33話 ぼくと花子さんとバンパイア④
モナリザを階段の方へ投げストレス発散したのか人体模型は廊下から僕達に左手で手を振り美術室&音楽室へ帰っていった。
「花子さん、人体模型さんの右手ってどうしたんですか?鉄みたいな見た目ですし、モナリザさんも右手の事を怒ってたみたいですし」
「あれはね、二宮金次郎と遊んでて壊したのよ。マンガの再現かなにかで拳と拳がぶつかり合った時に人体模型の右手が粉々に砕けたってわけ」
「そういえば二宮金次郎さんとはじめて会った時にそんな話してましたね」
ぼくは今はどこでなにをしてるかわからない二宮金次郎との出会いを少し思い出す。
「あんた、よく覚えてたわね」
「ええ、まぁ記憶力はそこそこいい方なんです」
照れながら頭を掻く。
「褒めたつもりはないんだけど」
「むぅ」
頬を膨らませる。
「花ちゃんはいつも一言余計だよね~」
2人の会話にいつもの調子に戻った口裂け女が入って来た。
「ですねぇ」
ぼくはその彼女に笑顔で返す。
「なにが一言余計よ!思ったこと言ってるだけでしょ!」
「そんなんだと花ちゃん友達いなくなっちゃうよ?」
「それなら最初にあんたから友達の縁を切りましょうか」
「い~や~だ~よ~」
涙目で花子さんにしがみつく口裂け女。
「暑苦しいのよ!」
「きゃんっ」
振り払われた口裂け女は尻餅。
「今日からあんたは“大事な友達”から“ただの友達”に降格!」
花子さんは口裂け女を指差す。すると口裂け女はその手を両手で握り
「じゃあ、また“大事な友達”なる!そして“ただの親友”……ううん、“大事な親友”になるよ~♪」
「ほんとバカね」
花子さんは嬉しそうに呆れる。
「花子さん!まだ疑問が残ってるので話を戻してもいいですか?」
「あんたはあんたで空気読まないわね」
ただただ呆れる花子さん。
「私も気になってるんだよね~、あの3人はどこから来たのかな~?」
あの3人とはバンパイアの命を狙ってた3人組のことらしい。
「違います」
「え~違うの~?」
「このバカが喋ると話題が逸れるから、さっさと言いなさい」
「え~、少年も気になってるはずだよ~」
「わかったわよ!あの3人組はこことは違う別の世界から来たの!これでいい?」
「へ~そうなんだ~」
口裂け女は納得した様子。
「え?今ので納得したんですか?」
「うん♪」
ぼくの問いに笑顔で答える。
「ほら、1つ疑問が解決したんだから、あんたのも言ってみなさい」
(正直、口裂け女さんのせいで気にしないようにしてた事が余計に気になってきたんだけど)
ぼくはモヤモヤっとした疑問を振り払い、元々聞こうと思ってた疑問を投げかけるた事にした。
「人体模型さんの壊れた右手はどこから?生えてきたんですか?」
「気持ち悪い表現するんじゃないわよ!首なしよ!あいつが直したの!」
「やっぱり!すごいなぁ首なしライダーさん!」
「あんた、ホントあいつのこと好きよね」
花子さんは目を細める。
「だって凄いじゃないですか!自分でいろいろ作ったりして!憧れますよ!」
「まぁ、私も世話になってるし凄いってのは否定しないわ」
「あれ?でも人体模型さん直った右手を使わなかったのはなんでです?」
「付喪神だからかしらね。新しい右手は付喪神の体ではなく物という扱いなのかもしれないわ。まぁ、時間が経てば馴染んで動かせるようになると思うわ」
「首なしライダーとは物作りに長けているのか?」
バンパイアが会話に入ってきた。
「はい!このトイレも首なしライダーさんがいろいろ作ったんですよ!」
ぼくは自慢気に答える。
「ふむ、では我の棺の製作をしてもらうとしよう」
「なに勝手に決めてんのよ」
「我が決めずとも首なしとやらが自ら作らせてくれと頼みこんで来るであろう」
どこからその自信が湧いてくるのか不思議だ。
「あんたはどっかに飛んでったモナリザでも追いかけてればいいのよ」
「我が何かを追い求めるなどありえん!皆が我を追い求めるのなら理解は出来る」
「あぁ、ほんとウザい」
「ンパちゃんはモナリザさんの事が好きになったんじゃないの?」
「ンパちゃん?もしや我のことか!?」
「うん、バンパイアのンパからンパちゃん」
口裂け女の愛称呼びは今に始まった事ではないが、今回はなんともビミョーなところを切り取ったようだ。
「ふむふむ……悪くない!悪くないぞ!!口裂け女!![ン]から始まる言葉などこの世にない!つまり[ンパ]は唯一無二!我に並ぶ存在は皆無ということ!!!」
「くっだらない!少なくとも私は[ン]から始まる単語1つ知ってるわよ」
「それで!ンパちゃんはモナリザさんのこと好きなの!?」
話題が逸れたが珍しく口裂け女自身が軌道修正。
「うむ、好きとかそういうものではないな」
「もしかして……愛!?」
口裂け女は動揺。
「愛か……言葉にするならそうかもしれぬな」
「ダ~メ~だ~よ~!」
激しく動揺しバンパイアの両肩を掴み前後に揺する。
「待て!なにか誤解してぬか?」
口裂け女の手を振りほどき言うと続けて
「美術品を愛でるのは紳士の嗜みであろう」
「?」
「要はあんたがコックリに向ける感情と同じってことよ」
「なるほど」
手をポンッと叩く。口裂け女にとって分かりやすい例えだったようだ。
「よかったね、ミ~ちゃん!好きな人奪われなくて」
「ん?」
「ん?」
ぼくとバンパイアは揃って同じ反応。花子さんはというと眉間に手を当てため息。名前を出された当の本人は動揺が見て取れるほどに包帯の動きが纏まらない。口裂け女は“しまった!”という表情で口に手を当てる。フランケンは状況を理解してるのかいないのか無反応。
「それは…どういう?」
時が止まったのかと思うような静寂から最初に口を開いたのはバンパイア。
「あの、えと、ちがうの!これは…フュー、その…ヒュウ……花ちゃん、どうしよ~」
口裂け女は下手な口笛を交え一通り慌てたら花子さんに泣きついた。
「あんたはもう喋るな。ごめん、このバカのせいで」
花子さん、口裂け女、マミー、この3人の間でなにかしら約束のようなものが交わされていたらしく、花子さんは誤魔化しきれないと判断しマミーに謝る。マミーは包帯で[ううん、今まで協力してくれてありがとう]
「な!これではまるでマミーが我の事をす、す、す、好きみたいではないか」
動揺するバンパイア。それとは正反対に落ち着きを取り戻したマミー。なにか覚悟を決めたように包帯で文字を描く。包帯で出来上がった文字は[バンパイアの事が好き]
「わ、我も好きだ。フランケンの事も好きだ!」
バンパイアはライクの方の好きだと思いたいようだが
マミーは[恋愛対象として好き]と包帯で描く。
「ま、ま、ま、待て!我の恋愛対象は女性だ!そなたは男であろう!」
その言葉を聞いた途端、感情が爆発したかのようにマミーの包帯が広範囲に広がる。
「アッー!」
バンパイアは叫びながら包帯に飲み込まれた。包帯は本人とバンパイアを包み込み球体の形へと落ち着いた。
「早まるな!マミーよ。同性同士というのは今の時代受け入れられて当然ではあるが、それは互いに同意があってこそなのだ!」
球体状の包帯の中で必死に訴えるバンパイア。
「ひゃん!」
思わず情けない声を出すバンパイア。それは暗闇の中で腕を掴まれたからだ。掴んだのはマミーである。
「なにをする気だ!マミーよ」
バンパイアの腕を自分の方へ引き寄せる。するとバンパイアの手はムニュッと柔らかい感触に突き当たる。
「待て!マミーよ!我は夜目が利く。今どこを触っているかもハッキリと見える!おぬし、まさか!」
バンパイアはなにかに気づいた。
「バンパイア、私…女……です」
突然、2人だけの空間でバンパイアとは別の声が聞こえた。その声は儚く可憐な印象を受ける。その声の主はマミーだ。そしてバンパイアの手が触れていたのはマミーの胸だった。
「なぜ今まで性別や喋れる事を隠してた?まさか我が初対面の時にミイラ男と言ってしまったからか?」
「それ…も…ある。言う…タイミング…逃して…それに…今の…関係…壊れるの……怖くて」
普段から包帯で会話してるからか言葉が途切れ途切れ。
「いつから?」
「わから…ない、気づい…たら好き……だった。花子さん…や口裂け女…にも相談…した。花子さん…は『あんなのどこがいいの?』て言った…けど…否定されればされる程にあなたの事が好きだって事を実感…した。理由はわからない!でも、あなたが好き!あなたの誇張した武勇伝、身の丈に合わない大袈裟な口調、日光に弱い体質、そのどれもが愛おしい!!」
今までひた隠しにしてきた想いを全力で伝える。
「……ぐすん」
うつむくマミー。
「泣いているのか?」
「だって、この想い…を伝えたら…もう……ヒクッ……今までと…関係が変わ…ちゃう……から」
「…そうだな、今までの関係ではなくなるな」
「ううぅ」
今にも大声で泣き出しそうなマミー。
「待て待て!より関係が深まるという意味だ!」
「それって!」
「うむ、これからは我にその可憐な声で喋りかけるがよい」
「はい!」
包帯で表情は読み取れないが、その返事から彼女は笑顔であることは容易に読み取れる。
「それはそうと夜目が利くとはいえ、ちゃんとそなたの姿を確認したいのだが」
「ちょっと待ってて」
すると器用に2人の真上の部分だけ包帯が無くなり光が射す。そしてバンパイアの目の前には大量の包帯を2人の空間を作る為に使ってるせいか女性らしいクビレのあるマミーの姿が。すべての包帯を体に巻いてる時と比べると小柄だ。
「このような姿だったか…」
バンパイアは彼女の姿を確認してたら自分がまだ彼女の胸を触ってる事に気づく。
「す、すまない」
慌てて胸から手を離す。
「ううん、気にしないで」
「そなたの顔が見たい」
「……え?」
マミーは悩む。
「……ごめん、まだ恥ずかしいから目だけでもいい?」
「十分だ」
悩んだ末の妥協案だったが快く受け入れるバンパイア。彼は目があるであろう部分を見つめる。するとその部分の包帯が取り払われていき包帯と包帯の隙間から瞳を覗かせる。その瞳は恥ずかしさからか潤んでいた。
「…美しい」
「ありがとう」
「あんたら、いつまでイチャついてんの?」
2人だけの空間に誰かの声が聞こえた。
「あ、ごめんね」
マミーは慌てて包帯で作った2人だけの空間を片付ける。
「マミーさん…そんな姿だったんですね。なんていうか小さくなりました?」
「厚着…してたから」
包帯を全身に巻いてた時に比べるとだいぶ華奢だ。薄着になったとはいえ彼女の全身はまだ包帯で覆われている。
「やっぱり、あんたはその方がいいわよ」
「うんうん♪花ちゃんに同意~♪」
2人は嬉しそうに言う。
「あの大量の包帯はどこいったんですか?」
「ここに…ある…よ」
ぼくの質問にマミーは背を向け答える。彼女の後頭部から1本の包帯が伸びている。その先に大量の包帯が球体状に纏められていた。
「なんか、ポニーテールみたいで可愛いですね!」
「ありがとう♪」
ぼくの感想に嬉しそうに返す。
「あんたも素直に気持ち伝えないとあいつに盗られるわよ」
花子さんはイタズラっぽくバンパイアに言う。
「言ったであろう!我は自ら何かを追い求めるなどありえん!よって我からの告白などない!」
「あっそ、知らないわよ」
花子さんの言葉で不安になったのか、バンパイアはマミーの耳元に顔を近づけると
(我はそなたの事を誰よりも…あ…あい……愛してる)
小声で愛を囁いた。
「!!!!!!!!」
マミーは言葉にならない嬉しそうな声を上げるとうつむく。
「聞こえたわよ」
「私も聞こえた~」
「ぼくも聞いちゃいました」
バンパイアの小声は周りに聞き取られていた。
「ラブラブね」
「んー」
マミーはからかう花子さんの頭をポカポカ叩く。
「コホン!マミーよ、今日は帰るぞ!」
行動では表さないがバンパイアも恥ずかしいらしく、この場から去る事を促す。
「はい♪」
先に廊下へ出ていたバンパイアの方へ駆け寄るマミー。そしてマミーは振り返ると
「花子さん!口裂け女!ありがとう!!2人に相談してよかった♪」
そう言って去っていった。
「花ちゃん……今日はすごくいいもの見れたね♪」
「そうね」
しんみりする2人。その2人に同調するぼくとフランケン…………。
「え?」
「ウガ?」
ぼくとフランケンは顔を見合わせる。
「あの、バンパイアさんとマミーさん帰りましたよ」
「ウガー!?」
フランケンは大慌て。その大きい図体のせいかバゴーンッとトイレの出入口を破壊して出ていった。
「あいつ、出ていく時に壊すなんて迷惑極まりないわね」
花子さんはスマホを操り誰かと通話。
「トイレ、ドア、いますぐ」
それだけ言って電話を切った。
「そうだ!ようやく最後の謎が解けました!」
廊下からキキィーッとブレーキ音が鳴ったが、ぼくは本日の最大の謎が解けた喜びでその音は耳に入らなかった。
「なに?謎って?」
「マミーさんの名前当ての事です!ぼくはミイラ男って言ってしまって花子さんは嫌らしい笑顔しましたよね!」
「嫌らしい笑顔って失礼ね」
不服そうな花子さん。ギュイーン ガリガリガリ カーンカーンカーン シュッシュッと音が鳴り響く中、まるでその音が聞こえないのか会話は続く。
「その笑顔はてっきり名前を当てられなかったからだと思ってたんですけど口裂け女さんが不機嫌だった理由がどうしてもわからなかったんです」
ぼくの後ろではほぼ修繕が完了してるドアを布で拭きあげる首なしライダー。さてぼくの謎解きと首なしライダーの作業、どちらが先に終わるか…
「でも、マミーさんの性別を知って確信しました!花子さんはイジワルなクイズに引っ掛かったぼくを笑って、口裂け女さんは“男”と言ってしまった事に対して怒ってたんですね!」
ぼくは自分なりの推理を2人にぶつけた。それと同時に首なしライダーもドアを拭き終え敬礼しバイクで走り去っていった。
「お見事!正解よ」
拍手する花子さん。
「そうだよ~少年にはガッカリしたよ~」
「あれは難しいですよ」
「そうね、あれは難しかったわね」
「謎も解けましたしぼくも帰りま…」
ぼくは廊下へ歩き出す。
「ドアが直ってる!!」
「あんたが気持ち良さそうに解説してた最中に首なしが直したわ」
「やっぱり、首なしライダーさんはすごい!」
【おまけ】
「よし!2階だな」
「う、うん」
2階の踊り場からなかなか3階への一歩が踏み出せないガキ大将と取り巻き。
「きゃあああぁ」
すると3階から女性の悲鳴が聞こえ、それと同時にガンッガンッとなにかがぶつかる音。その悲鳴と音は2人の方へ近づいて来る。そして音の原因と思われる物体が2人の足下に…
「なんだ?これ?」
ガキ大将はその物体を覗き込む。
「モナリザ…かな?」
取り巻きの言う通りモナリザの絵画である。
「ひどい目に遭いましたわ」
「ヒッ!」
絵のはずのモナリザが急に喋りだした取り巻きは驚く。
「あら、坊や達。よろしければわたくしを3階へ運んでくださる?」
「ぎゃああああ」
「ぎゃぁぁぁ」
2人は逃走。
【おまけ Carry on】
バンパイア達と和解し旧校舎を後にした3人組は目的地があるのか、それともあてもなくなのか車で移動中。車は外車でサバンナに生息する動物の名前のようなメーカー名だ。
「怪物や霊が仲良くしてるなんて今でも信じられないね」
助手席でそう話すのは長身の男性。
「ああ、確かにな。それにあのマスクの女を見たか?あの胸!日本人も侮れないな!」
運転席でそう話すのは短髪の男性。長身の男性の兄であり車の所有者である。
「兄さん、下品だしセクハラで訴えられても文句言えないよ」
「相変わらずムッツリだな」
「本当に見逃してよかったのか?」
後部座席から2人に話しかけてきたのはトレンチコートの男性。
「ムッツリ2号はなにも出来なかったのが悔しいみたいだな」
からかう短髪の男性。
「そうではない!あれだけの力を野放しにして危険ではないかと言ってるんだ!」
トレンチコートの男性は語気を強め言う。
「大丈夫だろ、悪さしたらいつものように俺達が退治する。それだけだ!」
「………」
黙るトレンチコートの男性。その表情は納得してない様子。
「そういえば、あの花子さんって霊、『世界を救って来なさい』って言ってたね。なんかヒーローになった気分♪」
「なにがヒーローだ。俺達はどこまで行ってもハンターだ」
短髪の男性は横目で長身の男性の様子をうかがうと
「ま、たまには悪かねぇな!」
すると車の前方に空間の裂け目が
「よし!元の世界に戻るぞ!」
車は速度を上げ裂け目に接触すると車は跡形もなく姿を消した。
≪次回予告≫
零 無ではない零である なぜなら彼女はすでに存在していたからだ 彼女はイタズラ好きで寂しがり屋で友達想い そんな彼女の一面を知る人は少ない これは、そんな彼女の始まり………零の物語
どうでしたか?マミーに隠されていた謎は?今後、この二人の恋の進展なんかも書けたらと考えています!
そして、ちょっとした重大発表があります。実はこれでぼくの五年生での出来事は終わりなんです。びっくりしたでしょ?全然、季節を感じるような話がなかったからね(ノ´∀`*) 次は少し外伝?みたいな話をチョロっとやってから、ぼくの六年生を始めようと思います! それでは