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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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25話 ぼくと花子さんと座敷わらし

 今日も今日とて旧校舎3階の女子トイレにいるぼく。ふとテレビを見ていると[二宮金次郎が秋葉原に現る]とニュースで報じられてた。


「花子さん!これって」


 ぼくは思わず花子さんに話しかける。なぜなら知り合いに二宮金次郎がいるからだ。


「ああ、前に二宮金次郎の銅像窃盗のニュースがあったでしょ?」


「はい」


 事実は窃盗ではなく自ら移動してるだけなのだが、その時期はぼくが二宮金次郎にマンガを薦めて、そのマンガを一時的に花子さんのトイレに置いといてもらっていたため頻繁に二宮金次郎が足を運ぶことになり、結果、不在の時間が増えたのが原因なのだ。


「あいつ、あのニュースを知って『拙者はここにいる必要がなくなったでござるー』とか言ってあちこち気ままに旅してるみたいよ」


「しばらく見ないと思ってたらそんなことに」


「ていうか、あんたはいつもあいつが置いてあった場所の前を通ってるんだからニュース見る前に疑問を持ちなさいよ」


 二宮金次郎の銅像は旧校舎入り口手前の左に設置されており、恐らく旧校舎が使われてた頃は生徒達の登下校を見守るような形で存在していたのだろう。


「あはは、全然気づきませんでした」


「あんたねぇ、あいつは付喪神なのよ。長年大切にされてきたからこそなのよ。あんたのその言葉聞いたら悲しむわよ」


 普段から傍若無人な花子さんだが、他者を気遣い、説教も出来るのだ。


「反省します」


「はっなちゃ~ん♪」


 少し重くなった空気を壊す明るい声とともに口裂け女登場。


「どしたの?」


 一応、空気は読めるようだ。


「ぼく、二宮金次郎さんがいなくなってるの今まで気づかなくって、それで花子さんに説教されました」


「あの花ちゃんが他人のために説教を!!」


 口裂け女は驚愕。


「口裂け女、来なさい」


 手招きされ口裂け女は花子さんの目の前まで来てしゃがむ。


「なに?」


 すると花子さんは口裂け女の頭を両手で掴む。花子さんは頭を後ろへ反らし、そこから口裂け女の頭へ急発進。ゴチーンッと音が鳴る。口裂け女は衝撃でフラフラ。


「花ちゃん、石頭すぎる~」


「そうね、これからはこれを武器にしようかしら」


 口裂け女は廊下へ仰向けで倒れ、その状態で左を向くと


「そうだった!」


 何かを思い出したようだ。上半身を起こし


「おいで~」


 トイレ内からは見えないが廊下には他に誰かいるようだ。口裂け女はその誰かの手を引いて、伸ばした状態の足の上に座らせる。その誰かとは少女だった。おかっぱ頭で着物を着ている。年齢は6歳くらいに見える。


「わらちゃんだよ~」


(わらちゃん?藁?)


 わらちゃんと聞いてぼくが真っ先に思い浮かんだのは藁だった。そして少女の正体を推測。


(藁…藁人形…案山子?)


 恐らく違うだろう。そもそも少女に藁の要素は一切感じられない。


 次に見た目で推測してみる。


(おかっぱ頭…といえば花子さん…妹?)


 花子さんから妹の存在は聞いたことがない。本人に聞けば一発でわかるのだが、自分で言い当てたいぼくは他の説を考える。妹説はとりあえず保留。


(他の特徴は見た目はぼくより年下、それと着物…着物といえば今まで会った人達だと玉藻前さんやゆきおんなさん…古典的な妖怪なのかな?)


 答えに近づいてる気がするけどまだわからない。


(ヒントになりそうなのは[わらちゃん]、[おかっぱ頭]……んー[おかっぱ頭]はなしかな)


 どうしても花子さんを連想してしまうので[おかっぱ頭]は除外することに


([幼い女の子]、[着物]………あ!もしかして!)


 邪魔な花子さん…ではなく[おかっぱ頭]を除外したことであっさり答えを見い出せた。ぼくは確認のため頭の中でキーワードを並べる。


([わらちゃん]、[幼い女の子]、[着物]………うん!間違いない!)


 花子さんに邪魔されたが………じゃなくて[おかっぱ頭]で悩んだりしたが、少女の正体がわかった。自信を持って言える。花子さんの妹説がバカバカしくなるくらい揺るぎない自信だ。


 あんなに長々と思考を巡らせたのにも関わらず現実時間では1秒にも満たない。脳内時間と現実時間は不思議なものだ。自分で答えに辿り着いた高揚感と共にぼくは少女の名前を口に出そうと…


「座敷わらし!あんたまたなの?」

「ざ……」


 花子さんに先を越された。間違いなく最速で答えに辿り着いたはずなのになぜ?簡単な話だ。花子さんは元々少女の正体を知っていたからだ。いくらぼくが1秒にも満たない速さで答えに辿り着いたとしても元から知っていた花子さんには圧倒的なアドバンテージがある。


 その少女、座敷わらしは花子さんの問いには答えず、口裂け女の足からピョンッと立ち上がりタタタタッとぼくの方へ駆け寄る。


「おまえはなんだ?」


 どうやらぼくに興味があり花子さんの問いは耳に入ってないようだ。


「おまえ、おこってるのか?」


 怒ってる人に『おこってるのか?』という質問は絶対に言ってはいけない。なぜなら、この言葉を言った人はだいたい相手がなぜ怒ってるのか理解してないからだ。怒ってる側からしたら、こんな一人相撲にも似た空振り感はない。この質問に素直に「怒ってる」と返せる人はそう多くないはずだ。皆も言った事や言われた事があるのではないだろうか?言われた事がある人はこのモヤモヤした気持ちがわかるはず。言った事がある人はこれを機に考えてみてほしい。


 さて、『おこってるのか?』と聞かれたぼくはどう答えるのか。


「はい、少しだけ」


 素直に答えた。相手が幼い女の子であるのと不機嫌な原因がその子のせいではないからだ。


「なんでだ?おしえろ!」


 無神経な質問だがこの子を邪険にする気にはなれない。この子は日本人なら誰しも知っている幸福の象徴、座敷わらしなのだから


「そうよ、教えなさい!勝手に不機嫌になられても困るわ」


 確かにぼくは勝手に不機嫌になってるだけだが、ここは言わせてもらうことにした。


「現実でも花子さんに邪魔されました」


「はぁ?なによそれ?」


 花子さんの疑問もごもっともだ。


「はなこ、じゃましたのか?」


「知らないわよ!」


「気にしないでください。それより、またってどういう事ですか?」


 説明するのもめんどくさいし、説明したとしても花子さんに間違いなくからかわれるのでぼくは話題を変えようと質問をした。実際、気になるというのもある。


「あんた、座敷わらしの話は知ってる?」


「はい、見たら幸運が舞い込むとか気に入った相手についていったりするとかですよね?」


「そう。こいつはね、ついていって相手がことごとくクズなヤツで、それを知って幻滅して元いた場所に出戻りするのが恥ずかしくて、たまにこっちに来るのよ」


「そうだったんですか」


「ちがうぞ!おかみにしんぱいかけたくないだけだぞ」


「あっそ」


「おかみって旅館に住んでるんですか?」


「そうだぞ!ききたいのか?」


「なにをですか?」


「わたしとおかみのであいをきかせてやる」


 有無も言わさず回想が始まる。


~~~回想~~~


 ここは有名ではないものの創業100年を超える老舗旅館。その旅館でタタタタッと走り回る少女の姿。周りの大人達は忙しいのだろうか少女の事を気にも留めない。少女が廊下の真ん中で木製の床の木目を指でなぞっているとドタバタと足音が


「わわわ!」


 少女は廊下の端に退避。足音の主は少女の前を通りすぎていった。少女が道を譲らなければ確実に衝突していただろう。


 次に少女は厨房へ、厨房の大人達は自分の仕事に集中していて少女が入ってきた事には気づかない。どうやって登ったのか少女は1人の大人の肩の上に


「おい!このさかななんていうんだ?」


 少女の声が聞こえなかったのか、その大人は無言で包丁を魚の頭付近へ。ザクッと音を立て魚は頭と胴に分かれた。


「ぎゃあああ」


 突然の出来事に大人の肩から飛び降り厨房から走って出ていった。


 次に少女はある人物の下へ。その人物は着物を着た気品そのもののような女性である。


「おかみはきょうもいそがしそうだな」


 女性の正体はこの旅館の女将だ。少女は女将の後ろをパタパタ足音を立てて歩いてると


「だれ?」


 女将は誰かの気配を感じ後ろを振り返る。


「だれも…いない」


 少女の伸長が低かったからなのか気づかれなかった。女将は再び歩き出し、少女は気づかれないように今度は女将と足音が重なるように歩く速度を合わせる。女将は次第に歩く速度が上がり少女もその速度に合わせる。曲がり角で減速、少女はそれに対応出来ず2人の重なってた足音にズレが、さらに少女はその勢いのまま女将に衝突。


「いやあぁぁぁ」


 女将は着物の裾を上げ走り出す。


「おにごっこか♪」


 無邪気に女将を追いかける。女将は女性用トイレへ駆け込み個室へ入り即座に施錠。少女は追いついたが個室は施錠されて入れない。


「おかみ~、かくれんぼなのか?」


 少女は個室のドアをドンドンッと叩く。女将がなかなか出て来ないので少女は飽きてしまいドアを叩くのをやめる。


「はんそくだぞ、おかみ」


 拗ねて床に座り込む。するとキィィィと音を立て個室のドアがゆっくり開く。


「誰も居ない……わよね?」


 女将は個室から顔を出し周りを見回す。少女は女将の姿を見ると


「おかみ、み~つけた!」


 女将の腹部にダイブすると声を上げることなく気絶。


 少女はこのような日々を送っていたある日。


「あら、お嬢さん。どこの子?」


 女将は珍しく少女に話しかけた。


「おかみか?わたしはここの子だよ」


「?」


 女性は不思議がる。だが、子供は突拍子もない事を言うものだと自分に言い聞かせる。


「家族は?」


「そこらぢゅうにいるぞ」


 すると押入れから窓から廊下から、はたまた天井から少女が現れた。髪型に差異はあれどみんな着物を着ている。


「いやあああぁ」


 女将の悲鳴は旅館中に響き渡った。そう、この旅館は複数の座敷わらしが住まう旅館だったのだ。


~~~回想おわり~~~


「おかみはやさしいし、あそんでくれるいいやつなんだぞ!」


 自慢気に話す座敷わらし。


「あれ?話を聞く限り、女将さんって最初は座敷わらしさんのこと見えてなかったんですか?」


「しらん!」


 きっぱりと答えた。


「花子さん、どうなんですか?」


「後天的に見えるようになる人もいるのかもね、私も知らないわ」


「ぼくはどっちなんだろう?」


「どっちだっていいじゃない」


「どっちだってよくないです!だって見えなかったら、こんな楽しい人達と出会えなかったんですよ!」


「少年!!」


 口裂け女は口に両手を当て目がうるうる。


「言ってくれるじゃない。でも、私が言ってるのは見えない相手でも姿を見せる事が出来るから問題ないってことよ。まぁ、元々見えるヤツでも私達から距離を置くヤツはいくらでもいるし、あんたは私にとって特別よ」


「『私にとって特別よ』だって、きゃ~♪」


「私達!!にとって特別よ」


 花子さんは“私達”を強調する。


「座敷わらしさんはその後、女将さんとどうなったんですか?」


 花子さんの発言でぼくは少し恥ずかしくなり話題を座敷わらしと女将さんの話に戻した。


「いつもあそんでくれるぞ!」


「女将さんも大変ですね、1人で座敷わらしさん達の相手するなんて」


「いまはわたしひとりだぞ」


「え!他の座敷わらしさんはどうしたんですか?」


「みんなはあいてをみつけてでていった。だから、おかみはわたしがもらいてがみつからなくてしんぱいだっていってた」


「なんか、女将さんって娘の嫁の貰い手が見つからなくて困ってる親みたいですね」


「どっちかって言うと孤児院の寮母でしょ」


 どっちの意見にしろ女将さんと座敷わらしの関係は良好のようだ。

 さぁ、今回は座敷わらしのお話です。よく気に入った人についていくみたいな話も聞きますが、危なっかしいですね。だけど、この話から登場した座敷わらしはちゃんと人を見て良い人、悪い人を判断してるので大丈夫でしょう(ノ´∀`*) それと回想で座敷わらし達が出てくる場面ですが、実はある白蟻駆除のCMから思いついたんですよね。結構、ゾクッと来るCMです( ・∇・) それでは

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