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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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29話 ぼくと花子さんと座敷わらし⑤

「よ~し、みんないくよ~」


「わー、くちさけがオニだー、にげろー」


 楽しそうに逃げ出す座敷わらし。


「にげろー」


 それに続く一つ目小僧。


「少年は逃げないの?」


「逃げますけど、この距離ならまだ大丈夫かなって」


「少年は私の事を甘く見てるね」


「だって、口裂け女さんの足のおそ……足があまり速くないの知ってますし」


 ぼくは気を遣い控えめに言った。


「今の私はね、コックリちゃんの意思を継いで最強の状態なんだから♪後悔するよ!」


 口裂け女は走り出した。確かにビーチフラッグスの時よりは速い…だが、遅い。相も変わらず両手を横に振る女の子走り。


「首なしライダーさん、逃げましょう」


 ぼくは首なしライダーの手を引き逃げる。


「ま~て~」


 あっという間に口裂け女の声が聞こえない距離まで逃げきり、ぼくと首なしライダーは2階の階段すぐ隣の教室で休憩。


『昔、パンパンにするって意味がわからなかったけど、ああいう意味だったんだね』


「?」


『きっと、花子さんがパンパンにしたんだよね?』


「ごめんなさい、意味がわからないです」


『俺も当時は意味がわからなかったけど、あれがパンパンってことだと思う』


(首なしライダーさんの事は尊敬してるけど、ちょっと理解できないなぁ)


「オニだぞー!」


 2人が休憩してたら座敷わらしがやって来た。


「え!口裂け女さんに触られたんですか?」


「そうだぞ!」


「あんな足がおそ………足が速くない口裂け女さんがどうやってですか?」


 ぼくが驚き疑問を持つのもムリもない。口裂け女の足の速さはわかりやすく例えるならジョギングくらいの速度だ。ぼくより遅いとはいえ座敷わらしが口裂け女に触られたなんて信じ難い。なにより足の速さ以外にも座敷わらしのトリッキーな身のこなしを捉えられたとは到底思えない。


「あのな、くちさけがな、だっこしてくれるっていうからだっこしてもらったんだ。そしたらオニになってた」


(そんな方法で………ぼくが座敷わらしさんだったらどうしてただろう)


 ぼくは想像する。口裂け女がぼくに向かって両手を広げる。そして、ぼくはその胸に吸い込まれる……


『少年、大丈夫?』


「はっ!違うんです!ぼくは、そんなんじゃ」


 慌てて想像をやめる。


「おまえのオニなー」


 座敷わらしは動揺してるぼくにタッチ。


「あ」


『あ』


 ぼくと首なしライダーは目が合った。いや、首なしライダーに目はない。そもそも名前通り頭がないのだが…目が合ったと思う。


『今度は不意打ちできないぞ!少年!』


 首なしライダーは逃げる。わざとなのか太ももを高く上げ両腕を大袈裟に振り走る。子供が相手という事で大人としての振る舞いなのかもしれない。


「逃がしませんよ!」


 ぼくは首なしライダーの背中を追いかける。1階の階段を下りたあたりで追いついたぼくは首なしライダーに飛びかかる。


『追いつかれた!』


 首なしライダーはぼくの方へ振り返る。


「捕まえました!」


 ぼくは首なしライダーに抱きついた。


『捕まっちゃったー』


 首なしライダーはその場で横に回転する。抱きついたままのぼくの足は遠心力で宙に浮く。


 ここでぼくの家族構成を説明しておこう。といってもごく普通の家族である。父母共に健在でぼくは一人っ子である。


 柄にもなく首なしライダーに甘えてしまったのは兄や姉がいないからなのかもしれない。


「あはははははは」


『ははははははは』


 2人の微笑ましい光景を他の人物が見ていた。


「ふふふ、少年可愛い♪」


 口裂け女が職員室の前に立っていた。ぼくはそれに気づき抱きついていた腕を放す。


「く、首なしライダーさんの鬼です」


 ぼくは恥ずかしいところを見られ逃げるように2階へ。


「少年、あんな顔するんだね♪」


『俺も初めて見たかも』


「兄貴って感じなのかな?」


 口裂け女は首なしライダーのもとへ歩み寄り。隣まで来るとぼくが逃げていった階段を2人で眺める。


『それじゃあ口裂け女は姉御ってところかな』


「姉御だとスケバンとかヤンキーをイメージしちゃうな~、お姉ちゃんがいい!」


『じゃあ、お姉ちゃんの鬼ね』


 口裂け女の肩にポンッと手を置く。


「いいも~ん、わらちゃん捕まえるから~」


 口裂け女も2階へ。その後も足で追いつけない人は知恵を使ったり騙し討ちしたりして鬼は入れ代わっていった。しばらくすると旧校舎は静まり活発な鬼の入れ代わりがなくなった。ぼくは自然と3階を目指す。2階の踊り場で口裂け女と鉢合わせる。


「少年が鬼?」


「違います」


「鬼は誰なんだろうね」


「座敷わらしさんか一つ目小僧さんが鬼で疲れて寝ちゃったとか」


「あはは、ありそうだね~」


 2人は並んで3階へ続く階段を上る。


「………」


 ぼくを無言で見つめる口裂け女。その視線に気づく。


「どうしました?」


「少年、私の事をお姉ちゃんって呼んでみない?」


「ホントにどうしたんですか!?」


「だって、少年とダーちゃんが楽しそうにしてるの見たら私も甘えてほしいな~って」


「ダーちゃんって誰です?」


「あ!首なしライダーね」


「あ、あれは忘れてください!」


 ぼくの顔は恥ずかしさで赤くなる。


「ええ、忘れられないよ~あんな可愛い少年の顔♪でも、お姉ちゃんって呼んでくれたら忘れられるかも」


「わ、わかりました」


(ちょっとイジワルだったかな?ま、いっか♪)


「お、お姉……ちゃん…」


 ぼくの顔は更に赤くなる。


「や~ん、カワイイ♪」


 お姉ちゃんと呼んだ事がカワイイのではなく恥ずかしがるぼくを見てカワイイと言っているように思える。


「あの!花子さんだけには言わないでください」


「誰に言ってるの?」


「口裂け女さんしか居ないじゃないですか!」


「私、お姉ちゃんだもん」


「……お姉ちゃん、花子さんには言わないで、おねがい」


「うんうん♪お姉ちゃん約束守るよ♪」


 そんな会話をしてる内に3階に着いた。2人は女子トイレへ。


「花ちゃ~ん♪私、少年にお姉ちゃんって呼んでもらった~」


「ちょっと!」


 さっきのやりとりも口止めすべきだったと後悔。


「は?なんでそうなんのよ?」


「えっと…え~っとね~」


 お姉ちゃんと呼んでもらった経緯を話したらぼくとの約束を破る事になりかねない。口裂け女は少し考え答えを出した。


「なんでもな~い」


 これが口裂け女の答えだ。一応、ぼくとの約束は守ってはいる。


「なにか面白そうなこと隠してるわね」


「なんでもないよ~」


(ヤバイ!花子さんなら強引に聞き出しそう。なにか気を逸らさなきゃ)


 ぼくは打開策を考えてると女子トイレに座敷わらし、一つ目小僧、首なしライダーが来てる事に気づいた。


「オニはだれだー?」


「知らないわよ!」


 座敷わらしの問いに花子さんが答える。


(ありがとう!座敷わらしさん)


 話題が逸れた事に安堵。だが、まだ安心はできないと思い、ぼくは会話に入る。


「ぼくは違います」


「私も~」


「私もよ、ちなみにコックリも違うわ」


『俺達も違うんだよ』


 この場に鬼ごっこ参加者全員が居るにも関わらず全員が鬼ではないという謎の状況。


「コックリが死んだ後の流れを辿れば誰が鬼かわかるでしょ!私は口裂け女を触ったわ」


「私はわらちゃん」


「わたしはこいつだ」


 座敷わらしはぼくを指差す。


「ぼくは首なしライダーさん」


『俺は口裂け女』


「私はまた、わらちゃん」


「わたしはひとつめだぞ」


「オラは太っちょ君だ」


 初めて聞く名前だ。


「それ誰ですか?」


「太っちょ君だぞ」


「ここに居ますか?」


 念のため愛称で言っている可能性があるのでぼくは尋ねてみる。


「いない!」


「鬼ごっこの参加者はここに居る7人だけだよ。あ、ひきこさん入れたら8人か」


「10人じゃないのか?」


 仮に太っちょ君も参加者だとしても一つ目小僧の認識では謎の人物がもう1人いるようだ。


「その2人っていったい……」


 珍しくホラーチックなシチュエーションにぼくはテンプレなセリフを言ってしまう。


「いやああぁぁぁぁあぁぁ」


 口裂け女が大絶叫。


「うるさい!!」


「だだだ、だって、花ちゃん!ゆゆゆ、幽霊が出たかもしれないんだよ」


「落ち着きなさい、あんたは幽霊、私も幽霊。OK?」


「でも~」


 幽霊が幽霊を怖がるのは不思議な光景だ。


「口裂け女さん、自分も幽霊なのに怖いんですか?」


「当たり前でしょ!幽霊なんだよ!自分が幽霊だからとか関係ないよ!」


 要は怖いものは怖いという事だろう。


「んん……ここ…は?」


 口裂け女の大騒ぎでコックリさんが目覚めたようだ。


「あら、お目覚めね。顔もマシになったじゃない」


 コックリさんの頬の腫れは引き、いつも通りの顔に戻っていた。


「コックリちゃん、聞いてよ~」


 口裂け女がコックリさんに近づくと


「これ以上近寄るな!話は聞くから」


「あのね、鬼ごっこしてたら知らない誰かが増えてたの!2人も」


 コックリさんから少し離れた所から状況を話す。


「それがなによ?」


 コックリさんからしたら特に騒ぎ立てる事でもないようだ。


「そうよ、あんたらは私の手の届かない場所でワイワイやってたからいいじゃない」


 花子さんはコックリさんの意見に同意。この2人がタッグを組むのは珍しい………が、コックリさんは何かを思いついたようだ。


「そうね、あんた達は女子トイレから出られない花子をひとりぼっちにして楽しく遊んでいた。皆と同じように遊びたかったはずよ!花子は!!」


 コックリさんは花子さんに同情するフリをして何かを始める気だ。


「なっ!ちが、私はそもそも……」


「強がらなくていいわ。わかってるから」


 花子さん否定しようとしたが言葉を遮られた。


「あんた達も花子がこんな性格だから素直になれない事くらい理解しなさい!どれだけ寂しい思いをしたのか」


 コックリさんは目に浮かべた涙を指先で拭う。恐らく演技だ。そして、トドメの一言が放たれる。


「花子、可哀想」


「や、やめなさいよ」


 コックリさんの言葉で少し重い空気になり


「あんた達はどう思った?」


「はなこ、かわいそうだぞ」


 コックリさんの問いに最初に口を開いたのは座敷わらし。


「オラも可哀想だと思った」


『花子さんが可哀想だよ』


 連鎖するように可哀想コールが


「君は?」


 そう聞かれたぼくも口を開く。


「花子さん、可哀想です」


「ななな」


 追い詰められてるのだろうか、明らかに動揺してる花子さん。


「あんたはどう思った?」


 残るは口裂け女。


「こ、これ以上言わないで!私は可哀想じゃないから!」


「花ちゃん…」


 口裂け女は微笑みかける。その瞳は涙で潤んでいる。


「可哀想」


「やーめーろー!」


 今回、散々な目に遭ったコックリさんはなんとか一矢報いたようだ。


「つかれたぞ」


 座敷わらしは脈絡もなくそう言うと床に座り込んだ。


「なら今日はお開きね!!」


 この妙な雰囲気から抜け出したい花子さんは解散を提案。


「首なし!あんた座敷わらしを送ってあげなさい!」


 間髪入れずに指示を出す。少しでも間が空けばコックリさんにつけ込まれかねないからだ。


『一つ目小僧はどうする?』


「オラは歩いて帰る。あずき洗いに会っていきたいし」


『オッケー!それじゃあ、座敷わらしはこれ被ってね』


 座敷わらしにヘルメットを手渡す。


「おお、これいいな!」


 ヘルメットをペチペチ叩き気に入った様子。ヘルメットを頭に被りバイクの後部座席に飛び乗る。その後に首なしライダーもバイクに跨がる。


『じゃあ、みんなバイバイ』


 手を振る首なしライダー。


「こんどはヘルメットでずつきごっこしような」


 バイクは走り出し2人の姿は消えた。最後に気になる事を言っていた気がするが…


「そういえば、一つ目小僧さんはあずき洗いさんと知り合いなんですか?」


「あんた誰に話しかけてんの?」


「え?あれ?」


 さっきまで居たはずの一つ目小僧の姿がない。


「いつの間にか帰っちゃったみたいだね~」


「自由ですね」


「少年もお姉ちゃんと一緒に帰ろうか」


「はい!」


 無意識に元気よく答えてしまった。


「ぷぷぷ、甘えたい盛りなのね」


「やめなさいよ、花子。所詮は見た目通り子供なんだから甘えたい時に甘えさせなさい」


 2人は顔を近づけおばさんが世間話するような仕草で喋る。


「なんでこういう時は協力するんですか」


 ぼくは不服そうな目で似た者同士の2人を見つめる。


「行こ♪」


 口裂け女に促され女子トイレから退室。


「あんたも帰んなさい」


「そうね」


 コックリさんも帰ろうとすると


「花ちゃ~ん」


 廊下から声が。そこには口裂け女が頭だけひょっこり出し女子トイレを覗き込む姿が


「なに?忘れ物?」


「ううん、私ね、花ちゃんが寂しくないように来る頻度増やすね」


 うるうるした瞳で花子さんを見つめる。


「うっさい!さっさと帰れ!!」


 花子さんの感情に合わせて石鹸が口裂け女の方へ飛んでいく。


「きゃっ」


 直撃はしなかったが口裂け女は退散。


「ぷくく」


「ん!」


 花子さんは笑い声のする方を睨みつける。


「私も帰るー」


 睨まれたコックリさんは慌てて帰った。


「ふう、ホント疲れたわ」


 1人になった女子トイレでつぶやく、その顔は笑顔だった。



【おまけ】


「なんか久しぶりに校舎内に入った気がする」


「そうか?」


 2人の少年は旧校舎の1階に居た。


「にげろー」


 2人は自分達以外の存在に気づきビクッと体が反応する。


 目の前を着物を着たおかっぱ頭の少女が走り去っていった。


「な、なんだぁ、女の子か」


「び、びびってんじゃねーよ」


 ガキ大将は肘で小突く。するとポンッとガキ大将の背中を触る手が……恐る恐る振り返る。取り巻きも異変に気づき振り返る。


「太っちょ君の鬼だよ」


 ガキ大将の背中を触ったのは男の子だった。ただし、普通ではない。その顔には目が一つしかないのだ。


「にーげろー」


 男の子は階段を上っていった。2人は顔を見合わせる。お互い顔に目が二つあることを確認するように見つめ合い。


「ぎゃああああ」

「ぎゃあぁぁぁ」



≪次回予告≫


 彼は高貴で礼儀正しい 家の住人に許可を得られない限り家には入らない 彼は美容にうるさい 日光を浴びないよう徹底してる 彼は有名人だ みんな彼の苦手な物を知っている 好きな物が自分達の体に流れる赤い血であることもみんな知っている

 これで今回の話は終わりです。コックリさんは散々な目に遭いましたね。今回の話でコックリさんはそういうキャラなんだと皆さんも理解できた回だと思います( *´艸`) それと座敷わらしが伏線を張ってくれましたね。いつか書いてみたいと思います!ずつきごっこ  それでは

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