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ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
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22話 ぼくと花子さんとゆきおんな③

 水着の調達を済ませた一行(いっこう)はデパートを後にし旧校舎へ向かう。ぼくの両手は塞がっているが別に荷物持ちをしているわけではない。右手は八、左手はゆきおんなと手を繋いでる状態なのだ。そもそも幽霊と妖怪は触れた衣服をコピーできるというトンデモ能力を有してるので買う必要もないのだ。


 だが、ゆきおんなはぼくと繋ぐ反対の手に大事そうに紙袋を抱えてる。その中にはトイレから出られない花子さんのための水着が入っている。そして、もう1着。それはゆきおんなが自分のとして購入したものだ。夏とは縁遠い彼女には夏を体感できるアイテムとして実物を手元に置きたいのだろうか。


 そして、ぼくは1つの疑問にぶつかった。


「そういえば、ゆきおんなさん、お金はどこから?」


「かき氷を売って稼いだ」


 あっさりと疑問が解決。


「へぇ、ゆきおんなさんが作るかき氷かぁ、美味しそうですね!オススメはなんですか?」


「オススメ?」


「味ですよ、イチゴ味とかメロン味とかあるじゃないですか」


「かき氷に味を付けるなんて邪道」


 ほとんど感情を見せなかった彼女が少しムキになった…気がする。


「私のかき氷を食べればわかる」


「へぇ」


 相槌を入れるが心の中では味があった方がいいのにと思っていた。


「きみ、疑ってる」


 心を見透かされてた。彼女の眉は少し吊り上がってる…気がする。彼女はぼくと繋いでる手を離した。ぼくは嫌われてしまったと焦る。


「口、開けて」


 彼女は足を止めるとぼくを含む他の皆も足を止める。ぼくは彼女に促され、口を開ける。そして彼女はぼくに右手をかざすと手から雪が放出された。その雪はぼくの口に吸い込まれるように入ってくる。


「どう?」


 雪の放出を止めぼくに感想を聞いてくる。ぼくは口を閉じ味わう。


「すごく美味しいです!」


 率直にシンプルにストレートに感想を伝えた。


「でしょ」


 彼女は少し笑った…気がする。


(ゆきちゃん、嬉しそう♪)


(ぽぽ~ぽぅ(少年に「あ~ん」した!羨ましい))


(ゆき殿から直接食べさせてもらうとは羨ましい!羨ましいぞ!少年)


 ぼくとゆきおんな2人の空間になりかけてたが、決して他の3人は2人の行動に無関心だったわけではない。その証拠に…


「ぽぅぽぅぽー」


 八がぼくに手をかざす。


「ぽーぽー(口を開けて、はい!あ~ん)」


 八は口を大きく開けてぼくに口を開けるようジェスチャー。


「えーと、あ~ん」


「ぽー♪」


 先程のゆきおんなのマネだろうか、八は大喜び。


「じゃあ、私も!はい、あ~ん」


 ぼくは断ることが出来ず口裂け女にも付き合う。


(すごく恥ずかしい)


 ぼくは恥ずかしがってる事がバレないように必死に平静を装う。


(少年よ、ゆき殿だけでなく八殿と口裂け殿からエアあ~んじゃと!なぜそんなにモテるのじゃ)


「あの、もういいですか?」


「あ、ごめんごめん。早く花ちゃんの所に戻らなきゃだね」


(ようやく終わった……今の花子さんに見られてたらしばらく笑いのネタにされそう)


 一行は再び旧校舎へ向かう、もちろんぼくはゆきおんなと八と手を繋ぐ。その間もペースは落ちたもののゆきおんなの質問攻めがあったりした。そうこうしてたら旧校舎の3階の女子トイレに戻って来た。


「ただいま~花ちゃ~ん♪」


「なんか、増えてるんだけど」


 開口一番、不満のような呆れのような口調。


「ぽー!」


 挨拶してるのか八は右手を上げる。


「途中でバッタリ会っちゃったから誘っちゃった♪えへへ」


「まぁいいわ、万引きは済んだわけ?」


「万引きってひどいよ~」


「私はちゃんと買った」


 持ってる紙袋を花子さんに見せる。


「ちょ!ゆきちゃんもひどい~」


 口裂け女はゆきおんなの後ろから抱きつき自分の左の頬をゆきおんなの右の頬に重ねる。


「ぽぅぽ♪」


 八もそれに混ざりゆきおんなの左の頬に自分の右の頬を重ねる。3人の顔は串に刺さった団子のように横並びになった。もしこれが、ゆきおんなではなく花子さんだったら「暑苦しい」と言って追い払うだろう。だが、ゆきおんなの表情は変わらない。少なくとも嫌ではないのだろう。


(おなご同士…悪くないのぉ)


 3人の絡みを見てよからぬ妄想をする飛頭蛮。


「きみもする?」


 ゆきおんなはぼくの方を振り返り尋ねる。それと同時にくっついてた2人は離れる。『する?』とは恐らく2人のように頬と頬を重ねることだろう。答えは決まっている。


「遠慮します」


「そ」


 ゆきおんなは花子さん方へ向き直る。そして、離れた2人は再びゆきおんなの頬にくっつく。


(少年よ、ホントにそれでいいのか!)


「あんたら、ずいぶん仲良くなったみたいね」


「ゆきちゃんね~、ず~っと少年と手を繋いでたんだよ♪」


「よかったじゃない、こんなヤツ滅多にいないわよ」


「うん」


 ゆきおんなは頷くと紙袋に手を入れ水着を取り出した。


「これ花子の」


 それは子供用の赤いワンピースの水着。


「ふぅん、悪くないわね」


「少年が選んだ」


「え、選んだのは色だけで」


「なに慌ててんのよ」


「慌ててなんか…」


 恥ずかしさを隠すため怒ったフリをする。


「出ていきなさい」


「え?」


「着替えるから出てけって言ってんの」


「口裂け女さんみたいに一瞬で着替えれるんじゃないんですか?」


「一瞬だったとしても男子の目の前で着替えるなんて嫌よ!あんな露出狂と一緒にしないで」


 花子さんは未だに頬をくっつけてる3人を指差す。口裂け女は目をキョロキョロ。


「あんたよ、マスクを着けてる、あんた!」


「私は露出狂じゃないよ~」


「わかりました、廊下に出てますね」


 ぼくは廊下に出てドアを閉めようとすると


「あんたもよ!」


 花子さんは今まで静かにしてた飛頭蛮を掴み廊下へ投げつけた。そしてバタンッとドアは閉ざされた。


「静かにしてれば気づかれぬと思ったのにぃぃい!」


 悔しそうに床を転がる飛頭蛮はぼくと目が合うと真剣な顔をする。


「少年よ、痛みが伴うが壁1枚向こう側に楽園が広がっているとしたらどうする?」


 楽園…今現在、女子更衣室と化してるトイレのことだろう。


「やめたほうが…」


「じゃな!更なる高み目指すためにも我慢じゃな!じゃが、音だけでも堪能させてもらうとしよう」


 飛頭蛮は大きな耳をドアに密着させ聞き耳を立てる。


「バレたらひどい目に遭いますよ」


「しっ!気づかれてしまうじゃろ!」


 忠告を無視し盗み聞きに集中する。


(あんたら、ヒマなことするわね)


(4人で記念撮影しよ♪)


「写真ならわしが撮ってもよいぞ!」


 合法的に中に入れるチャンスを逃すまいと飛頭蛮は名乗りを上げるが


(キタラコロス!!!)


 ドアの向こうからヘビメタのデスボイスのような声が聞こえた。ドアから離れてたぼくにも聞き取ることが出来るくらいハッキリと聞こえた。


「しょ、しょ、少年よ、いまのは花子殿の声じゃよな?」


「さ、さぁ?」


 あの人の声かもしれないと予想はついてるけど、ぼくはそれを信じたくないからか怯える飛頭蛮にはそれを伝えなかった。ドアの向こうにいるのは4人、1人は論外、候補は3人、花子さんと口裂け女とゆきおんなだ。一番言いそうなのは花子さんだが、飛頭蛮の言葉は声の主が花子さんであってほしいという願いの表れだろう。ぼくもそう思いたいが違う気がする。残りは2人……いや、よそう。


 先程の1件ですっかり大人しくなった飛頭蛮。ぼくも余計なことを考えないために必死に頭の中を空にしてるとガチャッとドアが開く。


「着替え終わった。入っていいよ」


 ドアを開けたのはゆきおんな、ぼくが選んだ水着を着ている。ぼくは恐る恐るトイレへ入る。飛頭蛮はぼくの背中に隠れるようについてくる。


「おまたせ~♪」


 笑顔で手を振る口裂け女。


(よかったぁ、いつもの口裂け女さんだ)


 その愛想のいい声に誘われてぼくの背中に隠れてた飛頭蛮がひょっこり顔を出す。


「どう?」


 口裂け女はその場でくるりと一回転、口裂け女の水着は前から見るとワンピースのように見えるが腰あたりは布地がなく、女性らしいクビレが強調されてる。後ろは前より布地が少なく、後ろ姿だけならビキニを着けてるようにしか見えないデザインだ。


「ぽっぽぽぽ(じゃーん)」


 頭に被ってる麦わら帽子を両手で抑え脇が見えるようにポーズを決めるのは八だ。麦わら帽子にフリルスカート付きの白のワンピース。いつもの服のスカートが短くなったようなデザイン。


「2人ともすごく似合ってますよ」


「ありがと~う♪」


「ぽぅ(ありがとう♪)」


 2人は嬉しそうだ。


「ほら、花ちゃんも水着お披露目しなきゃ!」


 口裂け女は花子さんをぼくの前へ押し出す。


「ちょっと!」


 ぼくは花子さん水着姿をまじまじと見る。


「なによ?」


「やっぱり赤が似合います!」


「あっそ、別に感想を求めてないけど……ありがと」


 すると誰かがぼくの服を引っ張ってることに気づく。引っ張ってたのはゆきおんなだ。


「きみ、私は」


 ゆきおんなも感想を求めてきた。


「水色似合ってます!」


「花子と同じ」


 ゆきおんなは少し頬を膨らませた…気がする。


「少年、同じ感想はダメだよ」


 口裂け女に注意された。


「あんただって八とまとめられてたじゃない」


「そうだった」


 思わずガーンッて効果音付けたくなるような表情。


「しょうね~ん、私にもちゃんと感想を~」


「ぽぅぽ~(私も~)」


「いまは私」


「ふふ」


 花子さんはその光景を見て笑みをこぼす。


「あんたら、順番に並びなさい!ゆきおんな、口裂け女、八の順番よ!」


 ぼくの前に3人は一列で並ぶ。


(手前から小さい順かな?)


(これは小さい順じゃな)


 ぼくと飛頭蛮は同じことを思ったが、実際は少し違う。部分的な意味で


「私の水着どう?」


「えと、髪と水着の色が合ってていいです!爽やかな感じがします」


「はい、次!」


 花子さんの声で有無も言わさず次の口裂け女がぼくの前へ。口裂け女はしゃがみぼくと目線の高さを合わせる。


「ある程度、大人の人ってビキニとか選ぶイメージですが、こんな水着を選ぶなんて口裂け女さんはオシャレ好きなだけはありますね」


「や~ん♪ありが…」


「はい、次!」


 花子さんはアイドルの握手会の剥がしのように問答無用で口裂け女を剥がす。続いて八がぼくの前へ。


「八さんは麦わら帽子に白のワンピースがよく似合いますね!」


「ぽぅぽー♪」


「全員終わったわね、そろそろ目的のビーチバレーしましょうか」


「そういえば、それが目的でしたね。でも、こんな場所で出来るんですか?」


 ぼくの疑問も当然だ。ここは女子トイレ、出入り口付近は座って団欒できるスペースはあるもののバレーをできるほどの広さはない。


「まぁ、見てなさい」


 花子さんには秘策があるようだ。その手には五円玉と紙が

 『キタラコロス』、これはいったい誰が言ったんでしょうかねぇ。八かもしれないし、ゆきおんなかもしれないし、花子さんかもしれないし………止めましょうか(ノ´∀`*) それにしてもファッション関係に疎い私は水着の表現に苦戦しました。どんな水着かちゃんと伝わってるか心配で心配で(^-^; それでは!

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