28話 ぼくと花子さんと座敷わらし④
ぼくとコックリさんは1階へ下りる。鬼ごっこの最中、やけに静かになった事に気づき鬼と思われる座敷わらしが飽きてしまったのではと確かめるためである。
2人はまず職員室へ、そこには首なしライダーがまだ寛いでいた。
「首なしライダーさん、座敷わらしさん見ました?」
『さっき少年を追いかけて行ったっきり来てないよ』
「そうですか」
職員室を後にして隣の校長室へ。入ってすぐ手前に客人用のソファーとテーブル。奥に校長先生が座ってたであろう机と椅子がある。
あちこち見てみたが座敷わらしの姿はなかった。次に1年生と2年生の教室へ向かう。
旧校舎は1階の入り口に入ってすぐ正面に階段があり、左の廊下に職員室と校長室がある。右の廊下に男子と女子トイレ、1年生の教室、2年生の教室が並ぶ。
「ていうか、なんで鬼を探してるのよ!私達」
「たしかに」
ぼくは1年生の教室を覗き込む。
(いましたよ)
小声でコックリさんに伝える。一応、鬼の可能性があるから気づかれないように観察。なにをするでもなく椅子に座り足をブラブラさせている。
「完全に飽きてるじゃない!」
コックリさんはガラガラと教室のドアを開け教室に入る。
「鬼が飽きてるんじゃないわよ!」
まだ鬼と決まったわけではないがコックリさんは鬼という前提で話しかける。
「だって、みんなはやくておいつけないぞ」
しょんぼりした様子の座敷わらし。
「だったら、はな……」
ぼくが喋ろうとしたらコックリさんに口を塞がれた。
(君はいまなんて言おうとしたの?)
(花子さんなら簡単に触れますよって言うつもりでした)
(やめなさいよ!また私がひっぱたかれるじゃない!)
2人が周りに聞こえないように小声で喋ってたら座敷わらしに近づく人影が
「花子なら簡単に触れるよ」
そう助言したのは一つ目小僧だった。
「ほんとか!?」
「うん、ほんとう!」
「よーし!はなこまってろー」
座敷わらしは教室から飛び出していった。
「きゅううぅぅぅ」
正面からぼくに抱きつき小動物のような声を出すコックリさん。唇はへの字で今にも泣き出しそう。助けを求めてるように見える。
「えーと、コックリさんが鬼になればいいんじゃないですか」
「そうよ!それ!君、冴えてるわね」
そもそも座敷わらしはみんなに足で追いつけず自分が鬼であり続けることに飽きてしまったわけなのだからコックリさんが無抵抗で目の前に現れればコックリさんを触るはずだ。
「座敷わらし!」
「ん?なんだ?コックリか」
走る座敷わらしを呼び止める事に成功。
「私が鬼になってあげるわ」
座敷わらしの方へ手を差し出す。
「んー」
「なに悩む必要があるのよ、ほら!」
「いい!」
コックリさんの提案を断り再び走り出した。
「ちょ、なんでよ!」
慌てて追いかける。あっさり追いつくとそのまま追い越し座敷わらしの前に立ちはだかるが、それを避け尚も3階を目指す座敷わらし。
「うそでしょ、こうなったら」
コックリさんは座敷わらしに飛びかかる。捕まえる気のようだ。だが、座敷わらしの動きは同じ妖怪のコックリさんでも捉えきれず気がつけば3階に到達。
座敷わらしは女子トイレへ駆け込み、コックリさんも女子トイレに着いたが間に合わないと思ったのか
「口裂け女!座敷わらしを捕まえて!」
「う、うん!まかせて!」
落ち込んでいた口裂け女に活力が戻り座敷わらしに飛びかかる。
「ふべ」
口裂け女は床に顔面から激突しうつ伏せで倒れる。もちろん座敷わらしの確保には至らず。
「はなこのオニ♪わー、にげろー」
座敷わらしは無邪気に逃げていった。
「コックリちゃん、ごめん」
うつ伏せのまま謝罪。
「こんのポンコツ!!」
コックリさんは罵声を浴びせると急いで逃げ出した。このあとに来るであろう悲劇から逃れるために
「ひきこ」
花子さんの呼びかけにひきこさんが現れる。
本日、何度目だろうか?ひきこさんが鬼になると女子トイレから飛び出していった。
「私、コックリちゃんに嫌われちゃった」
うつ伏せのまま嘆く。
「そんなの今更でしょ」
「………」
花子さんの追撃に返す言葉がないのか、それとも気力がないのか無言でうつ伏せを維持。
「ああもう!あんたがそんなんだと調子が狂うわ!」
「コックリちゃんに『役立たず』『ポンコツ』って言われた私の気持ち、花ちゃんにはわからないよ」
口裂け女はうつ伏せから右肩を下にし横になると膝を抱え込みうずくまる。その体勢は花子さんに背を向ける形になり、まるで花子さんとの会話を拒絶するかのようだ。
「仕方ないわね、コックリがあんたを頼る状況を作ってあげる」
「ホント!」
「とりあえず、あんたに動いてもらう事になるわ」
「まかせて!なんでもするよ~」
一方、どこかの教室でひきこさんVSコックリさん勃発。ひきこさんはジリジリと距離を詰め手が届く範囲まで来ると右手を振り上げる。
「ちょっと待ちなさいよ!」
コックリさんは叫んだ。その言葉で助かるとは思ってないだろうが言わずにはいられなかった。だが以外にもその言葉でひきこさんは動きを止めた。
(動き止まった?もしかしたら交渉できるかも)
今まで会話が成り立たないと思っていたひきこさんが動きを止めた事で光明が見えたコックリさんの口角が上がる。
「あんた、私のこのほっぺた見なさいよ!こんなに腫れてんのよ!」
今日、何度も叩かれた左頬を指差すコックリさん。
「とりあえず、その右手を下ろしなさい」
「きゃひ」
ひきこさんはゆっくりと振り上げた右手を下ろす。
「それでいいわ!もうその右手で私を叩くんじゃないわよ!」
「きゃひ」
(よし!このまま私の味方に引き込むわよ)
ひきこさんは自分の右手を見ている。
「あんた、ずっと花子にいいように使われてきたんじゃないの?あんなヤツにコキ使われて悔しくない?私とあんたが力を合わせれば花子をギャフンと言わせられるわよ。口裂け女も私の味方にできると思うし、どう?」
長々と話すコックリさんの声が聞こえてないのか、ずっと自分の右手を見ているひきこさん。
「ちょっと!私の話聞いてる……」
「きゃひひ」
「のぶっ」
コックリさんは右の頬を叩かれた……ひきこさんの左手で。右手で叩くなと言われ考えに考えた末のひきこさんなりの答えだった。仕事を終えたひきこさんは立ち去る。頭を使って疲れたのだろうか、その足取りはおぼつかない。
「なんなのよ、あいつ!全然話にならないじゃないの!」
お怒り中のコックリさんの背後に人影が…
「え?」
人影が襲いかかりコックリさんは何も抵抗出来ず気を失う。
「ここは……?」
コックリさんが目を覚ましたのトイレ。
「お目覚めね」
「あんたが居るって事は3階のトイレ…」
花子さんの姿を確認して場所はわかった。
「いったいなにが?」
目を覚ましたばかりというのもあって、うまく思い出せないようだ。
「さて鬼ごっこの続きをしましょうか」
「そうだった、鬼ごっこしてて、ひきこに叩かれたのまでは覚えている。私が鬼よね?」
「違うわ」
「え?だって私だれも触ってないわよ。叩かれた後……そうよ!誰かに襲われたのよ」
「私が鬼だよ~」
コックリさんの背後から声が、振り返るとそこには口裂け女。
「あー!!あんたでしょ!私を襲ったの」
「ち、違うよ~、ひゅー」
コックリさんから目を逸らし下手な口笛を吹く。
「こいつよ、あんたを襲ってここにつれてきたのは」
「花ちゃん、バラさないでよ~」
「あんたの下手な口笛と演技でバレバレよ」
「ドア開けなさいよ」
ドアは閉まっており、2人の会話はそっちのけでトイレから脱出を試みるがドアがびくともしない。
「私が閉めてるんだもの、開かないわよ」
声の方へ振り返り身構えるコックリさん。
「私に何する気よ?」
コックリさんの天敵が2人も目の前にトイレから脱出も出来ない。必然的にコックリさんの警戒心はMAXだ。
「言ったでしょ、鬼ごっこよ」
「タッチ返しなしだから~花ちゃんにタ~ッチ♪」
口裂け女がコックリさんを運ぶ際にコックリさんから口裂け女に鬼が移ったようだ。
「ひきこ」
呼びかけに応じ、ひきこさん登場。
「ちょっと待ちなさいよ!トイレに居るんだから自分で触れるでしょ!」
「それもそうね」
そう言うとコックリさんに近づきスパーンッと左頬にビンタ。
「ふぅ、やっぱり自分で仕返しした方がスカッとするわね」
「イ、イタイじゃないのよ!」
「当たり前でしょ!痛くしてるんだから!それより選びなさい。ひきこを鬼にしてビンタされるか、口裂け女を鬼にしてビンタされるか」
「どっちも同じ結末じゃないのよ!」
「そりゃそうよ、ひきこが鬼になっても私を触り私がビンタ、口裂け女が鬼になったとしてもタッチ返し禁止だから私かひきこが鬼になりビンタ。あんたはもう詰んでるのよ」
(ひきこを鬼にしても花子が鬼になりビンタ、口裂け女を鬼にしたら気絶したあげくビンタ…まだ、ひきこの方が……いいえ、いま花子は勝ちを確信している。私の些細な頼みを聞いてくれる可能性もあるわ)
コックリさんの脳内では勝利への方程式が生成されつつある。
(見えた!)
方程式は完成したようだ。
「私は今からひきこを触るわ」
「あらそう」
「でも、お願い!ひきこに口裂け女を触るように指示して!せめてビンタへのスパンを遅れさせるくらいの慈悲をちょうだい!」
コックリさんは頭を下げる。
「仕方ないわね、いいわよ」
頭を下げてるコックリさんの姿には誠意すら感じる。だが、表情は怪しい笑みを浮かべていた。他の3人は知る由もない。
「じゃあ、あんたの鬼ね」
怯える様子でひきこさんにタッチ。
「きゃひひ」
ひきこさんは口裂け女に軽くタッチ。
(なによ、あいつ!力加減できないバカかと思ったら普通に触れるんじゃない。ビンタも花子の指示だったわけね。腹が立ってきたけど、次の一手で決まる!)
コックリさんは打って出る。
「口裂け女!私を触りなさい!」
「え?」
突然の申し出に驚く。
「いいの?」
「ええ」
「コックリちゃ~ん♪」
嬉しさの余り抱きつくように触る。
「うぐ…むむむむ」
コックリさんは何度も意識が飛びそうになるが必死に耐える。
「はあ♪」
満足した顔でコックリさんを解放する。
「耐えれた…」
「そういうこと、ひきこを触りタッチ返し禁止だからあんたは安全、そして口裂け女を触らせ口裂け女に自分を触らせる。これでビンタを免れる算段なわけね」
コックリさんの思惑を理解した花子さん。続けて
「でも、残念ね。ひきこは私の思い通りに動く、ここからはビンタ祭りよ」
「残念なのはあんたの頭よ!さっきはタッチ返しの縛りであんたを標的にできなかったけど、今はその縛りはない!これであんたを叩けるわ!覚悟なさい、花子!」
コックリさんが迫るがまったく動じない花子さん。
「いくわよ」
「どうぞ」
コックリさんは右手を振り上げるが余裕の表情を崩さない花子さん。そして、コックリさんの右手はもの凄い勢いで花子さんの頬へ迫る…が、パシッとコックリさんの手を掴む手が
「な!?」
「きゃひひひ」
手を掴んだのはひきこさんだった。
「あらら、これで鬼はひきこね」
ひきこさんは左手でコックリさんの手を掴んだまま右手で花子さんにタッチ。
「そして、私の鬼。私にケンカ売ったんだから、あんたパンパンよ」
「もうすでにパンパンよ!見なさいよ!このほっぺた!」
コックリさんの左頬は相変わらず赤く腫れている。
「放しなさいよー」
鬼が花子さんになっても手を放さないひきこさん。そのせいで逃げる事が出来ず。
「ぶっ」
花子さんのビンタが炸裂。
「今、この状況どういうことかわかる?」
「んん!んん!」
必死に首を振るコックリさん。説明しなくても絶体絶命なのは理解してるようだ。
「私があんたを触りあんたはひきこと手を繋いだ状態、自動的にひきこが鬼になってタッチ返し禁止だから手を繋ぎ続けてもあんたが鬼になる事はない。そしてひきこは私に触る。さぁ、私はその後どうするかしら?」
コックリさんは捕らえられてしまったのだ。一方的に自分だけ不利益を被る魔のトライアングルに、もちろん花子さんは普通に触るはずはない。確実にビンタだ。
「花ちゃん、話がちが~う!」
ひきこさんから強引にコックリさんを取り上げたのは口裂け女だった。
「あぁ……」
口裂け女に抱き上げられたコックリさんは息絶えたような声を出し目から光が消えた。そのコックリさんを床に寝かせ手をお腹の上で組ませ見開いた目に手をかざすと目が閉じた。
「安らかに眠ってね」
優しく声をかける口裂け女。
「コックリがしんだぞ!」
廊下から声が聞こえた。閉ざされていたドアは開いていた。ぼく、座敷わらし、一つ目小僧、首なしライダーの4人が廊下から中を覗き込んでいた。
『あんなにパンパンにされて可哀想…』
「私、コックリちゃんの意思を継ぐ!花ちゃん、私が鬼になる!」
口裂け女は花子さんに向け手を出す。
「大袈裟ね、はい」
花子さんはその手に軽くタッチ。
今回のコックリさんはホント散々な目に遭ってますねぇ、実は当初、コックリさんさんが花子さん、ひきこさんの魔のトライアングルに捕らわれた時、3週くらい同じ流れでひっぱたく予定だったんですが、書いてて辛くなって止めたんですよね(^-^; そして、ひきこさんVSコックリさん、そんな映画があったようななかったような。 それでは