15話 ぼくと花子さんと八
「アニキの武器を主人公が受け継いだのはホントよかったでござる!」
「ですよね!アニキは残念だったけど、主人公の成長には不可欠な話でしたよね」
ここは旧校舎3階の女子トイレ。ぼくと二宮金次郎はマンガの話で盛り上がっていた。
「それにしても拙者はてっきりマンガのタイトルの少女が主人公だと思ってたでござる」
「ああ、これはW主人公って認識でいいと思いますよ。メインは少年の方ですけど」
「そういうことでござったか!」
「あんたら、そんなに面白いわけ?」
花子さんは2人の熱量についていけず呆れ気味に尋ねる。
「面白いですよ!花子さんも読んでください!」
「読んだわよ、まぁドSな将軍が新チーム結成したくらいからは面白かったわ。ラブコメ的な要素も出てきたし」
花子さんはマンガを宙に浮かべパラパラめくりながら喋る。
「花子殿…なにを言って……」
花子さんはニヤリと笑う。
「その後の大きな戦いで変身能力を使う子があんなことに…辛かったわ」
花子さんは人差し指で涙を拭うような仕草。だが涙は一滴も出てない。
「やめるでござるー」
二宮金次郎は耳を塞ぎながら退室。
ぼくは苦笑い。
「花子さんはどういうマンガが好きなんですか?」
「私?そもそも読む機会が少ないのよねぇ、映画なら好きよ。テレビでよく見るわ」
「映画ならぼくも好きです」
ぼくは目を輝かせる。
「……私との会話でこんなに興味持ったのはじめてじゃない?」
「そうですか?」
「まぁいいわ、せっかく趣味が合ったんだし話しましょうか」
花子さんはカーペットの上に正座し、ぼくの方へ向き直る。
(これよ!これ!私がやりたかったのは!最初にこいつと出会った時はペースを乱されてしまって、そのまま私のキャラが固定されてしまったけど…ようやくだわ♪長かった)
花子さんは感情が表に出てることに気づかずぼくの目の前でニヤニヤ
「どうしました?すごい笑顔ですよ」
「そ、そんなわけないでしょ!」
キッパリ否定。
「いや、すごい笑顔でしたって」
「100歩譲って笑顔だったとして、すごい笑顔では断じてないわ!」
「じゃあ、笑顔でした」
「そうよ!それでいいのよ!」
「それで、なんで笑顔だったんですか?」
「どうだっていいでしょーーー!!」
これ以上聞くなという意思表示で花子さんは叫んだ。
(ホント調子狂うわ)
「それじゃ、花子さんはどんな映画が好きなんですか?」
「え?私?」
先程の絶叫から間を置かず質問されたせいで少し戸惑う。
「え~と、あ!どうせなら私が映画のあらすじを話すから当ててみなさい」
「わかりました!」
ぼくは自然と正座していた。
「主人公は精神科医の男性で1人の少年を診ることになるの。その少年はあんたと同じように霊感があるわけ…」
「はい!」
ぼくは手を挙げた。指先までピンッと伸ばし自信を感じさせる。
「もうわかったわけ?」
「はい!ていうか名作過ぎませんか?2人の登場人物の紹介だけでわかりましたよ」
「そうね、念のため答え合わせしましょうか」
「答えは…」
「待ちなさい!」
花子さんは答えようとするぼくを制止する。
「あんたが内容を理解できてるかの確認も兼ねてタイトルじゃなく、すごいと思ったシーンを答えなさい」
「すごいと思ったシーンですか…」
ぼくは顎に手を当て考える。
「あ!あのシーンですかね!主人公が奥さんと夫婦仲がうまくいってないのが実は伏線だったりしたのはよかったです」
「あれは上手かったわね!」
花子さんはうんうんと頷く。
「あの作品はね、ジャンル的にはホラーだけど私はヒューマンドラマだと思ってるわ!」
「どういう所がですか?」
「クライマックスで少年とのやりとりで主人公は自分が何なのかに気づくじゃない?あれは救いとも言えるわ」
ぼくは頷き花子さんの解説に黙って聞く。
「そして、少年は霊が見えるのが怖かったけど主人公のおかげで霊との向き合い方に答えを見つけるのよ。あれは少年の将来にも期待できる終わり方だったと思うわ」
「たしかに」
ぼくは深く頷いた。
(もしかして、あの映画を選ぶなんて自分を重ねてたりするのかな?)
「ぽぽぽ」
ぼくが深読みしてると背後から声がした。いきなり背後から抱きつかれたと思ったら次は持ち上げられ更に頬擦り。ぼくはなすがまま。
「ちょっと!そいつを下ろしなさいよ!この変態!!」
花子さんはぼくの背後にいる者に指を差し命令する。ぼくは未だ背後からやりたい放題されて、どんな人物なのか確認できない。
「ぽぽ」
ゆっくり床に下ろされた。ぼくは後ろを振り返り、その人物を確認した。そこには長い黒髪で麦わら帽子を被り白いワンピースを着た女性が
「でか!!」
その女性を見て最初に出た言葉は綺麗でも可愛いでもなくこれだった。2メートルは超えてるだろうか、その女性はぼくを愛おしそうに見つめる。
「花子さん、この人って妖怪なんですか?」
「たぶんね」
曖昧な返答。
「わからないんですか?」
「知らないわよ!本人もわかってないんだから」
「記憶喪失とかですか?」
「違うと思うわ、こいつとの出会いは数年前かしら…」
花子さんは謎の女性との出会いを語り始める。
~~~回想~~~
「今日もヒマねぇ」
花子さんは床にへたり込む。
「花ちゃん、私がいるのにひど~い」
傍らで嘆くのは口裂け女。
「なによ?あんたがなにしてくれるっていうのよ」
「そりゃあ、お喋り♪」
「それが飽きたのよ。毎日同じ相手だと話題尽きるわよ」
花子さんはお手上げポーズ。
「じゃあさじゃあさ!コックリちゃん呼ぼ♪」
花子さんは寝転びながら口裂け女の顔をジーッと見つめ
「あんたがあいつに会いたいだけでしょ」
「は~な~ちゃ~ん」
花子さんに抱きつき懇願する。
「うるさい!」
口裂け女の額に張り手。ペチッと良い音が鳴った。
「う~~~」
口裂け女は額を両手で押さえる。
「…なんか、うるさいわね」
花子さんは口裂け女を見る。口裂け女は額を両手で押さえたまま首をぶんぶん横に振る。
「あんたのことじゃないわよ」
口裂け女はホッとする。額を両手で押さえたまま
「グラウンドの方からかしら?」
花子さんは廊下側のドアへ、口裂け女も花子さんの後を追う。花子さんはトイレから出られないため廊下を挟んだ状態でグラウンドの様子を確認。
グラウンドには子供たちが走り回ってる。当たり前の光景に見えるが1つだけ異様な存在があった。それは異様にデカイ女性の姿である。女性は子供たちを追い回してる。よく見ると追い回してるのは男の子だけである。
「花ちゃん、あれ妖怪?」
「知らないわよ!とりあえず、なんとかするわよ!」
「どうやって?」
「私はここから出られないんだから、あんたがやるのよ!」
「え~~」
「さっさと行け!!」
口裂け女のお尻を叩くと飛び上がり
「花ちゃんのバカァ」
文句を言いながら階段を下りていった。
「どうしよ~」
グラウンドに着いた口裂け女はどう対処すべきか悩んでいた。
「とりあえず話し掛けてみよ~」
男の子を追い回す女性に近づく。
「あの~」
男の子を追いかけるのに夢中で口裂け女の声は届かない。
「あの~~~」
語気を強めると女性の動きはピタッと止まり、口裂け女に気づいた。
「あの…なにしてるんですか?」
女性は口裂け女のもとへ。
「ぽぽ」
「ぽ?え~と、あなたは妖怪なの?」
「ぽ~?」
女性は首を傾げる。
「えと、私の言葉はわかる?」
「ぽ!ぽ!」
女性は首を縦に振った。どうやら言葉は通じてるみたいだ。
「とりあえずね、目立つから姿を消せる?」
「ぽー!」
女性は敬礼した。
(了解って意味かな?そういや姿を消しても私にはわからないや)
口裂け女は同じ霊的存在である女性が姿を消しても見えるため本当に消えてるか周りの反応で確認する。
先程まで逃げ回っていた男の子たちは足を止め周りをキョロキョロ。
「大丈夫そうだね!これでゆっくり話ができる」
「ぽぽぽ!ぽ!ぽ!ぽ~♪(ここは男の子いっぱいの楽園ですか?)」
「えと、ぽぽぽ~」
興奮気味に女性は話し掛けてくるが何を言ってるかわからず口裂け女は女性の言語に合わせて答えてみる。
「ぽぽ!ぽぽ!ぽぽっぽ(やっぱりそうなんだ!)」
女性は大喜び、口裂け女の手を握り握手。
「なんか通じてるのかな?悪い子じゃないみたいだし、とりあえず花ちゃんの意見も聞かないとだし私について来て」
「ぽー!ぽ♪ぽ♪ぽ♪」
女性は口裂け女の隣を上機嫌で歩く。
「ふふ、ぽ♪ぽ♪ぽ♪」
口裂け女は釣られて同じように声を出す。
「ぽぽ!?ぽぽぽ!(それはホント!?)」
女性は口裂け女の顔を見て質問する。
「ぽぽ~ぅ、ぽぽぽ」
口裂け女は子供に喋り方を合わせる感覚で女性の喋り方に合わせて返答する。
「ぽぽっぽぽぽぽ(私とは次元が違い過ぎる……そんな人に出会えるなんて私は運がいい!)」
「ぽ~ぽ~ぽ~」
「ぽぽぽぽ(尊敬させてください!)」
2人は噛み合わない会話をしてる内に3階の女子トイレに着いた。
「花ちゃ~ん、連れてきたよ~」
「んで?こいつはなんなの?」
トイレまでの道のり「ぽ」で会話していた為、情報を得られる訳もなく
「ん~たぶん妖怪かな?」
「なにその曖昧な答えは?」
「だって喋る言葉が…」
「ぽぽぽぅ」
タイミングを見計らっていたのか絶妙なタイミングで2人の間に入ってきた。
「なに、その喋り方は?バカにしてんの?」
「ちがう!ちがう!この子はこれしか喋らないの」
「はぁ?じゃあどうすんのよ」
「大丈夫!こっちの言葉は理解できてるから!素直な子だよ」
「だいたい、“ぽ”しか喋らないなんてありえないでしょ!ほら、他の言葉は喋ってみなさいよ」
花子さんは女性に詰め寄る。
「ぽぽぽ~」
「口を大きく開けなさい」
花子さんは女性に向かって言う。女性も花子さんのマネをして口を大きく開ける。
「そう!そのまま声を出しなさい」
「ぽ」
先程まで口は“あ”を発する口の形だったが発声する時には“お”を発する口になってた。
「なんでよ!」
「花ちゃん、落ち着いて」
「そ、そうね、なにかを教えるってのはそう簡単じゃないわよね」
花子さんは落ち着き再び女性に言葉を教える。
「いい?次は“い”よ。歯は閉じたまま唇は開けて発音するの。こうよ、こう!いーーー」
女性の前で手本を見せる。女性は同じように歯を閉じ唇を開ける。
「そうよ、そのまま!そのまま!」
「ぽ」
「なんでよーーー!」
先程と同じく声を発する時には口は“お”の形になっていた。
「こ、今度こそよ!口を開けて唇を前に突き出して」
女性は花子さんのマネをする。
「そう!これが“お”よ!」
「花ちゃん…」
「黙ってなさい!大事なところよ!」
花子さんは女性をジーッと見つめる。そして…
「ぽ」
「なんなのよ!あんたはー!!」
「今のは花ちゃんの自爆だよ」
「あ!そうよ!文字なら!」
花子さんはテレビをどかしテレビ台の引き出しから紙とペンを取り出しテレビ台の上に置く。
「こっちに座りなさい」
女性をテレビ台の前に座らせる。
「ほら、ペンを持って自分の名前を書きなさい」
「ぽぽー!」
女性は元気よく返事をし紙に向き合う。2人は後ろでそれを見守る。女性が書いた1文字目は“八”
「八?」
「八?」
2人は揃って声が出た。
「最初からこうすればよかったのよ」
だが、それ以上ペンは進まない。女性はペンを頭に当て考えてる。
「もしかして、これ以上わからないのかな?」
「ぽー」
女性は肩を落とす。
「わからないなら仕方ないわ!あんたの名前は今日から八ね」
「八って…う~ん、やっちゃんはどう?」
「ぽぽー♪」
女性は喜ぶ。
「気に入ってくれたみたい」
「名前はもういいわ、あとはコミュニケーションよ。紙にあんたの好きなものとかなんでもいいから書きなさい」
女性…改め八は紙に文字を書き始める。名前の時とはうってかわって、すらすらと書き綴る。
紙には[ぽぽ、ぽぽぽ。ぽーぽぽっぽぽぽぽ♪ぽぽっぽぽー]と書かれていた。
「振り出しに戻ったじゃないのよー!」
花子さんは紙を取り上げる。
「ぽぽー」
八は取り上げられた紙に手を伸ばすが目の前で荒々しく破り散らかされた。
「ぽぽぽぅ」
八は口裂け女に抱きつく。
「花ちゃん、今のはひどいよ!一生懸命書いてたのに」
口裂け女は八の頭を撫でながら注意する。
「………悪かったわよ、謝るわ」
「ぽっ」
「今こいつ鼻で笑ったわよ!」
八は怯え口裂け女の胸に顔を埋める。
「言葉がわからないからって言いがかりはよくないよ!」
「ぽぽぽ?ぽーぽぽっぽ、ぽっぽっぽ、ぽー」
八は口裂け女の胸から顔を上げ何かを訴えるように話しかける。
「うんうん」
言葉は理解してないが口裂け女は相槌を打つ。
「んーわかったわよ」
八はチラッと花子さんを見て
「ぽっww」
「今のは絶対笑ったわ!こいつ言葉がわからないからって私をバカにしてるのよ!」
「ぽーぽぽ、ぽぽぽぽぽ」
「だから、なに言ってんのよーーー!!!」
~~~回想おわり~~~
「結局、わかってるのは名前だけですか」
「そうよ、それも完全じゃないけどね」
2人は揃って八を見る。
「ぽぅ」
八は2人の視線に照れくさそうにモジモジするのであった。
はい!早速、今回の元ネタチェック♪冒頭でぼくと二宮くんが話してたマンガですが、たぶん前にも少し触れましたよね?私は何を隠そうドSな将軍推しです(///∇///) 他には映画の話もしましたよね。あれはホント有名な作品なので登場人物だけでわかる人は居るんじゃないでしょうか?ホラーが苦手でも我慢して観て欲しいと思う作品です!終盤のどんでん返しにスッキリしますよ。あとは今回、登場した八ですが、有名な都市伝説をモチーフにしてます。そして、最後に………ついに!つ・い・に1000PV突破しました(*’ω’ノノ゛☆パチパチ 皆さんのおかげです♪これを励みにもっと面白い話を書けるよう頑張ります! それでは♪