19話 ぼくと花子さんとメリーさん③
「メリーちゃーん」
微妙な空気を打ち消すようにどこからか声がした。ぼくは周りを見回すが、ぼくと花子さんとメリーさん以外の姿は見当たらない。廊下に出てみたが廊下にも誰もいない。ぼくは首を傾げトイレに戻ると2人は洗面台に向かっていた。正しくは洗面台の上の鏡を見ていた。
「どうしたんですか?」
2人が見てる鏡を覗き込む。そこには…
「血塗れだ!」
ぼくは思わず声が出た。鏡にはぼくと花子さんとメリーさんの他に女性が映っていた。その女性はウェーブがかった長い黒髪で傷口は確認できないが頭から血を流してる。
ぼくはまた周りを見回すがトイレには3人しかいない。血塗れの女性は鏡の中に存在するのだ。
「あら?メリーちゃんのお友達?」
「違うわよ!」
「違うわよ!」
双子タレントのような見事なシンクロ。
「うふふ」
血塗れの女性は口に手を当て笑う。
「なに笑ってんのよ」
気に障ったのかメリーさんは少し怒ったような口調で血塗れの女性に言う。
「あ、ごめんね」
「もしかして、いつもの?」
「うん、おねがぁい」
「きみ!わたしの体預かっててちょうだい」
そう言うとメリーさんの体から1人の少女が出てきた。その少女はメリーさんと同じウェーブがかった長い金髪で大人びた雰囲気の少女だ。少女がメリーさんから完全に抜け出ると宙に浮いていたメリーさんは落下し、ぼくは床すれすれの所でキャッチ。
「ナイスキャッチ♪その体はお気に入りだから、どっかの鬼畜花子に触らせないでね♪」
そう言うと金髪の少女は鏡の中に入る。
「行ってくるわ」
「行ってらっしゃーい♪」
鏡の中で2人は片手でハイタッチすると金髪の少女は姿を消した。
「いまのってメリーさん?」
ぼくは事情を知っていそうな花子さんに尋ねる。
「そうよ、あいつは人形に憑依してる幽霊なの」
「そうなんですか!人形と似て綺麗な人ですね」
「へぇ、ふぅん、そういう趣味なんだぁ」
花子さんは目を細め、からかうような口調で言う。ぼくはその視線をスルーし、血塗れの女性を見る。
「えと、あなたは?」
「あ、ごめんね。勝手に押しかけて。私はブラッディメアリー。ブラッディって呼んで」
「メアリーじゃなくてブラッディですか?」
「…うん、なんかね、自分の名前に愛着持てなくなっちゃってね…ははは」
血塗れの女性……改めブラッディメアリーは斜め下あたりを見つめ力なく笑う。
「メリーさんとはどういう関係なんですか?」
「え~と、私の都市伝説知ってる?」
「合ってるかわからないですけど、鏡の前で3回ブラッディメアリーって唱えるとブラッディメアリーが出てくるみたいな感じですか?」
「だいたい合ってるわ。私の都市伝説ってね、すごく“有名”なの。しかも簡単で誰でもチャレンジ出来ちゃうから、あっちこっち引っ張りだこでホント大変でね。ぼうやはブラッディメアリーって聞いてなにか違和感感じなかった?」
うろ覚えの知識だったが合っていたらしい。そして、うろ覚えな知識で違和感に気づけるはずもなく…
「う~ん、ちょっとわからないです」
「じゃあ、ブラッディマリーって聞いたことはある?」
「あります!もしかして、姉妹なんですか?」
ブラッディメアリーは無言で首を横に振る。
「ブラッディメアリーもブラッディマリーも私よ、さらに言うならブラッディメリーも私」
「そうなんですか!」
「“有名”になりすぎた結果なのよ、都市伝説が広まっていくにつれて国を越えて呼ばれ方も変わり、唯一共通して残ってるのはブラッディだけ…」
ある意味、“ブラッディ”とは肩書きみたいになっているのだろう。
「それで名前に愛着がないって言ってたんですね」
「そうよ、そんな多忙な日を過ごしていたらメリーちゃんと出会ったの。メリーちゃんと話してたら最近、仕事がうまくいってないって聞かされて、それなら私の代わりにブラッディメリーを代役でやってみないって聞いたら二つ返事でOKしてくれたわ。それからは私の仕事量も減ってメリーちゃんは副業が出来てウィンウィンな関係になったのよ」
(最後は就職の話に聞こえた)
「ぼ、ぼうや?私、なにか失礼をしたかしら?すごく睨まれてるのだけど」
その言葉通り花子さんはブラッディメアリーを睨みつけていた。
「花子さんも初対面ですよね?」
「ええそうよ」
ぼくの質問に答えても尚、鋭い目でブラッディメアリーを睨みつける。すると急に…
「あんたには負けない!!」
「ヒィッ」
突然の宣戦布告にブラッディメアリーは怯える。
「私、なにか日本語間違えたぁ?ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「そういえば、日本語上手なんですね」
「うん、“有名”だからいろんな国から呼び出しがあって、その時に少しずつ覚えていったのよ。日本もその1つ」
素朴な疑問が解決しても花子さんには関係なく…
「あんたに日本は渡さない!!!」
「ヒィィッ」
「花子さん、ブラッディさんに日本は取れませんよ。だってトイレの花子さんの怪談は日本一ですから」
「そ、そう?そうよね♪ウフフ」
花子さんは指で髪の毛をクルクル。機嫌が良さそう。ぼくは鏡に近づきブラッディメアリーに耳打ちする。
(花子さんは知名度とかに敏感なんですよ)
(そうなの?これからは気をつけるわ)
「なにコソコソしてんのよ?」
「な、なんでもないです…わよ?」
ブラッディメアリーの声は裏返り慌ててぼくから離れる。
「ただいまぁ」
タイミングよくメリーさん(霊体)が帰ってきた。
「あ、おかえりぃ♪どうだった?」
「余裕よ、余裕」
「イエーイ♪」
「イエーイ♪」
2人は向き合い両手でハイタッチ。
「2人はすごく仲がいいんですね」
「最初はそうでもなかったのよ、はじめての出会いは同じ相手を脅かして、わたしとメアリーは一触即発だったわ」
メリーさん(霊体)は喋りながら元のフランス人形の中に戻った。
(その子も可哀想に…)
「それでさっき話した通りメリーちゃんが代役になってくれたの♪」
「なに?その話したの?」
「うん♪あ、また呼び出しだ!私はもう行くね!バイバーイ♪」
「ホント忙しいわね、行ってらっしゃい」
ぼくとメリーさんは手を振り見送るが、花子さんは彼女の知名度が見過ごせないのか敵対心剥き出しの目で見送る。
「はぁ♪今日は充実した日だったわ♪私も帰ろうかしら」
「あ!ちょっと待ってください!」
ぼくは気になることがありメリーさんを呼び止めた。
「なにかしら?」
「変なこと言うかもしれませんが、前にどっかで会ったことありませんか?」
「なになに?ナンパ」
ここぞとばかりにからかう花子さん。
「違います!」
「わたしはきみと会うのは今日がはじめてのはずだけど」
「んー、でもなんか、はじめて会う気がしないんですよね…なんていうか、その声に聞き覚えが」
「あー」
花子さんはポンッと手を打つ。
「あんた、こいつの声聞いてるわよ」
「やっぱりそうですよね!でも、どこで…」
「首なしよ」
「ああ、そうゆうこと」
2人は納得してるようだが、ぼくは首を傾げる。
「スマホよ、首なしの」
「えええ!」
ようやく理解できたが信じられない。事実を確かめるためにメリーさんに視線を向ける。
「花子の言ってることはホントよ、あのスマホの音声のモデルはわたしなの。もっと言うなら花子と首なしのスマホを使えるようにしてるのもわたしよ」
「えええええ!!!」
ぼくは幽霊の潜在能力や応用力の底知れなさに驚くのであった。
【おまけ】
「いつもグラウンドから行くから変なことになるんだ。今日はここから行くぞ!」
「でも、旧校舎に入ってもなにかあるんじゃ…」
取り巻きは警戒しながらガキ大将の一歩後ろを歩く。
今回はグラウンドからではなく新校舎側から旧校舎を目指すガキ大将と取り巻き。何事もなく順調に進み旧校舎の入り口は目の前。
「ねぇ、あれなに?」
最初に気づいたのは取り巻きだった。
「ん?あれは…人形だよな」
ガキ大将もその存在に気づき2人は足を止めた。
「浮いてるよ」
「見りゃわかる!」
その人形は旧校舎入り口前で浮いたまま動かない。今回の2人は怖いより不思議という気持ちが勝ってるようだ。しばらく観察してると…
「動いたぞ!」
人形は旧校舎へ。
「おい!今のって超常現象ってやつか?」
ガキ大将は取り巻きに尋ねる。
「そ、そんなわけないよ!」
「だけどよ、浮いてたぜ!」
「科学が発展した現代でそんな非科学的なことが起きたらボクは犬のフン100回だって踏んでみせますよ」
理解できない不思議な現象を根拠もなく否定するが…
「踏めよな、おれのフン100回」
さらに理解できない存在が現れ思考力が奪われた。それは前にも目撃したブルドックだった。ただし顔は人だ。
「なんだよ、最近の子供は返事もできねぇのか?やんなっちゃうぜ」
ブルドックはぼやきながら、その場を立ち去っていった。
「ていうかよ、いまさら非科学的とか言ってんじゃねぇ」
ガキ大将はふざけるように軽く肩をぶつける。
「だよね、ごめん」
≪次回予告≫
雪は彼女の領域 雪山で彼女に遭遇したらやさしくしてあげて いつも1人の彼女は無愛想だけど誰かと話をするのは嫌いじゃない 口下手な彼女は人との距離感がわからない もし彼女があなたに触れようとしてきたら誠実に彼女を受け入れてあげて いやらしい感情なんてもってのほか でないと彼女の冷たい瞳はより一層深みを増すだろう
これで今回の話は終わりです。ついに海外の幽霊まで登場しましたね(о´∀`о) ブラッディメアリーは今後どうするか迷ってます。個性の方向性という意味ですよ!あとメリーさんもなぁんかコックリさんと性格が似てしまってなんとかしなくてはと悩みが尽きません。あっ!それと首なしライダーのスマホの音声の正体がメリーさんでしたが驚いてもらえたでしょうか?驚いてもらえたなら嬉しいです! それではまた!