26話 ぼくと花子さんと座敷わらし②
「おかみにしんぱいかけたくないから、しばらくここにいるぞ」
この女子トイレの主に許しを得ず勝手に決める座敷わらし。
「しばらくって大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、この子のしばらくは数時間だから」
「はなこ!あそぶぞ!」
座敷わらしは花子さんの腕を掴み引っ張る。
「いやよ!めんどくさい」
「ケチ!あそんでくれないときにのぼるぞ」
「のぼれば?」
「カツラかぶっちゃうぞ」
「それならちょんまげがいいわね」
「コタツだすぞ」
「あら、助かるわ」
「おすもうさんにサインもらっちゃうぞ」
「勝手にすれば」
「きらいになっちゃうぞー」
花子さんに素っ気なく返され、とうとう座敷わらしは床を転がり手足をバタバタと駄々をこねる。
「仕方ないわね」
花子さんは五円玉と紙を取り出し紙を宙に浮かべ紙に書いてある鳥居の絵に五円玉を移動させ五円玉に人差し指をピトッとつける。
「おいでませぇ」
(コックリさんの呼び出し雑になってきてる)
ぼくがそう思ってると、いつも通りポンッと煙と共にコックリさん登場。
「片手間で呼ぶなー!!」
登場早々にお怒りだ。
「口裂け女!」
花子さんに名前を呼ばれたからなのか、いつも通りなのか口裂け女はコックリさんに飛びかかる。
「ぎゃああああ」
「あと1人くらい呼びましょうか」
コックリさんが大変な目に遭ってるのを気にも留めず花子さんはスマホを操作する。
「子供1人…誰でもいいわ」
行きつけの店に出前を頼むかのように必要な事だけを伝えて電話を切る。すると、ものの数秒でバイクのエンジン音と共に首なしライダーが到着。後部座席には誰かが座っている。ヘルメットをかぶってて顔は見えない。首なしライダーはバイクから降り後部座席の子を抱き上げ床に下ろし、ヘルメットを外すのを手伝ってあげる。背丈は座敷わらしより少し大きい。服はぼくと似たような半袖半ズボン。ヘルメットを外したその子の顔は…
「目が一つ…」
ぼくは心の声を口に出してしまった。その子は頭部に一切髪が生えておらず、それ以上に目立つのが目だ。その子の目は見事に左右対称だった。右目と左目が対称的であるという意味ではない。顔の中心、鼻の真上に丸い目が一つだけなのだ。切れ長やタレ目でもなく丸い目だ。
「もしかして、一つ目小僧さんですか?」
見た目的にほぼ間違いないのだが、念のためぼくは尋ねる。
「きみ、オラのこと知ってるのか?」
「ええ、まぁ、はい」
「あそぶぞ!」
座敷わらしが一つ目小僧に話しかけてきた。
「うん!あそぼー!」
人見知りしないのか、それとも初対面ではないのか、会って早々に座敷わらしと一つ目小僧はキャッキャッ声を上げ口裂け女の足下で走り回る。
「あ~コックリちゃ~ん♪」
相変わらず口裂け女はコックリさんに夢中だ。コックリさんのお腹に顔を埋めたと思ったら思いっきり息を吸い込む。ねこ吸いならぬコックリ吸いだ。コックリさんは嫌がる気力もない…というより意識が飛んでる。
「あ~ん、コックリちゃ~ん♪」
幸せそうにコックリさんを自分の頭より高い位置に持ち上げる。
「くちさけ、わたしもたかいたかいしてほしいぞ」
走り回ってた座敷わらしは口裂け女の前で止まり服を引っ張りねだる。
「いいよ~♪」
コックリさんを降ろすと座敷わらしの両脇に手を入れ
「たかいたか~い♪」
勢いよく持ち上げた。座敷わらしは手足をパタパタさせ大喜び。
「オラも!オラも!」
口裂け女の足下で一つ目小僧もねだる。座敷わらしを降ろし、一つ目小僧も同様に両脇に手を入れ勢いよく持ち上げる。
「たかいたか~い♪」
こちらも座敷わらし同様のリアクション。
「はっ!私はなにして?」
口裂け女の呪縛から解放されたコックリさんの目に生気が戻った……のも束の間。
「コックリちゃんもたかいたか~い♪」
2人と同様にコックリさんを持ち上げるが、精神年齢が高いからかノーリアクション。いや、よく見ると死んでる……目が
「もっかいだ!くちさけ」
座敷わらしは2回目を要求。それに応じる口裂け女。
「オラも!」
その流れで一つ目小僧も2週目突入。
「はっ!私はなにして?」
コックリさんは生き返るが…一つ目小僧の番が終わると頼んでもないのにコックリさんの番がやって来る。そして、コックリさんは死んだ…目が
座敷わらし、一つ目小僧、コックリさんの順で何周か繰り返された。その度にコックリさんは死を迎える…目が。どうやら口裂け女に触られたら死んでしまう体になってしまったらしい。これも一種の生存本能なのだろう。
『幸せな空間だね』
ぼくの耳元で可愛らしい声が聞こえた。それは首なしライダーのスマホから発せられた音声だった。
「なんていうか…託児所みたいです」
『あはは、口裂け女君は良い保育士になりそうだね。おや?新しい児童が入るみたいだよ』
首なしライダーは冗談っぽく言う
(新しい児童?他に誰か来てたっけ?)
「たかいたか~い♪」
口裂け女はその子を持ち上げる。その子は白のワイシャツに赤い吊りスカートの少女だった。そう、その少女は旧校舎3階の女子トイレの主である花子さんだ。
「ちょっと、あんたわざとでしょ?」
不機嫌そう。
「えへへ、花ちゃんちっちゃいからつい」
この扱いを花子さんが喜ぶはずもなく…
「ちっちゃくないわよ!」
身をよじり口裂け女の腕から抜け出し、落下の際に本日2度目の頭突きをお見舞いする。
「いた~い」
『反抗期の児童もいるみたいだね』
首なしライダーはまた冗談っぽく言う。
「ですね」
ぼくはその意見に同意する。
「そっち!ちゃんと聞こえてるんだからね!」
花子さんはぼくらの方を指差す。首なしライダーの体はビクッとなる。そして
『ビクッ!』
わざわざ音声化する。
「なあ、くちさけ、ほかのあそびはないのか?」
たかいたかいに飽きたのか他の遊びを要求する。
「ん~、じゃあ!鬼ごっこしようか?」
「おお!するぞ!」
座敷わらしは両手を上げる。
「オラも!」
隣の一つ目小僧も両手を上げる。
「それならみんなでやりましょ!」
意識が戻ったコックリさんが提案する。
「私が鬼で始めるわよ!タッチ返しは禁止よ!早く逃げなさい」
「にげるぞー」
「わー」
座敷わらしと一つ目小僧は口裂け女の手を引きトイレから出ていった。
「ほら、君達も逃げなさい」
コックリさんはぼくらの方を見て言う。
「ぼくたちもですか?」
『楽しそうだよ!少年!逃げるぞぉ』
ぼくは見てるだけのつもりだったが首なしライダーに背中を押され参加することに
「あんたもよく付き合うわね」
花子さんはコックリさんに話しかける。
「そうね、私も目的が無ければ自分から参加なんてしないわ」
そう話しながらコックリさんは花子さんの肩に手を置く。
「目的ってなによ?」
花子さんの質問にすぐには答えず意気揚々と廊下へ出て女子トイレの方へ振り返ると
「花子!あんたを鬼にするためよ!バァカ、これであんたはなにも出来ない。無様ね!あっはっはっは♪」
今現在、鬼ごっこの参加者はみんなで女子トイレから出ている。花子さんは女子トイレから出ることが出来ない。これがコックリさんの狙いだったのだ。
「あんたは……」
「悔しくて言葉が出ないみたいね!どうかしら?今までのことを悔い改めるなら慈悲を与えてもいいわよ」
反撃出来ないと確信したコックリさんは偉く饒舌だ。
「……………」
「私は優しいから救いを与えてあげる」
そう言うとコックリさんは右足を女子トイレ内へと近づける。足の爪先が女子トイレに入る寸前
「うっそー!期待したかしら?トイレ内だったら無敵なんですものねー。でも、ここならあんたはなにも出来ない!あーはっはっはっは」
コックリさんの高笑いが廊下中に響き渡る。ぼくはなかなか追いかけて来ないコックリさんが気になり3階に戻って来た。
「どうしたんですか?」
状況がわからないぼくはコックリさんに尋ねる。
「ああ、戻って来たの?君も見てみなさい!花子の無様な姿を」
ぼくが女子トイレを覗き込むと
「あんた、これで私に勝った気?滑稽ね」
花子さんは不敵な笑みを浮かべる。
「な、なによぅ、そこから出られないのは事実でしょ」
確かに花子さんは女子トイレから出られないはずなのだが、あの笑みを見るとここも安全じゃない気がしてきた。
「ひきこ」
花子さんは落ち着いた声でそう言うと、どっからともなくひきこさんが現れる。
「おねがいね」
花子さんはひきこさんの肩を触る。いまだに花子さんとひきこさんの関係性は不明だが、その光景を見てひきこさんは花子さんの手足として動くつもりなのだと理解した。
「君!逃げるわよ!」
ひきこさんが動き出す前にコックリさんは逃げる。ぼくもコックリさんの後を追う。
「あら?尻尾巻いて逃げるの?ひきこ!!!」
呼び出した時とは反対に覇気のこもった声。その声が合図となりひきこさんは走り出した。
「きゃひきゃひきゃひ」
不気味な笑い声が2人を追う。
ぼくとコックリさんは2階の廊下へ出た。後ろからはひきこさん、ぼくは走ろうとすると
「待ちなさい」
コックリさんに止められた。
「後ろから鬼が来ますよ」
「走らず歩くのよ」
「追いつかれちゃいますよ」
「大丈夫よ」
コックリさんは指を指す。その方向には用務員のおじさんが清掃中。
「あのひきこもアレのヤバさを知ってるから下手なことはしないはずよ」
「本当ですか?」
半信半疑だが言われた通り歩くことに、後ろを振り返るとコックリさんの言った通りひきこさんも歩きでぼくたちを追いかける。
「廊下は走るなよ」
「はい」
用務員の前を通りすぎると話しかけられ、ぼくは返事を返した。
「君、よくアレと顔を合わせられるわね」
「優しそうな人じゃないですか」
「廊下を走ってみればアレの怖さがわかるわよ」
「じゃあ…」
ぼくはクラウチングスタートの構え。
「やめなさいよ!私を巻き添えにする気?」
「冗談ですよ」
手をパンっパンっと叩き立ち上がる。
「くだらない冗談を言った代償かしらね。残念ね」
コックリさんはぼくの背後を指差す。ぼくは振り返ると目の前にひきこさん、悪い人ではないと思うがぼくは思わず目を閉じてしまった。が、ひきこさんはぼくには目もくれず横を通り過ぎていった。予想外の出来事に逃げるタイミングを逃したコックリさんは至近距離でひきこさんとご対面。
「きゃひひ」
「へぶっ」
ひきこさんは右手でコックリさんの頬をタッチ。バチーンと音を立てたそれはビンタと言った方が正しい。ひきこさんは立ち去っていった。
「いたたた、なんなのよ!あいつ!」
叩かれた左頬を擦りながら離れていくひきこさんの背中を睨みつける。
「君!手伝って!」
「えー」
ぼくは嫌そうな声を出す。
「君のせいでこんな目に遭ったんだから手伝いなさいよ!」
「…はい」
口裂け女は子供の相手が上手ですねぇ。それに比べて花子さんは苦手っぽいです。花子さんと座敷わらしのやりとりですが、私の好きな怪談シリーズの第2弾のオマージュですね♪すごく、ほっこりというか可愛らしいシーンなので気になった人は見てください( ・∇・) それでは