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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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34話 花子さんと霊媒師

 “トイレの花子さん”が全国的に有名になる少し前……いや、だいぶ前かもしれない。旧校舎は旧校舎ではなく校舎として存在していた。


「ほんとヒマだわ」


 校舎3階の女子トイレの主、花子さんはヒマを持て余していた。


(~♪)


「やってるわね」


 ヒマな花子さんの楽しみは隣の音楽室で子供達が合唱をする時だ。その合唱には2種類のパターンがあり、1つは授業での合唱でもう1つは放課後の部活生の合唱だ。花子さんは前者の授業の合唱がお気に入りだ。


 決して部活生達の歌が下手なわけではない。部活なだけあって歌が好きな子達が集まり聞き心地よい歌声だ。それに対して授業でやる合唱は歌が好きな子、そうでもない子など様々。さらにふざける子や恥ずかしくて声を出せない子などもいて、花子さんはその授業の光景を耳で聞き想像するのだ。


「このバカみたいに声が大きいのはタケシ君かしら、また先生に怒られるわね」


(ストーップ!タケシ君?前にも注意しましたよね?)


 花子さんの予想は的中、先生らしき女性の声が注意する。


(はい!)


 注意されたタケシは元気よく返事。


(まったく返事も元気なんだから)

「ホント返事も元気なのよね」


 2人はほぼ同じ事を言った。


「フフフ」


 花子さんは女性と同じような事を言ったのが面白かったのか、タケシの無邪気な元気さが面白かったのか肩を揺らし笑う。


 キーンコーンカーンコーン


 授業が終わり子供達は廊下へ。賑やかな話し声が花子さんの居るトイレ内にも響き渡る。


「あんなちゃん、あんりちゃん、りさちゃんはいつも仲良しね」


 花子さんは女子トイレを通り過ぎて行く子供達を眺める。名前は名札を見て覚えたのだろう。女子トイレから出られない花子さんにとってトイレの出入り口は窓のようなものだ。トイレの突き当たりにも窓はあるが出入り口の方がより近くで子供達を眺める事ができ情報量も格段にちがう。


「来たわね、タケシ」


 女子トイレの前を活発そうな男の子が通る。この子がタケシである。すると


「待って、タケシ君」


 タケシは声の方へ振り返ると女性がタケシの方に駆け寄って来た。


「タケシ君、元気なのはいいけど合唱の時は少し抑えてね」


「はい!」


 元気な返事。


「もう、ほんと」


 女性は呆れを通り越して笑いが込み上げてくる。


「もう行っていいわよ」


「はーい!先生またねー」


「はい、またね」


 女性は笑顔でタケシを見送り、女子トイレ内を見る。


「下の階に行きましょ」


 女性は女子トイレを通り過ぎ下の階へ下りていった。


「やっぱり、ここに入る人はいないわね」


 花子さんにガッカリした様子はなくわかりきってたようだ。


 ~放課後~


「あの子ならプロになってもおかしくないわね」


 花子さんは女子トイレの突き当たりの窓の前で浮遊しグラウンドを眺めていた。


「ふぅ、ホントなら近くで見たいんだけど……」


 開いてる窓に手を伸ばすが……


「この見えない壁、邪魔だわ」


 開いてるはずの窓だが、花子さんの手は“なにか”に触れる。これが花子さんがトイレから出られない理由だ。窓だけではなく出入り口、更には壁、天井、床が見えない“なにか”に覆われ花子さんの行動は女子トイレのみに制限されているのだ。


 そして、夜になると………


「来たわね、警備員」


 明かりの点いた女子トイレに警備員が巡回に来た。


「い、異常なし」


 警備員は女子トイレに入る事なく廊下から異常がない事を確認。しかも明かりを消すことなく立ち去る。こうなってしまったのも花子さんが脅かしたせいである。


「根性なし……って言いたい所だけど仕事を辞めずに続けてるのだけは認めてあげるわ」


 ヒマではあるが、それなりに楽しみを見つけて退屈を紛らわせていた。そんなある日……タッタッタッと女子トイレに少女が駆け込んで来た。少女は一番奥の個室トイレに入るとバタンッとドアを閉めた。


「しくしく」


 少女は泣いていた。


「久し振りの来客……泣いてるわね。イジメかしら?」


 花子さんは少女が逃げ込むように入った個室トイレに入る。少女には花子さんの姿は見えない。


「だいぶ、前にも似たような事あったのよね」


 過去に別の少女に優しく接したはずが号泣された苦い記憶を思い出す。


「あの時はすごく傷ついたわ」


 深いため息を吐く。


「さて、どうしようかしら」


 過去とは違い今は幽霊としての経験値があるが慎重に考える。


「力を使って拘束……ただ怖がらせるだけね」


 過去の少女はそれで号泣してしまったため却下。


「ストレートに姿を見せる……これもダメね」


 過去の少女が逃げ出したのはそれがキッカケだったので却下。


「姿を見せずに……これもダメだわ」


 幽霊である花子さんの声は姿が見える状態でないと普通の人には聞こえないのだ。


「うーん、うーん……あ、あったわ!姿を見せずに見える状態で話をする方法が!」


 閃いたようだ。


「しくしく」


 泣き続ける少女。するとキィィ、バタンッと隣の個室に誰かが入った。


「!!?」


 少女は驚き泣くのを止め口を手で塞ぐ。少女の隣の個室では


(どうしよう……これなら見える状態でも姿を見せずに会話できると思ったけど、考えてみれば大人も入って来ないここのトイレに自分以外の気配を感じた時点で恐怖よね。それにトイレで隣の相手に話しかけるなんてどうすればいいのよ?)


 少女の隣の個室で悩み考える花子さん。するとあるものに気づく。いや、あるものが無いことに気づく。


(これよ!これなら話すキッカケとして不自然じゃない)


 この状況を利用することに決めた。


「あー、トイレットペーパーがないー、困ったわー」


 緊張のせいか棒読み。


「………」


 少女からの反応はない。


(しまった!隣もトイレットペーパーが無かった場合の事を考えてなかった)


 花子さんが頭を抱えていると


「…あの、ここにありますけど使いますか?」


 少女からの反応があった。どうやら警戒してただけのようだ。


「た、助かるわ!おねがい」


「えと、上から投げますね」


 少女は花子さんが居る隣の個室にトイレットペーパーを投げ込む。


「ホント助かったわ!ありがと」


「いえ、よかったです」


「………」


「………」


 2人は沈黙。


(マズイわ、このままじゃ会話なく終わっちゃう)


 焦る花子さん。


「あ、あなた何年生?」


 焦って出た言葉がこれだった。


「え?……6年生です」


 少女からの返答があったが、やはりまだ警戒してる。


「あなたは何年生なんですか?」


 少女から質問が来た。


(よし!会話が出来てる♪)


 心の中でガッツポーズ。


「私もろく……」


 自分も6年生と言いかけたが途中で止める。


(なにか辛い事があってここに来たんだから、あまり接点がない学年違いの方が話しやすいかしら)


「どうしました?」


「あ、ううん、なんでもないわ!私は5年生よ」


「どうして、ここに来たんですか?」


「漏れそうだったからよ」


「わざわざ、こんな場所にですか?」


(そうだった!ここは人が立ち寄らない恐怖のトイレだったわ)


 なかなか思い通りにいかず、またも頭を抱える。


「もしかして、あなたも嫌な事があってここに来たんですか」


「へ?あ、そうなのよ!1階や2階のトイレだと会いたくない人に見つかりそうだからね」


「私も…なんです」


「なにがあったか聞いてもいい?」


「………」


 花子さんの質問が聞こえてるはずなのだが少女は無言。


「ごめん、今のはナシ。えーと……ここのトイレは怖くない?」


「……少し怖い…です。でも、ここなら“花子さん”が守ってくれますし」


「え?私!?」


 突然、自分の名前が出てきて驚く。


(私が花子さんだって気づかれてる?確かめてみるか)


「どうしました?」


「いえ、なんでもないわ。それより“花子さん”が守ってくれるってどういう意味?」


「“トイレの花子さん”って知ってますか?」


「ええ、まぁ」


 なにを隠そう本人だからだ。


「みんな、その怪談の噂が怖くて用がない限り3階に上がらないんです。私を傷つける人達もここには来ない。だから、“トイレの花子さん”に守ってもらってるんです」


 少女が言う“花子さん”は個人を指してるのではなく“トイレの花子さん”という怪談の事らしい。


「そう、よかったわ」


 自分の怪談が別の形で役に立ってる事に少しだけ喜ぶ。


 キーンコーンカーンコーン


「あ!授業始まっちゃう」


 予鈴が鳴り少女は慌てて個室から出る。


「ちょっと待って!」


 少女を呼び止める。


「またここに来ない?ここなら“花子さん”が守ってくれるんでしょ?」


 ドア越しで少女に尋ねる。


「うん!休み時間に来るね」


 ドアを挟んで2人は約束を交わした。

 今回から少し過去のお話になります。花子さんとサヨの関係がどう進展するか楽しみにしててください( ・∇・) それでは

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