表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくと花子さん  作者: 大器晩成の凡人
20/151

13話 ぼくと花子さんと二宮金次郎

 放課後、今日もぼくは旧校舎3階の女子トイレいた。テレビを点け会話がなくても気にならないくらい、ぼくにとっては生活空間になっていた。花子さんも気にならないようで仰向けで宙を漂う。


「花子さんって九尾の狐のような有名な妖怪にも一目置かれるほど有名ですよね」


 テレビを見ながらポツリとつぶやく。

 

「なによ、急に?まぁそんなこと今更って感じよね」


「そこまで有名なら心霊番組とかに取りあげられた事とかないんですか?」


「あるわよ、ロケ隊が来たし最強の霊媒師とやらも来たわ」


 心霊番組といえば、やはり直接現地に訪れ検証。その際に霊媒師や霊能力者を呼ぶのがほとんどである。いつの世も心霊番組の本質は変わらないのかもしれない。


「最強の霊媒師ですか……花子さんがまだ存在するってことはその霊媒師は偽者だったってことですか?」


「私の方が強かったって発想はないわけ?」


「だって霊媒師ですよ?幽霊にとっては弱点なんじゃないんですか?」


 ぼくの意見はもっともだ。いくら花子さんが九尾の狐を打ち負かすほど強くても幽霊を除霊出来るであろう霊媒師、しかも花子さんが過去に対峙したという霊媒師には最強という肩書きまである。それを聞いた上で花子さんが今も無事であるという事は必然的に霊媒師の最強という肩書きは偽り、もしくは霊媒師という事そのものが偽りという考えに至ってもおかしくない。


「あいつらのやり方知らないの?あいつら最初は優しい言葉をかけて成仏させようとするけど、それが通じないとわかったら力業でお経唱えるのよ」


「花子さんもお経唱えられたんですか?」


「そうよ!でも、なんともなかったわ!私を成仏させたいなら神様でも連れてきなさいってのよ!それか成仏してもいいくらい幸せな気分にさせることね」


「幸せな気分って……どっちも難易度高い気がする」


「つまり私の成仏は不可能に近いのよ」


 トイレから出られないという特性はあるが、九尾の狐を追い払い、最強の霊媒師の力も通じない花子さんは無敵なのかもしれない。つまり旧校舎3階の女子トイレは花子さんの領域……展開するまでもなく負けが確定してしまう“絶対無敵領域”なのだ。


「結局、その霊媒師はどうなったんですか?無事なんですか?」


「当たり前でしょ!それに霊媒師にはやってほしいこともあったしね」


「なにやらせたんですか?」


「え?ん…まぁ個人的な罪滅ぼしよ」


 花子さんの少し悲しげな顔をした。その顔を見たら、これ以上は聞くことができなかった。


 2人は沈黙してしまう。その沈黙を破るように出入り口の方からコンコンとノック音がした。


「誰だろう?」


 ぼくがドアを開けた。そこに居たのは…… 


「二宮金次郎だ!」


 廊下にドンッと二宮金次郎の銅像が置いてあった。


「誰よ!こんなトコまで運んで来たやつは?あんた、外に捨ててきて!」


 花子さんはぼくに指示する。


「ムリ言わないでください」


「倒して転がして階段から落としゃいいのよ」


「ちょ、ちょ、ちょっと待つでござる!拙者でござるよ!花子殿」


 二宮金次郎の銅像は動き出した。


「あら、ただの鉄クズだと思ったわ」


「気づいてたくせにぃ、花子殿は冗談がきついでござるぅ」


 二宮金次郎はトイレに入ると花子さんの頬を指でつつく。


(花子さんとこんなスキンシップ…仲が良いのかな?)


「調子乗るな」


「むぐ」


 二宮金次郎は急にお腹をおさえる。まるでお腹にパンチを受けたような感じだ。


「へぶっ」


 次は急に右を向く。左頬を殴られたかのように。徐々にその動きは加速していく。まるで無数の打撃を身体中に受けているように見える。なにが起きてるのかわからないが間違いなく花子さんの仕業だ。


「ぐはっ」


 二宮金次郎は大きく吹っ飛び床に背中から倒れた。


「やれやれね」


「花子殿!今のはまさか!」


 さほどダメージがなかったのか二宮金次郎は嬉しそうに起き上がる。


「あんたが好きなマンガの決め技よ。といっても、あんたを素手で殴るのは勘弁だし時間も止められないし見た目的な再現度は40%ってとこかしら」


「充分でござる。拙者には拳の連打が見えたでござるよ」


「やった甲斐があったわね。でも、調子乗るなってのは本気だから」


 花子さんは鋭い眼光で睨む。


「き、気をつけるでござる」


「ていうか、あんたのその喋り方はなんなの?」


「気づいてくれたでござるか!」


「気づくわよ、前と全然ちがうじゃない」


(初対面だから、これが普通なのかと思った)


 ぼくは初対面という事もあり、前とは違う喋り方という話題に乗れず、ただただ傍観。


「これは、いまハマってる漫画の主人公のマネでござる。その主人公は流浪の剣士で普段は温厚だけど本気を出す時はかっこいいでござるよ!この前、人体模型殿と戦った時は天翔龍閃(てんしょうりゅうせん)が頭にクリーンヒットして首を折ってしまったでござる」


 二宮金次郎はポリポリ頭を掻く。


「あの…」


 会話に混ざろうとぼくが出した言葉はこれだった。


「ああ!そうだった!目的はこっちでござった!」


 その言葉に気づいた二宮金次郎はぼくに近づき両手で握手。


「もしかして旧校舎出入り口辺りに置いてある二宮金次郎の銅像ですか?」


 二宮金次郎は旧校舎の出入り口のすぐ側に設置されており、嫌でも目に入る。


「そうでござる」


「ぼくになんの用なんですか?」


「用ってほどではないでござる。最近、頻繁に旧校舎に出入りするのを見て、これは新しい花子殿の友人なのではと思いあいさつをしに来たでござるよ」


「そうだったんですね。えっと、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくでござる」


 2人は互いにお辞儀をした。


「いつだったか、付喪神ってのもいるっていったわよね?こいつがそれよ」


 花子さんは雑に紹介。


「妖怪って部類なんですか?」


「そんなもんよ。付喪神は長年大切にされた物に魂が宿った妖怪よ」


「でも、花子殿や普通の妖怪と違って消えたり出来ないから移動する時は一苦労でござる」


 自ら付喪神としての特性を苦労話を交え吐露。


「学校の七不思議で二宮金次郎が時々居なくなるって聞いた事あるんですけど、もしかして!」


 どこの学校にも七不思議というものはあるものだ。もちろん、ぼくの通う学校にも存在する。その1つが[行方知らずの二宮金次郎]だ。


「そうよ、こいつ趣味が読書だから、よく図書館に出入りしてるのよ。その時、生徒が持ち込んだマンガを見つけて夢中になったりして、ちょっとウザイのよ」


「拙者、ウザかったでござるか!?」


「それよ!ハマったマンガの真似事して、再現とか言って人体模型の腕を粉砕したの忘れたの?さっきの話聞いてたら次は首を折ったみたいじゃない!ちゃんと直したんでしょうね?」


「面目ない。首は首なしライダー殿に直してもらったでござる」


 二宮金次郎は縮こまり反省。


「なんか、気持ちわかります。ぼくもマンガ好きですし」


「おお!君はどんな漫画を読むでござるか?」


 二宮金次郎はぼくの手を握り目を輝かせる。


「えっと、能力バトルものって言うのかな。主人公は成り行きで暗殺組織に入るんですけど、暗殺組織の真の目的は王様を裏で操る大臣の打倒なんですよ」


「うんうん!」


「よければ借ります?」


 食い付きの良い二宮金次郎を見て自然とその言葉が出た。


「いいでござるか!」


 即答。それだけで食い付きの良さが伝わる。


「はい」


 それを見てぼくは快く返事をする。


「ありがとうでござる!」


 ぼくの手を握ったまま上下にぶんぶん振る。


「善は急げでござる!」


 廊下の方を指差す二宮金次郎。


「いまからですか?」


「もちろんでござる!拙者も一緒に行くから大丈夫でござる」


「なにが『大丈夫でござる』よ、あんたがついてったら街中大パニックでしょうが」


 正論だ。


「なら、少年に運んでもらうでござるよ♪」


 その明るい口調から冗談ではなく本気で言ってるのがわかる。


「えーーー」


 初絡みでその遠慮の無さにぼくはあからさまに嫌がる。


「こいつ、こうなると相手の都合なんて考えないわよ」


 花子さんは呆れ顔で言った。


「待ってなさい」


 花子さんはスマホを操作し誰かと通話、数十秒後、ブロロロとバイクの音。首なしライダーが来たようだ。


「乗せてってもらいなさい。何冊も本を抱えて戻って来るの大変でしょ」


「珍しく優しいんですね」


「あいつが駄々こねたらうるさいのよ、中身は子供よ」


『はい、少年!これ着けてね』


 可愛らしい声と共にぼくと花子さんの間に入って来た首なしライダーはぼくにヘルメットを差し出す。先程の可愛らしい声は首なしライダーが持ってるスマホから発せられたものだ。


(相変わらず、スマホの音声ってわかってても見た目のせいで違和感を感じるなぁ)


 そう思いながらぼくはヘルメットを受け取り頭に被る。首なしライダーはしゃがみ、ぼくがちゃんとヘルメットを着用出来てるか確認。あご紐が緩んでたようで絞め直すが勢い余って紐が食い込む。ぼくが少し苦しそうな声を出すと首なしライダーは両手を合わせゴメンのポーズ。再び紐を微調整。


『苦しくないかい?』


 首なしライダーはあご紐の具合を確認。


「大丈夫です!」


 ぼくはヘルメットがずれないことを確認。首なしライダーは親指を立てグッドサイン。そして、ぼくを持ち上げバイクの後部座席に座らせる。首なしライダーもバイクに跨がる。


『危ないから俺にしっかり掴まってて!』


「はい!」


 首なしライダーの背中に抱きつく形で掴まる。


「えと、行ってきます♪」


「ふふ、行ってらっしゃい」


 花子さんは笑みをこぼし応える。


(こっちも子供だったわね)


 

 今回の話は二宮金次郎です。二宮金次郎のキャラクター作りで辿り着いたのはやはり本好き。安直な考えですが、本は切り離せないと思い少しでもコメディ色を出す為にマンガ好きという事になりました。そして、今回のパロディネタはマンガ関係ばかりです。花子さんの「やれやれね」で気づいた人も居るでしょう。他には二宮金次郎が言っていた天翔龍閃(てんしょうりゅうせん)です。あまかけるなんちゃらじゃないですよ。ひらめかないでください。それとその技でまだ未登場ですが、人体模型の首が折れたってのは私の好きな学校を舞台にした怪談映画の3作目のネタだったりします。最後に主人公のぼくがオススメしたマンガですが、私が大好きなマンガです!アニメ化もしてますので頑張って探してみてください(о´∀`о) それではまた♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ