21話 ぼくと花子さんとゆきおんな②
「あの、どこに行くんですか?」
「デパートだよ♪」
「なにしに?」
「水着の調達だね♪」
ぼくの質問に機嫌良く答える口裂け女。ぼくと口裂け女の間には1人の少女がいる。ぼくはその少女と手を繋いで歩いてる。少女から手を繋いで来たのだが断る理由もないのでそのままにしてると少女は興味があるのかぼくのことをジーッと見つめてる。
「あ、あの、どうしました?」
視線に耐えかねてぼくは尋ねた。
「きみ、人間?」
「はい」
「わしは妖怪じゃ」
3人の周りを縦横無尽に飛び回ってた飛頭蛮がぼくと少女の会話に入ってきた。ぼくとほぼ同時に答えたから、ちゃんと伝わってるだろうか。
「私は妖怪」
“も”ではなく“は”と言ってるのでちゃんと伝わってるようだ。
「なんとなくわかります」
「わしと一緒とは奇遇じゃの」
またぼくと同時に喋る。
「きみ、名前は」
「ぼくの名前は……」
「わしの名前は飛頭蛮じゃ!ひとうちゃんかばんちゃんと呼んでくれて構わんぞ!」
またしても同時に喋り出す。
「花子とお似合いの名前だね」
無表情だった少女の顔が少し柔らかくなった……気がする。
(もしかして、いま笑ったのかな)
「私はゆきおんな、よろしくね」
「はい!」
「ならば、ゆき殿と呼ばせてもらおう」
こうして互いの自己紹介が済んだ。が、まだぼくに興味があるようで質問は続く。
「きみはいつから花子の所に来るようになったの?」
「えっと、4月の後半くらいです」
「わしと花子殿の付き合いは長いぞ!花子殿もわしに頼りきっておる」
(花子さんと半年以上の付き合いだけど飛頭蛮さんの名前は一度も聞いたことないなぁ)
ぼくは飛頭蛮の話を話半分に聞き流す。
「私、暑いの苦手だから、こんな時期にしか出かけないんだ」
「そうなんですか」
「ゆきちゃん、いつもよりご機嫌だね♪」
口裂け女が会話に入ってきた。
「うん、この子は私を拒絶しないから」
ゆきおんなはぼくと繋いでる手を口裂け女に見えるように上げる。
「そっかぁ♪」
「わしも拒絶なぞせんぞ!」
飛頭蛮は自分の大きな耳をゆきおんなの空いてる方の手にピトッと触れると
「ぎゃああぁ、冷たい!なぜじゃ!?」
「きみは花子のこと好き?」
まるで飛頭蛮が見えてないかのように質問は続く。
「え!!えと、その」
「私は好きだよ、花子も口裂け女もきみも」
うまく返答できないぼくを見かねてなのか、ゆきおんなは言った。そのおかげで“好き”の意味が理解できた。
(なんだ、そういう好きか)
「わしも好きじゃ!」
相変わらず積極的に会話に入る飛頭蛮。
「好きですよ!ぼくも」
「ぽ!!!」
すると聞き覚えのある声が…いや、聞き覚えのあるセリフが、その声は後ろから聞こえ振り返ると予想通り八がいた。八は両手を口に当てショックを受けた様子。ぼくに詰め寄り両肩を掴むと
「ぽぽぽぅ、ぽっぽっぽっぽーぽ(少年が誰かのものになるなんていやだよぉ)」
「わああぁぁぁぁ」
ぼくは前後に揺すられ声を上げる。
「大丈夫だよ、やっちゃん!好きって言ってもラブじゃなくてライクの方だから」
口裂け女は八を宥めるとぼくを前後に揺する手を止めた。
「ぽぽぅぽ?(ホント?)」
「うん、ホント」
ぼくの代わりに口裂け女が答えた。
「ぽ~(よかったぁ)」
「やっちゃん、今から水着見に行くんだけど一緒に行く?」
「ぽ!(行く!)」
右手をピーンと上げ即答。
「あ、ゆきちゃん勝手に誘っちゃったけど大丈夫?」
「うん、問題ない」
「じゃ、行こっか♪」
「ぽぽっぽ♪」
八はぼくの後ろから両脇に手を入れ持ち上げ股から頭を通し肩に乗せる。肩車だ。
「すごい…」
身長2メートルを超える八の肩車で経験した事ない目線が目の前に広がりぼくは感動。
「ちょ、ちょっと待って!やっちゃん!」
慌てて八に駆け寄る口裂け女。
「ぽぅ?」
「目立っちゃうよ」
「ぽーぽ(ちゃんと姿消してるから大丈夫!)」
「やっちゃんは消えてても少年は人間なんだよ!普通の人から見たら少年が宙に浮いてるように見えちゃうよ」
「ぽっぽぽっぽ(じゃあ、姿を見えるようにする)」
「それもダメ!やっちゃんは見た目だけで目立つから」
「ぽぅぅ」
悲しそうにぼくを肩から下ろす。
「ぽぅぽぅぽぅ(じゃあ、手を繋ぐのはいい?)」
「それならいいよ」
「ぽ♪」
八は嬉しそうにぼくの手を握る。
「あの、口裂け女さん、八さんの言葉わかるんですか?」
「わからないよ、ほとんど勘かな」
ジェスチャーすら無かった先程の会話は勘だけでは片付けられない。まさに思考の読み取りである。
1人メンバーが増え再び歩き出す。ぼくの右手は八が左手はゆきおんながリアクションすらできない程、自然に繋ぐ。
「きみ、あの大きい人は?」
直接、本人に聞けば済む事だが、相手が相手だから、そうも言えない。
「あの人は八さんって名前で妖怪だと思う」
「ぽぅぽぅ」
(なんて言ってるかわかんないけど、ゆきおんなさんの紹介した方がいいのかな)
「私、ゆきおんな」
ぼくが迷ってたら自ら自己紹介をした。
「ぽぽ(よろしく♪)」
「きみは八のことも好き?」
「ぽぽ!!ぽっぽぽぽ、ぽぅぽぅぽー(いきなり、なに聞いてるの!?ああ、でも少年の気持ちを聞いておきたいし、どぉしよー)」
八は両手で顔を覆い恥ずかしがる。歩き出したばかりだが再び立ち止まることに
「好きですよ」
「ぽー♪ぽー♪ぽー♪」
嬉しそうに飛び跳ねる。
「私も好きになれそう」
「よかったです」
彼女にまつわる伝説のせいか心の底からそう思う。
「行きますよ」
ぼくは八に手を伸ばすと嬉しそうに手を繋ぐ。
「モテモテだね~」
口裂け女は後ろ歩きでぼくの前を歩く。
「からかわないでくださいよ」
ぼくは少し照れながら言う。
「えへへ~」
口裂け女は180度反転し前を向き歩く。
「口裂け女さん、髪型が…」
口裂け女の髪はいつの間にかポニーテールになっていた。
「あ、気づいた♪」
口裂け女は再び後ろ歩きでポニーテールを自慢するように首を右に振り左に振る。
「どうしたんです?急に」
「少年がゆきちゃんとやっちゃんばかり構うから気を引こうと思ってね♪」
「そんなこと…」
「ウ・ソ♪」
あざとい!
「ホントはね~、やっちゃんと髪型がかぶっちゃうからなんだ~、オシャレさんにかぶりは厳禁なの」
「そうだったんですか」
「そうだよ~」
再び180度反転し前を向き歩く。
「ハッ!!わしとしたことが美女天国すぎて会話に入り損ねた」
この後もゆきおんなに質問攻めされたり八が暴走しかけたり口裂け女のラブコメ並のあざといリアクションしたり飛頭蛮は存在そのものが無いかのように扱われたりしてる内に目的のデパートに到着。
「と~うちゃ~く!」
一行は入店。
「こっち♪こっち♪」
先導する口裂け女にみんなはついていく。
「口裂け女さん、もしかして来たことあります?」
「うん♪何度もあるよ♪」
口裂け女は先にエスカレーターに乗る。
「エスカレーターは3人で手を繋いでると危ないので放しませんか?」
「ぽ!」
予想外にも八が先に手を放した。そしてエスカレーターを駆け上って行った。ぼくとゆきおんなはゆっくりエスカレーターで上の階へ。上の階に着くと八がキョロキョロとなにかを探してる。口裂け女の姿がないのだ。
「大丈夫ですよ、目的地はわかってるんですから」
ぼくはフロアマップを見る。
「真っ直ぐ行って左に曲がれば水着コーナーがあるみたいです。そこに口裂け女さんもいるはずです」
「ぽー!!」
それを聞くと八は走り出した。思わず「キーン」ってセリフを言わせたくなるような、やんちゃな走り方。
「ぼくたちも行きましょう」
「うん」
ぼくとゆきおんなが水着コーナーに辿り着くと先に着いてた口裂け女と八はすでに水着選びをしていた。人目をはばからず次々と試着までしてる。
(相変わらず、服に触れるだけでコピー出来るなんて便利だなぁ)
「きみはどんな水着が好き?」
「へ?」
道中に何度も質問されたが想定してない内容だったため間の抜けた声を出してしまう。
「きみが選んだのを着る」
「ぼく、あまり詳しくないですし…こういうのは自分が好きだと思ったのを選ぶのが一番だと思いますよ」
「わかった」
そう言うと水着コーナーへ入って行った。ぼくは通路にあるベンチに座り3人を待つことにした。ふと横を見ると飛頭蛮がいた。
「飛頭蛮さん、どうしました?だいぶ静かになりましたけど」
「わし、なにか変か?」
真顔で聞き返す飛頭蛮。
「今日、初対面ですけど飛頭蛮さんだったら水着を選んでる3人を近くで見るために水着コーナーに入って行くのかと思ってました」
「少年よ…」
飛頭蛮のシリアスな表情にぼくはマズイ事を言ってしまったと後悔。
「わかっておるではないかぁ」
その嫌らしい笑顔でぼくはホッと一安心。
「じゃがな、これには理由があるのじゃ」
「どんな?」
自分の欲求を我慢する程の理由…ぼくはその理由が気になってしまった。
「女性陣はなぜ水着を選んでおる?」
「えっと、ビーチバレーをするって言ってました」
「なんと!それは真か!?」
(そういえば、あの時は気を失ってたっけ)
「ならば尚の事じゃ!今、はしゃいでみろ!わしは袋叩きにされ大事な場面を見逃しかねん!今は下手を打つわけにはいかんのじゃ!」
ぼくはさっき後悔した事を後悔した。後悔してたぼくの所にゆきおんなが2着の水着を持って来た。
「どっち?」
ゆきおんなが持ってきた2着は同じデザインの色違いだ。イメージしやすいようになのか1着ずつ自分の体に重ねぼくに聞いてくる。
「自分の…」
ぼくは「自分の好きな方を選んだ方がいい」と言おうとしたが飛頭蛮に止められた。
(少年よ、ゆき殿は好きな水着を選んだのじゃ!色くらいは少年が選ばねばならん)
ゆきおんなに聞こえないように飛頭蛮は耳打ちで助言。
「うーん」
ゆきおんなが持ってきた水着はシンプルなビキニ。片方は白、もう片方はゆきおんなの髪の色に近い水色。
(ゆきおんなさん、色白だから白のビキニだと遠目で見たら裸に見えそうだし)
(ゆき殿が白のビキニを着たら、それはもう裸じゃの)
2人は似たような事を考えてたなんて互いに知る由もない。
「水色がいいです!髪色とも合いますし」
「そ」
その一言、一文字言うとまた水着コーナーへ。入れ違いで八がぼくの所へ。
「水着決まったんですか?」
「ぽ・ぽ・ぽ(これどう?)」
八の体は光に包まれ見慣れた白のワンピースから水着姿へ。
「おほぅ♪」
欲望を抑えてた飛頭蛮が思わず鼻の下を伸ばしてしまう程の過激な水着。ぼくは直視できず胸から…水着姿から目を反らす。その水着はほとんど紐と言っても差し支えない。よくその水着であの胸が収まってるものだと思う。いや、8割くらいは収まってないのだが…水着はただ胸の形を整えてるだけにしかすぎない。
「あの、そういうのはやめたほうが…」
「ぽぅ(そう?わかった!)」
八はその姿のまま水着コーナーへ戻る。
(少年!今のは間違いなく判断ミスじゃぞ!!)
小声で叱責する飛頭蛮。
(いや、だってあんなの落ち着きませんよ)
ぼくも小声で反論。
八と入れ違いでゆきおんなが戻って来た。先程選んだ水着の他にもう2着持ってきたようだ。
「どっち?」
さっきと同じように2着の水着をぼくに見せる。ぼくは飛頭蛮を見ると無言で頷く。
「う~~~ん」
ぼくは迷う。雑に答えたくないというのもあるが、その2着の水着は同じデザインの色違い……だが先程選んだ水着と比べるとずいぶん子供っぽいワンピースの水着。色もオレンジと赤でさっきと全然系統が違うからだ。
「これ花子の」
「ああ、そうだったんですね!なら赤がいいです!」
正直、ぼくは最初からそう言ってくれればと思った。
「そ。じゃあ買ってくる」
「え!買うんですか?」
「うん」
「口裂け女さんみたいに出来ないんですか?」
「出来るよ。でもせっかくだから、それに花子には現物がないと」
「ああ、そっか」
ゆきおんなはぼくに背を向けレジへ。
「ゆきちゃん、水着決まったんだ♪」
「口裂け女さんも決まったんですか?」
「うん♪期待してて~♪」
「ぽぽー♪」
八も戻り水着選びを済ませたみたいだ。ちょうど会計を済ませたゆきおんなも戻って来た。
「ゆきちゃんも戻って来たしトイレに戻ろうか♪花ちゃん待たせちゃってるし」
皆が歩き出そうとした瞬間。
「ちょっと待って!」
口裂け女はみんなを呼び止める。一同は口裂け女に視線を向ける。
「ゆきちゃんとやっちゃん一緒に来て!」
「ぽ?」
「なに?」
「トイレに戻ったらやりたいことあるから協力してほしいの!少年も来る?」
「ぼく、ここで待ってます」
「わかった!すぐ戻って来るから待っててね~」
口裂け女の先導で2人は子供服売場へ。3人はほんの数分で戻って来た。
「なにしに行ってたんですか?」
「ん~とね……」
口裂け女は耳打ちで教えてくれた。
「そんなことするんですか?」
「うん♪でも、少年はごめんね、女子だけでやりたいから」
「いいえ、気にしないでください」
「ありがと♪」
たった数時間とはいえ何度も手を繋ぐという行動を繰り返してたせいか、ぼくは自分からゆきおんなと八の間に入り手を繋いだ。
「ぽーーー!!!」
八の目は涙で潤んでいる。まさに感極まるというやつだ。
「少年、やるね~♪今のは私もキュンッてしちゃった」
「いや、今のはちがくて」
「うんうん♪じゅあ、今度こそ帰ろ~♪」
「ぽぽー♪」
ぼくと花子さんで初の外出イベントですね!八も道中に加わりなんだかハーレム感が出て来ました(о´∀`о) それでは続きを楽しみに待っててください!