目の個室でドアを閉めてサヨを待つ。しばらくするとキィー、バタンッとドアが閉まった。そこは手前から3番目…一番奥の個室だ。そこの個室は“トイレの花子さん”が出ると噂されていて、ここの女子トイレに入る人がいたとしても手前から3番目…一番奥の個室に入る人はいない。ここ最近では彼女を除いて
(サヨよね?違う人だったらどうしよう)
するとコンッコンッコンッと花子さんの居る個室の壁をノックする音が、それは手前から3番目…一番奥の個室からのノックである。そして
「ハナヨさん?」
(サヨだわ!)
花子さんはノックした相手がサヨだと確信した。なぜならサヨには本名の“花子”ではなく“ハナヨ”と名乗っているからだ。
「ええ!私よ」
「早いんですね」
「もてなす側として当然よ」
「もてなす?」
「いえ、なんでもないわ。忘れて」
一瞬、間が開く。
「きょ、今日はなにしましょうか?」
「昨日みたいにハナヨさんの面白い話を聞きたいです」
「うーん」
思い悩む花子さん。
「ごめん!昨日の話くらいしかないわ」
「そうですか……じゃあ、しりとりしません?私も面白い話とかないですし」
「いいわね!負けないわよ」
壁越しに2人のしりとりが始まる。
「提案した私から始めますね。しりとりの“り”でリス」
「リスだから“ス”よね、スイカ」
「カメ」
「“メ”だからメダカ」
「カキ」
「“キ”……“キ”…キツツキ」
「キノコ」
花子さんと違いサヨは即答。
「あんた……本気ね」
「フフ♪ハナヨさんに勝ちます♪」
「続けるわよ、コウモリ」
「リンゴ」
「ゴリラ」
花子さんも一旦考える時間を無くし即答。
「ラッパ」
「パリ」
「リゾート」
「トイレ」
「レタス」
(そろそろいいかしら)
花子さんはなにか思惑があり、今が絶好のタイミングだと打って出る。
「スペイン」
最後に“ン”が付いてしまった。
「しまったー」
これが花子さんの作戦だったらしい。要は接待だ。
「私の負けね」
「ハナヨさん、知らないんですか?“ン”から始まる言葉があるんですよ」
「え!そうなの?」
「“ンジャメナ”っていうどこかの国の首都があったと思います」
「じゃあ、ンジャメナ」
「一度、自分で負けを認めたからダメでーす」
「あんた、思ってたより強かね」
「えへへ、休み時間終わりそうなので行きますね」
サヨは個室から出る。
「勝ち逃げは許さないわよ!」
「わかりました。明日も来ますね」
~その次の日の昼~
「スタンバイ完了」
花子さんは3階の女子トイレの手前から2番目の個室で待機。しばらくして、キィー、バタンッと音がして、手前から3番目…一番奥の個室に誰かが入る。そしてコンッコンッコンッと花子さんが待機してる個室の壁をノックする音と共に
「ハーナーヨさん、遊びましょう♪」
数日前までとは比べ物にならないくらい茶目っ気のある呼び出し。
「フフフ♪なによそれ」
笑いながら呼び掛けに応える。
「今日はなにします?」
「しりとりのリベンジをさせてもらうわよ」
「んー、他の事しません?」
「なにかあるわけ?」
「えーっとね……」
コンッコンッと花子さんの居る個室の壁をノック。
「なに?」
「これです!」
「だからなによ?」
要領を得ず聞き返す。
「私、音楽に興味があってノック音で音楽を奏でたいなって、ハナヨさんも一緒に」
「私も!?」
花子さんは決して音楽が嫌いな訳ではない。だが、ノック音で音楽を奏でるとなると大きな壁があるのだ。
(どうしよう……私、物に触れられないのに)
「ダメですか?」
「ちょっと待ってて!」
花子さんは思考を巡らせる。すると床に割れて剥がれたタイルが目に入る。
(これだわ!)
タイルを幽霊パワーで操る。
「いいわよ!」
「よかった!じゃあ、始めますね」
「ちょっと待って!音楽を奏でるってどうしたらいいの?私、なにも知識ないわよ」
「私もです。でも、適当にやってれば、それっぽくなるんじゃないかなって」
「いいかげんね」
「はい♪」
花子さんの皮肉に明るく返す。
「いいわ!やってやるわよ!」
やる気になった花子さん。
「じゃあ、今度こそ始めますね」
少し沈黙があり、そしてコンッコンッとサヨがノック。間が開きコンッココンッと花子さん。やはり素人という事もあってぎこちない。
コンッコンッココンッ ココンッコンッ コンッコンッココンッコンッ コンッコンッココンッココンッ コンッコンッコンッコンッココンッコンッ
ノック音は次第にリズムを刻み始めた。2人は互いの音を聞き邪魔にならないように尚且つ騒音にならないようにノックを続けた。世に出るような音楽に比べると大した事ないが、2人の…友達同士のコミュニケーションとしては十分すぎる。実際、2人の気持ちは高揚し、お互いのノック音を聞き、お互いの事を考えながらノックのタイミングなどを見計らっている。
2人の間に会話はなく夢中でノックを続けてると、ココンッ……………ノック音が止んだ。最後にノックしたのは花子さんだ。
「どうしたの?」
不思議に思った花子さんは尋ねる。
「………花子さん、直接話さない?」
「ちょ、直接って!?」
突然の提案に動揺を隠せない。
「トイレの壁越しじゃなくて顔を合わせて」
「え、ちょっと待って、え、え?」
キィーッとドアが開く音がする。
「大丈夫だよ、花子さん。私は絶対に怖がったりしないから」
今まで壁の方から聞こえてたサヨの声が正面のドアの方から聞こえる。
「ほ、ほんとうに?」
「うん、だって私………」
花子さんの居る個室のドアが開く。
「気づいてたよ」
花子さんが初めてサヨの顔を見た時は泣き顔でグシャグシャだった。だが、今の彼女の表情は穏やかでその微笑みを花子さんに向けている。
「あ、ああ」
その微笑みに花子さんは何故か救われた気持ちになり、目から雫が流れ落ちる。
「花子さん、泣いてるの?」
「泣いてないわよ!」
指摘されるまで泣いてる事に気づかなかった花子さんはサヨに背を向け涙を拭く。涙を拭き終わるとサヨの方へ向き直り
「それより、気づいてたってどういう事よ?」
「やっぱり気づいてないんですね」
「なにがよ?」
「タケシ君の話の時です。花子さんってば“隣の教室”とか“授業”とか言ってましたよ。美島先生の事もです。それにさっきも“花子さん”って呼んだの気づいてないでしょ?」
「あ、あ、あ」
空いた口が塞がらない花子さん。
「あんた!最初っから気づいてたわけ?」
「うーん、最初はもしかしたらって感じでした。仮にあの“トイレの花子さん”だったとしても話をしていく内に怖い人じゃないってわかったから」
「私の努力と配慮が……」
「でも、最初っから“トイレの花子さん”として登場してたら今のようにはなってなかったと思います。それともハナヨさんって呼びましょうか?」
「あんたねぇ、たった数日で距離詰めすぎよ」
「花子さんもでしょ」
2人は睨み合い。
「ぷっ……アハハハハ」
「んっ……フフフフフ」
なにがどう面白かったのか本人達もわからないが笑いが込み上げてくる。
「フフフ、こんなに笑ったのは久しぶりだわ」
花子さんは指先で涙を拭う。
「私もです」
「ねぇ?サヨ、私達って友達…よね?」
「もちろんです♪」
笑顔で答える。
「花子さん、昼の休み時間だけじゃなく放課後も来ていいかな?」
「なに言ってんのよ!OKに決まってるでしょ!私はいつでもここで待ってるわ」
「ありがとう♪」
微笑ましいですねぇ、花子さんとサヨの関係(о´∀`о) 地味にしりとりで伏線回収したの気づいてくれましたか? そして、この二人がどんな結末を迎えるか見守ってあげてください。 それでは