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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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27話 ぼくと花子さんと座敷わらし③

 ぼくは嫌々コックリさんを手伝うことになったのだが


「なにをすればいいんですか?」


「あの用務員を2階の端の教室に誘導してちょうだい」


「どうやってですか?」


「あっちの教室が散らかってるとか言えば勝手に行くわよ」


「自分で言えばいいじゃないですか」


「いやよ」


「はぁ、わかりました」


 あまり気は乗らないがコックリさんの指示に従うことに


「あの、おじさん。向こうの教室が散らかってるみたいですよ」


 用務員は無言で笑みを向けぼくの頭をポンポンとした。ぼくの中で罪悪感がどんどん膨らんでいき耐えられなくなり


「おじさん!さっきあの人、廊下を走ってました!」


 ぼくが指差したのはコックリさん。用務員はゆっくりコックリさんの方を向き


「廊下ヲ走ルナー!!」


 用務員の雰囲気は激変。雰囲気だけではない、見た目も異形の姿へと変わっていた。


「裏切ったわねー」


 用務員さんに2回連続で嘘をついてしまったが、2回目の嘘はなぜか罪悪感を感じなかった。


 コックリさんは走り出し廊下の一番奥の教室に逃げ込む。用務員さんが教室に入ったのと入れ違いで入って来た出入口とは別のもう一つの出入口からコックリさんが飛び出した。不思議パワーで教室のドアと窓が閉まりコックリさんは懐から御札を出しドアと窓に投げつけると御札はピトッと張り付いた。


「ふぅ」


 コックリさんは手をパンパンと叩き額の汗を拭うとぼくの方へ向かってくる。


「よくもやってくれたわね!」


「結果オーライじゃないですか」


「なにが結果オーライよ!本気で死ぬかと思ったわよ!もういいわ!これでアレもしばらくは出てこれないし動きやすくなったわ」


「これからどうするんですか?ぼくが鬼になりましょうか?」


 手を差し出すが


「君だとまた裏切られそうだし、あのガキを利用するわ」


「鬼はどこだー?」


 絶好のタイミングで一つ目小僧が2階の廊下へ。


「こっちに来なさい」


「なんだー?」


 コックリさんの手招きで一つ目小僧が駆け寄ってくる。


「はい、あんたの鬼」


 優しく一つ目小僧にタッチ。


「わわ、騙されたー」


「騙したお詫びにいい事を教えてあげる。花子だったら簡単に鬼にできるわよ」


「ホントかー」


 一つ目小僧は元気よく3階へ向かう。その後を追うコックリさん、ぼくもそれに続く。一つ目小僧が3階の女子トイレに入ったのを確認するとぼくとコックリさんは廊下から中を覗く。


「ホントだー♪コックリの言う通り簡単に花子に触れたー。逃げろー!」


 一つ目小僧は女子トイレから飛び出し階段を下りていった。女子トイレ内の花子さんは落ち着いた様子。


「ひきこ」


 ひきこさんが現れる。現れて早々、ひきこさんにタッチ。


「それ反則じゃない!」


「喋ってるヒマあるのかしら?」


「逃げるわよ!」


 コックリさんはぼくの手を掴み走り出す。階段を下りる最中、ぼくは気になった事があったのでその疑問をコックリさんに尋ねることにした。


「気になったんですけど、ひきこさんって妖怪ですか?幽霊ですか?」


「え?幽霊よ!幽霊!」


 それを聞きぼくは立ち止まる。


「どうしたのよ?」


「なら、ぼくは安全ですね」


 幽霊が触れる事が出来るのは同じ霊的存在と妖怪だけなのだ。よって幽霊のひきこさんはぼくに触る事が出来ないので安全なのだ。


「裏切り者ー」


 コックリさんは2階の廊下へ。予想通りひきこさんはぼくに目もくれずコックリさんを追う。


「あー、しまったー!」


 コックリさんは自ら封印を施した教室の前へ来ていた。完全に袋小路だ。振り返るとひきこさんが追いついていた。2人は向き合い駆け引きが始まる。先に仕掛けたのはコックリさん、右に左にフェイントをかける。廊下の隅を駆け抜けるのかと思いきや飛び上がり、壁を蹴りさらに高く飛ぶ。


「この身軽さ自分でも惚れ惚れするわ」


 ひきこさんを出し抜いたと確信したコックリさんの目の前に人影が


「きゃひひ」


 ひきこさんだ。


「へぶっ」


 コックリさんは空中でひっぱたかれた。仕事を終え、ひきこさんは帰る。


「惜しかったですね」


「よくも裏切ったわね」


「いや、結果は変わらなかったと思いますよ」


「まだよ!手伝いなさい!」


「次はなんですか?」


「とりあえず、君を鬼にするから鬼になったら花子を触りなさい」


「花子さん幽霊だから触れないです」


「そうだった、じゃあ口裂け女でいいわ。私の頼みなら断らないだろうし」


「口裂け女さんも幽霊ですよ」


「あーーー!なんて不便な体質なのよ!」


 コックリさんは頭を掻きむしる。


(不便な体質ってぼくの事かな?それとも花子さん達、幽霊の事かな?でも妖怪が便利な体質なだけな気がする)


 妖怪の便利な体質でぼくは思いついた。


「あ、首なしライダーさんじゃダメなんですか?他にも座敷わらしさんや一つ目小僧さんも」


「そっか、あいつらが居たわね。誰でもいいわ、連れて来てちょうだい。優先順位は首なし、その次にお子様2人のどっちか、口裂け女は可能な限り連れて来ないで」


「わかりました」


「私を裏切ったんだから役に立ちなさい」


 ぼくはその一言になにか引っかかるものを感じながら階段を下りる。1階へ下りると階段すぐ横に膝を抱えて座る女性が


「見つかりませんように、見つかりませんように、見つかりませんように」


 口裂け女だった。


(どうしよう、優先順位は首なしライダーさんか座敷わらしさんと一つ目小僧さんだけど………ま、いっか!ぼくをコキ使うんだから仕返ししても)


 口裂け女を連れて行く事を決めた途端、先程のなにか引っかかる感覚がスゥッと消えた。


 声をかけようとすると


「きゃっ!見つかった」


 口裂け女はぼくに気づき鬼だと思ったのか慌てて逃げようとする。


「待ってください!コックリさんが呼んでます」


「え!コックリちゃんが♪」


「ついてきてください」


「うん♪」


 口裂け女はスキップしながらぼくの後についてくる。


「つれてきました」


「なになに?コックリちゃん」


 嬉しそうにコックリさんに迫る口裂け女。


「なんで、そっちを見つけてくるのよ」


 コックリさんは不満そうな言葉と視線をぼくに向ける。


「手軽でしたので」


 笑ってごまかす。


「……仕方ないわ、口裂け女、あなたにやってほしい事があるの」


「私、コックリちゃんのためならなんでもするよ~」


「今、私が鬼なの」


「じゃあ、私がコックリちゃんの代わりに鬼になればいいんだね」


「そう、その後は花子に触ってきてほしいのよ」


「まかせて!」


 口裂け女は手を差し出す。


「それじゃあ、あんたのオ……ニ…」


 コックリさんは口裂け女に触れると某名探偵の腕時計から射出される即効性の麻酔を打ち込まれたかのように気を失う。


(自分から触っても気を失うなんてよっぽどなんだな)


「おっとと」


 身を預けるように倒れるコックリさんを口裂け女が支え廊下の壁にもたれ掛かるように座らせる。


「コックリちゃんのことよろしくね~」


 そう言うと口裂け女は階段へ。


「はっ!私はいったい?」


 口裂け女が立ち去ってすぐに覚醒。


「口裂け女さんに触って気を失ったんですよ」


 ぼくは状況説明。


「私、うまくやれたのね」


「はい」


 気を失ってしまってたが、あれでうまくやれたのかは疑問が残る。


「ついてきなさい!」


 言われるがままにぼくはコックリさんについていく。3階の女子トイレ、廊下から中を覗く。


「花ちゃん、恨まないでね。コックリちゃんが私を頼ってくれたんだから本気だよ~」


 花子さんVS口裂け女が始まろうとしていた。


「はぁ、懲りないのね。いいわ、早く触りなさい」


「え!いいの?」


「ん」


 花子さんは手を差し出し、その手に口裂け女はタッチ。


「ひきこ」


 ひきこさん登場。


「来たわね」


 するとコックリさんは不思議な呪文を唱える。どこかで聞いたその呪文はゆきおんなが来た時、トイレを異世界へと繋げた時の呪文だ。周りの風景は変わり廊下は草原へと変わった。


(わざわざこんなことしてどうするんだろ?)


「これで裏切り者に粛正できるわ」


 いつの間にかぼくから距離を取っていたコックリさんが言う。裏切り者とはぼくの事だろう。


(それで異世界に繋げたのか)


 ぼくはコックリさんの行動を理解した。異世界では人間の存在はあやふやになり妖怪や幽霊と同じ存在として扱われるらしい。つまり、今ならひきこさんもぼくに触る事が出来る。ぼくの裏切り行為をひきこさんを利用して復讐する気なのだ。


(でも、そういう問題じゃないと思うんだよなぁ)


「今までは子供だからって気にしなかったけど、今日の2度の裏切りで考えを変えたわ!私の策略にひれ伏しなさい!あーはっはっはっは」


 ひきこさんは歩き出しぼくの横を通り過ぎて真っ直ぐにコックリさんの方へ。高笑いしてるコックリさんはそれに気づかない。


「あーはっはっはっは!あーはっはっはっは!」


「きゃひ」


「はばっ」


 高笑いに夢中な無防備なコックリさんを容赦なくひっぱたく。


(やっぱりこうなった)


「あんた、学習能力ないわけ?最初からあんたしか狙ってないわよ」


 呆れる花子さん。


「ひどいじゃない!私がなにしたっていうのよ!」


「前のビーチフラッグスのお礼よ」


 前とはゆきおんなが来た時、ビーチフラッグスで花子さんは異世界とはいえ女子トイレ同様に移動制限があるのを忘れて見えない壁に激突した出来事だろう。ビーチフラッグスを提案したのはなにを隠そうコックリさんだったのだ。


「なら、今のは失策ね。それを知った以上は花子!あんたを鬼にしなければいいだけよ!」


「どうぞ、ご自由に。私は元から参加する気なんてないんだから」


「コックリちゃんのためならいつだって鬼を変わってあげるよ」


 両手を広げる口裂け女。


「うっさい!役立たず!」


「ガ~ン!」


 ちゃんと役目を果たしたはずなのに叱責された口裂け女は膝から崩れ落ちる。そして、さりげなくコックリさんはぼくにタッチ。


「君の鬼よー」


 そう言いながら階段を下りていった。ぼくの目の前には無気力の口裂け女と花子さん。


「どうすんの?今なら口裂け女に触りたい放題よ」


「変な言い方やめてくださいよ」


「私でもいいわよ、ひきこ使ってあいつをひっぱたくから」


「両方ともやめときます。それに廊下も元に戻りましたし」


 コックリさんが術を解いたのか草原は元の廊下に戻っていた。


「あっそ、残念ね」


「あまりコックリさんをイジメると可哀想ですよ」


 ぼくはそう言い残し階段とは反対方向に


「どこ行く気?」


「あっちには行った事なかったので、この際だから見て来ます」


「あんたが見ても楽しい物はないと思うわよ」


 花子さんのトイレの隣には……といっても男子トイレではなく、その反対側の隣である。そこは広い教室があった。


 ぼくはその教室を廊下から歩きながら眺める。教室内には乱雑にイスや机が置いてあり、ピアノもある。壁には有名な人物達の肖像画が掛けられている。


「音楽室なのかな?」


 考えてると廊下の突き当たりに着いた。


「ドア?」


 突き当たりの壁にはドアがあった。ぼくは反対側の突き当たりの壁のようになにか隠れたギミックがあるのではないかと調べる。ドアノブには厳重に鎖が巻きつけてある。ドアに小窓があったので、そこから向こう側を覗き込むと


「外階段だ」


 ドアの向こうには階段があり、それは上の階に行くだけの階段だ。旧校舎は3階建てなので、これは屋上へ行くためだけの階段だ。


「今の時代、屋上のドアにカギかけるのは普通だよね」


 ぼくは自殺対策かなにかで鎖が巻かれてるのだと納得し引き返す。


「どうだった?」


 女子トイレの前を通るとトイレ内から花子さんが感想を尋ねてきた。


「んーーー、廊下の突き当たりにあるドアなんですけど、鎖が巻かれて開けられませんでした」


「よかった……開けるんじゃないわよ!閉ざされてるのにはそれなりの理由があるんだから」


「首なしライダーさんの通路みたいにドアにもなにか秘密があるんですか?」


「ないわよ、ただの普通のドアよ、鎖もね」


(なにか隠してる気がする。でも、いつものイジワルとかではなさそう)


 好奇心で聞いてはいけない気がして追及するのを止めた。


「じゃあ、ぼくは下の階に行きますね」


「はいはい、子供らしく楽しんで来なさい」


 花子さんは追い払うような仕草でぼくを見送る。


 2階へ下りるとコックリさんと遭遇。


「2階には私以外居ないわよ」


 コックリさんは逃げたり慌てたりする様子はない。なぜなら、ぼくを鬼にしたのはコックリさんでタッチ返し禁止というルールがあるからだ。


「そうですか」


 ぼくはそのまま1階へ。すると早速、座敷わらしと遭遇。


「おまえ、オニか?」


「はい」


 ぼくは素直に答えた。


「にげろー」


 座敷わらしはぼくに背を向け走り出した。ぼくはそれを追いかける。ジワジワと距離が縮まり座敷わらしの背中に手が届きそう。


(あと…少し)


 指先が触れる寸前、座敷わらしは横に移動。そして、壁を走る。


「うそ……」


 ぼくも勢いさえあれば壁を3歩くらいなら走れる自信はあるが、座敷わらしは次元が違う。妖怪の身体能力に驚愕したぼくは走るのを止めた。


「なんだ、おわりか?」


 追いかけるのを止めた事に気づいた座敷わらしも立ち止まるとこちらを見てる。立ち止まってもなお壁に垂直で立ってることから身体能力ではなく妖怪パワーである事がわかった。身体能力で負けたと思ってたぼくに再びやる気が


「まてー」


「わー、にげろー」


 壁や天井を自由自在に走り回る座敷わらしに速度では勝ってるものの、あと少しのところで手が届かない。すると1階の職員室で寛いでいる首なしライダーを発見。ぼくはターゲットを変えて首なしライダーの背後に迫りタッチ。


「首なしライダーさんの鬼ですよ」


『やや!まさか、少年にやられるとは』


 少し驚いた様子で振り返る。


「くびなしはいつもへんなこえだな」


『座敷わらし君はいつも元気だねぇ』


「そうだ!わたしはいつもげんきだ!」


『よしよし、座敷わらし君の鬼だ』


 座敷わらしの頭を撫でながら言った。


「くびなし!だましたな!」


 座敷わらしは周りを見回しぼくと目が合うと


「まてー」


 さっきとは逆に座敷わらしがぼくを追いかける構図になった。


「あはは、捕まりませんよー」


 足の速さではぼくの方が速い。2人の距離は広がっていきぼくは逃げ切る事に成功。2階に上がるとまたコックリさんに遭遇。


「あら、まだ君が鬼かしら?」


「今は座敷わらしさんが鬼です」


「残念、君への仕返しはまた考えなきゃね」


「またなにかやるつもりですか?」


 呆れた顔で聞く。


「今日はもういいわ、ほっぺたがね…」


 コックリさんの左頬は真っ赤に腫れていた。


「虫歯ですか?」


「違うわよ!君も見てたでしょ」


 そう、ぼくは何度も見た。コックリさんがひきこさんに左頬をひっぱたかれたのを…あえて冗談を言ったのだ。


「それにしても静かね、まさか鬼は飽きて寝てるじゃないでしょうね?」


「まさか」


 そう言いつつも、あの天真爛漫な座敷わらしだから否定できない。

 今回、遂に用務員さんが本性を見せましたね!名前はなんにしましょうかね?インフェルノなんてどうでしょうか?( *´艸`) それと、この話を書いてる途中、急遽、付け加えたシーンがあるんです!それは花子さんのトイレを通り過ぎた先にある突き当たりのドアです。個人的にすごく重要な事なので慌てて書き足しました!タイミング的にこのタイミングを逃したら次の話にも影響がありそうだったんです。もう少し早くに気づければと反省してます(/o\) その話はもう少し先になりますが、待っていてください! それでは

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